■2018年9月9日 第6回 韓国料理・ペポかぼちゃ・梨 〜 講演「韓国料理に学ぶたくさん野菜を食べる術」 韓国料理研究家・野菜ソムリエプロ・ベジフルフラワーアーティストプロフェッサー 李美栄氏
◇はじめに
  • 私は韓国で生まれ、小さいときに家族で日本に来ました。以来、何十年と日本で暮らしています。

  • 地元の埼玉県熊谷市で韓国料理教室を開いており、企業からの依頼で韓国料理のレシピ考案などもしています。

  • 野菜ソムリエプロと、ベジフルフラワーアーティストプロフェッサーという活動をしています。ベジフルフラワーとは、野菜と果物を使って作るブーケや花束のことです。野菜が花束のようになった美しい色や形、その花束が食べられることにみなさん驚かれます。まず視覚から野菜に興味を持ってもらって新しい野菜の文化を提案し、「野菜を贈る」「健康を贈る」という取り組みをしています。B級品、たとえば曲がったきゅうりや大きく育たなかった野菜など市場に出回らないものも個性として生かします。今日お持ちしたのは小さなブーケですが、大きなオブジェにしてイベントやパーティーなどで展示し、お持ち帰りいただいておいしく食べてもらったりもしています。作品集のアルバムも持ってきましたので、ご興味があればのちほどご覧ください。

韓国料理研究家・野菜ソムリエプロ・
ベジフルフラワーアーティストプロフェッサー 
李美栄氏
◇韓国の食生活
  • 韓国は日本から2時間ほどで行ける近い国なので、行かれたことのある方も多いと思います。日本との時差もありません。韓国にも四季があり、野菜の旬も、作っている野菜もほぼ同じです。ただ、日本は島国で韓国は大陸国ということで、食生活や風習に違いがあります。

  • 韓国の食生活は「医食同源」、日頃からバランスのとれた食事で病気を予防し治癒しようとする考え方が根本にあります。病気になってから薬を飲むのではなく、ふだんから身体にいい食事をして病気を防ぐ。「食べ物は薬」という感覚で、とてもよく食べます。「ちゃんとごはん食べてね」と言うのはあいさつ代わりで、親が子どもに電話するときに「元気?」と同じように「ごはん食べたの?」と聞きます 。

  • 主食はごはんで、汁物、肉、魚、野菜、果物、麺類もよく食べます。

  • 調味料は、醤油、味噌、塩、砂糖なども使いますが、特徴的なのはコチュジャンです。唐辛子、塩、麹などを発酵させて作る調味料です。

  • 香辛料でよく使うのは、唐辛子、にんにく、しょうが、ねぎ。日本とは、使う量が全然違います。

  • なつめ、高麗人参なども、身体にいいとされる食材で、使われている代表的な料理は「サンゲタン」です。一羽の鶏の中にもち米やなつめ、高麗人参、にんにくなどを入れて、じっくりと煮詰めるもので、滋養強壮の効果があるといい、体がぽかぽかと温まります。韓国人は一人で一羽、痩せた女性でも、昼休みにしっかり一人前を食べます。

  • 調理の仕方で特徴的なのは、合わせ調味料(ヤンニョム)をよく使うことです。いろいろな調味料を先に混ぜておいて、それでお肉を漬けたり、ゆでた野菜を和えたりします。短時間でできて失敗がありませんし、味がしっかりとつきます。それに比べて、日本は旬を大切に、素材の味を生かした料理が多いのではないかと思います。

  • 保存食が多いのも韓国料理の特徴のひとつです。韓国は冬が寒いので、厳しい冬を乗り越えるために保存食が生まれた、と聞いています。干した野菜、わらびなどをよく食べますし、キムチも保存食として生まれたといわれています。

  • 韓国にはスープや鍋料理が多く、日本のお味噌汁の3倍くらい食べます。汁物の器の大きさはラーメン丼くらいあり、スプーンと箸を使って具だくさんの汁を食べます。韓国では器を持つのはお行儀が悪いこととされているので、器は置いて食べます。

