■2018年5月13日 第2回 アスパラガス 〜 講演「アスパラガス」について 明治大学農学部 農学博士 元木悟氏
◇はじめに
  • 私は長野県出身、専業農家16代目の長男です。長野県職員として、普及員、地域おこし、試験場などを担当し、5年前、栽培研究室開設のために明治大学に赴任しました。

  • 明治大学は、大学の栽培研究室としてはユニークで、すべて自分たちで栽培し、生産から消費まで現場直結型の研究を行っています。テーマは、野菜類の生理・生態解明と安定生産技術・作型の開発、軽労働・省力的な野菜園芸技術体系の確立など。栽培研究だけでなく、セミナーを開いたり、学会や研修会などいろいろなところで研究発表も行っています。私の研究室は学生数が多く、現在は20名ほどです。
明治大学農学部 農学博士 元木悟氏
  • 本日のテーマは「アスパラガス」ですが、明治大学野菜園芸学研究室では、茎葉菜類、花菜類、果菜類、根菜類など、アスパラガス以外の野菜もたくさん作っています。
◇多彩なアスパラガス
  • 現在はグリーン、紫、ホワイト、ピンクと4色あります。最も一般的なのは、グリーンアスパラガス。それから紫色のアスパラガス。ホワイトアスパラガスはグリーンや紫のアスパラガスを遮光したもの。ピンクは紫のホワイトに少し光を当てたものです。

  • ミニアスパラガスはタイからの輸入物が多かったのですが、最近は佐賀、長崎などでも栽培されています。お弁当にデコレーション的に使われるなどの需要があり、生産が間に合っていない状況です。

  • 2010年(平成22年)、ポプラ社の企画で各産地のアスパラを集めました。4月だったのでハウス栽培が多いです。北海道産はJAびばい、ふらの、道北なよろ。福島は会津産。紫アスパラは長野産で、知り合いの農家さんにお願いした特に太いもの。西南暖地は長崎県と佐賀県。ピンク色のアスパラは熊本産です。ひときわ長いのは最近テレビなどで紹介されている香川の「さぬきのめざめ」。国産のミニアスパラもあります。

  • 今日お持ちした紫アスパラは、私が大学の圃場で新栽培法「採りっきり栽培」で栽培したもので、やや太いのが特徴です。
◇アスパラガスの機能性成分
  • アスパラガスはルチンの含有量が最も高い野菜の一つで、蕎麦と同じくらい。「擬葉(ぎよう)」と呼ばれる、食べないで捨てる部分に特に豊富です。また、サポニンの中のプロトディオシンが含まれ、精力増強、強精作用があるとされます。このほか、抗酸化作用のあるビタミンCや糖度など、栄養成分のバランスがいい健康野菜です。

  • 紫アスパラにはポリフェノールのアントシアニンが含まれています。

  • グリーンと紫を比較すると、紫のほうが糖度とビタミンCがやや高く、アントシアニンは10倍以上含まれています。
◇ホワイトアスパラガスの作り方
  • 一般的なホワイトアスパラガスの栽培方法は、「培土」といって土をかぶせる方法です。最近は遮光栽培も多く、培土とは成分が少し違うといわれています。

  • 長野県で私たちが開発した「トンネル栽培」では、北陸新幹線のトンネルの横抗を使い、グリーンアスパラを遮光してホワイトにしました。トンネルの中は1年を通じて温度16℃プラスマイナス1℃、湿度95%で、育ったホワイトアスパラはどの部分を食べてもサクッとした食感です。めったに食べられないので、「幻のアスパラガス」と呼ばれています。
◇世界のアスパラガス生産
  • 輸出を目的に栽培しているのは中国、ペルー 、メキシコなど。その他の国々は生鮮物として作られています。北から南まで広く作られ、日本は寒冷〜温暖な地域に入ります。最近は、砂漠地域のペルーでの生産量が増えています。

  • 世界の栽培面積をみると、第1位は圧倒的に中国で、以下、ペルー、ドイツ、メキシコ、アメリカ、スペインの順。日本も10位以内に入っています。

  • 少し前まではグリーンとホワイトが半々でしたが、最近はグリーンが伸びています。中国や東南アジアの国々がグリーンを食べるようになり、特に中国は、生産量の割合が非常に高いので大きく影響します。カナダやアメリカ、ニュージーランド、オーストラリアはほとんどグリーンです。ヨーロッパはホワイトが多いのですが、イギリスなどグリーンを食べる国々もあります。ペルーは輸出先のヨーロッパの影響を受けています。

