■2011年12月18日 第9回 〜 講演「かぶ」 (株)武蔵野種苗園 林信一氏
◇(株)武蔵野種苗園について
  • (株)武蔵野種苗園では、かぶを始め、ニラ、ネギ、チンゲンサイなどの品種改良に力を入れています。

  • かぶとニラのタネは当社の主要商品で、かぶは小かぶだけで11品種、中かぶ・大かぶなども含めると17品種。いろいろなものを掛け合わせて作った1代交配種(F1品種)を出しています。

  • ニラのタネは全国シェアの7〜8割を(株)武蔵野種苗園が占めています。これから出回るニラは、主に「グリーンベルトシリーズ」といい、一番おいしい季節にご提供できますので、よろしくお願いします。
(株)武蔵野種苗園 林信一氏
  • 本社は池袋にあります。農場は茨城県土浦市、筑波山のふもとにあり、そこで品種改良等をしています。
◇かぶの原産地
  • かぶは、アブラナ科アブラナ属。白菜、小松菜、水菜、チンゲンサイなどの仲間です。白菜は、もともと中国の揚子江あたりでかぶとチンゲンサイが掛け合わさってできたもの。つまり、かぶは、白菜よりも歴史が古い野菜ということになります。

  • 原産地は中央アジア、アフガニスタンから派生したという説と、それとあわせて、ヨーロッパ南部のほうからも派生したという一元説と二元説の両方があります。

  • 歴史的には非常に古い野菜で、古代ローマ時代から、長いかぶ、丸いかぶ、平べったいかぶといったさまざまなタイプのかぶがあり、ヨーロッパやロシアで大変貴重な作物だったといわれています。なぜ貴重だったかというと、冬の寒い時期、雪が降ってほかの野菜がとれないときでもかぶはとれて保存が利いたためです。冬の間の保存食として重宝されました。また、麦、米などの主食が不作のとき、やせた土地でも安定してできるかぶは、冬場をしのぐ飢饉作物として昔から重宝されてきました。

  • ロシアに「大きなかぶ」という民話があります。こうしたことからも、ロシアをはじめ世界各地で、かぶは昔から食べられていた品目だということがわかると思います。
◇日本への伝来
  • かぶは春の七草に「スズナ」の名で出てきます。日本でも古くから親しまれてきた野菜です。『日本書紀』には「あおな」の名で、『万葉集』では茎が立つと書いて「茎立(くくたち)」という名前で出てきます。

  • かぶが若いうちは葉っぱを食べ、大きくなったら太った根を食べて、残ったものは、春になってから菜花として食べられる。幅広くいろいろなステージで食べられて保存もできることから、重宝されたのでしょう。それから、葉っぱを食べるもの、根っこを食べるもの、花を食べるものと分化していって、現在のような形になったといえます。

  • 日本には、 西洋種と呼ばれるヨーロッパ型と、東洋種と呼ばれるアジア型の2種類のタイプのかぶが伝来しました。東日本に多いのはヨーロッパ型、西日本などの暖かいところに広がったのがアジア型です。大まかにいうと、境目は関ヶ原あたり。寒さに強い西洋種は東、東洋種は西…と、ややこしいですが、この2種類が古くから分化して根付いています。

  • ヨーロッパ型は葉っぱに切れ込みがあり、細かい毛が生えます。春先、抽台(ちゅうだい)するのが遅く、寒さにも強くて、比較的根がかためで保存が利くタイプです。白かぶのほかに、赤かぶ、青かぶなど、さまざまな色かぶが多いのも洋種の特徴です。東北地方など寒いところでも栽培しやすく、肉質がしっかりしているので、雪が降る間も保存できます。

  • アジア型は広葉のタイプで花が咲きやすく、根に水分を豊富に含むため、肉質がやわらかいタイプのものが多い。かぶの色は白が多く、色かぶといっても赤くらいしかないのもアジア型の特徴のひとつです。葉っぱもやわらかいので、おいしくいただけます。

  • 地方伝来のかぶには実にさまざまな種類があります。一例を挙げると、北海道には「大野紅」という赤かぶがあり、岩手県には「暮坪かぶ」という、辛みが大根より強く、見た目も大根のようなかぶがある。滋賀には「日野菜かぶ」、京都には「聖護院かぶ」があります。滋賀や京都のかぶはアジア型、東洋種のかぶです。

  • ヨーロッパ型、アジア型という区別のほかにも、かぶは、大かぶ、中かぶ、小かぶと大きさで分けたり、白かぶ、赤かぶ、青かぶと、色で分けたり、多種多様です。伝統野菜として古くから食べられてきたのは中かぶ、大かぶなどの保存の利くタイプです。冷蔵庫のない時代、漬物としての用途が多かったので、中かぶ、大かぶが重宝され、しっかり地方に根付いてきた、といえます。

