■2022年5月22日 第2回 トマト 〜 講演「トマトの機能性表示食品」 タキイ種苗株式会社 開発部課長 宮本明典氏
◇はじめに
  • タキイ種苗は野菜や草花の種子を開発する会社です。たとえば、桃太郎トマト、えびすかぼちゃ、青首大根、千両なす、筑陽なすなど。宮崎や岩手のピーマンでも非常にたくさんの弊社のタネを使っていただいています。みなさまにも知らず知らずのうちに、これらのタネから育った青果をご利用いただいていると思います。

  • 本社は京都にあります。日本には北から南までいろいろな風土や気候がありますので、研究農場は北海道、長野、茨城、滋賀、九州など各地にあります。
タキイ種苗株式会社 開発部課長
宮本明典氏
◇機能性表示食品とは
  • そもそも「機能性表示食品」とは、野菜の機能性を表示することのできる食品のことです。一般の食品は、機能性を記載することが禁止されています。

  • 食品は、一般食品と保健機能食品にわけられ、保健機能食品の中に、特定保健用食品(トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品の3つがあります。生鮮食品は、トクホの対象にはなっていません。機能性表示食品と栄養機能食品の2つのうち、よりグレードの高いほうが機能性表示食品です。なお、栄養機能食品というのは、ビタミンやミネラルに関して定型文が表示できるものです。

  • 混同しやすいのは、一般食品の中の強調表示です。たとえば、「リコピン1.5倍」と書かれたトマトは、一般食品の中の強調表示で、単に量が1.5倍であるという事実が書かれているだけです。機能性表示食品のトマトには「高めの血圧を下げる」などといった表示をすることができます。
◇機能性表示食品の広がり
  • 2015年の機能性表示食品制度発足以来、右肩上がりで数は増えていますが、ほとんどが加工品で、生鮮食品はごくわずかです。ただ、生鮮食品も増加傾向なのは間違いありません。

  • 生鮮食品で届出の多いものは、みかん、バナナ、トマト、大豆もやし、鶏肉などです。

  • 弊社の「ファイトリッチシリーズ」は、機能性成分が豊富でおいしい品種をシリーズにしたものです。お配りしたパンフレットに、リコピンが赤、カロテンは橙、ケルセチンやルテインは黄色というように分類している通り、機能性成分は野菜の色と大きく関係しています。

  • 「ファイトリッチ」とは、野菜が持つ体にいい成分を表す英語「ファイトケミカル」及び「闘う」のファイトと、豊富という意味の「リッチ」を組み合わせた名称です。2010年の発表以来、徐々に種類を増やし、現在、23種類ほど。約25年前から研究をスタートさせました。

  • 弊社のポリシーとして、ゲノム編集技術は優れた特性に関与する遺伝子の探索などの基礎研究のみに用いており、そのために必要な実施許諾を受けております。ゲノム編集を直接利用した品種の開発や、その種苗の販売は行っておりません。

  • 機能性成分が豊富な野菜をシリーズで揃えているのは、世界中でおそらく弊社だけではないかと思います。手間と費用の問題です。弊社内に成分分析の専門部署があり、年間1万サンプル以上のチェックをしています。さらに第三者機関のデータチェックも実施しております。
◇機能性表示食品届出のハードル
  • 機能性があっても、機能性表示食品以外は表記できません。では、表示はどこまで許されるのか。各当局のHPなどを見てもわかりにくいかもしれません。

  • 機能性表示食品以外の食品に許されているのは、成分表示。トマトなら、リコピンやGABAなどが入っているので表示できますが、健康への効果効能を記載して販売することはできません。

  • さらに進んで成分値の表示には分析データが必要です。農作物なので栽培条件によって変動します。同じ畑で作っても、夏と冬では成分値が変わります。それをどうやって誤解のないように消費者のみなさんにお伝えするか。それには、分析の範囲の問題、サンプリングなど、いろいろなノウハウが必要です。

  • 品種の解説などに「〇〇の1.5倍」などと書いてあるのは、特定の青果の分析値を保証したものではありません。これを八百屋さんが転記するのは問題があります。実際にみなさんが販売するものに表記をするには分析しなければいけない、ということを覚えておいてください。

