■2022年9月11日 第6回 たまねぎ 〜 勉強品目「たまねぎ」 東京青果(株) 野菜第3部 マネージャー 鈴木剛氏、伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏

◇「たまねぎ」について

 [東京青果(株) 野菜第3事業部 マネージャー 鈴木剛氏より]

  • 本日は、きたみらい、岩見沢、富良野産をご用意しました。この3地区で全道の95%近くを生産しています。北見地区が約60%弱、旭川地区20%前後、岩見沢地区15%前後です。

  • 北見地区は「バレットベア」、あとの2つは「オホーツク222」という品種が中心です。年明け以降は「オホーツク2000」という品種が中心になり、これはほとんどの農協が変わらないと思います。

  • 本年度は、7月の降水量が若干多かったこともあり、8月上旬から入荷してきたたまねぎは、やや傷みが目立ったかもしれません。お盆明け以降の天候がよくなったこと、風乾がしっかり行われたことなどから、9月以降は品質がよくなり、今後は例年通りのいいものが出てくると予想しています。

  • 本年は、生産量は安定していますが、流通が厳しくなっています。北海道からJRコンテナやトレーラーで本州、四国、九州など全国の卸売市場に配送されるのですが、流通業界の人手不足の影響を感じています。市場が特に気をつけているのは年末年始です。12/25くらいから、北海道からの入荷はほぼなくなるので、12月中に1月中旬くらいまでの量を出荷していただき、市場で保管しています。直近では、9月のシルバーウイークがありますが、祝日は配送しない運送屋さんもあるため、その部分の入荷をしっかりと確保するのが市場の役割だと考えています。

  • 2022年は、北海道産のたまねぎ不足。中国のロックダウンの影響や、オーストラリアやニュージーランドからの不安定な船舶輸送などから、50%以上を占めている加工向けが足りず、たまねぎはかつてないほど高騰しました。今後は北海道産が安定しているので、極端な高値、安値もなく、安定した相場で続くのではないか、と予想しています。

  • 北海道産のたまねぎは府県産に比べると歩留まりもよく安定しているので、八百屋さんにも安心して売っていただけるのではないか、と思います。

  • 今年はL大中心で、L小がやや少ないかもしれません。岩見沢はL小が多いので、サイズによって産地を使い分けていただくのもいいのではないでしょうか。

  • 今年、早出しのたまねぎに腐れが多かった、というご意見もありました。府県産の切り上りが早い中、北海道で雨が多かったにもかかわらず、市場からの要請により、無理に収穫して出荷していただいたこともあったかと思います。それがなければ、たまねぎの流通量が不足し価格高騰の可能性もありましたので、生産者さんには感謝しています。早出しも、年を追うごとに品質は向上しています。今後、北海道産の早出したまねぎは、ますます重要になってくると思っています。
◇質疑応答より

    Q:北海道産の早出しから晩生までのスケジュールを教えてください。
    A:これまではお盆前から4月までが一般的でした。近年、府県産の減少で不足する時期が増えたため、8月頭から5月末くらいまでに延ばしてもらっています。流通していないのは6〜7月だと思います。

    Q:品種は途中で切り替わるのですか?
    A:切り替わります。最初は「SNシリーズ」や、「バレットベア」。そのあと、「オホーツク222」が中心、最後は「きたもみじ2000」。このあたりが主力品種です。

◇「たまねぎ」の写真
たまねぎ(きたみらい北海道)
たまねぎ(岩見沢北海道)
たまねぎ(富良野北海道)

◇「参考出品・伝統野菜のたまねぎ」について

 [伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より]

  • 参考出品のたまねぎについて。レッドオニオンは、北海道。紫たまねぎ、赤たまねぎとも呼ばれます。表皮が鮮やかな紅紫色をしていて、品種は、「アーリーレッド」や「湘南レッド」があります。生食用に開発されたものなので、辛みが少ないのが特徴です。

  • ペコロスも北海道です。小たまねぎとも呼ばれ、黄たまねぎを超密集栽培して小玉に育てたものと、もともと小さい品種のものがあります。愛知産はやや扁平なものが多く、北海道産は丸い。辛みは少なく、煮崩れしにくいので、まるごと1個で使うような料理に向いています。
伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
  • ペコロスよりもっと小さいのが、パールオニオンとルビーオニオン。アメリカ産です。小たまねぎの一種で、パールオニオンは辛味が強く、刻んで香りづけに使われます。ルビーオニオンはスライスしてサラダや、丸のままピクルスにしたりします。

  • ベルギーエシャロットはフランス産。フランス産ですが、日本に入ってきたときにベルギーの港から出荷されたため、この名前になったそうです。表面は乾燥した薄い皮に包まれており、その内側の鱗茎は表面が薄い紫色をしていて、中は白く、レッドオニオンとよく似ています。刻んで炒め、ソースや料理のコクを出すために利用されます。

