■2017年8月20日 第5回 トロピカルフルーツ 〜 講演「真夏の果実」
 (株)新宿高野 フーズ営業部 販売企画特命業務担当ディレクター 蚊爪(かづめ)喜三男氏
 (株)新宿高野 フーズ営業部 販売企画課 広報マーケティング担当 フルーツコーディネーター マネージャー 久保直子氏
◇新宿高野について
  • 新宿高野は、新宿駅が開業したのと同じ年、明治18年(1885年)の創業で、今年で132年になります。初代高野吉太郎が現在の新宿駅ビルあたりに、店をオープンしました。当時は街の端だったのですが、吉太郎はこれからは鉄道の時代、と駅前に開業しました。駅前商売の先駆けだったわけです。

  • かつてはどこの駅前にも果物屋と八百屋がありました。量販店、駅ビルなどが増え、減少の一途を辿っていますが、新宿高野は駅前で商いを始めたことが今も基本ですし、新宿の町を愛する強い思いを持って商売をしています。
(株)新宿高野 フーズ営業部
販売企画特命業務担当ディレクター
蚊爪喜三男氏
  • 日本の果物の歴史は新宿からスタートしました。新宿御苑の温室で、福羽逸人博士が、ふじりんご、福羽いちご、マスカット・オブ・アレキサンドリアなどの栽培に成功しました。福羽博士がマスクメロンの栽培に成功した明治18年(1885年)は、新宿高野が創業した年でもあります。

  • 早稲田の大隈重信公爵は、果樹園芸の大家としても知られていました。自宅敷地内に大きな3つの温室を持ち、蘭やマスクメロンを育成。マスクメロン栽培に成功し、お披露目会をしたのが大正9年(1920年)7月4日のことです。品評会をしたところ、「早稲田」と名づけられたメロンは非常に好評で、天皇にも寄贈されました。新宿高野でも扱うことになり、専用ショップを設けたほどです。

  • 関東大震災、終戦を経て、新宿が様変わりしても、ありがたいことに新宿高野は街とともに発展することができました。132年もの間商いができているのは、商品を提供してくださっている産地生産者の方や市場関係者の方、支えてくれるお客さまのおかげです。今、私どもは、お客さまのご要望にお応えするため、のちほどご紹介するフルーツに関する「コトの発信」にも努めています。
◇トロピカルフルーツの現状と販促ポイント
  • 新宿高野調べによるトロピカルフルーツ人気ベスト10を下から順にご紹介すると、10位 ドリアン、9位 スターフルーツ、8位 パッションフルーツ、7位 ドラゴンフルーツ、6位 パパイヤ、5位 アボカド、4位 キウイフルーツ、3位 パイナップル、2位 バナナ、1位 マンゴーです。

  • 10位 ドリアン
    果皮にトゲのある、個性豊かな果物。果物の王様、魔王などとも呼ばれています。果肉はクリーミーでカスタードクリームのようですが、非常に香りが強いのが特徴で、タイなどでては飛行機やホテルへの持ち込みが禁止されています。チップやドライフルーツといった関連商品としても楽しまれています。希少性が高いこともあって10位にランクインしました。

  • 9位 スターフルーツ
    香りや味というより、果形が特徴的な果物です。最近は国産のスターフルーツもあります。

  • 8位 パッションフルーツ
    昔は輸入物が主でしたが、今は沖縄や九州を中心に国産も出回るようになりました。近年、国産の栽培技術が上がり、香りがよく果肉がたっぷり入った良質なパッションフルーツが出てきています。生果でもおいしいのですが、香りを楽しむものとしてドリンクやソースなどに加工されることが多く、年々需要が増えています。これから有望な果物のひとつではないでしょうか。

  • 7位 ドラゴンフルーツ
    昔あったカクタスペアという果物の仲間で、サボテンの実です。果肉は赤と白があり、小さな黒いタネがたくさん入っています。国産が出て味がよくなり、需要も増えており、今後が期待できます。

  • 6位 パパイヤ
    トロピカルフルーツの中では、いち早く輸入された果物です。食味がよく、ハワイ産を中心に珍重されてきました。近年、宮崎など国産品の味もだいぶよくなっています。国産のパパイヤは赤肉が中心です。歴史が古いわりに上位にランクされないのは、食べ方にあまり広がりがないのが一因かもしれません。

