■2020年1月19日 第10回 イチゴ・サツマイモ 〜 勉強品目「サツマイモ」 東京青果(株)  野菜第3事業部 狩野純一氏
  • 東京青果で14年間、サツマイモを担当しています。

  • 2015年の日本農業新聞の記事をいくつかご紹介します。1月に掲載された、バイヤーの投票による注目の野菜ランキング。その1番がサツマイモ「紅はるか」でした。2月、首都圏スーパーのサツマイモ販売について、店頭の焼き芋が青果を逆転という記事が載りました。10月、千葉県がマレーシアへのサツマイモ輸出に本腰、との記事もありました。この時期から品種の構成が変わり、第4次焼き芋ブームが起きました。
東京青果(株)  野菜第3事業部 狩野純一氏
  • 全国にはさまざまなサツマイモがあり、品種名と商品名が混乱しているようです。たとえば、ある量販店に置いてあるサツマイモが「鳴門金時、五郎島金時、土佐紅、宮崎紅」だとしたら、バラエティに富んでいるようでも、品種はすべて「高系14号」です。

  • サツマイモは、ホクホク系、しっとり系、ねっとり系の3つをどうバランスよく置くかが大事です。焼き芋ブームだからねっとり系だけでいい、というわけではありません。お客さまの好みはさまざまですから、天ぷらや大学芋に向く芋も必要です。

  • 時期によるサツマイモの食味の変化を示した資料を、JAなめがたといっしょに作りました。9月、掘り立てで最もしっとり感が高いのは「シルクスイート」です。時間をおくとでんぷんが糖に変わっていき、1〜2月は「紅はるか」の粘質度が最も高くなります。「紅あずま」はホクホク系で、糖化のスピードが遅いので、後半になって伸びてきます。最近よく「紅はるかが一番おいしいのか」と聞かれるのですが、焼き芋にする場合、「紅はるか」でも9月はホクホクです。時期によって粘質度が違うので、しっとり、ねっとり食感にしたければ、その時期に焼く芋を見極めなければなりません。

  • NHKのテレビ番組「ためしてガッテン」の「紅はるか特集」に協力したときも「紅はるか」だけではなく、それぞれの品種の特性に最適な食べ方を提案すべき、とご説明しました。ホクホク食感は天ぷらに向き、ねっとり食感は焼き芋がおすすめです。時期によるそれぞれの食べ方をどれだけお客さまに伝えられるかがポイントです。

  • 量販店でも品種別のPOPを作って掲示するなど、さまざまな工夫をしています。一つの品種で全員にこたえるのは無理です。好みに応じて品種を選ぶことが大事です。

  • 行方では、時期による焼き時間や温度などをまとめた「焼き芋マニュアル」を作成しました。ここからダウンロードできます⇒https://ja-ns.or.jp/pdf/yakiimo.pdf

  • ブドウ糖、ショ糖、果糖など、糖の組成を分析した資料もあります。サツマイモの蜜はでんぷんが糖化した麦芽糖で、しっかり糖化すると甘みが増します。

  • 夏場にもおいしいサツマイモが出回るようになったのは、キュアリング処理が発達したためです。湿度90パーセント、温度33℃の蒸し風呂のようなところに3日間置くことで、回りにコルク層が形成され、店持ちがよくなり、甘さも増します。

  • サツマイモは10℃を下回ると傷むので、15〜14℃で管理することが大切です。

  • 東京青果では、品種の特性に合わせた食べ方をご提案するため、量販店さん、JAさん、ドレッシングのメーカーさんなどとコラボして料理教室を開いています。最近は「シルクスイートが好き」などという意見も出るほどで、知識があるお客さまに、品種の特徴や向く料理といった情報をいかに提供できるかが販売の肝になります。

  • 横浜モアーズのエレベーターの中で見つけたポスターがあります。各飲食店がサツマイモ祭りを開催中で、漫画のキャラクターを使い、「ヤラピンって何?」という吹き出し。ヤラピンはサツマイモを切ると出てくる白い乳液です。整腸作用などがあるとされ、私はいつも「目に見える食物繊維」とご説明しています。ヤラピンと書かれたポスターを見て、ブームというよりカルチャー、若者にも文化として受け入れられている、と嬉しくなりました。もはやサツマイモは単に安くておいしい食べ物ではなく、いいものを日常的に食べるという習慣の一つになっていると思います。

  • 消費者の知識が上がり、品種についての探求心が高まっています。このチャンスにぜひ、さまざまな情報を簡潔に伝えてください。農家さんもいつでもおいしいサツマイモが供給できるよう、キュアリングや貯蔵技術を研究し、日々努力しています。

  • 電子レンジで焼き芋を作るとおいしくありません。オーブンなどで、200℃で1時間焼いてみてください。9〜10月頃、量販店のバイヤーさんから、「焼き芋がおいしくない」と言われました。調べると、あまりにもよく売れるので、パートさんが早く出してしまうことが原因でした。ねっとり系品種で早掘りのものは、180℃で1時間半は焼いてもらいたい。ベストな焼き時間が1時間としたら、あと5分待てば粘質度はグンと上がります。量販店からの相談は、「あと5分、10分焼いて」という答で解決しました。

