■2023年10月15日 第7回 れんこん・香酸柑橘 〜 講演「れんこんについて」  茨城県農業総合センター 専門技術指導員室 瀧澤利恵氏
◇はじめに
  • 私は茨城県の農業総合センターで専門技術指導員をしています。

  • 専門技術指導員の仕事は、農業生産者を支援する農業改良普及員の相談対応や普及センターの支援、各都道府県の技術指導員との情報共有など。

  • 数年前までは現場にいましたが、今はワンクッション置いた状態で仕事をしています。本日は主に茨城のれんこんについてお話をします。
 茨城県農業総合センター
専門技術指導員室 瀧澤利恵氏
◇れんこんとは
  • れんこんは、水の下の土の中にできるはすの地下茎が膨らんだものです。

  • はすの名前の由来は、実が蜂の巣に似ていることから、「はちのす」が「はす」になったといわれています。

  • 原産地は中国、インド、エジプトと諸説ありますが、日本にはほぼ中国経由で伝来しており、中国が原産地のものが多いと考えられます。

  • 食用のはすは、仏教伝来とともに中国から入ってきました。鑑賞用はもっと昔から入っています。何千年も昔の種が花を咲かせた「大賀はす」も、仏教伝来よりはるか以前に入ってきたものです。

  • 中国からは鎌倉時代にも入っています。ただ経済栽培ができる品種ではありません。本格的に経済栽培できるような品種が入ってきたのは、明治初期になってからです。
◇「はす(蓮)」と「すいれん(睡蓮)」の違い
  • はすとすいれんは同じような植物と思われがちですが、違う植物で、遺伝子レベルでは、早い段階で別の科に分けられています。

  • 見分け方としては、すいれんは基本的に葉が水に浮く「浮き葉」です。はすの葉は、最初の2枚ぐらいは「浮き葉」ですが、そのあと「立葉」といって茎が水よりもぐっと上がり、その上に葉が広がります。

  • すいれんの葉には切れ目が入りますが、はすは1枚の大きい葉で切れ目はありません。また、すいれんの葉はツヤツヤしており、はすの葉っぱにはツヤはありませんが、水ははじきます。

  • すいれんの地下茎は膨らみません。はすは地下茎が膨らんで栄養分を貯める、という違いがあります。
◇れんこんの生育特性
  • れんこんは、暑く光が多い条件を大変好みます。最適な温度は、葉の部分で25〜30℃。地下茎が肥大するのは24〜25℃。芽は8〜10℃、4〜5月の時点でもう動いています。15℃ぐらいになると、葉っぱが伸びてぐんぐん成長します。ある程度葉っぱが出ると、下を太らせていきます。

  • 可食部分を太らせる信号は、日長が12時間以下になると出ます。晩生の品種は、日長が長い間は肥大せず、葉が伸びていく。夜が長くなると地下茎が膨らみ始めます。早生の品種は、葉っぱを伸ばしつつ、地下茎も膨らませるという動きをします。

  • 発育過程は、まず、種ばすを植えます。種子から植えると、経済的に収量が取れるようになるまでに3年ぐらいかかるので、毎年、種子ではなく、種ばすの状態で植えます。葉が出て、地下茎が伸び、その先に食べるれんこんが膨らんできます。葉は8月半ばぐらいに12〜13枚出たところで展開は終わりになります。

  • 地下茎は、下に行くというより、横に広がって育っていくイメージです。
◇れんこんの品種について
  • 資料のれんこんはごく一部で、ほかにも多くの品種があります。

  • 品種は、「在来種」、「支那種」、「備中種」の3つに大きく分けられます。

  • 明治以前から作られていた品種が在来種です。各地域に合うように選抜され定着したため、最初に入った品種が同じでも、九州や四国で育てたものと、新潟のものでは、形などが違ってきます。

  • 明治初期に中国北部から導入された収量性の高い品種が、支那種です。これが2タイプに分かれました。丸い「だるま系」は茨城や新潟に、長いタイプの「中国系」、「支那白花系」は、山口や石川に広がりました。加賀れんこんは、「支那白花」です。

