■2021年11月21日 リモート八百屋塾 白菜 〜 講演「白菜」について (株)サカタのタネ 野菜統括部 鈴木栄一氏
◇白菜の分類
  • 白菜は、植物学上、アブラナ科の植物です。アブラナ科は野菜の中でも重要なグループ。だいこん、キャベツ、ブロッコリーなどもアブラナ科です。

  • アブラナ科の植物は、虫によって花粉が運ばれて交配する虫媒花(ちゅうばいか)です。いろいろなところから花粉が運ばれて、交じり合ってしまうため、多様化しています。

  • 原産地は地中海沿岸。このあたりではよく見られる雑草です。麦の農耕が盛んになり、広がってゆくにともない、麦にタネが混じったりして世界中に広がっていきました。やがて中国に伝わり、いろいろな野菜に分化していって、今のような白菜になりました。
(株)サカタのタネ 野菜統括部 鈴木栄一氏
  • 白菜は学名「Brassica rapa (ブラシカ ラパ)」といい、いろいろな種類があります。代表的な野菜は、白菜のもととなった非結球白菜の山東菜や、広島菜、タアツァイ、水菜、花菜、小松菜、カブなど。形状は違いますが、もとは同じです。タアツァイとカブが白菜のもとになったといわれています。交雑を繰り返して非結球白菜の形になり、それが改良されて結球白菜になったという歴史があります。
◇白菜の特徴
  • 白菜が国内で本格的に普及したのは、品種群がある程度揃ってきた昭和に入ってからです。

  • 野菜としての一番の特徴は、生育が極めて早いこと。2〜3か月で3〜5キロに肥大する野菜はほかにはありません。葉の枚数も短期間で50枚以上になり、ボリュームが出ます。

  • 成分は95%が水分で、カリウム、ビタミンCが豊富。糖度は低いのですが、ほのかな甘みがあり、低カロリーで健康的な野菜です。

  • 主に冬から春にかけて、鍋ものや漬けものに利用されます。クセがなくいろいろな料理に合う万能野菜です。
◇国内の消費動向について
  • 2005〜2019年までの国内の作付け動向と出荷状況をみると、作付面積はかなり減ってきています。ピークは1968年、5万ヘクタール強でした。今は1万6000ヘクタールくらいになっています。戦後、食糧難の時代に、和食に合うことと、短期間で生育することなどから、急速に作付けが増えていったのですが、1968年をピークに減少しています。

  • 作付けが減った理由は農家さんの高齢化。大きくて重い野菜なので、作業が辛くなるためです。

  • 茨城と長野の白菜の作付面積をあわせると全国の50%以上で、この2県では作付けが増えています。各地の減少を大産地がカバーし、集約的な栽培により、反収を上げています。

  • 出荷量は微増しています。漬けものの消費は減っており、購入額は1989年と比較すると半減、家庭でも漬けものを作らなくなっています。一方、共働きで料理に時間がかけられなくても、鍋ならおいしくて手軽に作れる、体にも良さそう、ということで非常に消費が伸びています。また、外食も伸びており、全体の消費としてはそれほど落ちていません。

  • 出荷は、春から秋にかけてが2割、秋から春にかけてが8割と、基本は寒い時期の商品です。

  • かつては家庭で漬けものを作りましたし、家族の人数が多かったので、玉で買われ、2玉縛ったものもありました。現在は核家族化が進み、1/2、1/4のカット販売が主流です。これに合わせて、品種も変わってきています。これまでは中の色はあまり重視されず、白芯系が主流でしたが、カットしたときに見栄えがいい黄芯系が登場し、1980年代頃、健康意識が高まり、緑黄色野菜が注目されたこともあり、断面が黄色い黄芯系が主流になりました。白芯系はほとんど作られていないと思います。

  • 世界では推定約200万ヘクタール、結球白菜が作られています。うち95%が中国です。次いで、華僑が多いインドネシア、韓国、日本と続きます。韓国はキムチの消費が多い。中国、インドネシアで最も多く使われているのは鍋ものです。健康ブームもあって、野菜を大量に食べられる鍋料理は中国、東南アジアで人気があり、白菜の作付けも増えています。少数ながら、欧米各国でも作られています。用途ははっきりわかりませんが、サラダや、煮物のようなものに使われます。
◇品種開発の歴史
  • 大きくは白芯系、黄芯系に分けられ、最近はサイズの小さいミニ白菜も出回り始めています。

