■2014年11月9日 第8回 山芋類・みかん 〜 講演「山の芋と里芋」 千葉県農林総合研究センター 水稲・畑地園芸研究所 鈴木健司氏
◇千葉県農林総合研究センターについて
  • 千葉県農林総合研究センターは、千葉県各地に支所があり、千葉県内を対象に、農業、林業にかかわる栽培、育種、病害虫などの研究を行い、農業生産の振興のために、さまざまな試験を進めています。

  • 私の職場は香取市で、地域的には、サツマイモの産地です。芋類、根菜類を中心に、栽培試験を担当しています。

  • 千葉県農林総合研究センターで育成した最近の主な品種としては、花の色も実も楽しめるいちごの新品種「紅香」、「桜香」。お米の「ふさこがね」、「ふさおとめ」。トマトではオレンジ色でビタミン、カロテンが豊富な中玉系の「ちばさんさん」。大きな落花生「おおまさり」。花では、バラのように花弁の多い球根性のベゴニア「ファンタジーシリーズ」を3品種。里芋は、丸くて大きく、やわらかくて口当たりがいい「ちば丸」などがあります。

千葉県農林総合研究センター
水稲・畑地園芸研究所 鈴木健司氏
◇千葉県の農業
  • 千葉県は農業生産が盛んな県で、耕地面積は127,700ha。生産額は全国3位で、中でも園芸部門は全体の48%を占めています。

  • 農産物の全国ランキングを見ると、千葉県は、落花生、日本なし、ダイコン、ネギ、ホウレンソウ、枝豆などが1位。サツマイモ、ニンジン、スイカ、ビワなどが2位。サトイモ、ヤマノイモは3位の生産額です。
◇ヤマノイモ、サトイモの来歴
  • ヤマノイモやサトイモは、日本で古くから作られている野菜で、稲作文化が入る前からあった、といわれています。東南アジアの根菜文化の基幹、ともいわれる作物です。人里で栽培されている「里芋」に対して、山から採ってくる芋ということで「山芋」と呼ばれています。

  • ナガイモは中国・雲南省が原産。ジネンジョは日本原産の品種です。国内ではこの2種類が主に栽培されています。ヤマノイモには温帯原産、熱帯原産のものがあり、北海道から沖縄まで日本各地で栽培が可能です。

  • サトイモは、インド東部からマレー半島にかけての熱帯アジア原産です。中国を経由して日本に入ってきた、といわれています。

  • タロイモのように大きな親イモを食べるタイプのサトイモは南方から入ってきたものです。サトイモは熱帯性の作物なので、栽培地域は東北以南、岩手が北限です。
◇ヤマノイモについて
  • ヤマノイモ属は世界に600種ほどあるといわれています。国内で栽培されているのは、「ナガイモ」、「ジネンジョ」、「ダイジョ」、「カシュウイモ」の4種類。植物分類的には、「ナガイモ」の中に、ナガイモ群、ヤマトイモ群、ツクネイモ群が含まれます。

  • 「ナガイモ」は、別名、「いちねんいも」、「とっくりいも」などとも呼ばれます。棒状の芋で、雄株しかありません。

  • ヤマトイモ群は、「ヤマトイモ」のほか、「いちょういも」、「手いも」とも呼ばれます。千葉県では、「ヤマトイモ」が多く栽培されています。

  • ツクネイモ群は、「大和いも」、「伊勢いも」、「まるいも」とも呼ばれます。

  • 「ヤマトイモ」と「ツクネイモ」には、雌株しかありません。ですから、「ナガイモ」同士、「ヤマトイモ」同士の交配はできません。「ナガイモ」の産地では、粘りや品質を高めるために、「ナガイモ」と「ツクネイモ」や「ヤマトイモ」を交配して新しい品種を育成しています。鳥取の「ねばりっ娘」、カネコ種苗の「ネバリスター」は、「ヤマトイモ」と「ナガイモ」を掛け合わせたものです。青森県の「つくなが1号」は、「ツクネイモ」と「ナガイモ」の交配です。

  • 交雑育種が難しいので、突然変異の中からも探します。品質や形がよりいいものを選び続けることによって、品質を保っています。

  • 一般的には、最も粘りが強いのは「ツクネイモ」、続いて「ヤマトイモ」、「ナガイモ」の順で、肉質のきめ細かさや舌ざわりも、その順で、よりなめらかだといわれています。

  • 「ジネンジョ」は日本原産で、「ヤマイモ」とも呼ばれます。原生林など完全に自然なところではなく、山林、茶畑など、人間の手の入っているところに生えています。ある程度日の当たる北斜面で育つといわれており、うっそうと木が茂った山とか、乾いている場所では育ちません。自生のものはかなり減少しているので、今は、畑で栽培しています。

  • 「ジネンジョ」には雄雌があります。ひとつの株に雄と雌がつくのではなく、雄の株と雌の株の2種類があります。イモ類は一部分を切ってタネイモにして繁殖するので、雌株はすべて雌、雄株はすべて雄になります。

  • 「ジネンジョ」は、非常に粘りが強く、肉質が緻密でなめらかなのが特徴です。特有の香りがあり、それが好まれる場合もありますし、料理によっては向かないこともあります。九州の「かるかん」も、高級品は「ジネンジョ」を使うそうです。