  • 同時期に中国の違う所から長崎を通じて九州に入った「備中種」は、徳島や愛知に広がりました。

  • 大きくは以上の3つですが、民間の育種家や生産者さんが地域に合うものを選抜し、交配も進んでさまざまな品種が育成されており、きれいに3つには分けられないようです。

  • 長さは短いか長いか、中間ぐらいか。関東では短い種類が好まれ、茨城も短い品種がメインです。長い「長茎種」は、備中を中心に関西で好まれます。食感も、短い品種はシャキシャキ、長い品種はモチモチ、とだいぶ違うといわれます。のちほど食べくらべてみてください。この2つの間が中間種です。「霞ヶ浦」や「早霞」などは、昔、茨城県で育成したものですが、今はあまり作っていません。中間種にも「ロータス」のように長めのものもあります。

  • 古い資料ですが、各地の主要品種は、地域によって違うのがよくわかります。茨城、千葉などの関東は、短いシャキシャキタイプの割合が多い。「ロータス」は愛知がメイン。徳島は8割が「備中」。石川は、「支那白花」がほぼ100パーセントです。

  • 「金澄20号」は、昔流行った品種で、2000年頃までは主力でした。食味はいいのですが、収穫するときに折れやすかったり、急に枯れ込んだり、すね上がりが早く起きてしまうため、今はメインではなくなってしまいました。

  • 「金澄34号」は、20号を作られた方が育種された、20号より早く採れる品種です。

  • 「幸祝(ぐりぐり)」は早生種。太りが良く、多収。シャキシャキの中にややもっちり感があるタイプです。
  • 「だるま」は、中間の長さの系統。金澄系よりは長めです。肉が薄くて、食感がいい。

  • 加賀れんこんとして知られているのは、「支那白花」です。

  • 現在、農水省に品種登録されているれんこんは、20品種程。それ以外に品種はたくさんあるのですが、登録されていないので、品種の特性が明確にわかりません。詳細な記録が整理されていない状態です。そのため、遺伝子的には同じ品種が地域によって違う名前、または違う品種が同じ名前で出てくる。多くは品種名を出さずに流通しています。一部、「ピンク色のれんこん(品種名:友弘)」とか、「あじよし」という品種名を出すなど、生産や販売サイドの方が特徴をつけて出しているものはあります。
◇茨城県における栽培について
  • 国内のれんこんの生産状況は、2022年(令和4年)の出荷量の割合は茨城が5割以上。次いで、佐賀、徳島、愛知、山口の順です。

  • 茨城県の中では霞ヶ浦周辺、土浦市とかすみがうら市がメインで栽培されています。

  • 東京都中央卸売市場での取扱量では、茨城のシェアは数量で94パーセント、茨城の単価がほぼ東京都中央卸売市場での単価となっています。なので、茨城が不足すると単価が上がり、たくさん出ると単価は下がります。

  • 家計調査報告によると、日本人の1人1か月あたりのれんこん購入数量と金額は2018年が多くて、その後やや下がり、また復活しています。花粉症にいい、健康にいいという話が出たり、メディアで紹介されると量が増えるなど、影響されます。

  • 茨城県では、作型を組み合わせてれんこんを出荷しています。6月頃からハウス、7月頃は「床立ち」で、前年4月に植えて冬を越し、春に伸びて膨らんだ2年物を出します。そのあとは早生で、3〜4月に植え、8月から出す。次に、4〜5月に植えたものを10月から翌年4月まで出します。

  • れんこんは、水の下の土の中にあります。種ばすを植えて、最初2枚ぐらいは浮き葉、その後立葉が立って、花が咲き、止葉ができて、地下茎が膨らみます。

  • 生産者さんは種ばすの圃場で1年間かけて育てた種ばすを掘り上げて、栽培圃場に植え付けます。種ばすは乾くと芽が伸びなくなるので、植え付ける当日か前日あたりに掘って植え付けます。

  • 種ばすは、泥の中に手で押し込むように植え付けます。葉が大きくなり、水面に広がっていくと、種ばすのありかがわかりにくくなりますが、植えたご本人たちはわかっているようです。