  • 色のついた白菜には、オレンジ系、紫系があります。黄芯系はカロチンの色、オレンジ系白菜の色は、トマトと同じリコピン系、紫系はアントシアニンです。オレンジ系は一部で見られるようになりましたが、紫はまだ認知度が低く、家庭菜園用として販売されたりしています。

  • 東南アジアなどでは、葉の表面に毛が生えていない無毛じ系というものがあります。弊社の「タイニーシュシュ」も表面に毛が生えていない無毛じ系です。

  • 明治8年(1875年)、東京博覧会に中国から出展された「山東白菜」が、日本に入ってきた最初の結球白菜です。各地で栽培されたようですが、品種の維持が難しかったこと、栽培技術が確立しておらず、しっかりと結球させる栽培方法が理解されていなかったことなどから、なかなか上手くいかなかったようです。

  • 「山東白菜」は愛知の試験場で維持されており、野崎採種場の野崎徳四郎さんという方が、それをもとに「愛知白菜」を育成。これが早生系の「野崎白菜」につながっていきました。

  • 「山東白菜」に加え、「チーフ白菜」、「包頭連(ほうとうれん)白菜」が、日本の品種のもととなった3系統だといわれています。

  • 渡辺採種場の渡辺穎二さんがチーフ白菜を離島で交雑しないように隔離して栽培したのが「松島純二号」、のちの中生の白菜「松島新二号」の原型になりました。

  • 石川の松下種苗の松下仁右衝門さんは、チーフと包頭連白菜から、晩生の白菜の原型「加賀白菜」を普及させました。

  • 日本の栽培体系をカバーするような品種群が揃ったのが昭和の初めくらい。和食に合うこと、生育が早いことから、戦後、急速に増えました。ただ、作付けが増えると問題になったのが、連作障害です。

  • アブラナ科は続けて同じ畑で作ると、連作障害が起きやすいので、安定生産のため、病気や生理障害に強い品種が求められるようになりました。それまでは固定種が主流でしたが、その地域にない病気や、合わない環境には弱い面があり、これをカバーするための技術としてF1品種が登場しました。

  • 1950年、タキイ種苗が初のF1品種を商品化。それ以降、各種苗メーカーもF1品種を開発し、現在はほぼ100%、F1品種になっています。
◇F1品種とは
  • 親世代(固定種)のメス、オスを掛け合わせて強制的に雑種を作った1代目をF1といいます。この世代は両親のいいところを受け継ぎ、均一に育ちます。

  • F1からタネを採ると形質がバラバラになってしまい、すぐれた特性を発揮できるのは1代限りです。ここに種苗メーカーの存在意義があり、われわれはF1品種を安定供給するよう努めています。
◇白菜のタネ採り
  • 白菜は、虫が媒介してタネを採る虫媒花です。ミツバチの行動範囲は数百メートルです。日本には「Brassica rapa」の仲間が多いので、虫があちこちから花粉を運んできて、いつのまにか交雑している、ということが起こります。これが多様化につながったのですが、一方、1つの系統を純粋に維持するのが難しい。山の中の周りに何もないようなところでアブラナ科のものを抜きながらタネを採ったり、松島白菜のように、離島で虫が本土から来ないような場所を選んだりして、タネを採ります。

  • F1は自分の花粉ではタネがつかない「自家不和合性」という性質を利用しています。タネを採るときは、同じハウスの中に自家不和合性の性質を持ったメスとそれと掛け合わせたいオスを入れます。

  • 「雄性不稔」といって花粉そのものが出ない性質を持つものもあり、これを利用してF1を採種します。

  • 虫が媒介するため、つねに交雑のリスクはあります。そこで私たちは、採ったタネは必ず一回栽培し、交じりがないことを確認してから販売しています。交雑はアブラナ科にはつねについて回る問題で、われわれとしても注意しています。

  • 白菜は結球しているので花が咲くようには見えないのですが、花が咲かないとタネは採れません。白菜は種子春化型植物といって、タネを播いてから一定の時間、低温にあたると花芽ができ始めます。花が咲くと野菜として出荷できませんから、そうならないような栽培や品種改良が必要です。タネ屋としてのタネ採りと、生産者としての白菜の育成はある意味逆で、そこがタネ採りの難しさです。
◇白菜の栽培について
  • もとは地中海沿岸の植物なので、冷涼な気候を好みます。生育適温は15〜23℃くらい。比較的、丈夫な野菜ですが、暑さにはあまり強くありません。