  • 日本ではだしを取るのに鰹節、昆布、煮干しなどを使います。韓国では昆布や煮干のほか、特に動物性のだしをよく使うのが特徴です。サムゲタン、コムタンスープ、ユッケジャンスープなど、お肉やお魚を使って骨からじっくりとエキスを出した、コラーゲンたっぷりのとても身体にいいスープです。専門店も多く、「今日はちょっと疲れたから元気が出るものが食べたいな」と思うとすぐに食べられます。

  • 食べ方としては、「包んで食べる」のが日本違う特徴です。焼肉屋さんでは必ず葉物が出るので、それに焼肉とキムチを包んで、手で食べます。

  • 「混ぜる」のも特徴のひとつです。ビビンバを混ぜないで具をそれぞれ食べている日本人がいますが、コチュジャンを入れてすべての具をよく混ぜてマリアージュさせてこそのおいしい味なので、ぜひ混ぜて食べていただきたいと思います。
◇野菜摂取量が多い韓国
  • 韓国は、野菜摂取量がとても多く、数年前までは世界一でした。今は中国が1位で、韓国は2位。3位はイタリアだそうです。

  • 1日1人あたりの野菜摂取量は580グラムです。日本は厚生労働省の目標は350グラム以上ですが、実際には280グラムしか食べていないというデータがあります。韓国は日本の2倍以上の摂取量ということになります。

  • 韓国の焼肉屋さんでは、「カルビとロース2人前」などと注文し、サイドメニューは特に頼みません。そうするとワゴンでいろいろなものを運んできて並べます。お店によっても違いますが、キムチ3〜4種類、ナムル、にんにくのスライス、葉物4〜5種類など。これらは全部タダで、おかわりも自由です。サンチュやえごまの葉に、お肉、キムチ、にんにくなどを包んで食べます。意識しなくても、自然とお肉より野菜を多く食べられる環境になっています。

  • ビビンバ、キムチチゲなど、ひとつひとつのお料理にも、野菜がたくさん入ります。日本では、たとえば、焼き鳥屋さんでは焼き鳥がメインで、みんなでサラダを1つ頼んでシェアして食べるくらい、お寿司も天ぷらも野菜はとても少ないですよね。韓国は朝から晩まで野菜をよく食べています。なかでもキムチが大きな要因で、四季を通していろいろな種類のキムチがあります。なので野菜摂取量が多いというわけです。
◇宮廷料理は食の文化遺産
  • 韓国料理には「宮廷料理」があります。テレビ番組の「チャングムの誓い」には、いろいろな宮廷料理や作り方が出てきたので、ご存じの方も多いと思います。

  • 宮廷料理は朝鮮時代の王様の食事で、赤くて辛いものはありませんでした。この時代に、韓国に唐辛子はなかったといわれています。唐辛子の原産地はアメリカ南部で、ヨーロッパに伝わり、ポルトガルの宣教師が日本に持ち込み、それを豊臣秀吉の朝鮮出兵のときに韓国に伝えたという説があります。また、逆にこのとき秀吉の兵士が韓国から持ち帰ったとする説もあります。いずれにしても、韓国では最初は唐辛子を食べるという風習はなく、殺菌効果があるので靴の中に入れたりしていました。その後100年くらい経って、現在のように食べられるようになりました。

  • 宮廷料理は繊細な味付けで、「五味五色の食事」といわれるように、赤、緑、黄、白、黒と、彩りが美しいのも特徴です。味は甘、辛、酸、苦、塩。これが揃っている栄養バランスのとれた健康なメニューです。非常に手間がかかっていて、味の文化遺産として大切に伝わっています 。
◇キムチとナムル
  • 韓国人が野菜をたくさんとる大きな要因になっているのが、キムチとナムルです 。

  • キムチは白菜が有名ですが、そのほかにもいろいろな野菜で作ります。何十種類ものキムチがあり、野菜と塩、唐辛子、魚介塩辛、ニンニク、しょうがなどを混ぜ、発酵させて作ります。唐辛子は世界で一番使われている香辛料だといわれていますが、韓国がかなりのシェアを占めているのではないでしょうか。