  • 次は「カラ刈り」。上の葉が残っていると、れんこんは呼吸を続け、土中の鉄と反応して、表面に赤いしぶがつくので、茎と葉を刈ります。酸素の供給が止まると、酸化鉄が二価鉄に変化し、表面についたしぶがとれてれんこんは白くなります。この赤しぶはどの畑でも起きるわけではなく、鉄が多い土地ではしぶが多く、長く使っているところではそれほどつかないようです。昔は漂白することもあったようですが、今、茨城県をはじめ関東で出回っているれんこんに、薬品は使っていません。

  • その後、収穫、調製、水洗いして、箱に詰めて出荷します。

  • 茨城県ではすべて、「水堀り」という、水圧ポンプを使って掘ります。

  • JA水郷つくばれんこんセンターのサイト(https://renkon-channel.com/renkon-center/)に、れんこんの作り方の動画など、さまざまな情報が載っていますので、ごらんください。

  • 茨城県では、作型に適した品種を作付けしています。「金澄20号」、「金澄34号」、「金澄36号」、「幸祝(ぐりぐり)」、「パワー」、「ひたちたから」など。年明けから採る作型は、これにすね上がりが起こりにくい「みらい選抜」が入ります。

  • 茨城県では2013年から2017年にかけてすぐれた品種や系統を集めて選抜し、年内採りは「ひたちたから」と「パワー」、年明けは「金澄39号」と「みらい選抜」を選び出しました。今後、「選抜ひたちたから」、「選抜パワー」という売り方も検討していければと考えています。

  • しぶを逆手にとった動きも出ています。小美玉市のJA新ひたち野では、「マルタマ新レンコン」という名前で、8〜9月期間限定で販売を始めました。赤しぶは最後まで呼吸していた新鮮な証、という売り方です。10月以降出荷のものはカラ刈りもしますが、1番早く出すものをこのようにして売っています。

  • 注意が必要な病気は、褐斑病。葉が全部枯れて、焼けただれたようになります。栄養分が作れないので地下茎が膨らまないか、膨らんでも栄養分が入らずスカスカになってしまいます。収量も上がりません。また、腐敗病は水が抜けると出やすいので、水管理が重要です。

  • ハスモンヨトウの幼虫は、葉をかじるので地下茎に栄養分が供給されません。アブラムシによって、葉が早いうちに折れてしまうこともあります。イネネクイハムシは、直接れんこんをかじる虫で、水の中に隠れてしまい防除がむずかしい。もちろん収穫した時に産地で全部排除し、みなさまの目に触れることはないと思いますが、こういうものが発生すると収量が上がりません。

  • 鳥もれんこんをかじります。かじられると腐敗したり、芽を折られることもあります。南の方では、亀による食害も問題になっています。

  • 浮き草が表面を覆うと、水温が上がらず、不作につながります。網ですくう、除草剤を使うなどされていますが、温暖化の影響もあるのか、圃場によっては増えています。外来種の雑草も脅威です。
◇れんこんの食べ方
  • れんこんの消費が伸びないのは、食べ方がわからないからだとよくいわれます。県のポータルサイト「茨城をたべよう」にはれんこんのページもあり、買えるお店やレシピが載っていますのでぜひごらんください。(https://www.ibaraki-shokusai.net/brand/lotus-root/

  • JAグループ茨城のサイト「Amore(アモ〜レ)」でも、県内のいろいろな作物を紹介しています。れんこんの炒めものやサラダなど、おすすめレシピも載っていますので、ごらんください。(https://www.zennoh.or.jp/ib/amore/

  • れんこんを切ると糸を引くのは、ネバネバ成分が入っているからです。すり下ろすと、よりネバネバ感が出ます。この成分は、花粉症などのアレルギー、胃潰瘍、風邪に効果が期待できる、といわれています。タンニン、炭水化物が豊富で、食物繊維、ビタミンC、カリウムも含む体に良い食べものです。

  • 茨城県産はシャキシャキ感が売りで、南の方から来るものはもっちり感が魅力です。穴が開いていて「見通しが良い」、「先が見える」、縁起が良い食べものともいわれます。クセやにおいはなく、味が淡泊で、さまざまな料理に使いやすいのも特徴です。