  • 結球の適温は15〜20℃くらい。低温にあたると葉の成長が止まって、花の成長に切り替わります。白菜が玉になるためには、葉が50枚くらいできている必要があります。目で見て、開いている葉が本葉8〜10枚くらいになると、内部では50枚くらい葉ができています。13℃以下になると花芽分化が始まるので、それ以下にはしないのが一番のキーポイントです。

  • 白菜にはさまざまな品種がありますが、種播きと定植の時期は限られています。播種や定植が遅れると、早い段階で低温にあたって結球しなくなり、商品価値がなくなります。

  • 定植すると、外側の葉っぱができます。これは巻きませんが、ある程度の枚数になると、内側の葉っぱが巻き始め、それがじょじょに固く締まっていきます。

  • 品種名には、たとえば「ちよぶき70」、「ちよぶき85」のように、多くは数字がついています。この数字は、タネ播き、あるいは定植してから収穫できるまでの日数です。早生、中生、晩生と、収穫時期を広くするために、品種名に日数がついています。青果物として品種名で流通している白菜はないと思いますが、園芸店でタネを見るとよくわかります。

  • 小さいうちは病虫害に弱いので、タネを播いてから3〜4週間はハウス内で育苗し、本葉が2〜3枚くらいになったら畑に植えて、収穫します。タネを直播きすると生育がバラバラになり、病虫害で収穫が不安定になります。春播きは、播く時期が寒いので、畑に播くと花が咲いてしまいます。春播きは定植後もトンネルにしたり、極力寒さにあてないようにします。

  • 品種の使い分け方を弊社の秋播きの例で説明します。「ゆめぶき502」は播種後65日タイプの早生系です。8月下旬に播いて、10月終わりから11月頭に収穫できます。「ちよぶき70」は播種後70日タイプで11〜12月頭くらいまで。このあとは、中生〜晩生が主流になり、85日タイプの品種は年内から1月下旬くらいまで、90日タイプは年明けから2月いっぱいくらいまでカバーします。

  • 冬場に収穫する品種は、寒さに強いことも重要です。茨城あたりの産地で頭を藁で縛っているのは寒さ対策です。外葉が寒さに強い品種を使うなど、時期によって、栽培よりは品種でカバーしていくケースが多く、非常に多くの品種があります。
◇主要病害と生理障害
  • バクテリア、カビ、ウイルスなどが原因でさまざまな病害がありますが、アブラナ科で一番問題になるのは、根こぶ病、文字通り根っこがこぶ状になってしまう病気です。奇形になった根っこからは、いろいろなものを吸収できません。生育とともにこぶがひどくなり、最終的には、枯れたり、腐ったりして、壊滅状態になります。一回畑が汚染されると、元に戻すのは困難です。なので、ほとんどの品種は根こぶ病に耐病性を持っています。100%抑えることはできませんが、ある程度、発症は軽減できます。

  • 病気が出る条件はある程度わかっています。たとえば、根こぶ病は土が酸性だと出やすいので、土壌改良、耐病性品種の活用などにより、対処できます。ただ、やはり、土づくりが一番大事です。

  • やわらかくなって腐る病気、ナンプ病は、バクテリアが原因です。雨の多い時期などに白菜畑に行くとすごく臭いことがあるのはナンプ病で、株もとから腐っているためです。収穫量に大きなダメージが出て、畑では深刻な問題ですが、病気のものが出荷されることはありません。量に影響はあるでしょうが、出荷後に大きな問題になることはないと思います。

  • 生理障害は、病気ではなく、特定の栄養分が吸えなくなって起こる症状です。代表的なものは石灰欠乏症。切ると中が茶色くなっている。これは石灰、つまりカルシウムの欠乏で起こります。土の中のカルシウムが不足しているのではありません。カルシウムは植物には吸収しにくい栄養素で、乾燥が続いたり、水が少なくなると吸いにくくなります。窒素肥料が邪魔をして吸えなくなることもあります。

  • 葉に黒い点々が出るゴマ症も病気ではありません。原因は窒素過多。無理して収量を上げようとすると、このような症状が出やすくなります。銅の過剰な吸収、乾燥も影響します。

  • ほとんどの生理障害は、特定の肥料分が吸収できなくなって誘発されます。露地で広く作る白菜の畑にはかん水設備がなく、自然環境に左右されるので、近年の異常気象で雨が不足したりすると、生理障害が多く発生します。
◇新しい白菜利用の提案
  • 「タイニーシュシュ」は、弊社が開発した白菜の仲間です。タイニーシュシュは暑さに強いため、通常の品種では作れない作型で作ることができます。