  • 5位 アボカド
    馴染むまでに時間はかかりましたが、ここまで浸透するようになったのは、料理に使えて楽しみ方の幅が広いことや、健康面のPRが功を奏したのだと思います。近年伸びている商品のひとつです。

  • 4位 キウイフルーツ
    ごく普通にスーパーで山積みされています。グリーン、ゴールドといった種類だけでなく、機能性、おしゃれな楽しみ方など、ゼスプリさんが盛んにCMしており、最近また注目されています。新宿高野でゼスプリさんとのコラボをしたとき、若い方の反応が高かったのが印象的でした。ちなみに9月1日はキウイの日です。

  • 3位 パイナップル
    かつては輸入品が主でしたが、沖縄を中心に国産が出てきて、再度注目を浴びています。少し前は、手でちぎって食べられるスナックパインが人気でした。最近出てきた「ゴールドバレル」は、味にこだわった素晴らしい品種です。パイナップルは食べ方が面倒なのが難点で、提供時によく説明すること、一手間かけることが大事です。

  • 2位 バナナ
    どこの家庭にもある果物で、食べやすさだけではなく、機能性も評価されています。品種がたくさんあり、スーパーでも3〜5種類は扱っています。安価な商品だったので、かつては新宿高野では扱っていなかったのですが、今は、プレミアムタイプのバナナをおいています。

  • 1位 マンゴー
    輸入品、国産品を含め、年間ほぼフルカバーできるぐらいにさまざまな商品があります。 昔はフィリピンマンゴーが安価でおいしいと評判でした。今は国産のアーウィン種が珍重されています。主な産地は、沖縄、鹿児島、宮崎など。宮崎はブランド化して、大きな支持を得ています。北海道で温泉の熱を使って栽培するマンゴーも食味がよく話題になりました。高野フルーツパーラーでは、マンゴーといちごを使ったメニューを年間を通してお出ししているぐらい根強い人気があります。

  • このほか、カクタスペア、ピタヤ、チャリモヤ、アテモヤ、ジャックフルーツ、マンゴスチン、キワノなど、多種多様なトロピカルフルーツが日本の市場に入っています。定着しないのは、提供の仕方がむずかしい、食味がよくない、値段のわりに楽しみの幅が少ないといった理由が考えられます。お客さまに馴染みのないものを広めるには、楽しみ方、知識、情報を提供することが必要です。

  • これまで「トロピカルフルーツ=夏果」というのが常識でしたが、今は年間果実へとシフトしてきています。産地の努力で年間供給の仕組みができてきたことや、お客さまの年間楽しみたいというご要望が定着したからだと思います。

  • 輸入アイテムから徐々に国産にシフトしてきているのも、トロピカルフルーツ市場での大きな変化です。産地・生産者の栽培技術が上がり、さまざまな条件をクリアし、手間暇かけて育てているので、高品質です。お客さまにとっては、「国産=安全・安心」というイメージがあります。また、海外より早く消費地に届けられるので、木成完熟で提供できるのも強みです。特に国産アーウィン種のマンゴーは、完熟のものしか店頭に並ばないので、おいしいのは当然です。

  • ただ単にモノを陳列して「これ、おいしいよ!」というだけでは売れない時代になっています。食べ方、楽しみ方、知識の発信が重要です。果物屋は基本的に駅前商売で、お客さまの相談にコンサルティングしてきました。そうした関係があったからこそ、日常の商品からギフトまで幅広く支持を得てきたわけです。細かい積み重ねですが、お客さまのご要望を聞いて対応することが大切です。

  • 昔は、トロピカルフルーツというと、すべてが「珍果」というくくりで、それゆえに注目を浴びることもあれば、イメージと違うと拒否されることもありました。その後、「非日常果」となり、今は「日常果」に近いものへとシフトしていますので、みなさんも自信を持って販売していただきたいと思います。
◇「モノ」ではなく「コト」を売る
  • かつて、みかんやりんごが飛ぶように売れた時代もありましたが、ここ数十年はなかなか購入に結びつきません。どうやったらもっと食べてもらえるか考えました。フルーツを店頭に並べておく「モノ」ではなく、「コト」を売るようにしています。

