■2019年8月18日 第5回 出張八百屋塾@北足立市場 〜 講演1「漬物やカット野菜の衛生管理 〜食品事故の恐怖から店を守る〜」食品を加工する際に求められている基礎的な知識の取得 本部青年会 吉野元
◇はじめに
  • 本部青年会の吉野です。市場は葛西、店は人形町にあります。

  • これからお話しする野菜の加工や衛生管理、HACCPについては、これから決まっていくことも多いのですが、今後戸惑うことがないように、現状を知っておいてください。

  • 八百屋でよくやっているカットスイカや自家製ぬか漬けの販売は、法的にはOKなのでしょうか。今までやってきたから大丈夫とは限りません。非常に暑くなっていますし、お客様の食品衛生に関する考え方も変わってきていますので、衛生管理に気をつけることが大事です。
本部青年会 吉野元
  • 昨年6月、食品衛生法の改正法が公布されました。オリンピック・パラリンピックの開催にあたり農産物も国際基準に合わせることと、相次ぐ食中毒への対応などによるものです。これまで食品衛生法とは無縁だった八百屋も、今後は関係してきます。
◇青果小売業と食品事故のリスク
  • 青果小売業は、食品を扱っている限り、リスクはあります。

  • 漬けものメーカーの白菜の浅漬けで事故が起きました。次亜塩素酸で消毒していましたが、いつもより大量だったため、中まで消毒できてなかったのが原因で、死者も出ました。キュウリの1本漬け(浅漬け)で食中毒を出したニュースもあります。

  • 八百屋が漬けるものは、塩が多く、乳酸発酵しており、O157のリスクは多少低いと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、例えぬか漬けであっても、昆布についていた腸炎ビブリオ菌が繁殖しないとは限らず、食中毒が起きるリスクはあります。

  • 食品の安心・安全はもとより、八百屋業界全体のために、問題を起こさないようにみんなで努力しなければなりません。一人一人が気をつけ、改善する、という意識をもっていただきたい、と思います。
◇青果小売業と許可業種
  • 東京都のホームページ「食品衛生の窓」によると、食品衛生法および東京都食品製造業等取締条例では、食品販売関係の34業種は届け出が必要ですが、これまで八百屋は入っていませんでした。漬けもの製造業や飲食店は許可業種です。八百屋がそうざいを製造販売する場合、量や規模、取り扱いの仕方によっては許可を必要とする可能性があります。ジャムの製造に関しても、菓子製造、缶詰・瓶詰製造業は許可業種ですから、届け出を求められる可能性があります。
◇青果小売業と法令
  • そうざいやカット野菜を袋詰め・納品するのは食品衛生法、漬けものは東京都食品製造業等取締条例に関係する可能性があります。

  • スイカ、大根など大きな野菜をカットして売ることや、蒸かしイモ、 茹でトウモロコシなどは農産物の一次加工として、普通の野菜・果物販売と同じ扱いになるようです。ただし、カットスイカを串に刺して店の前のテーブルで売ると飲食店扱いになるかもしれません。焼きイモにはちみつをかけて売ると、飲食店か菓子製造業扱いになるかもしれず、八百屋はかなりグレーなところにいると思ってください。

  • 漬けものは、東京都のホームページには「塩漬け、ぬか漬けは除く」となっていますが、漬けもの業界では、塩漬けとぬか漬けは、漬け方が調味液でもあら塩だけでも、「浅漬け」とされます。
◇営業許可について
  • そうざいや漬けものの製造販売をする場合、所管の保健所へ営業許可を申請します。許可条件は、施設基準を満たすことと、食品衛生責任者を立てることなどです。
◇食品表示法について
  • もうひとつ八百屋に関係する法律が食品表示法で、消費者庁の所管です。食品表示法は2013年に公布、2015年から施行され、生鮮食品についての名称と原産地(国産品は都道府県)を書くことになっています。