  • 本日お持ちした商品の「大栄愛娘」、「五郎島金時」、「富津金時」、「鳴門金時」はすべて「高系14号」です。

  • 「シルクスイート」、「紅はるか」の生産が増えており、「シルクスイート」が30パーセント、「紅はるか」が半分以上。「紅あずま」は極端に面積が減って20パーセント、作らないところも茨城と千葉で増えています。「紅あずま」を、天ぷら、大学芋などの加工用、学校給食用としてどう維持するかが課題です。

  • 「紅まさり」は「シルクスイート」の親です。糖のバランスがよく、コクがあります。

  • JAなめがたは昨年、「紅はるか」の取り組みが評価され、天皇杯を受賞しました。

  • 千葉県の「紅はるか」は年明けがメインで、4〜6月に安定して出ると思います。

  • 「シルクスイート」は、千葉県は年内9〜10月がメインで、そのあと「紅はるか」が続きます。数量的には落ち着いてきました。面積は来年も増えると思います。

  • 千葉と茨城の「紅はるか」は、品種は同じですが、土が違うので味が違います。茨城のほうが水分含有量が多い。千葉は遅れて糖化し、2〜3月から5〜6月まで。「紅はるか」を追いかけるなら、茨城から始めて千葉に移行していくといいと思います。

  • 「パープルスイートロード」は、今、メインの紫芋です。この後継品種が「福紫」で、超ねっとり系の紫芋です。まだ出回っていないと思いますが、覚えておいてください。

  • 行方の「ひめあやか」は、2〜4月に一番黄色みが強いサツマイモです。焼き芋にすると黄金色になり、食べると「どっしり系」で、果肉が詰まり食べ応えがあります。

  • 去年は大豊作でしたが、台風15号による千葉や茨城の被害は大きく、パイプハウスや家屋が倒壊しました。2月から翌年のサツマイモを作り始めますが、パイプハウスがないと苗が作れず、前年の7割くらいか、さらに減少する可能性もあります。「紅はるか」一辺倒でなく、さまざまな品種の食べ方をしっかり提案していただきたいと思います。

  • 九州では病気が流行っており、宮崎、鹿児島が少なく、関西市場からの引き合いも千葉、茨城になっています。宮崎は香港に輸出しており、香港の情勢が落ち着いたら宮崎はさらに少なくなります。中国が関東5県の放射能規制を緩和したら奪い合いになる可能性もあります。

  • 今の品種は、小さくても細くても丸くても筋はありません。ただ、加熱時間は変わってくるので、調理に合わせて調整してください。

  • イモは、15℃、湿度90パーセントの中に貯蔵すればいいのではなく、温度を変化させながら適切に管理しないと老化します。元気であれば4月でもヤラピンが出ますが、呼吸でエネルギーを使い、老化したイモは出ません。ヤラピンが出るか出ないかは、鮮度の判断になると思います。

  • 黒く変色するのは、ポリフェノールのクロロゲン酸が原因です。貯蔵の後期、老化したイモや、雨が多いときに出やすい。切らないとわからないのですが、全部に出ることはありません。何ケースかようすを見て判断してください。食味は変わらず、食べても問題はないので、お客さまにはそれを説明していただきたいと思います。

  • キュアリングしているかどうかには、皮目の色が多少冴えない紅になるくらいで、ふつうは見てもわからないと思います。その団体がキュアリングしているかどうかを販売担当者に聞くといいでしょう。行方などは必ず箱に書いて出しています。
◇「サツマイモ」の写真
大栄愛娘
(千葉)
五郎島金時
(石川)
富津金時
(福井)
金時
(徳島)
シルクスイート
(千葉)
紅はるか
(千葉)
紅あずま
(千葉)
紅まさり
(茨城)
紅優甘
(茨城)
匠こがね
(茨城)
パープルスイートロード
(千葉)
太白
(新潟)
黄金千貫
(新潟)
ハロウィンスイート
(新潟)
マロンスイート
(鹿児島)
紅きらら
(鹿児島)
 
◇「イチゴ」の写真
やよいひめ
(埼玉)
あまりん
(埼玉)
よつぼし
(茨城)
恋みのり
(長崎)
あまおう
(福岡)
桃薫
(茨城)
おいCベリー
(長崎)
さぬきひめ
(香川)
女峰
(香川)
初恋の香り
   
 
■2020年1月19日 第10回 イチゴ・サツマイモ 〜 勉強品目の補足 老沼裕也氏
  • 鹿児島のサツマイモ、「紅きらら」と「マロンスイート」についてご紹介します。

  • 今日お持ちしたのは「紅きらら」ではなく「きらら」という品種です。皮は「きらら」が紫色、「紅きらら」は白。中が赤く、食感はホクホク系としっとり系の間くらいです。「紅きらら」は鹿児島で多少栽培されているようですが、「きらら」は、1軒の農家さんしか作っていないそうです。
老沼裕也氏
  • 「マロンスイート」は、見た目はふつうのサツマイモですが、中がオレンジ色です。焼き芋にするとねっとりとした食感になります。「マロンゴールド」は福岡や鹿児島で栽培されていますが、「マロンスイート」は希少な品種です。

  • 来週の日曜日から約1週間、品川で「焼き芋テラス」というイベントが開催されます。めずらしい品種の焼き芋も並ぶと思うので、お時間がある方はぜひご参加ください。
 

【八百屋塾2019 第10回】 挨拶講演「日本のイチゴ」について勉強品目「イチゴ」「サツマイモ」食べくらべ