■2022年8月21日 第5回 かぼちゃ 〜 講演「かぼちゃを食べよう」 ヴィルモランみかど(株) 国内営業本部 開発普及部 宮脇浩治氏
◇はじめに
  • 「ヴィルモランみかど株式会社」は、旧「みかど協和株式会社」です。世界共通の名前で種苗メーカーとして認知していただくため、2022年1月1日より社名が変わりました。

  • 本日は、かぼちゃの起源・由来、国内の生産状況、産地別の出荷時期、輸入・輸出、消費動向などについてお話します。
ヴィルモランみかど(株)
国内営業本部 開発普及部
宮脇浩治氏
◇かぼちゃは、いつから?
  • かぼちゃの原産地は、北米から南米までのアメリカ大陸です。

  • 南米ペルーの遺跡で発見されており、紀元前4,000年頃から栽培されていたと考えられています。食べ物というよりは、保存容器など、器として使われていたのではないかという説があります。

  • 日本への伝来は16世紀頃、ポルトガル船により長崎県に入ってきたとされています。長崎ではこの頃から栽培されていたという記録もあります。

  • 栽培が広まったのは18世紀以降、日本では江戸時代です。

  • 寄港地のカンボジアからもたらされたため 「かぼちゃ」という名前になりました。また、同じく当時の寄港地であった南京のかぼちゃも日本へ入ってきたので、「南京」とも呼ばれています。ほかに、「唐茄子」という呼び名もあります。

  • 当時、日本に入ってきたかぼちゃは日本かぼちゃで、西洋かぼちゃではありません。
◇日本国内の生産状況
  • 農林水産省の統計によると、昨今のピークは2009年で作付面積は18,200ヘクタールでした。2020年には14,800ヘクタールと、3,400ヘクタールほど減少しています。要因は、重労働、高齢化、機械化が進まないことなど。東京ドーム1個が約4.7ヘクタールなので、ここ10年で東京ドーム470個分が減少したことになります。このままだと、国産が手に入りにくくなることも考え、面積が減っても出回る量が減らないといったことも含めて品種改良を進めています。

  • 都道府県別作付割合を見ると、47%と大半が北海道で、過去20年間変わらない比率です。北海道が7,000ヘクタール、次いで、鹿児島800ヘクタール、長野600ヘクタール。各地域でかぼちゃを作っていただくことで国内に出回る量が減らないように、日々開発に取り組んでいます。

  • 市町村別の作付は、1位から20位までのうち、19が北海道です。唯一、13番目に、神奈川県三浦市が入っています。北海道が多い理由は、広いだけではなく、西洋かぼちゃが北海道開拓の時期から導入されたためです。江戸末期から北海道の食を支えていた食べもの、といわれています。
◇かぼちゃの作付動向
  • 主産地の時期別出荷量を示したalicの資料によると、南からスタートし、沖縄県が2〜4月。それから北上し、北海道が7〜12月。実際には12月まではむずかしく、10月くらいで終了します。

  • 主要産地の出荷量の推移も、面積が大きい北海道が圧倒的に多く、その他、鹿児島、茨城、宮崎、長野などから多く出荷されています。

  • 主な品種は、「えびす」、「くり将軍」、「くりゆたか」、「味平」など。「えびす」は、北海道から沖縄まで広く作られているロングセラーで、どこで作ってもよく採れ、品質・味を含めて、安定感があります。「くりゆたか」、「味平」は弊社の品種です。粉質で食味がよいので、ぜひよろしくお願いします。

  • 東京都中央卸売市場の2018年のデータによると、月別の総取扱量は約2,000〜3,000トン。ちなみに横綱の照ノ富士関は体重180キロ。0.18トンですから、横綱1万6000人分です。

  • 国産と輸入品は時期が分かれ、国産は7〜11月、12月〜翌6月までは輸入に頼っています。輸入があるので安定供給されている、といえると思います。

  • 生鮮かぼちゃは、ニュージーランド、メキシコからの輸入が多く、一部は韓国、ニューカレドニアからも入ります。ニュージーランドとメキシコでは日本向けの生産も多く、同じような品種を栽培しています。

