■2023年4月23日 第1回 開講式 〜 講演「これからの八百屋の可能性〜デジタル活用事例から未来の八百屋を考える〜」 野菜未來株式会社 代表取締役社長 塩田勝良氏
◇はじめに
  • 私は、豊洲市場の青果仲卸で働いています。IT化が進んでいない業界の中で、できるだけ活用しようとさまざまな挑戦をしています。新しい技術はとんでもない勢いで進化しており、今、多くの人が使っているiPhoneも、登場したのは15年前ですし、ChatGPTも来月にはたぶん違うステージになっているでしょう。今日は私の具体的な事例より、ITを使うことの何がいいのか、根本の部分を抑えれば、新しいIT技術の見方が大きく変わっていくと思うので、そんな話をしていきたいと思います。
野菜未來株式会社 代表取締役社長
塩田勝良氏
◇仲卸で働きながら、自分の会社も経営
  • 私は、豊洲市場の青果仲卸、西岩商事株式会社の野菜部門の代表をしています。西岩商事は、豊洲開場のときからある高級果物専門店で、果物だけを扱っていましたが、私が2017年11月に入社し、野菜部門を立ち上げました。国内のレストランやホテル、あと、香港、シンガポール、マカオ、ドバイ、タイに野菜を納める仕事をしています。

  • 自分の会社として、野菜未來株式会社を経営し、IT技術を導入した産地の販促、品物が売れるタイミングのリサーチ、レストランのプロモーションのお手伝い、ホームページ制作などをしています。

  • 野菜未來株式会社では、「ベジ窓」というアプリを開発しました。スマホで読み取った日本地図にある野菜のマークをタップすると、産地の風景が360度の映像で見られます。いながらにして、バーチャルで産地視察し、その説明と、生産地の住所、写真、販促用動画などを見ることができます。たとえば、レストランのメニューにQRコードをつけておき、シェフの話に合わせて、お客さまは食材の産地をバーチャルで見ていただく。「下栗芋」という伝統野菜の話を聞きながら、下栗の風景を見た後に、シェフが作った下栗芋の料理が出てくる、ということになるわけです。

  • 「Icard」という弊社オリジナルの名刺は、スマホのカメラで見ると、野菜が飛び出てくるように見える仕掛けになっています。野菜に限らず、自分の好きな3D画像が入れられ、LINEやFacebook、ホームページへのリンクも貼れます。初めて会った方にこの名刺を渡して、「すごいね、これ面白い!」となったときに、LINEのところを押せば、すぐに私のLINEと繋がって、ファーストコンタクトがとれる状態になり、次の販売促進につなげられます。

  • 今は、zoom配信で仮想の展示会場を作り、商品説明をすることもできます。パソコン上で、お客さまや生産者さんと直接交渉ができる時代です。

  • 私は1995年、阪神淡路大震災の時に、築地市場の会社に入社しました。進学のために上京し、学校は夜だったので仕事が朝のこの業界に入りましたが、八百屋が面白くなって、学校をやめました。今年28年目で、当時は20代。自分では行けないような高級レストランに野菜を納めます。そのレストランに来るのは、お客さまにとっては特別な日。大事な人の誕生日、だれかのお祝い…。私たちが納品した野菜をシェフが料理をして、だれかを幸せにしている。すごくかっこいい、と思ったんです。シェフの要望に応えたいと考え、野菜の勉強を始めました。勉強をすればするほど知りたくなって、すっかりこの世界にはまっています。毎日が楽しいですし、自分は天職だと思っています。

  • 2017年に西岩商事に入り、野菜部門をスタートさせました。11月中旬、途中からだったので、初月の売り上げは70万ぐらいでしたが、3年後には22.9倍、5年目には43.9倍まで増やすことができました。こうして順調に増やすことができた私なりの戦略を、これからお話します。