◇最近の品種および品種改良の状況について
  • 今現在一般的に出回っている小かぶは、中かぶ、大かぶと比べると葉っぱがやわらかく、保存よりも、浅漬けや味噌汁の具などに適した肉質です。今の小かぶは、明治時代に東京の金町地区で主に栽培されていた「金町小かぶ」が基本になっています。かぶは、ヨーロッパではローマ時代から、日本でも『日本書紀』に登場するほど古くからあることを考えると、今、みなさんに今一番親しまれている小かぶは、かぶの中では比較的新しいものだといえます。

  • 現在では、品種改良が進み、小かぶの中でも多様性が出てきました。肥大がよくて短期間でできる早生タイプ、冬場でも安定して作れるタイプ、逆に夏場の暑い時期でもしっかり肥大して葉っぱが伸びすぎないタイプ、春先に花があがりにくいタイプなどが出てきています。

  • 当社の品種、「白鷹小かぶ」は私が入社する前から出ている古い品種です。秋から春にかけて安定して収穫でき、花のあがりが遅い。冬のかぶといえば「白鷹」しかないだろう、というぐらい画期的な品種で、柏地域などを中心に、一世を風靡しました。「白鷹」は、金町系の小かぶと、比較的冬に強いかぶを掛け合わせて作った品種です。

  • 「白鷹」の次に発表したのが、「夏蒔13号」という小かぶです。かぶは比較的冷涼な気候を好む野菜で、生育適温は15〜20℃。かぶというと秋から春にかけての作物だったのですが、「夏蒔13号」は、夏場でも安定してかぶが大きくなり収穫できる、という意味で非常に画期的な品種でした。この品種が、かぶの周年出荷のきっかけを作った、といえます。「夏蒔13号」も金町系の小かぶから、暑い時期でも肥大の優れるタイプを選抜し、掛け合わせて作ったものです。

  • かぶは近郊野菜です。あまり畑が広くないので、生産者の方は同じ場所で何回も作るわけです。かぶの生育日数は夏場で30日、冬場で110〜120日。回転させようと思えば、同じ畑で年3〜4回ぐらいとれます。ただ、畑に無理をさせた結果、根こぶ病が蔓延するようになりました。土壌消毒などで回避することもできますが、土壌消毒をする時間も惜しい。そこで開発したのが、根こぶ抵抗性品種です。品種名に「CR」とついているのは「クラブルートレジスタンス=根こぶ病抵抗性」の略です。ヨーロッパの飼料かぶに、根こぶ病が出にくい形質のものがあったので、その血筋を日本のやわらかいかぶと掛け合わせて作りました。ただ、初めは飼料かぶの血筋が非常に濃く、かたくて食べられたものではない、と不評でした。病気に強いだけではなく、食味のいいものを追究して、改良を進めたのが、「CR雪峰」や「CR鷹丸」です。これらは根こぶ抵抗性をもたせた、普通のかぶと遜色ない食味の品種です。

  • 「食味のいいかぶが一番」というニーズにこたえて出したのが、「白馬小かぶ」。金町系と、樋ノ口系と呼ばれるものを掛け合わせて作った、肉質がやわらかくておいしいかぶです。夏場でも、暑さによる病気や根の変型、す入りといった栽培上の問題が起こりにくく、春から秋にかけておいしいかぶが出荷できることを目的に改良した品種です。「白馬」は食味がいいだけでなく、す入りが遅く、肌が白くてキメ細かい。肉質もやわらかくて甘く、ほかのかぶよりも糖度が1〜2度くらい高くなります。「サラダ小かぶ」というイメージで出したのがこの品種です。

  • 中かぶ、大かぶは、当社では6品種出しています。小かぶ、中かぶ、大かぶの当社の定義は、直径が握りこぶし大、10cmくらいまで大きくなるものを小かぶ。直径10cm以上、13cmくらいまでを中かぶ。13cm以上のもっと大きなものを大かぶ、と定義しています。

  • 小かぶを直径10cm以上に生長させると、割れたり変型したりすることが多くなります。小かぶは小さい段階から丸みを帯びてくるのですが、中かぶ、大かぶは、小さいうちは大根のような形で、それから徐々に横に肥大します。ある程度大きくならないときれいな丸にならないのが、中かぶ、大かぶの特徴です。

  • 「百万石青首蕪」は、主に北陸で栽培されている中かぶです。加賀野菜の「金沢青かぶ」を作りやすいように改良しました。直径が12cm前後で、玉の上の部分が緑色になる青首のかぶで、繊維質が非常にやわらかい。生食も可能ですが、北陸では、かぶらずしで食べるのが一般的です。

  • 中かぶ、大かぶは、春か秋の2シーズンしか作れません。小かぶはほぼ年間を通して作れるようになりましたが、それは品種改良の結果であって、中かぶ、大かぶなどの地方伝来のかぶは、改良が進んでいません。中かぶ、大かぶの出荷時期は、だいたい4月中旬〜6月上旬、10月下旬〜12月上旬が目安です。
◇市場への出荷状況および産地動向
  • 東京市場においては、ほとんど千葉県産のかぶが占めていいます。千葉県の面積は1000〜1100町歩あるといわれており、一番大きな産地は銚子に近い東庄町。その他、柏市、松戸市、船橋市といった都市部の近くでも作られています。