  • 生鮮、缶詰、冷凍の割合では生鮮が増えています。中国や東南アジアの生鮮のニーズが拡大したからでしょう。缶詰はヨーロッパ向けです。ペルーは生鮮のほか、缶詰と冷凍もあります。

  • FAOによる主要国のアスパラガス生産量の推移をみると、中国が他国とは一桁違うほどの量を作っています。FAO のデータは1985年(昭和60年)から2007年(平成19年)までですが、今に至るまで1位は中国、2位はペルー。メキシコも輸出目的に生産が増え、そのあおりでアメリカが減少しています。昔は日本にもカリフォルニア産が入ってきましたが、最近は入ってきません。日本の生産量はずっと10位以内。最近はドイツが地産地消を大切にし、アスパラの生産も増えています。
◇各国のアスパラガス生産の状況
  • ペルーでは砂漠地帯を開発し、5kmにわたって点滴チューブをひいて作っています。見渡す限りアスパラガス畑で、1周すると東京23区ぐらいあると思います。砂漠なので点滴チューブの水が落ちる場所を除いて草が生えないのが特徴です。

  • アルゼンチンでは、日本と同じような栽培方法をとっています。

  • パラグアイは雨季と乾季があり、乾季には日中の気温が35℃を超えるので、なかなかうまくアスパラガスが育たないのですが、雨よけをしたりして育てています。

  • 中国の畑も見渡す限りアスパラガスです。中国は、上海近くの浙江省など大都市近郊で、非常に品質が高いものが栽培されています。栽培方法は日本とほとんど変わりませんが、30cmくらいの長さに育てます。「グランデ」という品種が栽培されています。機能性成分の研究も盛んで、お茶、お酒、錠剤、ジュースなどに加工されています。

  • 韓国では、日本にはないような非常に大きなハウスで、国策で輸出用の換金作物として作っています。まだ栽培が確立しておらず、以前、パイオニアエコサイエンスさんといっしょにセミナーに招待され、日本の栽培技術をセミナーで話したことがあります。

  • オランダでのホワイトアスパラガスの生産は、一般的には土をかぶせ、掘り出します。長く収穫するために白黒マルチを使います。黒は暖かいので早く出て、白は涼しいので遅く出ます。ベタがけや、エアドームで覆って早く作ったり、また、作業面では、土を盛り上げて立ったまま収穫しているところもあります。

  • 去年、ドイツで開かれた国際アスパラガスシンポジウムに参加しました。ドイツでは非常にシステマティックに作物を循環させて栽培しています。アスパラの前にからし菜、トウモロコシなどを作り、これをすきこんだ畑でアスパラを作り、終わるとまたからし菜やトウモロコシ…というように循環させて、揃ったアスパラを作っています。アスパラの養成茎(親茎)を立てることを立茎といい、立茎した養成茎の太さより少し太いものが採れます。ドイツでは太いアスパラを採るために、シャープペンシルよりもやや太いものを立茎していました。収穫も、オランダでは手で行いますが、ドイツでは機械収穫も検討されています。

  • タイのような非常に暑い地域でもアスパラは栽培できます。奥にサトウキビ、手前にアスパラという畑もめずらしくありません。雨季と乾季があり、雨季に畑が水没しないように明きょと呼ばれる水路が掘られています。病気の対策としてもみ殻でうねを覆って跳ね上げを防ぎます。日本ではアスパラを切って収穫しますが、タイでは抜いていました。それを日本向けに切って束ねて輸出します。タイには日本向けの大きなアスパラ商社があります。
◇日本のアスパラガスの栽培
  • 私が、長野県野菜花き試験場(長野市松代町)にいたときの写真を生産者さんにお見せすると、ほぼ全員に「おーっ」と言われます。広い露地で、病気もなく青々と育っているからです。さらに、揃ったアスパラを出すには太さを揃えて立てる、立茎技術が必要です。多い年には、私1人で35アール担当し、年間1000〜1500人くらいの方が視察に訪れました。

  • 北海道は世界でも最も寒い栽培地のひとつで、ほとんどが露地栽培です。名寄市は、50kmほど北に行くと水田限界という寒いところですが、とてもじょうずな農家さんがいて、非常にきれいなアスパラガスを生産していました。

