■2022年12月18日 第9回 さといも・西洋なし  〜 勉強品目「さといも」「西洋なし」 東京青果(株)  野菜第4事業部 小川裕介氏、伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏、(株)果菜里屋 小山淳一氏

◇「さといも」について

 [東京青果(株)  野菜第4事業部 小川裕介氏より]

  • さといもは一年中販売されています。秋口から12月をピークに、晩生の品種は4月頃まで。その後、「石川早生」を中心とした早生いもが夏場に販売される、というように一年がまわります。

  • 早生いもは、暑い時期、早生、ということから店持ちがあまりよくないため、難しい面もあると思いますが、一年間さといもを販売する上では非常に重要な品種です。

  • 本日のさといもは晩生が中心です。今の時期は全国各地のさといもが出荷され、八百屋さんには好みのものを販売できる絶好のチャンスと思います。のちほど食べくらべでお気に入りを見つけてください。
東京青果(株)  野菜第4事業部 小川裕介氏
  • 食味はもちろん、選果や選別が一番価格に影響します。たとえば、青いもと呼ばれるものや芽つぶれ症のものは、可食部が少なく下等級に落とさざるを得ない。今日お持ちしたものは、A品、秀品の2Lですが、その他たくさんの等階級があり2Lがすべてではありません。

  • 今日の「土垂」は、埼玉県JAいるま野。弊社の取り扱いで6〜7割を占める産地です。「土垂」と「蓮葉」を作っています。「土垂」が7割、「蓮葉」が3割です。自家採取で毎年種を更新しており、「土垂」と「蓮葉」の形がだんだん近くなってきているようです。食味も「土垂」はねっとり、「蓮葉」はホクホクといわれていましたが、差がわからないくらいになっています。近いうちに品種を分けた出荷もなくなるのではないでしょうか。いるま野の特徴は、子頭と孫いもを分けた選別。他の産地では形のいい子頭を優品とすることがありますが、いるま野は別物とし、今、10等階級の選別になっています。

  • 「女早生」は、昔から愛媛県で作られてきた品種です。その中で「伊予美人」は、JA全農愛媛扱いのものだけ。本日お持ちしたのは、「伊予美人」ではなく「女早生」ですので、販売の際にご注意ください。愛媛県は水田の裏作として、全国でも唯一、さといもの生産が増えています。2年前に全農愛媛が大きな選果場を作り、今後はもっと増えるだろうと思います。量販で見かける、水煮や、皮がむいてあって素洗いしたものなどは、愛媛県産が多くなっています。

  • 「大野さといも」は福井県。黄色い箱と緑の箱があり、黄色は越前、緑は上庄。今は農協が合併しています。隣同士の地域で水田の裏作として作られ、食味はほぼ変わりません。10月末から12月いっぱいで終了し、年明けは流通しません。食味はどちらかというとホクホク系です。高齢化がすすみ、生産量は少しずつ減っています。中京、関西地区メインなので、関東ではあまり目にしないかもしれませんが、おいしいのでぜひ一度売ってみてください。

  • 新潟の「帛乙女」は、「大和早生」から発生し、水田の裏作として作られており、食味はホクホク系。新潟はブランド化が多い印象で、価格は通年高めです。食味は評価されているので、こだわりを持った販売に適しているのではないかと思います。

  • 「石川いも」は、静岡県。出荷はほぼ終了しています。JA遠州中央の出荷は、小さな箱に同じ大きさのまん丸の「石川いも」をきれいに並べてあります。量販より、料亭向け、納めの商品ですが、コロナ禍で需要が少なくなってきているので産地としてはやや厳しい状況です。

  • 静岡県、磐田の「えびいも」。納め向けには子いも、量販向けにはFG袋に詰めた孫いもが売られています。年々出荷量は減っており、産地維持の面からも、新たな消費を開拓する必要があります。

  • 今日の「セレベス」は、赤い部分がとてもきれいに出ています。ホクホク系で、年末だけ扱うところもあります。2L主体です。小さいと赤い部分が見えにくくなりますが、LやMもぜひ販売してください。

  • 「京いも(たけのこいも)」は宮崎県産です。市場主体の販売で、今年は高めとのことです。煮崩れしにくいのが特徴。年末年始の商品なので、新たな売り方を模索してみてはいかがでしょうか。

  • 「八つ頭」は、年末の商材。先週後半から市場で見るようになりました。メインの2Lは売価が高いので、LやMの需要も出ています。欠かせない商材として、しっかり販売していきたい。産地は埼玉、千葉。埼玉のほうがお尻の部分がしっかりくぼんでいて、より「八つ頭」らしいかもしれません。

  • 「蓮いも」は、いもではない部分を食べるものです。

  • さといもは、八百屋さんが対面で販売してはじめて良さがわかる商品です。土つきを売るのも難しい時代だと思いますが、ぜひみなさまのお力で、おいしいさといもをたくさん売ってください。

◇「さといも」の写真
土垂
(埼玉・いるま野)
帛乙女
(新潟・五泉)
大野さといも
(福井)
石川早生
(静岡・JA遠州中央)
海老芋
(静岡)
海老芋
(東京・府中)
セレベス
(千葉)
京芋
(宮崎)
八頭
(東京・府中)
     

◇「伝統野菜のさといも」について

 [伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より]

