■2017年6月11日 第3回 パプリカ・すもも 〜 講演「環境保全型農業の推進について」 農林水産省 生産局 農業環境対策課 課長補佐 古澤武志氏
◇はじめに
  • 私どもは、有機JAS、特別栽培農産物など、環境にやさしい農業を推進している部署です。

  • 昔は、有機栽培というと、なるべく農薬を使わないようにするので、雑草が繁茂して、害虫が増え、周辺の農地に悪影響を及ぼすとして嫌われていたこともあるのですが、1999年(平成11年)ぐらいから、農業も環境のことを考えていくべきだ、ということで、国としても環境保全型農業を推進することになりました。
農林水産省 生産局 農業環境対策課
課長補佐 古澤武志氏
◇オーガニック・エコ農産物
  • 有機JAS認証は、一般的に、有機栽培として国が認証している制度です。ほかに、有機JASは取っていないけれど、それに準じた栽培をしている、有機JAS以外の有機というものがあります。このほかに特別栽培農産物というものもあり、栽培方法が決められていて、パッケージや箱に表示ができます。

  • エコファーマーとは、土づくりに励んでおり、化学肥料及び化学合成農薬の使用低減技術の導入に一体的に取り組んでいる農業者を都道府県知事が認定する制度です。化学肥料や化学合成農薬の減少割合を示したものではなく、それらを低減する技術に取り組んでいると認められれば認定されます。

  • 有機JASと特別栽培農産物は農産物を認証する制度で、エコファーマーは農業者を認定する制度です。農水省は、これらを環境保全にやさしい農業として推進しています。

  • 日本型直接支払制度とは、農業の持つ多面的機能を発揮するための取り組みを地域ぐるみで行っているところに対してお金を支払い、支援するものです。そのひとつに環境保全型農業直接支払があります。地球温暖化防止に効果が高いことや、生物多様性保全、つまりたくさんの生き物をその地域で育んでいこうという取り組みがなされているところに、たとえば10アールあたり8000円などの支援をすることで、環境保全に資する農業生産をしていただく、という制度です。
◇有機農業について
  • 2006年(平成18年)に有機農業推進法ができ、国が本格的に有機農業を推進するようになりました。

  • 「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法、というのが法による定義です。

  • 2018年度(平成30年度)までに全耕地面積の1.0%を有機農業にするのが目標です。徐々に増えてはいますが、現状はまだ0.6%ほどです。

  • 有機JASと非JAS(有機JASに準じた有機栽培)では、非JASの面積のほうが大きい状況です。その理由として考えられるのは費用です。有機JAS認証は最初に10万円ほど、その後、毎年確認を行うので、そのたびに数万円かかります。農家には負担が大きく感じられ、有機JASに準じた栽培のほうが多いのではないかと推測されます。

  • 非JAS(有機JASに準じた有機栽培)とは具体的に何か、パルシステムの例をご紹介します。パルシステムでは、普通のものと、「エコ・チャレンジ」、「コア・フード」という3段階の独自の基準を設けています。このうちの「コア・フード」が有機JASに準じた有機栽培です。有機JASに準じているけれども、「有機栽培農産物」とは表示せず、オリジナルのブランド名で販売しているわけです。ほかにも、生協さんとか流通業者さんによって、いろいろな名前をつけて販売しています。
◇特別栽培農産物とは
  • ガイドラインでは、節減対象農薬という用語を使いますが、農薬の使用回数が、その地域で普通に栽培されているレベルの5割以下。また、化学肥料の窒素成分量も慣行レベルの5割以下で栽培されたものは、「特別栽培農産物」の表示ができます。

  • 一時期、「減農薬」、「無農薬栽培」など、いろいろな表示が氾濫していました。「減農薬」といっても1割なのか3割なのか不明で、非常に表示が混乱しました。それを踏まえて、減農薬レベルをガイドラインで定め、それ以外のものは特別栽培農産物とは言えなくなりました。

  • 「特別栽培農産物」という表示より、「○○県の安心農業認証制度で認証された農産物」といった表示のほうが多いと思います。それぞれの県で定められた、特別栽培農産物に準じる制度で認証されたもの、とご理解ください。