  • 機能性表示食品の届出には、届出書類作成、成分分析、SR(システマティックレビュー)の主に3つが必要です。出願は、生産者さん、販売者さん単位で行います。

  • 届出には30種類前後の複雑な書類を作成しなければならず、専門的な知識も必要です。

  • 分析は、一般的には、日本食品分析センターなどに依頼します。ただし、費用がかかります。地方自治体の研究機関や大学において割安でやってくれることもあります。仮にGABA1検体2万円とすると、統計学上30検体は必要と考えると60万円になり、小規模の営農ではむずかしいでしょう。また、農作物は、季節変動や栽培方法で数値がぶれます。それをどう判断するかというノウハウも必要です。

  • 3つめのハードルはSRです。これは、平たく言うと、世界中の論文から、偏ったものを外して整理した論文集のことです。1から作ると数百万円かかりますから、一般の生産者さんにはできません。最近は農研機構が無料で使えるSRを用意していますが、種類は限られています。

  • 現在、トマトで可能な機能性表示成分は、まず、GABAがあります。SR、つまり科学的な証拠論文集が整っている機能性は、GABA では次の5つです。1つは、高めの血圧降下。2つめは、仕事や勉強による一時的な精神ストレス緩和。3つめが、睡眠の質向上。4つめは、肌の弾力維持。5つめが、日常生活で生じる一時的に落ち込んだ気分を前向きにするという効果です。

  • リコピンでは、血中LDLコレステロールの低下、紫外線刺激からの肌の保護、血圧が高めの方の健康サポートなどが表示できます。

  • β-カロテンには紫外線からの肌の保護というSRがあります。もし、β-カロテンが高濃度に含まれるオレンジ系のトマトを栽培できれば、これをうたえる機能性表示食品になる可能性はあります。
◇機能性表示食品のトマト販売の経緯
  • 農家さんに、機能性成分が豊富なファイトリッチシリーズで機能性表示にチャレンジしてみませんか、と呼びかけても、ノウハウがなく、なかなか進みませんでした。そんなとき、徳島県からお話があり、徳島県庁、石井町、徳島大学、弊社が包括連携協定を結び、約1ヘクタールの最新型のトマト農場を設立しました。産学官で農業を活性化する取り組みで、私たちとしても、実際の生産現場でトマトを作り、そのトマトを売るところまで参画するようになり、いろいろな学びがありました。

  • こうした経緯の中で、自ら機能性表示の届出にチャレンジし、日本で初めて、GABAの機能性表示食品・生鮮トマトの販売にこぎつけました。使用したのは「ファイトリッチ フルティカ」という品種です。「血圧が気になる方に」という効果効能をうたって、量販店で販売を始めたのが2018年11月です。店頭アンケートの結果、フルティカは味がいい品種なので、おいしいから買ったという方が38%。また、GABAが入っているから、機能性表示食品だから、血圧が気になるからという機能性関連の理由で買ってくださった方も54%と多く、大変印象的でした。

  • 私たちはこうして蓄積されたノウハウをいかして、機能性表示申請に興味のある生産者に届出支援業務を開始しました。その結果、生鮮トマトで次のような日本初の機能性表示食品の商品群ができあがりました。リコピン(LDLコレステロール低下)、GABA(ストレス緩和)、日本初のトリプル表示(ストレス、睡眠の質向上、肌の弾力維持)、GABAの血圧低下でミニトマト(千果)における初めての商品など。トマト以外では、ほうれん草「弁天丸」がルテイン(目を守る)を表示、ほかにも現在進行形のものがあります。
◇機能性表示食品届出のメリットと行政への働きかけ
  • 機能性表示食品のメリット例は、まず販売単価の向上があげられます。仮にそれがなくとも、機能性表示は、特売のための値下げや市況による価格下落を防ぎ、価格競争に巻き込まれないといった効果があった例もあります。また、メディアに取り上げられて知名度が向上し、メイン売り場で販売した結果、価格向上がなくともトータルでの売上向上になったケースもありました。

  • 野菜の消費を上げるための手段のひとつとして、野菜の健康効果を啓蒙したい、と考えていますが、法令的には限界があります。私たちが賛助会員となっている日本ヘルスケア協会の野菜で健康推進部会は、行政に対して、もっと表記をやりやすくしてほしいという申し入れをしました。

  • サンドボックスという制度を活用し、「トマトにはリコピンやカロテンが含まれ、こうした効能がある」というPOPを野菜売り場に実験的に置いて、消費者ニーズや売り上げに変化がないか、優良誤認が本当に起きるのか、などについて実証する試みを行いました。