  • さといもは日本全国にたくさんの種類があります。その一部を資料の日本地図にまとめてみましたので、参考になさってください。

  • 来歴は、講師の方から詳しいお話があったので省略します。

  • 私が驚いたのは、さといもは入ってきた形のまま作られているものが多いこと。ほかの野菜に比べ品種改良されていません。アブラナ科の野菜などはすぐ交雑してしまうので、たとえば結球白菜などは松島の島で開発したという話もありますが、さといもやじゃがいもは昔のままのものが多く残っています。
伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
  • さといもはサトイモ科の多年生の植物で、主に私たちが食べているのは塊茎(いも)の部分で、ほかに葉柄(ずいき)を食べるものもあります。

  • 葉柄(ずいき)は、高知県の「りゅうきゅう」や鹿児島県の「みがしき」など、夏場の野菜不足を補うために蓮いもの葉柄が生で用いられます。また、熊本県の「いもの芽」は「赤芽みやこいも」を軟白栽培したもの、各地にある「いもがら」は蓮いもやさといもの葉柄の皮をむいて干したものです。熊本城では加藤清正が戦のための食糧として干しずいきを畳の芯に編み込んだといいます。京都の「ずいき祭り」は、屋根をずいきで葺いた野菜の神輿が練り歩く、北野天満宮の収穫祭です。

  • いもを食べるさといもは、親いもを食べるもの、親いもと子いもを食べるもの、子いもと孫いもを食べるものに分けられます。

  • 親いもと子いもを食べるもののひとつが「唐いも」。その子いもを土寄せ栽培したのが「えびいも」です。京都では、いもぼうのいもとして長崎から取り寄せたものを栽培するようになりました。今は静岡県で盛んに栽培されています。「からとりいも」も「唐いも」の一種。「八つ頭」も同様で、丸系もあります。

  • 子いもと孫いもを食べるものの一部をご紹介します。山形県の「甚五右衛門(じんごえもん)」は有名ですが、品種は不明です。「会津さといも」は、郷土料理の「こづゆ」に欠かせないものとして、昔から愛されてきました。岩手県の「二子さといも」は、おそらく北限ではないかと思います。

  • 親いもを食べる「たけのこいも」は、「台湾いも」、「京いも」とも呼ばれます。半分以上が地上に出ている姿は、たけのこに似ていますが、料亭をイメージさせる「京いも」という名前で売られています。めずらしいのは愛媛県の「おおどいも」。大洲という地域で採れる親いもを食べるさといもです。

  • 伝統野菜プロジェクトでは、岩手県の北上市の「二子の里 いもの子祭り」を見学に行きました。小学校で開かれる収穫祭です。葉付きのさといもをご神体として神事を行い、いもの子汁がふるまわれます。ここでは豚肉を使っていました。山形は牛肉です。東北ではいも煮会が盛んで、300年前から行われているそうです。場所によって変わるのが面白いですね。私たちは東京からわざわざ見学に行ったので、村のみなさんが感激して、神事に使ったさといもを持って帰らせてくれました。演芸、いもの販売などもあるとても楽しいお祭りでした。
 

◇「西洋なし」について

 [株)果菜里屋 小山淳一氏より]

  • 私が最後に「西洋なしフォーラム」に参加したのは6年前になります。それまでは、「バラード」、「ル・レクチェ」、「ラ・フランス」ぐらいしか知りませんでしたが、そのとき、世界には4000種類もの西洋なしがある、と聞きました。たとえば、「オーロラ」、「ゼネラルレクラーク」、「コミス」、「カリフォルニア」、「マグネス」、「セニョールデスペランサ」など。聞いたことも見たこともないものが多いと思います。

  • 西洋なしは2000年くらい前から食べられていたといいます。中国には孫悟空が食べたという西洋なしがあるそうです。日本には明治時代に導入されました。
(株)果菜里屋 小山淳一氏
  • 「シルバーベル」は、1957年、山形の園芸試験場で選抜された品種です。

  • 「ル レクチエ」の栽培では新潟の渡辺さんという方が非常にこだわりを持っていて、受粉時期にクラシックを聞かせたり、ご自身が踊ったりする。貯蔵期間にも同じことをすると、「西洋なしが喜んでいるのがわかる」とおっしゃっていました。渡辺さんの「ル レクチエ」は1個700グラムにもなるものがあります。

  • 私のおすすめは、10月に東京青果に多少入荷する「マルゲリットマリーラ」。一番のおすすめは、「メロウリッチ」です。青山の洋菓子屋さんに「メロウリッチ」を使ったタルトがあり、素晴らしくおいしいです。

  • 食べ頃は、たいてい箱に書いてあります。「シルバーベル」、「ラ・フランス」に関しては、軸がゆるくなったもの、頂上部分に唇に似た形のシワが寄ったもの、軽くさわったときに香りがするものが食べ頃です。

  • 貯蔵は、8〜15℃。私は冷蔵庫の中で保存し、1週間に2回くらい回します。西洋なし、メロンなど糖度の高いものは、いろいろな方向に回したほうが追熟が早いと聞いたことがあります。

  • 「ル レクチエ」は、色が黄色くなって、手のひらにのせて少し離したときに強く甘い香りがするときが一番おいしいと思います。

  • 熟して果肉が茶色くなってしまった西洋なしこそ、味はとてもおいしいので食べてみてください。
◇「西洋なし」の写真
ラ フランス
(山形)
シルバーベル
(山形)
ル レクチエ
(新潟)
 

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