  • 「コト」とは何か。まず、果物の魅力をお客さまにわかりやすくお伝えするため、3年ほど前から、毎月、情報誌を発刊しています。産地情報を含め、旬のフルーツの魅力をご紹介します。3月号は、長崎県「ゆめのか」、山口県「ゆめほっぺ」、愛媛県「せとか」を特集しました。できる限り産地に行き、生産者の生の声を聞いて、魅力ある記事を掲載するよう心がけています。それとともに、新宿高野で、その果物のギフト、ケーキ、サラダ、パフェなどを商品化して、情報発信だけではなく、お客さまに実際に食べていただけるような工夫をしています。
(株)新宿高野 フーズ営業部
販売企画課 広報マーケティング担当
フルーツコーディネーター マネージャー
久保直子氏
  • トロピカルフルーツに関しては、「珍しい果物」というだけでは購入に結びつきません。どんな商品があって、どのように食べるか、具体的に紹介するようにしています。お客さまに、「輸入物のパッションフルーツは酸っぱくてタネがかたかったという印象」といわれたことがあります。今は国産が出回っており、沖縄や鹿児島のパッションフルーツの中には、とても味がよく、品質が高いものもあるので、情報誌で紹介しています。お客さまからの声で一番多いのは、「国産ですか?」というお問い合せで、その後に「どこの産地ですか?」と続きます。「国産=安全・安心」のイメージがありますから、国産志向の高まりには対応していかなければ、と考えています。

  • 新宿高野で20年前から始めている果物に関する各種カルチャー教室も「コト」の発信のひとつです。目的は、果物について知っていただくこと。野菜に比べて果物は嗜好性が高く、ギフトや特別なときに食べるもので、日頃からごく普通に楽しむ、というところまではいっていません。フルーツのことは知っているようで知らないお客さまが多い、と感じています。そこで、少人数で、直接、果物の魅力をお伝えしようと、フルーツ教室を開催しています。今、17の講座がありますが、一番人気があるのは、産地の教室です。毎月、旬のフルーツの産地から来てもらって、栽培方法、収穫のこだわりなどをうかがいます。その後、テーマのフルーツのサラダ、デザートなどをめしあがっていただきます。フルーツの魅力を聞くとともに、実際に食べて、食べ方を学ぶこともできます。

  • フルーツとチーズ、シャンパン、バラのエキス、お豆…など、さまざまな企業と新宿高野とのコラボ教室も人気があります。これらも、フルーツの楽しみ方をお知らせし、実際に食べて体験していただく教室です。その他、チョークアートでフルーツを楽しむ教室、折り紙でフルーツを作る教室などもあります。

  • 新宿高野の専門講師が果物のカッティングの仕方を教えるフルーツカット教室には初級と上級があり、月に1回、1年間連続で学んでいただきます。毎月出てくる果物が違い、切り方だけではなく、食べ頃の見極め方などもお教えします。フルーツカット教室も大変な人気で、すでに来年の予約や問い合わせも入っているほどです。

  • 今後、もっとたくさんの方にフルーツを召し上がっていただくために、ひとつの果物をテーマにしたイベントも不定期で開催していこうと考えています。8月10日には、渋谷のイベント会場で、「もも祭り」を開催しました。主役は産地の方で、各産地の魅力あるももの発信、PRが目的です。このときは、岡山、山梨、和歌山、長野、大分の産地の方にご協力いただきました。ももの食べくらべをしたり、ももを使ったサンドイッチ、サラダ、パフェなどを食べていただいたり、カッティングを見てもらったり、日比谷バーの方がもものカクテルを作ってくれたりして、舞台では、生産者さんが自分の産地とももの魅力をPRしました。渋谷で行うと、新宿高野と違い、コアなファンのみなさまではなく、フルーツにそれほど興味がないという人や、なんとなくももが好きという方が参加してくれることになります。すぐに効果があるわけではないかもしれませんが、120名ほどのお客さまに、お祭り気分でももを食べながら、こんなに産地や種類があるんだな、ということをわかっていただけただけでも収穫でした。このような活動は、今後も続けていきたい、と考えています。
◇ニューヨーク発、「パワーサラダ」のすすめ
  • 新宿高野では、4年前から、キユーピーと合同でフルーツマーケテイングの勉強会を産地を交えながら開いていました。青果売り場のバイヤーさんなどからキユーピーに寄せられる質問で一番多いのが、「野菜はいろいろな食べ方の提案ができるが、果物の食べ方提案は難しい」というものだそうです。果物は季節感がはっきりしていて、食べ頃の見極めが必要、甘いイメージもあるので料理には使いにくい、ということでした。