  • 植物の生育に一番必要なのは窒素で、与えるとよく生育します。ただし、与えすぎると、特に化学肥料の場合は、早く吸収され、過剰な分は硝酸態窒素に変わって地下に流れていきます。これをヒトが飲むと、血液中のヘモグロビンに作用して、酸素を脳などに運ぶのを阻害します。窒素過剰により乳児の成長が遅れることもわかり、窒素成分が制限されるようになりました。
◇有機JAS制度
  • 有機JAS制度とは、農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)に基づき、「有機JAS規格」に適合した生産が行われていることを第三者機関(登録認定機関)が検査し、認定を受けた事業者に「有機JASマーク」の使用を認める制度です。

  • 有機農産物の日本農林規格は、時代の変遷とともに何度か改正されています。第2条で、有機農産物は、「農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力、スプラウト類の生産にあっては種子に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること」とされています。

  • 「農薬の使用を避けることを基本」とあるように、農薬の使用を完全に否定するものではありません。農薬を使用したら有機JAS認証が受けられないか、というとそうではなく、避けることを基本とするのですが、一定の基準の下で使用することはできます。

  • 「土壌の性質に由来する農地の生産力」というのは、土を使わないといけない、ということです。水耕栽培の農産物は有機JASの対象にはなりません。

  • 使用禁止資材として、「肥料及び土壌改良資材(別表1に掲げるものを除く。)、農薬(別表2に掲げるものを除く。)並びに土壌、植物又はきのこ類に施されるその他の資材(天然物質又は化学的処理を行っていない天然物質に由来するものを除く。)をいう」と書かれています。認められているものは別表1、別表2にあり、別表1の肥料及び土壌改良資材は、天然物質に由来するものが多く、別表2の農薬の種類もかなりあります。

  • 有機JAS規格で認められたものでなければ、マークはつけられないし、「有機○○」とは表示できません。違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が課せられます。

  • インターネットなどには、「無農薬栽培」「有機栽培」といった文字が溢れています。パッケージ、箱などの包装容器に表示ができるのは有機JAS認証農産物に限られますが、自分の栽培が有機無農薬である、と言うのは、包装容器にかかるものではないため自由です。ただし、たとえばまったく有機栽培をしていないのにそう言ったりすると、景品表示法など違う法律で処罰の対象になる可能性があります。

  • 先進的に有機栽培に取り組んでいる農家の方は、無農薬栽培をしているケースが多く、中には、肥料もまったく使わない自然農法といわれる方法で取り組んでいる方も多数います。有機JASは農薬を使っている、というわけではなく、制度として、一部使用を認めている、ということです。誤解のないようにしてください。
◇2020年オリパラ東京大会における持続可能性に配慮した農産物の調達基準
  • 2020年の東京オリンピック、パラリンピックでは、環境に配慮した農産物の調達基準が決められています。食材の安全を確保する、周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動を確保する、作業者の労働安全を確保するという3つの目的のため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていることが必要です。これらの要件を満たさないと、オリンピック選手村の食堂などに食材を提供することはできません。

  • これを満たすことを示す方法の一例が、「JGAP Advance」、「GLOBAL G.A.P.」です。「GAP」とは、「農業生産工程管理」という意味で、農業者がどういう生産をして、それを次の生産に役立てているか、きちんと記録しているかどうか、ということです。

  • 要件を満たした上で推奨される事項のひとつが「有機農業により生産された農産物」で、GAPを満たした上で、こういうものを調達してください、という推奨基準になっています。

  • 有機JASを取っていても、GAPを取っていないと、オリンピック選手村に食材を提供することはできません。GAPと有機農業の認証の仕方は、似ている部分と違う部分があります。できれば効率的に取れないか、と国でも検討を始めているのですが、有機農業は、作業者の労働安全や食品衛生といった観点が落ちているので、GAPの認証が必要になります。

  • GAPが必要になってきた背景には食のグローバル化があります。調達するサプライヤーは、労働者に過重労働を課していないか、食品衛生の面も踏まえた農業生産をしているか、といったことをGAPの中で証明しなければならなくなりました。