  • 冷凍のかぼちゃは中国産が多かったのですが2011年〜19年にかけて激減しました。

  • 量は少ないのですが、日本産かぼちゃは、香港、シンガポール、マレーシアなどに輸出されています。

  • 1人あたりの年間購入量は、2013年頃から下がっており、2018年は1人あたり年間1.2キロ。かぼちゃは1玉が約2キロですから、年間で1玉も買っていないことになります。調理済商品の普及、外食産業の浸透により、家で料理をしなくなったことも要因でしょう。また、重いので、車でないと1玉買いにくいのかもしれません。これからはやや小さいものが必要ではないか、と考えています。
◇かぼちゃの分類
  • 日本でよく食べられているかぼちゃは、西洋かぼちゃ、ペポかぼちゃ、日本かぼちゃの3種類です。

  • ペポかぼちゃで代表的なのはズッキーニ。「そうめんかぼちゃ」もペポかぼちゃの一種です。

  • 学名は西洋かぼちゃが「Cucurbita maxima」、ペポかぼちゃが「Cucurbita pepo」、日本かぼちゃが「Cucurbita moschata」。植物学上は別物です。

  • パンプキン、スクワッシュと呼ばれますが、皮がオレンジ色のものだけがパンプキンと呼ばれています。

  • 世界ではさまざまな種類のかぼちゃが食べられています。私たちの感覚からは「ベチャベチャ」のかぼちゃもありますが、食糧事情や食の好みが違います。日本は、くり系、粉質系へのこだわりが強く、黒皮の西洋かぼちゃに特化して消費されています。

  • 最近は、インターネットの普及などにより、在来のかぼちゃが見直されています。

  • 日本かぼちゃは北アメリカ発祥で暖かい環境を好み、西洋かぼちゃは南アメリカ発祥で暖かすぎるのは苦手なので北海道の環境が合っています。どちらも食料として、時代の空腹を満たしてくれた野菜です。冬至にかぼちゃを食べるという風習も、寒くなると風邪をひきやすいので、ビタミンやカロリーの補給という意味合いがあるでしょう。かぼちゃは緑黄色野菜の代表格で、栄養価が高い野菜です。みなさんに「もっとかぼちゃを食べよう」と思っていただきたいと思っています。

  • 日本かぼちゃは粘質系で、和食に合います。甘みは少なく、シンプルな味なので、煮物に最適です。煮崩れしないのも特徴です。代表的な産地は京都、石川、宮崎、熊本、鹿児島など。ご当地特産として扱われることが多く、意外と手に入れにくいと思います。また、中には粉質よりのものもあります。

  • 西洋かぼちゃは、一般的に食べられているかぼちゃで、食味は粉質(くり系)と粘質に大別されます。黒皮、白皮、赤皮があり、黒皮の代表的な品種は「えびす」、「みやこ」。白皮は、「雪化粧」、「銀世界」など、皮がかためで、貯蔵向けです。赤皮は中国がメインで、ハロウィン需要もあります。現在はSDGsの観点から、飾るだけではなく、見て楽しい、食べておいしいかぼちゃを開発しています。
  • ペポかぼちゃの代表はズッキーニ。「そうめんかぼちゃ」、「ハロウィンかぼちゃ」などもこの仲間です。お菓子屋さんで使っているかぼちゃの種は、ペポかぼちゃの種が多いと思います。

  • 「ダークホース」、「みやこ」、「くり将軍」は粉質系。「ホッコリウララ」は、採ったばかりのときは粘質で、貯蔵しておくと粉質になります。粉質のものはほとんどが「くり系」と呼ばれています。

  • 一般的なかぼちゃのイメージは、長く食べられてきた「えびす」だと思いますが、かぼちゃは作る場所の天候や土質などにより味が変わります。同じ「くりゆかた」でも、地域によって味が違う、と感じることがあるかもしれません。それを楽しんでいただくのも面白いのではないかと思います。