  • キムチは発酵食品の中でも植物乳酸菌の量がトップクラスです。植物乳酸菌は直接腸に届き、腸内環境をよくするはたらきがあります。日本にもぬか漬けがありますが、1mlあたりの植物乳酸菌の量を比較すると、ぬか漬けは約1600万個、キムチは約1億 6000万個、水キムチは約3億個と、大きく違います。また、ぬか漬けは雑菌を抑えるために入れる塩の量が多く、乳酸菌を抑えてしまいます。キムチはとうがらしが雑菌を抑えるので塩の量が少なくて済み、乳酸菌が増えます。さらに、ぬか漬けは乳酸菌を豊富に含んでいる糠を洗って食べるので、流れ出してしまいます。水キムチは本場に行かないとなかなか食べられませんが、漬けて発酵した野菜が浮いている冷たいスープで、スプーンで飲みます。その汁の中に植物乳酸菌が豊富に含まれています。のど越しがよく、すっきりするので夏におすすめで、私は「飲む美容液」と呼んでいます。
  • キムチは、免疫力を高め、疲労回復にいいといわれます。発酵段階でビタミンBが増えます。また、ダイエットや美肌にもいいとされています。

  • 冬に入る前に親戚一同みんなで集まってキムチを漬ける「キムジャン」という習慣があり、一度に50株、100株もの白菜を漬けることもあります。この時期の天気予報は、キムジャンに向いている日を教えてくれます。核家族化やキムチ冷蔵庫の普及によってたくさん作らなくなったといわれますが、昔は寒かったこともあり、大量に作ってカメに入れ、土を掘って保存しました。キムチは日ごとに味が変わり、徐々にすっぱくなって、乳酸菌が増えていきます。0℃以下では発酵しませんから、カメから食べる分だけ出して、少し置いてから食べました。今も田舎にはそうしているところがあると思います。

  • ナムルは野菜の特徴によって、煮たり蒸したり焼いたり炒めたり、多少調理法は変わりますが、基本的に入る調味料は同じですし、すべての野菜がナムルにできます。私は塩だけで味付けて素材の味を生かすのが好みです。いろいろなナムルを組み合わせることもできますし、食事では必ずナムルを1〜2品食べます。昔から保存食として作られていて、今もタッパーにナムルを作り置きしている家庭は多いと思います。冷蔵庫にいろいろな作り置きのナムルを並べれば、あっという間に野菜が豊富な食卓になります。

◇質疑応答より

    Q:キムチを漬けるのは冬だけですか?
    A:立冬の前後、昔は非常に寒かったので、その前に漬けました。かつては会社からキムジャン・ボーナスが出た、という話も聞いています。今は暖かくなっているので、時期があとになってきているようです。私も冬は毎週のようにキムチ講座を開いており、たいへんご好評をいただいています。スーパーなどで売っているキムチは手作りとは全然味が違います。市販のキムチは発酵していません。ただタレに漬けただけの浅漬けのようなものがほとんどです。そうしないと保存がきかない、というのはあります。生ものなので、消費者の手に渡るときには味が酸っぱくなりすぎてしまうのです。本当の発酵したキムチを食べたことがある方は少ないのではないでしょうか。手づくりのキムチはと白菜の白い部分がとてもおいしいのですが、市販の刻んであるものは、水っぽくなります。みなさんも機会があれば、白菜キムチを手作りしていただきたいと思います。

    Q:唐辛子はどんなものを買ったらいいですか?
    A:一番高いものを買ってください。粉唐辛子にするには、タネをとってミキサーのような機械にかけます。安いものはタネを取り除かず、黄色っぽくなってしまうため、赤い着色料を入れることがあります。できれば韓国産で有機栽培と書いてあるものがベストです。粉唐辛子は、中挽き、粗挽き、パウダーと3種類くらいを使い分けます。キムチの場合、中挽きとパウダーを合わせる人もいますが、私は中挽きだけ使っています。パウダーを使うと辛くなります。色は鮮やかできれいに仕上がりますが、中挽きでも十分だと思います。韓国の市場には、辛いものからそれほど辛くないものまでさまざまな種類でものすごい量の唐辛子があります。そこで自分の好みの唐辛子を粉にしてもらうこともあります。粉唐辛子によってキムチの味は違ってきます。また、辛さは季節や天気によっても違い、「今年の唐辛子はすごく辛かった」とかいうこともあります。

 

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