  • 農業者の方向けに、GAPを取りやすくするために作ったパンフレットがあります。いつ農薬を使ったか、いつタネを蒔いたかというようなことをより詳しく記帳し、もう一歩踏み込んだ対策をしてください、ということです。食品安全については、包装資材に農薬がかかったりしないように、包装資材や出荷場所の近くに農薬が置いていないことを確認するとか、環境保全に関しては、使った農薬の容器を分別するとか、捨てる容器は処分するとか、労働安全は、危ないところがあれば回りの人にもわかりやすいように示しましょうとか、農作業の前に機械に不都合がないかどうかの点検、整備をしましょう、といったこと。人権保護というのは、今、外国人の技能実習生がたくさん農業の現場に入っていますが、その実習生たちに過重な労働をさせていないか、点検しましょう、といったことなど。みなさんが日頃やっている農業生産の現場でのことをきちんと記帳するのがGAPです。特別むずかしいことではありません。しっかり取り組みをしています、ということを証明できるようにGAPを取らないと、オリンピックの食材としては提供できない、というのが世の中の流れになっています。

  • GAP認証取得にはコストがかかるのが一番の問題です。個人ではなく、農協などの生産部会で団体認証を取ることもできますし、普及指導員や営農指導員にGAPの認証取得指導員の資格を取ってもらって、できるだけ安い価格でGAPの認証を取れるようにする、という方法もあると思います。

  • ロンドンやリオのオリンピックで、有機農産物は推奨基準になりましたが、実際の提供量はわかりませんでした。東京オリンピックのときはできるだけ有機農産物を供給したいのですが、予算もありますし、オリンピックで食堂を運営する会社がどれだけ調達できるかにかかってきます。われわれとしても日本のおいしい有機農産物を少しでも供給できるよう、がんばりたいと思っています。
◇質疑応答より

    Q:GAP認証は一般の小売屋さんが取得しなければいけないものではないのですよね?
    A:はい、生産者が取るものです。ただ、東京オリンピックに向けて国が推進しようとしているので、できればGAP認証されているものを扱っていただけるとありがたいと思います。

    Q:私個人としては、簡単に「有機」とか言わないほうがいいと思っていて、もっと表示規制をすべきではないかと思うのですが、そのあたりはどうお考えですか?
    A:規制するのもひとつの手かもしれませんが、消費者が納得して買っているという現状もあるかと思います。また、すべて有機JAS認証が必要となると、農家の方の負担になります。世界的な流れとしては、アフリカ、アジアなどで、認証制度ではなく、参加型有機農業が増えています。消費者が参加して、その生産を認める、というものです。慣行農業なのに有機、というのは問題ですが、有機JASに準じた栽培をされている方はすべて有機JAS認証が必要となると、混乱が生じるかもしれません。

    Q:政府が推奨するのであれば、畑だけではなく、生産から流通まですべてがかかわってくることなので、農水省だけではむずかしいと思うのですが?
    A:確かに、環境に関しては全体で取り組んでいかないといけないと思います。個人的には、子どもの頃からきちんと環境に対する取り組みを教育する必要がある、と考えています。今、学校でもいろいろな農業体験を行っていますが、その中で環境にやさしい農業を実践していけるといい。たとえば、千葉県のいすみ市では、今年から、給食のお米を全量、いすみ市でとれた有機栽培米にしています。こうした取り組みが少しでも増えていってほしい、と思っています。

    Q:うちの店では特別栽培以上のものを扱っています。有機でも一定の基準で農薬の使用が認められている、ということですが、お客さまから「一定の基準って何?」と聞かれたらどう説明すればいいのでしょうか?
    A:そのままでは甚大な被害が出そうなときに限り、別表2にある農薬は使ってもいい、ということです。

    Q:有機JASで「転換期間中」と書いてあるのはなんですか?
    A:JASに取り組むために転換中です、ということです。有機JASの場合は、最低2年(永年生作物の一部は3年)、使用禁止資材を使ってははいけない、とされています。有機農産物の表示基準、第5条に、申請して転換期間中の場合は、その旨を記載しなければならない、と規定しています。