  • おいしいれんこんの見分け方は、丸くて肉厚で、持ったときに重いもの、表面が薄めの褐色のもの。しぶがついていても、傷んでいるわけではありません。

  • 3〜4個ついているれんこんは、大きい側にデンプンが多く、先端の方がビタミンが多い。食感が違うので、分けて使うといいでしょう。先端は生など、あまり加工せずに食べるのがおすすめです。芽ばすは、あくが少なく甘みもあっておいしい部位です。1本売りとか贈答用で芽がついていたら、ぜひ食べてみてください。

  • 茨城県には、れんこんを使った加工品も各種あります。れんこんカレー、れんこんパウダーを練り込んだそばやうどん、形を生かしたれんこんサブレーもお土産として、好評をいただいています。

  • 11月17日は「れんこんの日」です。以前、この日に「れんこんサミット」を開催したので登録しました。11月中、県では、「れんこん料理フェア2023」を開催しています。去年からは、県産の食材にれんこんの素揚げチップスをのせた「茨城ガパオ」が食べられるお店をPRし、「こういうふうに作ってね!」と紹介しています。八百屋さんにも、れんこんはいろいろ使えることをお客さまにすすめていただければありがたく思います。
◇質疑応答より

    Q:茨城県では、JAから芽ばすを買って生産するのが一般的なのでしょうか?
    A:種ばすを農協で買うのは「選抜ひたちたから」と「選抜パワー」など、選び出した4系統。一度買った後は、次年の種ばすを育てて使います。何年も同じ種ばすで作ると、収量が上がらない、最初と形が違ってくることがあり、新たな種ばすを購入したり、登録品種でなければ近所の方に分けてもらって、そこから更新をします。

    Q:農家さんが作っているのは基本的に1品種なのか、早生と晩生の品種でしょうか?
    A:何種類か作っています。早生はすね上がり(基部の老化)が起きるので、年明けまで持つ品種も作ります。年明け用の品種は、台風などで葉が折れて収量がなくなることもあるので、早めに太る早生を入れてリスク分散されています。

    Q:何種類か作るとなると、畑で交配しないように、畑ごとに品種を変えて作るのですか?
    A:多くは1つの田に1つの品種。2品種作る場合は、間を板で仕切って混ざらないようにしています。

    Q:しぶ抜きをすると、土中の期間が長くなりますね。鮮度によって味に違いはあるのでしょうか?
    A:味が変わるほどは置きません。暑い時期はカラ刈り後1週間 から10日ぐらい。冬に近くなると、置いておく時間は少し長くなりますが、鮮度が悪くなることはありません。

    Q:うちでは1年中れんこんを扱っています。基本は茨城ですが、間が空く時期に熊本なども使います。値段が高く、かたくてあまりおいしいとは思えないのですが、これは地域性ですか?
    A:品種や温度にもよるのではないでしょうか。茨城県の生産者もよい晩生品種の栽培を考えています。若手の方から、自分たちで交配していい晩生を作ろうという動きがあり、何年かお待ちいただくことにはなりますが、4月にいい状態で出せる品種ができ、周年安定出荷できることを願っています。

    Q:れんこんの穴は、夏場にすごく大きくて、長年の謎なので、理由をご存じでしたら教えてください。あと、茨城の「れんこんサブレ―」、穴が若干斜めにきれいに開いているのはうやって作っているんだろう? と思ったので、その2つについて教えていただければと思います。
    A:穴が大きいのは、おそらく早生品種でそういう特徴があるのではないかと思います。「れんこんサブレ―」は工場を見に行ったことがないのでわかりません。ごめんなさい。

    Q:れんこんの切り口は、酢水に浸けると変色しないといわれますが、切り方などで防げないのですか?
    A:普通に水につけておくだけでもガードはできます。空気と触れないようにしておけば、色は変わりません。

    Q:品種改良にはどのような方法がありますか?
    A:今ある品種からより良さそうな系統を選抜していくのが1つ。いいと思うものを掛け合わせた種を栽培し、その中からまたいいものを選ぶ、というやり方もあります。

    Q:れんこんの穴は何個ですか?数は決まっていますか?
    A:正確な数を覚えていないのですが、植物としてだいたいの数は決まっています。(後で調べました。8〜10個ぐらいが一般的のようです)