  • 12の小売業者22店舗で行った結果、消費者1,485名、店舗責任者46名からアンケート回答があり、80%以上の人が野菜の成分に関心があることがわかりました。また、約80%の人が野菜の成分を意識して購入した経験がある、65%以上の人が栄養素の多い野菜を購入したい、とのことでした。行政も理解が進み、現在、規制緩和の方向に動いています。ただし、無条件での緩和ではなく、有料の講座を受講、日本ヘルスケア協会が作成したマニュアル入手などが必要です。詳細は今後決まりますが、組合単位で申し込むこともできますので、ご興味があれば紹介します。
◇野菜の育種について
  • 野菜はサプリではなく食べ物ですので、機能性だけでは不十分で、ベースとしておいしくなければなりません。ファイトリッチシリーズの中では、トマトやにんじんのように味がわかりやすいものに人気があります。最近は、「ネバオクラ ヘルシエ」という白いオクラは、粘りが通常の3倍、腸にいい成分が2倍入っており、おいしいので、よくリピートされています。ほうれん草「弁天丸」、白菜「オレンジクイーン」などもお問い合わせが増えています。私たちはこれからも、「おいしさ」をつねに念頭に置いて、品種の開発をしていく考えです。

  • また、機能性から少し離れて育種一般について述べますと、 現在、生産現場の環境は非常に厳しくなっています。夏場が暑すぎて、高冷地のトマトが、暑くてなかなか着果しないとか、割れてしまう。さらに人手不足で生産が広げられないことも問題です。

  • 私たちメーカーは、生産者の問題解決を図り、省力化できる品種を実現しなければなりません。たとえば、なすでは「PC」という性質を導入し、1本ずつ花粉を付けていく処理が不要になるような品種をシリーズ化しており、熊本では去年あたりは90%以上がPCに切り替わっています。

  • 産地の方のお話では、味より、かたくて割れないトマトを求められることがあるそうですが、農家さんは決して食味が劣るトマトを出したいわけではありません。私たちは農家さんに寄り添いつつ、消費者のみなさんにもご満足いただけるような品種の開発に取り組んでいかなくてはならないと考えています。

  • トラックのドライバーさんの労働時間の問題やガソリン代の高騰なども深刻です。また、最近は冷凍売り場が非常に増えており、冷凍可能な野菜品種を考える必要があります。育種には約10年かかりますから、10年先を見据えて、社会の変化に応じた取り組みをしていきたいと考えています。
 
◇新品種の試食について
  • のちほど、開発中の中玉品種の試食をしていただきます。率直な感想をお聞かせください。

  • 試食は4種類。Aは赤玉、Bはピンク、Cはオレンジ、Dはなつめ型です。

  • なつめ型はアイコではありません。カリカリとしたスナックタイプで、人により好みがわかれます。子どもはおやつ感覚で食べてくれますが、皮がかたくていやという方もいます。
◇試食の感想と質疑応答

    Q:ヘタが取りにくいのと、Bは皮がかたく感じました。
    A:しぼって作っているために皮がかたくなっています。ヘタが取りにくいのも事実で、これはそうしようと思って作ったわけではなく、結果的にそうなりました。

    Q:オレンジは、後味がにんじんのような香りで、甘みは控えめでした。
    A:β-カロテンが入っているので、そう感じられる方もいると思います。カロテン臭をどう抑えるか、研究者にフィードバックしたいと思います。

    Q:なつめ型は、生食よりも加熱したほうがおいしいのでは?皮もかたいので崩れにくいかもしれません。
    A:なつめ型は、食感、店持ちなどに配慮した商品です。置いておいても割れず、酸味が抜けます。かたすぎる、甘みに欠けるという意見もありますので、参考にさせていただきます。

    Q:機能性表示食品のトマトは、タネの中に機能性の成分を入れるのか。どれくらい食べると効果があるのか。食べすぎによる副作用などはあるのか…。未知のものなのでそういうことをもっと知りたい。
    A:ファイトリッチのフルティカや千果は、遺伝子組み換えは行っておらず自然交配です。たとえば、味がよくてGABAが豊富な親を見つけて、何回も交配を繰り返していく、そんなイメージです。どれくらい食べればいいかは、それぞれに表記されています。たとえば、「3個食べると1日に必要なGABAの半分が摂れます」とか…。野菜なので食べる量には限界があり、薬やサプリとは違い体に悪いということはありません。食べものなので、腸も活性化しトータルに体にいい、といえると思います。商品によってはバラ出荷も可能で、みなさんのところでパック詰めもできます。ただしその際は届出が必要です。

 

【八百屋塾2022 第2回】 挨拶講演「トマトの機能性表示食品」勉強品目「トマト」食べくらべ