  • 埼玉県では、所沢、川越など、比較的都市に近いところで、約400町歩ほど作られています。

  • かぶは、根っこと葉っぱ、両方あわせてひとつの商品なので、鮮度が非常に重要です。葉っぱが少しでも枯れていたら、消費者は手にとってくれません。そこで、交通の便のいい都市近郊で作られています。昔は、「金町小かぶ」といわれる通り、東京でも作っていたのですが、それが千葉県や埼玉県など、少し遠くになった、という状況です。

  • 最近は鮮度保持技術や輸送技術が向上したこともあり、青森県産のかぶが6〜10月くらいまで出回るようになっています。千葉県、埼玉県、青森県では、同じ時期でも、産地の要望が微妙に違うので、作られている品種も異なります。

  • 西日本は、東京と比べると、かぶの消費需要はそれほど多くありませんが、徳島県で多く作られています。小かぶも食べますが、どちらかというと、中かぶ文化圏です。当社のF1品種だと、「白盃(はくはい)中かぶ」が西主体に出回っています。暖かい時期は、青森県産のかぶが売られています。

  • 青森県でかぶを作っているのは、主に、JAゆうき青森。下北半島に位置する野辺地町です。ここは海のほうから冷たい風が吹いてくるので、夏場でも非常に涼しく、かぶに適した気候で、フルーツのように甘いかぶが作れます。畑は非常に広く、長芋との輪作体系を組んでいます。病気や虫も少ないので、低農薬でおいしいかぶが作られています。使われている品種は、「玉里」。肉質が非常にやわらかく、甘いかぶです。ただ、葉っぱの軸の部分がやわらかくデリケートなので、作業能率があまり上がりません。でも、野辺地の方は、扱いやすさより食味にこだわって、昔から、「玉里小かぶ」を作っています。野辺地産の葉つき小かぶは、5月〜10月の5ヶ月間だけ出荷されています。
◇栽培方法について
  • 昔はかぶは「バラ蒔き」といって大まかに蒔いて、若いものを間引きしながら菜っ葉として食べて、大きくなったものを収穫したのですが、今は播種機を使って、ローラーで転がしながら種蒔きをします。

  • 冬場は霜よけをしましたが、今は、ビニール資材が発展したおかげで、トンネル栽培で安定して出荷しています。

  • 11〜12月蒔きの2〜3月どりは、栽培する上で非常に難しいのですが、ハウス内で下にマルチを敷いて、トンネルをかけ、「二重栽培」をしています。生育期間が100日以上かかってしまうのですが、じっくり育つぶん、甘みものっておいしいかぶになります。

  • かぶはタネを蒔いてから、3〜5日で双葉が出てきます。その後、本葉4〜5枚ぐらいになると、胚軸の部分の皮がやぶれて肥大してきます。横に肥大する時期に畑が乾いていると、かぶは水を求めて下に下に根を張り、縦長のかぶになってしまう。そうなってしまってからどんなに水をやっても、丸くは戻りません。かぶをきれいな丸に作るには、本葉4〜5枚までをいかに乾かさずに作るか。それが、栽培技術上のポイントのひとつです。夏場、かぶが作りにくいのは、かん水設備などが整っていないときれいな丸にならない、ということもあります。

  • 畑を見ると、かぶはほとんど土の上に飛び出しているような形です。土にもぐっている部分が根っこ。上に出ている肥大した部分は「胚軸」といって、茎と根っこの間の部分です。かぶは、胚軸の部分を食べているわけです。

  • かぶの生育障害としてよくいわれるのが、「割れ」や「す入り」です。「割れ」の原因のひとつは、窒素肥料の与えすぎ。かぶは、夏場であれば4〜5kg、春秋は7〜8kgと、ほかの作物と比べると、非常にわずかな肥料でも十分に育つのが特徴です。「割れ」のもうひとつの原因は、乾燥です。かぶが肥大するときに、大雨など、今まで乾いていた畑に急激に水分が入ると、表面の肥大に対して中の肥大のほうが進みすぎてしまい、尻の部分から割れてくることがあります。とり遅れなどで起こる「す入り」は、老化作用のひとつ。根っこからの水分吸収が思うようにいかなくなったり、葉っぱからの蒸散作用が強くなったりして、かぶの内部に水分が行き渡らないので、スポンジ状になります。また、冬場によくみられるのが、「二次根(にじこん)」。主根(しゅこん)の回りに細かく出てくるのですが、これも、主根だけでは十分に養分を吸収できないので、脇のほうから根っこを出して養分吸収を補うために起こります。適期に収穫するかどうかも、こうした障害の発生に影響があります。
 

【八百屋塾2011 第9回】 実行委員長挨拶講演「かぶ」|勉強品目「かぶ」「ミカン」|商品情報食べくらべレポートより