  • まず、今日この八百屋塾に参加しているみなさんの優位性を認識していただきたいと思います。総務省の統計によると、日本の社会人の平均勉強時間は1日13分。みなさんは、日曜日の朝9時から 12時まで勉強している。どれだけ優位性があるか、ということです。
◇本当に大切なものは自分の中にある
  • これから、デジタル化はとんでもない勢いで進んでいくでしょう。流されると本質を見失う可能性が十分にあります。本当に大事なものは、表面的な技術ではなく、自分の中にある、と私は考えています。

  • 二つベンチの写真がありますが、この違いがわかりますか? 実はこれ、私が三峰神社に参拝した時に見たベンチで、一つは参拝の前、一つは参拝の後に見たものです。築地市場は昔、火事が多かったが三峯神社に参拝に行くようになって減った、とされていて、三峯神社には多くの八百屋さんが参拝します。私も伺いました。本宮から1時間半山を登り奥宮への参拝の際、だんだん道が険しくなり、くたくた汗だくでどれだけ歩けば着くのか不安になります。その時に見かけたのが最初のベンチです。最後は急勾配の道をチェーンにつかまりながら、たどり着き絶景の景色を見ながら奥宮の参拝を終え帰り道で見かけたのが二つ目のベンチです。私はこの時すごく感動しました。両方変わらないベンチですが、自分の状態によって全然感じ方が違うからです。全然ITと関係ない話だと思うでしょうが、ぜひこの感覚を頭の隅に入れておいてください。これからの話につながります。
参拝の前に見たベンチ
参拝の後に見たベンチ
  • ちょっと前までSNS時代だと言われていました。twitter、Facebook、インスタはあたりまえで、インスタで通販もできるようになりました。少し前までのmixiなど、すっかり聞かなくなりました。そんな中ChatGPTは、出てから数ヶ月間に、マイクロソフトとも連携したりと、大きく進化しています。そのなかで、八百屋の未来はどうなるか…ですが、私は可能性に満ち溢れていると思っています。ホリエモンかだれかが、ChatGPTのせいで90パーセントは失業する、と言っていました。文句も言わず、24時間勉強し続けるのですから、人間はかなわない。でも、私たちの業界は、どこかで必ず人対人のつながりが発生して、それは決してなくなりません。他の業界よりは影響を受けにくく、どう使いこなすかの時代になると考えています。

  • 冒頭の柴田実行委員長の挨拶文は、どのように質問するかによって変わります。つまり、上手な質問をできる人が優秀な人材ということになります。

  • 八百屋は人とのつきあいなど、ITが入れない部分を抑えています。お金があって八百屋をやってみたいという人がいても、市場でセリに参加するには資格があってむずかしいし、結局、人と人の信頼がないと買えない。高値をつけても、相場が崩れてしまうので、セリ人が卸してくれません。新規参入が非常にむずかしい業界です。仲卸の社長には、業界経験者でなければなれません。

  • 野菜は日持ちしないので、実はすごいサブスクビジネス。今、他の業界では、サブスクに上手に変えられたジャンルがうまくいっています。マイクロソフトofficeも昔は買い取りでしたが、どんどんサブスクになっている。利益率は少なくても、確実に利益を上げ続けられるからで、私たちは、そもそも顧客生涯価値が高いビジネスをやっているので、うまく活用していければ、可能性はあると思っています。

  • 一般的に起業後の成功率は、1年後が全体の40パーセント、5年後は15パーセントです。10年後に残っている会社は、100社起業して6社。30年後には、0.02パーセントしかありません。でも、周りには、50〜60年やっている会社がたくさんあります。この業界はサブスクだから長い。しっかりとうまく経営していけば、潰れません。

  • 悩むのは、「どんな野菜が売れるか?」。有機野菜、無農薬野菜、伝統野菜、旬の今しか食べられない野菜、どこよりも安い野菜、ほかにない貴重な野菜、大きさが揃ったきれいな野菜…。さて、どれが1番売れるでしょう。それは、だれに売るかによって変わります。ここに今勉強しているみなさん、全部、答は違うはずです。「黄色いパプリカ」を売っているのではなくて、「家で食べるパプリカを入れたサラダの素材」を売っている。さらにいえば、「幸せな食卓」を売っているわけです。

