■2022年6月19日 第3回 きゅうり・小玉すいか 〜 講演「きゅうりの進化」 (株)埼玉原種育成会 栗田悌氏
◇はじめに
  • (株)埼玉原種育成会は、主にきゅうり種子の生産・育種及び販売をしています。1960年代に育種を始め、現・代表取締役会長の大熊昭祐が白イボきゅうり「夏埼落3号」の開発に成功し、一気に普及し、年代それぞれの要望に合った品種の育成により、高い占有率を維持しています。

  • 台木用のかぼちゃも作っています。ブルームと呼ばれる白い粉は、果物などにも発生するもので、物質的には、ケイ酸物質になります。ブルームは鮮度のバロメーターにもなっていたのですが、平成初頭から、ブルームレスが評価されるようになりました。ある時、奈良県のN種苗さんがスイカの台木として育種していたものをきゅうりに接いでみたところ、ブルームの発生が極めて抑えられ、流通で付加価値がついたこともあり、以降、ブルームレス台木が主流となっています。従来からのブルーム台木も併せて育成しています。
(株)埼玉原種育成会 栗田悌氏
  • 20年ほど前からメロンの育種も始め、青肉の「キスミー」、赤肉の「ラブミー」等の種子販売をしています。

  • 今後の育成目標は、強健性・早生性・省力性・多収性・良質性は最低条件です。さらに作型それぞれに求められる節成性・枝の出がよい分枝性・耐寒性・耐暑性及び結果性加えて耐病性を兼ね備えた品種の育種になります。現在、多くの生産者が高齢化し、後継者は少なく、新たに就農される方のきゅうりの選択は極少ない現状です。栽培を省力化し、作り易くすることも重要です。また、光沢の良さ、果形の安定性の高さも非常に重要です。さらに各病気にも強い耐病性品種を育成していきます。
◇きゅうりの来歴
  • きゅうりの原産地は、北部インド、ネパールにかけてのヒマラヤ山麓、霧が多いところです。

  • 原種は球形に近く、非常に苦い。

  • 40数年前は、きゅうりの頭の部分をかじって「苦い」「大丈夫」と選抜してきました。現在は「苦いきゅうり」は市場には出回らないと思います。苦味の成分は、ククルビタシンです。

  • 日本への伝来は6世紀後半といわれています。華南系(中国南部)が黒イボ系、華北系(中国北部)が白イボ系で、今はほとんどが白イボ系です。

  • きゅうりは漢字で「胡瓜」。日本へは、胡麻や胡桃などといっしょに伝わりました。「胡」は中国の西方民族を意味します。最初は黄色く完熟させて食べていたので「黄瓜」と書かれることもありました。

  • きゅうりを輪切りにすると、切り口が、葵の御紋や京都の八坂神社の紋に似ているため、禁忌作物だったこともあります。その後、17世紀ころから盛んに栽培されるようになりました。
◇「白黒戦争」とブルームレスきゅうりの登場
  • 華南・黒イボ系は、低温に強く、冬から春に収穫できる冬春きゅうりで、華北・白イボ系は、暑さに強く、夏から秋に収穫できる夏秋きゅうりです。

  • 60年代、「白黒戦争」とも呼ばれる、黒イボ系と白イボ系との市場での競い合いがありました。白イボ系の新品種「夏埼落3号」は、寒さにも強く、非常に収量性がよかったことから、黒イボ系を圧倒していきました。

  • 70年代後半から、より緑色が濃く光沢のある品種が求められ、ブルームができにくいきゅうりへの改良が進み、80年代にはブルームレス台木使用でブルームレスきゅうりが登場しました。冬春は昼夜の寒暖差が大きく、ブルームが出にくいのですが、夏秋きゅうりは、暑いのでブルームの発生が多くなります。出来るだけ春先のような品質の良いきゅうりやブルームレス台木の育成に努力しています。

  • ブルームレス台木(カボチャ)に接木すると、ケイ酸はかぼちゃより上に流れていきません。ケイ酸は葉の組織の丈夫さに関係し、不足するとうどんこ病の発生が懸念されます。

  • 弊社のブルームレス台木で一番売れているのは、「ゆうゆう一輝」。このほか、「RK-3」、「FGY」などもおすすめです。ブルーム台木は、現在、「ウルトラ南瓜」、「ウルトラ9B南瓜」です。

  • かつては生産者が自ら接ぎ木をしましたが、今は苗業者に依頼するウエイトが高くなりました「呼び接ぎ」という方法から、「断根挿し接ぎ」に変わり、生産者の労力負担は軽くなっています。
◇複合耐病性品種の登場
  • うどんこ病や褐斑病に強く、べと病にも比較的強い品種が注目され、現在普及しています品種(試食提供された青果物の産地普及品種)になります。
◇きゅうりの作型
  • ハウス栽培の作型は、促成、半促成、夏穫り、抑制、越冬に大別されます。どの産地も、例えば促成と抑制の作型組み合わせで、年間30t/10aの収量性で非常にハイレベルとなっています。
◇きゅうりの品質、産地について(試食提供青果物)
  • 福島(JAふくしま未来)は、福島地区、二本松地区、伊達地区、相馬地区の4支部。伊達地区以外は、弊社の占有率は9割以上で、伊達も、今後、伸びていくのではないかと思います。