    Q:有機JAS、特別栽培以外のものの場合、八百屋は商品に無農薬、減農薬といった表示をしてはいけないのですか?
    A:認証を受けていないものは、パッケージや箱に「有機JAS」などとつけることはできませんが、八百屋さんが「この農家さんは無農薬で栽培していますよ」と話すのは構いません。有機農産物が箱に入っていて、それをバラして袋に小分けして販売するときは、有機の小分け業者の認定が必要となります。ただ、八百屋さんが小分けして販売するとき、空箱の有機JASマークを切り取って小分けした農産物の近くに掲示した上で、POPに「有機の○○です」と書くなど、正確な情報を提供するのは問題ありません。

    Q:オーガニックの基準は?
    A:「オーガニック=有機」と考えてください。ただ、ややこしいですが、「オーガニック=有機JAS」ではない、とご理解ください。

    Q:かなりややこしくて、消費者の立場からすると、「じゃあ、いったい何を選べばいいの」という思いがあるのですが?
    A:何を基準にするかは人それぞれですし、なかなかむずかしいと思います。日本では、有機は安心・安全のイメージですが、諸外国では環境保全の観点から増えてきました。農林水産省は農薬も所管していますし、農薬を使うから安全ではない、とは言えません。農薬に対して拒否感がある方は、できるだけ有機や特別栽培のものを選ぶといいと思います。

    Q:私は自然栽培をしている方を応援したいのですが、あまり増えないのはなぜ?
    A:自然栽培は技術が難しいのが理由のひとつだと思います。国としてては、科学的に本当に効果があるのかどうかがわからないので、推奨しにくいのですが、自然栽培を否定するわけではなく、そういった方は非JASのほうでがんばっていらっしゃると思います。

    Q:日本の農薬の使用量は、中国、アメリカに次いで世界で3位だと聞きました。ということは、国土の面積からすると世界一なのでしょうか?
    A:数字だけをみるとそうかもしれませんが、ヨーロッパなど、気候が涼しくて湿度がない地域に比べて、日本は高温多湿で病害虫が発生しやすい。有機の方は農薬を使用しませんが、一般的には農薬を使って対処しています。

    Q:オリンピック・パラリンピックの食材の調達基準のお話がありましたが、供給先というのはどこになるのでしょうか?
    A:オリンピックの選手村や、関係者が集まるVIP用食堂などです。

    Q:オリンピック・パラリンピックの食材の供給先というのはごく狭い範囲で、それだけのために農家さんがGAPを取る必要はないのでは?
    A:考え方次第です。先日、イオンさんが、有機や、GAP認証を取っているものの割合を増やす、と発表しました。そこに食い込みたいとか、海外輸出を考えている場合は、GAPを取っていることが求められます。そうした経営戦略を持っていないのであれば、無理に取る必要はありません。

    Q:特に高齢者や小さな農家さんには、GAP認証はきついと思うのですが、それがないとオリンピックの関係のところには納品できないのですよね?
    A:納品というより、調達する業者さんの対象にならないはずです。消費者からすると、農家が農薬をどこに置いているか、とかいうことも気になりませんか? それをきちんと証明するものがGAPだと考えれば、差別化のひとつとして活用できるのではないでしょうか。

    Q:有機JASの別表1、肥料及び土壌改良資材は天然物質に由来するものが多いとのことでしたが、そんなにたくさん天然物質に由来するものがあるのですか?
    A:さまざまな岩石、蛎殻なども天然物質ですから、種類はかなりたくさんあります。

    Q:日本は国土も狭く、農薬などの飛散もあると思います。JAS規格を取っている農産物について、お客さまに「本当に間違いない?」と聞かれたとき、どう説明すればいいでしょうか?
    A:有機JAS認証を取っている圃場は、毎年検査しています。また、独立行政法人が流通しているものを買い上げて検査し、有機JASに反しているものがあれば立ち入り検査をすることになっています。また、登録されていないのに表示している場合などは、表示110番制度といって、一般の方にパトロールしてもらう制度があり、そうした情報にもとづいて調査に入ります。有機JAS制度は、そういったことで信頼性を確保しています。

有機JAS認証野菜
群馬の無農薬野菜
埼玉の無農薬野菜
 

【八百屋塾2017 第3回】 挨拶講演「環境保全型農業の推進について」勉強品目食べくらべ