  • たとえば、体にいい野菜、最高においしい野菜、お客さまにぜひ買ってほしい。でも、子だくさんで、お金には余裕がないがカップラーメンよりも野菜をもりもり食べさせたい、と考えているご家庭には、どこよりも安い野菜のほうがいい。逆に、年をとって量は食べられないが、少しだからこそ体にいいものを食べたいというご家庭に、どこよりも安くて他の店の倍の量食べられます、と言っても喜びません。どんな野菜を売るかではなくて、だれに売るかを決めないと答えが見つからない、ということです。前に話したベンチのように、同じものでも感じ方はそれぞれなのです。

  • Facebookで品物が売れます、インスタで集客して客を呼び込みましょう、といいます。1つ1つはあたっていますが、だれに売るか、私たちのビジネスに合っているか…。そこを見つけないと、嘘ではないけれど、意味がないものになり、流されてしまいます。
◇戦略と戦術を考える
  • 八百屋は、だれに売るのかによって使うITが変わってきます。これを決めた上で、会社を経営する。そのときに大切なのは戦略と戦術です。

  • 戦略はだれに何をどのような形で売るか、という仕組みで、八百屋でも、高所得者の富裕層に売るのと、安く買いたいという人に売るのでは全然違います。

  • 店舗がたくさんあれば、大量に買うから安く値引きできる。これが戦略で、会社の仕組みです。すごくいいものを仕入れるなら、その仕入れルートこそが戦略です。どうやって注文を取り、集計し、配達して、売るか。こうした会社の仕組みが戦略で、根本として必要です。

  • 「ランチェスターの法則」は、第1次世界大戦時に、イギリスのフレディック・ランチェスターが提案した戦闘における勝ち負けの法則です。ふたつの法則があり、第1の法則は接近戦や局地戦の場合で、人数×武器性能。第2の法則は広範囲の場合で、人数の2乗×武器性能です。AチームとBチームで戦いが起きました。Aチームは兵士3人、武器はライフルで性能は6 。Bチームは兵士5人、武器はピストルで性能は3。どちらが勝つかというと、第1の法則では、Aチームは3×6で18、Bチームは5人×3で15、Aが勝つ。ところが、広域では人数の2乗×武器の力なので、圧倒的にBが勝つ。つまり、自分たちのサービスは広域に向けたものか、狭い範囲向けなのかを決めなければ、どちらの戦略をとるかが決められないということです。それにより、使うIT技術も変わってきます。

  • 私が野菜部門を始めたとき人数は1人でした。兵力がないときにどこに行けば勝てるかというと、だれもいないところです。ターゲットを絞り込む。いきなり野菜全部で1番になろうと思っても、大手資本には勝てません。自分はにんじんには強い、とします。でも、にんじんに強い人は他にもいる。そこで、有機のにんじんに絞ったら、ライバルが3人になった。さらに、千葉県の〇〇農家さんのにんじんは自分しか扱えない、となれば勝てます。そのマーケットで1位というブランド力がつくと、戦闘力が上がります。そうして戦闘力を上げていったら、今度は人数を増やせばいい。

  • 私が野菜部門を立ち上げて5年で売り上げを何十倍にも伸ばせたのは、ランチェスターの法則にのっとったからです。最初は1人でしたから、国内は全部断り、輸出だけにしました。海外のお客さまとは直接は会えないので、どうすれば会話がスムーズになるかを考えてLINEを使うことにしました。品物の写真がほしいといわれたら画像データを集め、いつ入ってくるか、何個入りか、何グラムか、産地はどこか、そうした質問や要望に全部応えられるようにしました。その分野で勝って戦力を上げ、人数を増やす。そうして発展させてきました。方法は違っても、だれでもできることですから、みなさんも得意分野を掘り下げて、自分が勝てるステージまで持っていくことです。そのときに1番適切なIT、アプリやツールを使ってマーケットに出していく。これが正しいIT技術の使い方だと思います。