  • 食品表示法では、塩蔵野菜、野菜漬けものは加工食品扱いになります。

  • 加工食品を製造する場合に表示が必要な項目は、名称、保存の方法、消費期限または賞味期限、原材料名、添加物、内容量または固形量及び内容総量、栄養成分の量及び熱量、食品関連事業者の氏名または名称及び住所、製造所または加工所の所在地及び製造者または加工者の氏名または名称。ただし、除外規定があり、店内処理したものを店内で販売する場合、表示は不要です。また、小規模事業者、主に20人以下の従業員の会社の場合は、当面、栄養成分と熱量の表示は不要。パック入りのぬか漬けは表示が必要ですが、並べておいたぬか漬けを袋に入れて販売する場合は、表示は不要と解釈されるのはこのことによります。
◇漬けものの衛生管理
  • O157の繁殖は10℃以下だと比較的抑えられるので、低温での管理が求められます。次に流水でよく洗う、異物混入を確認する。次亜塩素酸などで消毒することが一般的な手順とされています。ただ、希釈倍数などマニュアル通りにすると、においが気になることもあるようです。

  • 漬けものの衛生管理には、東京都食品製造業等取締条例と漬物の衛生規範に加え、今回の食品衛生法の改正に合わせて、全日本漬物協同組合連合会が作ったHACCPの手引書があります。「漬物製造におけるHACCPの考え方を取り入れた安全・安心なものづくり」というパンフレットで、国のホームページにも載っています。
◇HACCP(ハサップ)とは?
  • HACCPとは、食品の安全・安心のために、原材料の受入れから最終製品までの各工程ごとに、微生物による汚染、金属の混入などの危害要因を分析し、継続的に監視・記録する工程管理システムのことです。

  • HACCPは法律ではなく、食品にかかわる業者が食品の安全を守るために自分たちの仕事を管理するシステムです。組合は業界団体として「こういう衛生管理をする」という案を作り、2020年には手引書ができあがる予定です。

  • 改正食品衛生法は2021年施行予定です。青果小売業は営業届出が必要になりますが、届出に関して審査はしないと言われています。漬けもの、そうざいについては、簡易な飲食店営業許可が必要になります。今後はカット野菜・果物や漬けものはグレーではなくなります。逆に言えば、条件を満たせば営業できる、ということです。
◇HACCPの手法を取り入れた衛生管理
  • HACCPを取り入れた衛生管理の重要管理事項としては、仕入・販売及び保管での管理、二次汚染の防止、販売及び保管する場合の温度管理等、店舗・設備の管理等。店舗・設備の管理には、店舗の清掃、トイレの適正配置と管理、害虫駆除なども含まれます。

  • 品質・衛生管理体制では、品質衛生管理責任者(食品衛生責任者等)をおくこと。適宜、講習を受ける必要があります。

  • 具体的には、仕入れの時点で来ているものをチェックする、異物が入っていないか確認する、それを適正温度で管理する、並べる場所をきれいにするなど。そういうことが一般衛生管理の表として組合から届きますので、日々表をつけて管理します。このように衛生管理計画に沿った実施記録を毎日つけて管理するのがHACCPの考え方を取り入れた衛生管理です。

  • 組合の手引書が年明けにできる予定です。手作りのぬか漬けができなくなったら日本の食文化の損失です。食文化や八百屋という仕事を守るために全員で力を合わせてがんばりましょう。
[手引書の補足 東京都青果物商業協同組合 理事長 近藤栄一郎より]
  • 現在、東京都の条例に基づき、営業許可をとっている方もいると思いますが、昨年6月の改正で、改正食品衛生法という厚労省の網もかかってきます。今後は新たな衛生基準に合わないといけないことになります。手を洗う、まな板を洗うなどの衛生管理とともに、記帳する。これがHACCPに基づいた考え方です。

  • 実行不可能なものでは意味がありません。組合員全員が実行できるように、かつ食品の安心・安全が守れるように、厚労省と折衝しています。手引書は今年の秋以降、来年には、みなさまに配布できるよう準備しています。

  • HACCPはハードルが高いイメージですが、食品メーカーはほとんどHACCPに基づいた衛生基準を取り入れています。有識者のご意見もうかがい、実行可能な衛生管理の手引書を作成すべく国と交渉しています。ご意見・ご要望をぜひお寄せください。
 

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