  • タイニーシュシュは、表面に毛が生えていません。南方系の品種の血をひいており、葉っぱがツルっとしています。生で食べてもゴワゴワしないので、私どもは、サラダを提案しています。クセがなく、シャキシャキとした歯触り、ほのかな甘みとうまみがあり、シーザーサラダなどに使うとおいしいと思います。レタスと違い、暑さにも強いので、夏場の貴重なサラダ素材として、ぜひお使いください。

  • タイニーシュシュは、白菜というよりは、新しい野菜として提案していきたい、と考えています。1.5キロくらいの食べきりサイズですが、非結球、半結球の200〜300グラムくらいから収穫することもできます。用途や畑の事情に合わせて、密植して短期間で採る、ある程度大きくして玉にしてから採る、などいろいろな可能性を秘めた品種として、あちこちの産地にご紹介しています。
◇白菜品種の将来
  • 白菜は洋食にも合いますし、サラダにしてもおいしい。しかも、短期間で収穫できます。健康ブームも踏まえ、用途を広げることにより、まだまだ消費を伸ばせるのではないか、と考えています。

  • 生産者の高齢化により、扱いが容易なものでなければ作れません。今後、さらに、生産労力の省力化、小玉化が必要になると思います。機械収穫も一部では行われています。

  • 温暖化、異常気象が続いています。白菜は温度に敏感で作りにくくなっていますので、より暑さに強い品種や耐湿性のある品種が求められてくると思います。
◇質疑応答より

    Q:ゴマ症の黒い斑点はポリフェノールだからむしろ食べたほうがいい、という人もいるようですが、どうなのでしょうか?
    A:食べても支障はありませんが、あの程度の量で、体にいいとは言えないのではないかと思います。

    Q:ミニ白菜、「娃々菜(わわさい)」と「タイニーシュシュ」の違いがあれば教えてください。
    A:「娃々菜」は他社さんの品種で、基本は同じタイプ。毛のないミニ白菜です。違いは大きさです。「タイニーシュシュ」は結球する前の小さい段階でも採れます。

    Q:60年間商売をやっていて、一番おいしかった白菜は「新理想」。非常にやわらかくておいしいけれど、ゴマ症が出やすい品種でした。八百屋が説明して売れば問題なかったのですが、スーパーが台頭するにつれ、見た目が悪いということで、市場から締め出されてしまいました。最近は全然見なくなって、寂しいです。タネ屋さんとしては、見た目や流通のしやすさなどに重きを置いていると思いますが、食べものである以上は、おいしさを絶えず念頭において開発をしていただきたいと思います。
    A:品種によって、生理障害への強さ、弱さがあり、味を追求すると生理障害に弱くなる傾向があります。耐病性をつけなければいけないので、味はワンランク落ちてしまう。両立するような育成はしているのですが、産地としては、ややかための白菜のほうが作りやすい、という面もあります。今後、よりおいしいものを開発していきたいと思います。

    Q:オレンジ白菜は、見た目はきれいですが、黄芯系に比べて味が薄い気がします。これから増えていきますか?
    A:オレンジ白菜については、賛否両論あります。色鮮やかで栄養豊富に見える反面、消費者は保守的なので、一定の需要にとどまるかもしれません。色の成分が違い、オレンジ系はリコピン、黄芯系はカロチノイドです。紫白菜はポリフェノール。ミネラル分だけではなく、ほかの栄養素や健康面をアピールできれば、もう少し需要が伸びる可能性はあると思います。

    Q:山東菜は暮れにしか出てきませんが、その時期でないと難しいのでしょうか?
    A:山東菜は早生系の品種なので、年内で出荷が終わります。引っ張ることは難しく、年を越すと玉が割れたり、芯が上がってきたりしてしまいます。

    Q:白菜は箱に寝かせてくるので、段ボールとの接触面が変色してしまいます。外葉だけでなく中のほうまで傷んでいることがあります。どのような対策が取れるでしょうか?
    A:収穫したときの濡れ具合、タイミングにもよって変わるので、品種的な対応や、産地の出荷状況を変えるのはなかなか難しいと思います。この先、白菜が小型化してくると変わってくるかもしれません。

 

【八百屋塾2021 11月】 挨拶講演「白菜」について勉強品目「白菜」