  • ホームページが登場したときは300〜400万かかりましたから、超一流上場企業しか作れませんでした。今は無料制作サービスもあるし、自分でも作れます。通販、カード決済の導入も、すぐにできます。個人の戦闘力を上げるのが格段に楽になっていますから、自分に最も適したものを探せます。

  • 「営業力」はその人の売る力、「販売力」は買いたい人を引っ張ってくる力です。結局のところ、商売は、「販売力」につきます。私たち売る側は、買う人、ほしい人に売る、それが商売なのです。

  • たとえば、このホワイトボードを売りたいとします。営業力が強い人は外に出て、たまたま通りかかった人に声を掛けて、売れるかもしれません。でも、確率は低い。そこで、ホワイトボードを買う可能性がある人を集めておいて、欲しくなったら自分に注文してくれる仕組みを作る。 「私はホワイトボードを売っています」と、Facebookでもインスタでもいいのでアピールし続け、お客さまになりそうな人たちのリストを作るわけです。

  • リストの整備は、富山の薬売りも使っていました。商売はリストに始まってリストに終わる、といってもいいくらいです。江戸時代の呉服屋さんは、火事のときは、大福帳を井戸の中に放り投げました。大福帳にはこんにゃく糊の成分が入っていて、水に濡れてもにじまず、そのリストさえあればまた商売ができるので、そうして守ったといいます。

  • 私たち八百屋はサブスクビジネス、と言いました。八百屋さんには毎日野菜を買いに来てくれる人がいる。そのお客さまは、家で食べる野菜は安くても、お中元やお歳暮はデパートで買っているかもしれない。としたら、視点を変えてリストを作り、お中元とお歳暮を始めてみる。こだわりの高級果物を送ります、とか。手間暇はかかるし大変。そのときにITツールを使えばいいのではないか、ということです。
◇ITツールの一例
  • 私が使っているITツールを少しご紹介します。まず、「コンバートキット」というアメリカのメール配信ソフト。一般的なメール配信ソフトと違い、性別や年齢、商品を購入した人、前回メールを開封しなかった人など、メールを送りたい相手を絞って配信することができますし、たとえばここにメールを送ってくれたらこの資料を送りますとか、ここにメールを登録してくれたら私にお知らせが入ります、というように、お客さまの行動に合わせたアクションを自動的に設定することができます。

  • 「エレメンター」というのは、プログラムのコードを使わなくてもホームページが作れるツール。私のホームページもこれを使い、自分で作っています。

  • 「マインドマイスター」は、今回のような講義の前に使っています。マインドマップという、大きな木の根本から枝分かれするイメージで、思考をまとめていく。紙に書いてもいいのですが、それをデジタルでやってくれるソフトです。

  • 「TANOMU」は発注システムです。通常は、留守番電話やFAXできた注文を、集計票に起こし、全体を集計して発注し、仕入れます。「TANOMU」は、スマホで通販のように発注したデータを、受注側で自動集計、分類します。海外への出荷では、注文が1〜2時までに届き、そこから全部集計して、3時半〜4時までに品物を集めて、5時に香港に出さなければいけません。毎日、60〜70箱ぐらいありますから、間に合わない。そこで、こうした自動集計システムを使っています。

  • 従業員間の情報共有には、「エバーノート」を使っています。「ドロップボックス」でもなんでもいいと思います。クラウド上にデータを置いておけば、従業員全員がアクセスできるので、「あの人に聞かないとわからない」ということがなくなります。

  • 「ティーチブル」は、動画配信教室を自分で作れるツール。たとえば、今日の八百屋塾のキャベツの話も、動画にしてアップロードしておけば、だれでもいつでも授業のように見ることができる。ふつうお金がかかるようなことも、自分で作ることができます。