  • 東北も露地栽培で、パイオニアエコサイエンスさんの品種も多いです。水田の転換畑で作ると病気が出やすいのですが、客土して土を盛り、その上にハウスを建てて、夏場は循環扇などを使って涼しくして、収量を上げているところもあります。

  • 神奈川県の海老名市にもハウス栽培ですが、いい産地があります。

  • 中国地方で露地栽培をしているのは、岡山県、広島県の2県です。水田からの転換畑なので病気が問題で、高畝にして立茎を工夫して風通しを良くしています。株下から見上げると光が入ってくるぐらいの「こもれび栽培」という方法をとっているところもあります。

  • 九州は最近夏が暑すぎるので、ハウスをフルオープンにして風を入れたり、屋根に遮光資材を使っています。夏場の九州産のアスパラの色が薄いのは、そういう理由もあります。

  • 香川県の「さぬきのめざめ」は、長くなっても穂先が開かないように育種した品種で、疎植にして、のびのびと長く育つように栽培しています。最近は1本ずつ袋に入ったものも出ています。

  • 長崎県の「王様アスパラ」の定義は、1本が60gほどの太いものだそうですが、年によってバラツキがあるようです。太いものは、直径が500円硬貨のサイズとなり、太くても甘いです。長崎県ではミニアスパラも作っています。
◇アスパラガスの収穫期と作型
  • アスパラガスには「春どり」と「夏秋どり」があります。「春どり」は春に地下部の貯蔵養分を使って萌芽する若茎を収穫するもの、「夏秋どり」は「春どり」打ち切り後に養成茎を伸長(立茎)させ、茎葉を繁茂させながら萌芽する若茎を収穫するものです。「春どり」は茎葉がないので十分に光が当たりますが、「夏秋どり」は茎葉が繁るほど色が薄くなります。「こもれび栽培」のような方法でも、「春どり」ほどは色がのりません。

  • 作型は、「普通栽培」、「2期どり」、「長期どり」があります。「普通栽培」は春だけ採るもので、露地の春だけ採るものは「露地普通(春どり)栽培」、「半促成春どり栽培」はハウスをかけ、後半はイネや果樹などを作り、春だけとる方法です。春に採って1回休み、夏にも採るのが「2期どり」。これを続けると、「長期どり」になります。ほかに、「伏せ込み促成栽培」といって、1〜2年養成した株を晩秋に堀り上げてハウスに入れると冬場に採れる、という栽培方法もあります。
◇アスパラガスの特性
  • 葉のように見える部分は「擬葉(ぎよう)」です。本来の葉は退化した、「はかま」と呼ばれる小さい三角形の部分。光合成して養分をつくるのは「擬葉」と「養成茎(親茎)」、食べる部分は「若茎」です。

  • アスパラガスの根は「巨大な貯蔵庫」といわれ、水平方向に1.5m以上、垂直方向に1m以上伸びます。その量は1反歩あたり2トントラック3〜5台分にもなります。根に蓄えられた養分量が収量を左右します。1年目と3年目の根ではまったく大きさが違い、3年目は太いアスパラが採れますが、1年目は細すぎて採らないのが常識です。

  • 昔はユリ科に分類されていましたが、今はキジカクシ科クサスギカズラ属です。約300種あるクサスギカズラ属の植物のうち、食用になっているのは1種だけです。

  • 原産地は南ヨーロッパからウクライナ地方ですが、耐乾性、耐暑性、耐寒性があり、地中海沿岸のような気候だけでなく、砂漠、熱帯、寒いところでも作れます。
◇アスパラガスの新栽培法「採りっきり栽培」
  • アスパラガス栽培は通常、タネを播いて苗を作り、定植。光合成で蓄積された養分が、秋から冬にかけて根に転流、翌年の春に萌芽、収穫。その後はある程度のところで立茎して養分を蓄える、というサイクルでおこなわれます。

  • 農家のみなさんがアスパラガスに参入しにくい要因はいくつかあります。本格的な収穫が定植後3年目以降であること。立茎に技術が必要であること。また、10〜15年で収量が低下するので、改植しますが、新植に比べて収量が上がらないこと。ドイツなどでは、トウモロコシやからし菜を輪作していますが、日本は狭いのでそれができず、連作すると連作障害が起きます。

  • 露地栽培では、2年株以降は1年株に比べて病害が蔓延しやすく、明治大学の圃場でも同じように薬剤散布をしても、1年株は元気で、2年株は病気になります。一般の農家は病害対策としてハウスや雨よけなどを設置しますが、コストが大きいので、私たちは露地での新栽培法「採りっきり栽培」を開発し、全国各地で適応性を検討しています。