  • 2年ほど前、ニューヨークで「パワーサラダ」が流行しました。パワーサラダは、果物、野菜、たんぱく質が入っているもの。サラダ1食で栄養的に完全と、特に男性に人気となりました。果物にとっては願ったりかなったりです。たとえば、トロピカルフルーツも、朝昼晩に取り入れやすい「パワーサラダ」に使うと、もう一歩身近になるのではないでしょうか。キユーピーでは、パワーサラダの商標登録を取り、専用のドレッシングも開発しています。グレープフルーツやりんごなどのフルーツ、野菜、たんぱく質をさっぱりとしたドレッシングで和えるだけで手軽に作ることができます。たんぱく質は、卵、豆、豆腐、レンジで蒸した鶏のむね肉など。ドレッシングをかけるのではなく、あらかじめドレッシングで混ぜるので野菜がしっとりとして、子どもさんも食べやすくなります。また、フルーツ特有の上質な甘みで、サラダがほんのり甘くなり、食欲がないときでも、おいしく食べられると思います。「家でサラダを作るとき、フルーツを入れないと物足りなくなった」とおっしゃるお客さまもいます。以前開いた食育教室で、新宿の子どもたち50名にフルーツの話をして、パワーサラダを食べてもらったときも、「おいしい!」とモリモリ食べてくれました。

  • 勉強会などを通して感じたのは、わかりやすく具体的に食べ方を提案しないといけない、ということです。旬、食べ頃、切り方など、売る側や産地にはごくあたりまえのことでも、お客さまが知らないことがあります。みなさんにも、改めて、あたりまえのことをしっかりお客さまに伝えていただきたい、と思います。
◇質疑応答より

    Q:トロピカルフルーツ以外で、新宿高野さんで主力のフルーツは?
    A(蚊爪氏):夏のもも、冬のいちごがダントツです。ぶどうは一時、お客さまが離れたのですが、皮ごと食べられる「シャインマスカット」が出てから、また注目されています。それから、柿もおいしい品種が出て見直されています。馴染みがない若い方から、「おいしい果物なんですね」という反応があったりします。

    Q:以前、新宿高野さんで食べたパイナップル「ゴールドバレル」がとてもおいしかったのですが、食べ頃で気をつけることはありますか?
    A(蚊爪氏):国産のトロピカルフルーツは、木成完熟で提供できるのが強みです。新宿高野では、通常、商品には品名シールのほかに食べ頃シールをつけて販売しているのですが、「ゴールドバレル」や国産マンゴーは食べ頃シールは必要ありません。「ゴールドバレル」は食べ頃を気にする必要がなく、芯まで食べられるパイナップルとして価値が高く、よく売れるので、意外と扱いやすいのではないか、と思います。

    Q:においが強烈なドリアンですが、新宿高野さんではどのように扱っているのですか?
    A(蚊爪氏):以前は店頭に置いていました。お客さまの興味、認知度は高かったと思います。ただ、買い求めたお客さまが果皮のトゲでケガをしてしまうとか、ほかの果物の香りを消してしまうというデメリットがあり、今は販売していません。

    Q:パーラーではドリアンは使っていますか?
    A(蚊爪氏):パーラーでは提供していません。とてもおいしい果物で、好きな方は本当に好きなのですが、とにかく個性が強い。単体ではいいのですが、ほかの果物と合わせても相乗効果が出にくいと思います。
    A(久保氏):冷凍のドリアンはそれほどにおいが強くないので、ムースにしたりアイスにするとおいしい。黄桃と合わせて使ったりすることもできると思います。

    Q:トロピカルフルーツは国産にシフトしている、とのことですが、外国産にもいいものがありますよね?
    A(蚊爪氏):はい。たとえば、ゼスプリさんのニュージーランド産キウイフルーツなど、選果基準、商品管理の仕方は日本以上に厳しいと思います。自信を持ってすすめられる商品であれば、そういうことも含めてきちんと伝えなければいけない、と思います。

 

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