  • 今まで高い費用が必要だったことが、個人でできる時代になりました。それぞれの使い方はYouTubeを見ればわかります。必要なツールを適切に使えば、ライバルに勝つ可能性は高い。私たちはそんな業界にいるのですから、ぜひうまく使いこなして、次の時代に進んでいただきたいと思います。

  • 私は、お金は「ありがとう」の対価だと思っています。こんなにおいしいものを売ってくれてありがとう、デパートでは1万円の果物が5000円なんてありがとう、とか。たくさん利益が出る、いっぱい儲かる、それはいっぱいの「ありがとう」を集めていることになります。

  • 私の会社は、「農業を通し 先人の知恵にイノベーションを加え 持続可能な農業を、未来の世代につなぎます」をミッションにしています。八百屋塾も20年以上前にスタートした当時は、先進的でイノベーションだったはずです。伝統野菜にしても、もとはその土地にはなかった野菜を、お嫁に来た人が持ってきて作られるようになり、今も伝え続けている、とか。最初はだれかがイノベーションを起こして作ったものだと思います。

  • 「売り手よし、買い手よし、世の中よし」という近江商人の「三方よし」という考え方に加え、先人たちへの敬意も大切です。野菜の種は、先人たちがいたからこそ、今に繋がっています。私たちはイノベーションを起こし、それを未来に繋いでいかなければいけません。「三方よし」に、先人たちの過去と未来をプラスした「五方よし」を目標に、これからもワクワクするような楽しい仕事をしていきたい。八百屋にはまだまだ可能性があるので、ぜひ、みなさんといっしょにがんばっていきたいと思います。
◇質疑応答より

    Q:サブスクって、たとえば、毎月300円払って音楽聞き放題というシステムですよね。八百屋さんには顧客リストがあって、その人たちが安定的に買ってくれるから、その意味でサブスクだということですか?
    A:はい、もし車だったら1回買ったら2年ぐらいは買わないかもしれない。でも、野菜だったら、また買いに来てくれる。そういう意味でのサブスクです。わざわざ買いに来てくれる人がいるということは、リストを取っていなくても、そういう人たちが実は間近にいっぱいいて、それはいわゆる見込み客が常にいる状態なので、すごいチャンスがあると思っています。

    Q:ナンバーワンには人の尽力とかいろいろなことが関わってきますが、オンリーワンとはまた違うのでしょうか?
    A:ナンバーワンというのは、勝てないところで戦わない、ということです。たとえば、水泳のプロフェッショナルでも陸上で勝負したら負けます。得意なところを絞り込んで、自分がナンバーワンになれる場所を探す。まずは勝てるステージを探すことが大切です。

    Q:私はあまり戦うのは好きじゃないのですが(笑)、やはり戦わないとむずかしいのでしょうか。
    A:逆にいうと、戦わなくてもいい自分のコミュニティを見つけたら、すでにナンバーワンです。「あなたから買いたい」という人を、自分がほしい収入になる分だけ集めれば、ナンバーワンじゃないですか。

    Q:八百屋さんは、お客さまの食の安全を守る、安定的に供給するという要素も重要だと思います。ビジネス戦略としては共感できますが、利益追求だけに走るのはちょっと怖いと思っているのですが…。
    A:よくわかります。F1は固定種に比べ個性は落ちるかもしれない。でも、F1のおかげで安価な野菜を食べられる人たちも増えたわけです。お客さまの健康を守りたくても、全部が固定種で、天候が悪いと高すぎて買えないとしたら、本末転倒です。伝統野菜は多様性を守るという意味でとても大事だし、F1や農薬が悪ともいえず、多様性の1つだと思います。伝統野菜はこういう特徴があり、F1はこういう野菜、あなたはどちらを選びますか、という提案をするのが八百屋なのではないかと思います。

    Q:体によくておいしいものを安く提供するような努力ができれば一番いいのですが…。
    A:「体にいいものを扱っている八百屋」が会社のポリシーなら、だれに伝えるかが明確化されています。その考えに共感するお客さまに来てもらえる八百屋さんになれば、ハッピーでいい、と思います。