  • 粘質と粉質の定義は特にありません。粘質は食べると「しっとり」、「ベチャベチャ」など水分を感じる食味で、粉質はホクホク感のあるくりのような食味を指します。粉質はでんぷんと糖がもとで、糖は最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、長期保存すると粘質に変化します。食べてみて甘みが足りなければ少しおいておくと、毎日少しずつ味が変化します。そういう楽しみ方もあります。
◇かぼちゃの栄養
  • 西洋かぼちゃの栄養価で注目すべきなのは、エネルギー、炭水化物、ビタミンA、E、C、カリウムなど。戦後の食糧難の時期や北海道の開拓の時代にかぼちゃを食べたのは、エネルギーが多く、食べると元気になるから。炭水化物も多く、お米の代わりにもなりました。

  • かぼちゃの力は、「免疫力UP」、「肌にGood」、「老化防止」、「むくみ防止」、「便秘の予防や解消」の5つ。免疫力やお肌にいいのは、ビタミン類が豊富なため。抗酸化ビタミンが多いので老化防止にも繋がります。むくみ防止はカリウム、便秘予防は豊富な食物繊維が活躍してくれるためです。

  • 食べるといいことが多い野菜ですから、「1玉」というよりは「1切れ」食べていただくと、健康増進、お肌、腸内環境、ダイエットなどにいいと思います。皮はかたいので食べない方も多いのですが、皮と実の間に栄養が多いので果肉といっしょに調理するのがおすすめです。

  • かぼちゃ料理は、煮る、炊く、天ぷらが一般的ですが、インターネットには、おしゃれな料理やお菓子のレシピが紹介されています。最近はパウダーやペーストにして使っていただくことも多くなりました。
◇おいしいかぼちゃの見分け方と保存方法
  • 「果肉色が濃いものがよい」とよくいわれますが、品種によって果皮や果肉の色が違うので、種を見てください。種がしっかりと形成されているものは熟成されているので、味が濃くて甘いです。

  • 果皮のグランドマークは、黄色ではなく、オレンジカラーのものを選ぶと、非常においしいと思います。

  • かぼちゃの「風乾」は、収穫後に乾かす作業です。ヘタがコルク状になるまで乾かすことで、果実内の水分が抜けて皮がかたくなり、品質を保ったまま輸送、店持ちするかぼちゃになります。この作業をキュアリングともいいます。キュアリングが甘いと皮がやわらかいままなので、輸送や品質保持の観点から、きちんとキュアリングすることが大切です。皮がかたいことでかぼちゃを避ける方もいると思いますが、皮がかたいのはあたりまえのこと、と思っていただけるとありがたいです。

  • こだわりのある産地のかぼちゃを選ぶことも重要です。熟成、食味重視など、何にこだわっているかがしっかり記載されている産地のかぼちゃや、光センサーを用いて選果されたものは、非常に食味が良好です。生産側からも、こうしたことを発信していく必要があると思っています。

  • かぼちゃは5℃くらいの低温で保管すると外皮に傷みが発生します。また、30〜40℃の高温保管では糖が分解され、水っぽくなります。1玉を購入したら、10℃前後で保管すると最も変化が少ないとされています。ご家庭やお店の場合、8〜12℃の間が一番長持ちします。カットしたものは冷蔵庫に入れ、乾燥するのでできるだけ早く消費してください。
◇おわりに
  • かぼちゃの品種開発はどんどん進んでいます。今よりも「見た目がよくて、おいしくて、たくさん採れるかぼちゃ」はなかなかむずかしいのですが、一歩ずつ開発を進めていきたいと考えています。

  • かぼちゃには広く知られている品種もあれば、そうでない品種もあります。産地によって味や取り組みが違うので、ぜひいろいろと食べくらべをしてみてください。みなさんの健康増進につながれば嬉しいですし、自分なりのかぼちゃの楽しみ方を発見していただきたいと思っています。

  • 本日の資料の最後に、弊社の品種が「味早太」→「味平」→「味平DX」→「味皇」→「くりゆたか」→「くりゆたか7」→「蔵の匠」の順で並んでいます。これは、早いものから遅いものまで、このようなラインナップがあります、という意味です。なお、これらの品種は、すべてくり系です。