  • むきたまねぎは、中国産。皮など余計なものは省いて、真空パックの状態で入ってきます。ほとんどが加工用として利用されています。

  • 淡路島は、たまねぎの一大産地として知られています。糖度が9度以上の「淡路島高糖度たまねぎ」は、ものすごく大きくて重たいので驚きました。

  • 続いて、伝統野菜・地方野菜のたまねぎについて。調べたところ、いわゆる固定種のたまねぎは、8種類ほどと、それほど数は多くありませんでした。

  • たまねぎの原産地は、天山山脈西側の中央アジアとされ、野生種は確認されていません。大変古い野菜で、栽培は紀元前から、といい、エジプトのピラミッドにも文字として記録が残っています。
  • 中央アジアから西へ、エジプト、ギリシャ、ヨーロッパと伝わり、16世紀頃にはヨーロッパ一帯で食べられるようになりました。やがて、中東欧では辛たまねぎ、南欧では甘たまねぎができました。その後アメリカに持ち込まれ、メキシコを中心に大産地になりました。

  • 原産地は中央アジアですから、中国を経て、もっと早い時期に日本に入ってもいいはずですが、中国ではたまねぎよりねぎのほうが好まれ、なかなか普及しなかったようです。19世紀頃、ヨーロッパから中国に種子が入り、大産地になっていきました。

  • 日本には南蛮貿易で入ってきましたが、強敵のねぎや洋風の食べ方が障壁となり、普及しませんでした。明治の文明開化で欧米から入ってきたたまねぎの種子から、札幌や大阪の泉南で栽培が始まり、今のたまねぎにつながっています。1870年代ですから、まだ150年ほど、と新しい野菜です。

  • 札幌に伝わったのは、春播きのたまねぎです。冬は畑が凍るので、秋に播くと年を越せません。札幌農学校のブルック博士が「イエローグローブダンバース」という品種を改良して「札幌黄」を作り、それが全道に広がりました。現在はほとんどがF1になってしまいましたが、細々と栽培が続いていて、「札幌黄」は、食の世界遺産の味の箱舟に登録されています。

  • 札幌は北緯43度、山口は北緯34度と、だいぶ違いますが、「札幌黄」を山口で栽培して1920年に「山口甲高たまねぎ」が生まれました。糖度が高くてやわらかく、煮物をはじめいろいろな料理に適しています。この「山口甲高たまねぎ」がF1開発の主力品種となったそうです。一時、途絶えていましたが、2005年くらいに種が発見され、栽培が復活しています。

  • 大阪の泉南地域に入ったものは、のちに、泉州の黄たまねぎになりました。坂口平三郎という方が神戸の洋食屋で食べて、たまねぎの栽培を始め、栽培法を確立。この地域は冬も栽培可能で、秋播き品種に改良するという功績を残しました。これがさまざまな品種に分化し、「泉州黄」の元になりました。その種と栽培技術を淡路島が導入、特に貯蔵性の高いものを選抜して育成し、地場産業へと発展していきます。ねぎがあっただけに、いかにたまねぎを食べてもらうか、苦労したそうです。大阪ではコレラに効くと言われたり、札幌では、日清・日露戦争があって兵站に用いられたりして徐々に需要が高まり、戦後、洋食の広まりもあって、たまねぎは重要野菜として発展していきました。

  • 愛知県の知多半島も古くからのたまねぎの産地として知られています。1950年に選抜されたものが「知多一号」、「知多二号」、「知多三号」と改良され、今は「知多三号」が残っています。

  • 福島県の会津地域でも、泉州のたまねぎを改良して作っています。

  • ここまでにお話したたまねぎは、すべて、各地の伝統野菜として認定されています。

  • 愛知の「白早生たまねぎ」は、明治初期にフランスから入り、改良されて、極早生品種として定着し、「愛知白」と呼ばれています。扁平でお尻がくぼんでいるのが特徴で、食味はやわらかくて水分が多く、辛みはあまりないのでサラダ向きです。早春に出る新たまねぎとして今も栽培されています。

  • 「湘南レッド」は、欧米の食習慣が普及し始めた戦後に作られたものです。神奈川県の農業試験場の方が生食用としてアメリカから導入して改良し、1961年に「湘南レッド」と命名されました。神奈川ブランド野菜です。紫紅色で、輪切りにすると赤い同心円が現れて、辛みと刺激臭は少なく、甘みに富むたまねぎです。甘たまねぎの系統です。
◇質疑応答より

    Q:そもそも伝統野菜の定義とは?
    A:日本原産であるとか、時期(古くから日本にあるもの)ということではなく、認定する自治体や組織などにより、定義は違います。共通している点は、F1種ではなく固定種・在来種で、その土地の食文化と結びついていることです。

    Q:愛知の「白早生たまねぎ」のお話がありましたが、早生のたまねぎも保存しておくと新たまねぎではなくふつうのたまねぎになるのですか?
    A:早生のたまねぎは貯蔵性があまりよくないので、おいしいうちに早く食べてほしい、と聞きました。

◇「参考出品のたまねぎ」の写真
レッドオニオン
(北海道)
ペコロス2s
(北海道)
ペコロスm
(北海道)
パールオニオン
(米国)
ルビーオニオン
(米国)
ベルギーエシャロット
(フランス)
むきたまねぎ
(中国)
プレミアムたまねぎ
(淡路)
 

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