    Q:インバウンドでたくさん訪れている外国の方が、日本のフルーツは最高においしい、と言います。それはここ20〜30年の進化のおかげですよね。かんきつとか、本当においしいですから。野菜に関してですが、日本のハイブリッドの野菜はわざわざ外国へ輸出するほど人気があるのですか?
    A:ハイブリッドというより、花穂じそ、木の芽、たけのこといった促成品の需要が高いです。香港の場合、当日朝に来た注文をピッキングして発送すると、その日の夜のレストランの営業に間に合う。そういうタイムラインで飛行機を使います。一般的な野菜はコスト的に合わないので、船で運んだりしています。

    Q:やや精神論的な部分が強かったので、補助金の話を含めテクニックの部分をお話しいただけますか?
    A:サービス自体は世の中に溢れていますが、試行錯誤しなければわからない部分があるので、精神論っぽくなりました。ぜひ活用していただきたいのは政府の補助金です。たとえば、「TANOMU」という自動発注システムは、IT助成金を申請できます。仮に月5万円で2年間使うとしたら、120万円の3分の2が対象になります。こうした情報を、私は有料のところで取っています。先行投資による将来のリターンを計算すると、答えが見えてきます。うちの会社はコンサルもしています。たとえば、産地が新しいものを作ったら、まず市場に出してみて、その反応をだれよりも早くリターンし、売れる仕組みを作る。コンサルは、質問に答えられる知識がなければアドバイスできませんから、勉強が必要です。八百屋塾は、キャベツにしても今日これだけの種類を食べくらべられるのですから、すごい。自分1人ではできません。ですから、八百屋塾に来ているみなさんは、戦闘力がすごく高いと思います。

    Q:「TANOMU」という自動発注システムは、先方にも導入してもらわないと使えないのですよね?
    A:はい。相手に合わせた項目、メニューを作って、導入してもらいます。そこが1番大変ですが、1回作ったら、他はなかなか参入できないので武器になる、と考えてうちは参入しました。

    Q:システムを作って販売するとして、最終的には資金を回収しなければなりません。どんな感じで資金回収、与信管理をしているのか、海外だと為替の問題もあります。そのあたりを教えてください。
    A:日本に代理店があり、上場しているとか、与信がある会社はそのままですが、そうではない会社はデポジットを入れてもらいます。今は、マネーフォワードとか、与信をつけるサービスがたくさんあります。手数料は発生しますが、資金が回収できなかった時のコストや、事務コストを考えると、それほどの金額ではありません。与信会社マネーフォワードに売っていることになり、決まった日に全額入ってきます。入金管理をしなくていいのですが、まだ全部ではなくて、ステージによります。

    Q:今日のお話は、私たちのような納め屋にはすごく参考になります。でも、小売り屋さんにとってはハードルが高くて、たとえば、Facebookでもなんでもいいから、まずは世の中に知らしめることが大事だと思うのですが、その点はどういうふうにしたらいいのか、教えていただけますか?
    A:社長は、経理も、キャッシュフローも見なければならない。さらに仕入れ、支払い、ピッキングも、片付けもします。そこで、どんなシステムなら労力を削れるかと考えて、私は発注システムなどを導入しました。物事を自動化するには、40倍ぐらいの労力がかかるそうです。でも、40倍で、その後の労力がなくなるなら、私は投資をしたほうがいいと思います。ただ、効果にもよりますから一概には言えません。人によって目標や目指すところは違うので、一概にFacebookがいい、とはいえません。むしろ、中途半端ならやらないで、その時間を違うことに使うほうがいいかもしれません。逆に、Facebookを使うのが1番近道、という人もいるでしょう。先ほどお話した「マインドマップ」を使って、もう1度自分のことを見つめ直すために使うと、考え方が整理されます。仕事だけではなく、自分の生き方の中で、生きる意味とか、健康、家族、余暇、趣味などを分類していくと、見えなかったものが見えてくるのではないかと思います。

 

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