  • 弊社の「坊ちゃん」は、手のひらに乗るミニサイズで、非常に食味がいい品種です。味のぶれが少ない。収穫時期が早くても遅くても一定のおいしさをキープできます。ポケットに入るくらいの大きさなので持ち帰りやすいですし、電子レンジに少しかけると切りやすい。ぜひ一度、食べてみてください。
◇質疑応答より

    Q:早生でもホクホクにはできるのでしょうか?
    A:早生の「味早太」の場合、もともとホクホクの品種なので、逆に水っぽく作るのはむずかしい。これを食べて水っぽいと感じるとしたら、若すぎるかピークを過ぎているかです。種や果肉色を見て選んでいただくといいと思います。

    Q:肥料をたくさん与えればおいしいかぼちゃができるのですか?
    A:かぼちゃに限らず、窒素がうまみに変換されるので、窒素がないとおいしくなりません。早く作りたい場合、寒いと肥料を多く入れますが、その時だけでなく、ずっと肥料を効かせ続ける必要があります。たとえば、人間は今日白米を5合食べたから後1週間は何も食べないでいい、というわけにはいきません。植物も同じです。たくさん、というよりは一定量を与え続けること。化成肥料よりたい肥のほうが効果が切れにくいので、うまく化成肥料と有機肥料を使いわけると、おいしいかぼちゃが作れると思います。

    Q:畑にある間は完熟しても皮はやわらかいままで、風乾してはじめてかたくなるのですか?
    A:風乾前は、触るとへこむほどではありませんが、ナイーブで傷つきやすい。中の水分を抜かないとかたくなりません。産地では、雨の後に採ってはいけない、とお伝えしています。おいしくない上に、腐ったり、カビてしまうことがあります。2〜3日晴れた日をはさんでから収穫していただくようにお願いしています。

    Q:大きいものと小さいもので味の違いはありますか?
    A:1人の生産者の方が作ったものが全部小さいのであれば、味は変わらないと思います。ただ、うらなりといって、最後のほうに採れた小さいかぼちゃが入っていたら、あまりおいしくないと思います。選果するときも、うらなりは全部寄り分けています。

    Q:外見はなんともないのに中が傷んでいるかぼちゃがあったのですが、どうしてですか?
    A:病害虫が発生していたことが考えられます。かぼちゃは防除しないでもいいという考えもあるようですが、気候が変わってきているので、できるだけ防除したほうがいいと指導しています。もし、そうしたものがお手元に届いたら、写真を撮って産地に情報を返していただくと、やり方を変えるようになると思います。

    Q:「おいしいかぼちゃの見分け方」のお話の時に出てきたグランドマークは自然とできるものなのですか?
    A:グランドマークは土に接している部分にできますが、小売りからないほうがいいといわれることもあり、沖縄、鹿児島、熊本などでは、グランドマークをつけないように栽培しています。先ほどの「見分け方」の話は、グランドマークがあるからおいしい、ということではなく、マークがある場合、色が濃いほうが熟成されているのでおいしい、というひとつの目安です。おいしさの判断はなかなかむずかしく、一般的に「外皮の色が濃いものがいい」とされているので、最近の品種改良は色を濃くする傾向がありますが、「えびす」や弊社の「味早太」などは、もともと色が薄めの品種です。私たちはかぼちゃもトマトのように品種名で販売をお願いしたいと思っています。八百屋さんには、ぜひ、外皮の色が濃い薄いよりも、「この品種はこの色」と品種ごとの特徴や味を知って、お客さまにおすすめしていただきたいと思います。

    Q:異常気象で、病害虫など新しい問題が出てきているとのことですが、今後、そうしたものに強い品種は出てくるのでしょうか?
    A:環境変化に強い品種を作っていこうというコンセプトは各メーカーが持っていると思います。それは日本だけではなく世界的な問題で、どの国で作っても一定量いいものが採れる、そうしたものが必要とされているので、われわれメーカーとしてはがんばって開発しているところです。

 

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