  • 「採りっきり栽培」は、定植後1年間株養成し、翌春萌芽する若茎をすべて収穫してその株の栽培を終了させる作型で、そうすることで難しかったアスパラガスが誰でも作れるようになります。

  • 「採りっきり栽培」のアイデアは以前から持っていましたが、明治大学に採用されたあと、パイオニアエコサイエンスさんと共同開発しました。2年前に発表し、農家さんは昨年初めて定植したので今年初めて収穫しています。これから日本全国に広がっていくと思います。

  • アスパラガスは通常は5月に植えますが、「採りっきり栽培」では3月頃に植え、長く養成して、1回で採りきります。私たちが開発した新ホーラーで植穴をあけ、活着をよくするために炭資材を少々落とし、セル成型苗を植えるだけです。低温遭遇の軽減が期待される新栽培法です。

  • アスパラガスの最大収量は、北海道の露地普通栽培で700 kg/10a程度。長崎の西海市・ハウス半促成長期どり栽培で5,000 kg/10a程度。秋田の伏せ込み促成栽培で300 kg/10a程度です。「採りっきり栽培」2年間の収量の平均値が1,159 kg/10aでした。

  • 「採りっきり栽培」の収穫のピークは4月頃です。ちょうど早い暖地のハウスものが終わり、北海道、長野、東北の露地ものが出てくるまでの端境期にあたり、輸入ものから国産に切り替わる時期です。単価もやや高く、私はこの時期を「採りっきり栽培」で埋めたいと考えています。

  • 今日お持ちした「採りっきり栽培」の品種は、パイオニアエコサイエンスさんの「太宝早生」と「満味紫」。通常はL級規格以上が7割を占め、後半にはM級やS級規格も出て来ます。今は収穫のピークを過ぎているのでやや細めですが、今朝採ったものです。のちほど味わってみてください。

  • お弁当の需要があるミニアスパラの周年供給も考えています。亜熱帯の沖縄では一年中ミニができます。私は農水省の外部アドバイザーとして、沖縄県と一緒にアスパラガスの周年栽培法を開発しました。ミニのリレー栽培も面白いので、ぜひやってみたいと思います。
◇終わりに
  • 栽培方法や経済性の評価、輪作体系の構築、普及拡大など、やらなければいけないことはたくさんあります。「採りっきり栽培」を日本全国に広げるとともに、すぐれた機能性野菜としてアスパラガスの消費を拡大させることを目標に、みなさまのご協力をいただきながら今後も努力していきます。

  • 私は以前、農業雑誌を出している養賢堂(ようけんどう)という出版社から『世界と日本のアスパラガス』を出しました。今回お話した内容が書かれていますので、機会があれば参考にしてください。
◇質疑応答より

    Q:どういうアスパラがおいしいのでしょうか?
    A:穂先がしまっているもの、切り口がきれいなもの、手に持ったときやわらかいものが新鮮です。「採りっきり栽培」は、すべて採れたてです。直売に出していますが、消費者のみなさんは一度気に入るとリピーターになり、多少価格が高くても買ってくれるので、やはり鮮度が大切だと思います。

    Q:ホワイトアスパラの栄養について教えてください。
    A:ホワイトはグリーンに比べて多くの内容成分では劣るものの、グリーンや紫より糖度が高く、朝鮮人参にも含まれるサポニンのうち、プロトディオシンが多く含まれています。プロトディオシは精力増強、滋養強壮に有効とされています。

    Q:ホワイトアスパラは遮光と土をかぶせるので成分に違いが出るのでしょうか?
    A:理由はわかっていませんが、土のほうが栄養成分(サポニンのプロトディオシン)は高いといわれます。ゆっくり伸びるので、糖度も高い。ただ、糖には多糖類と単糖類・二糖類があり、人間は多糖類を甘い、とは感じません。アスパラの根は非常に糖が高いのですが、そのほとんどは多糖類(糖の大部分はフルクタン)なので人が食べると苦いと感じます。単に「糖が高い」では判断できないこともあります。

    Q:アスパラの根の再利用はできないのでしょうか?
    A:私たちも根の利用方法を研究していますが、土がついているのでなかなかむずかしい。フルクタンという多糖類の成分が非常に多く、海外では利用されている事例もあります。一般的には、栽培後にそのまま耕起して他の作物の肥料として使うことが多いようです。

 

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