  • 秋田(JAうご)は、「ニーナZ」、「兼備」という品種が9割。選果の良い産地として評価されています。

  • 埼玉(JAひびきの)は、本庄と上里、加温栽培と無加温栽培があります。両地区とも弊社の「ニーナ」、「ニーナZ」、「兼備」が半分ほどで、従来タイプの「極光」も残っています。上里には約3年前に選果場ができました。

  • 「ニーナ」、「ニーナZ」は周年栽培が可能で、特に冬春は、どの産地にも選択されています。分枝性が高く、枝の出が良いことで収量が多く、品質も良く秀品率の高い品種で人気です。

  • 「まりん」は、昨年度から急速に伸びてきました。節成性が高く、枝がほどよく動いて、果形が安定し、耐病性も高い特徴で人気急上昇です。特に、8月中旬以降に流通されるきゅうりは「まりん」の可能性が高いと思います。

  • 「勇翔」は、越冬のつる下ろし栽培に向いています。

  • 「はやか」は「まりん」の前作タイプで省力性のもの。枝摘みが大変という方におすすめしています。
    「兼備1号」は、半促成と越冬に人気で、「まりん」より分枝性がよい「兼備2号」も人気です。

  • 露地向けでは、「おおのぞみ」は早生性、「蒼夏」は草勢の改良でつる持ち良好な特徴です。「豊美1号」、「豊美2号」、「なつめく」は、ズッキーニ黄斑モザイクウイルスの耐病性を持ち合わせています。

  • 「ぴっくる太郎」はピクルス向け、親指大くらいのきゅうりです。

  • 「四葉」は華北系で、シャキシャキ感、パリパリ感が特徴です。「YS-30」は果形を安定させた新品種で、茨城県のJAなめがたしおさい麻生地区ハウス部会では、約20名のうち半分くらいの方がトライしています。今回、食べくらべ用に提供していただきましたので、のちほど味わってみてください。JAなめがたしおさいは、さつまいもで有名ですが、「四葉」もブランド化しようと頑張っています。

  • 「新光埼落1号」は、かつて、黒イボ品種として人気がありました。今もわずかに栽培されており、肉質の面で選んでいただいていると思います。
◇きゅうりの栄養
  • きゅうりは水分が95.4%で、カロリーは11kcal。「世界一栄養のない野菜」といわれることもあります。カリウムは比較的多く、過剰な塩分の体外排出に役立つとされます。食事前に1本丸かじりすることで、メタボ予防のダイエット食品としておすすめです。
◇おわりに
  • イボなしきゅうりは、レギュラータイプと比べ、シャキシャキ感や歯切れはよく、食味的な差はありません。菌については、ある加工業者によると、イボのあるなしはほとんど関係がない、とのことです。

  • 漢方の世界では、きゅうりは体を冷やす食べものに分類されます。水分の多さはきゅうりの魅力の一つですので、暑い夏にはきゅうりの需要も伸びてくる、と期待しています。

  • 弊社では、メロンも育種しており、徐々に人気が出ています。青肉「キスミー」、赤肉「ラブミー」、「アールス栄華」などの品種があり、関東地区では、JAほこた部会で導入しています。直売向け品種として人気があります。

  • 本日は、主に生産者さん向けの話になりましたが、きゅうりのよさが八百屋さんに伝われば幸いです。お客さまに今日の献立にこれを一品加えたらどうだとか、対面でご提案できるのが八百屋さんと思います。今後とも、消費者の方への橋渡しをぜひよろしくお願いします。
◇質疑応答より

    Q:保育園で栄養士をしています。きゅうりを切ったときに、スが入っていたり、水分が抜けたような白いものをときどき見かけるのですが、どうして起こるのか、食べても大丈夫なのかについて、教えてください。
    A:食べても大丈夫ですが、あまりおいしくはないと思います。生育中の過乾燥や収穫後、市場を経由し、みなさまのところには通常3〜4日目に届きます。その範囲であれば大丈夫だと思いますが、それより日が経ってしまうと起きやすい。また、果実温度の高さも考えられます。保管場所の問題や、収穫後に炎天下に置いたなど…。食育という点からすると、お子さんに食べさせるのはおすすめしません。そういうきゅうりがあったということは業者の方に伝えたほうがいいと思います。

    Q:海外採種だと思うのですが、どこで採取しているのですか?
    A:現在は、インド、タイ、中国で採種しています。

    Q:近在ものと比べると、東北ものは若干寸詰まりなのはどうしてですか?
    A:今年の特徴ですが、東北地方は5月下旬から6月にかけて低温の影響を受けたために、肥大がゆっくりになってしまったことが考えられます。

    Q:栽培面積は?
    A:面積は年々減少しており、前年比96〜98%という流れがずっと続いています。

 

【八百屋塾2022 第3回】 挨拶講演「きゅうりの進化」勉強品目「きゅうり・小玉すいか」食べくらべ