  • 「ダイジョ」は、「台湾ヤム」、「アラブイモ」とも呼ばれる南方系のヤマイモです。インドシナ半島が原産で、肉質はゆるく、ひとつの株にいくつもイモがつく特徴のあるイモです。寒さに弱く、最低気温が10℃くらいないと傷んでしまいます。

  • 「カシュウイモ」は、市場にはほとんど出ていません。家庭菜園用や、グリーンカーテンに使われたりします。熱帯アジア原産、アフリカ原産の2種類があり、「宇宙イモ」、「エアーポテト」とも呼ばれます。「むかご」が非常に大きくなるのが特徴で、葉のつけ根に100グラム以上のむかごがつきます。
◇栽培の概要
  • ヤマノイモは植物学的には茎です。「担根体(たんこんたい)といい、じゃがいもなどとは組織の構造が異なる特殊な形態の茎です。

  • ヤマノイモは、1年で育ちます。タネイモを植えると、芽がツル状に伸び、株元に根が出てきて、肥料や水分を吸って育ちます。茎の元に小さな芽ができて、それが下のほうに伸びて肥大したのが新イモです。

  • 地上部がよく育って栄養を蓄え、イモに送ると大きくなります。タネイモが大きいと、それだけ元のチカラがあるので、よく育ちます。

  • 山堀りの「ジネンジョ」で、3年もの、4年ものだから大きくていい、などといいますが、1回肥大したイモをそのままにしておくと、それがタネイモになり、その養分を使って翌年に次のイモができます。これを繰り返すと、元の栄養が多いので、それだけ大きなイモが育つ、ということです。

  • 葉のつけ根にできる「むかご」は、茎が縮んで丸くなったものです。

  • ヤマノイモの生育適温は、20〜30℃です。貯蔵温度は、5〜6℃で良いのですが、1年以上とっておくためには、芽が動いてしまうので0〜2℃が適温です。

  • 栽培には、肥沃で排水がよく、乾きにくい畑が向いています。イモそのものは低温に強く、凍らなければ大丈夫です。乾燥すると肥大が滞り、奇形の原因になります。
◇国内のヤマノイモの生産について
  • 2012年(平成24年)のデータによると、全国のヤマノイモ売上は435億円。そのうち、北海道、青森県の「ナガイモ」が7割くらいを占めています。北海道では、肥大性がよい、ウイルスフリーの系統を使い、収量性も上がっています。「ナガイモ」は、「ヤマトイモ」の約10倍の生産量があります。

  • 千葉県のヤマノイモ全体の生産額は34億円で、面積は全国の8%くらいです。「ヤマトイモ」の生産量は「ナガイモ」の1/10くらいですが、群馬県と並んでいます。関東では「ヤマトイモ」、関西では、京都府、愛媛県などで「ツクネイモ」が多く作られています。

  • 千葉県内の主な産地は、多古町、佐倉市、旭市、香取市、山武郡、八街市など。肥沃な火山灰土で生産されており、地域に応じた系統を使用しています。畑に合った系統を使っているのが特徴のひとつです。

  • 千葉県でのヤマトイモの栽培は、4〜5月にタネイモを植えつけ、株元に土を盛り、イモが肥大しやすくします。夏場にかん水し、10月半ばに収穫を開始します。一年中、計画出荷されており、3月以降は貯蔵したものが出荷されます。

  • タネイモは暖かいと腐りやすいので、2月頃に準備します。1個80グラムぐらいの大きさに切り、冷蔵庫や土の中に貯蔵して、時期が来ると畑に植えつけます。植えつけは、手作業ではなく、専用の機械があります。

  • 「ヤマトイモ」は、支柱を立てずに栽培します。「ナガイモ」は支柱を立て、塀のように高くして栽培します。「ツクネイモ」はちょっと高くして栽培しています。

  • 10〜11月になると、葉が黄色くなり枯れてきます。その地上部を片付け、土の中のイモを掘り上げます。コンテナにポリ袋を入れた中に、泥つきの「ヤマトイモ」を入れていきます。

  • 周年出荷なので、掘ったものは泥つきのままポリ袋に包んで冷蔵庫で貯蔵します。出荷時期になると、各生産者が「ヤマトイモ」を洗って泥を落とし、きれいな形にととのえて、出荷場に運びます。

  • 出荷場では、選別、真空パックしたものを等階級別に箱詰めします。「ヤマトイモ」は、他のイモと違い、肌が弱く乾きやすいので、青果物ですが、真空パックして出荷されます。

  • 「ジネンジョ」は非常に長いので、見た目は立派ですが、流通にはあまり向きません。千葉県での栽培は南のほう、君津、市原、袖ヶ浦、上総、長生地区、館山など。面積は約5ヘクタール、10万本くらい生産されています。市場出荷はほとんどなく、直売所で販売され、お歳暮などの贈答品として好評です。病気にかかると生育が悪くなるので、ウイルスフリー化したものを使い、健全に肥大させます。栽培には、味、粘りがいい系統を選んでいます。

  • 「ジネンジョ」は、病気や虫の害に弱いので、まったく消毒せずに栽培するのは困難です。今は、山口の改田氏が開発した容器で栽培する方法が主流です。千葉県では半分に切ったパイプを用い、中に無菌の土を入れ、それを地中に斜めに並べて埋めます。50グラムぐらいの大きさに切ったタネイモをおき、まわりに土を被せます。支柱にネットを張って誘引し、8月後半〜9月頃になると花がつきます。

  • 「ジネンジョ」の実は「はなたかめん」とも呼ばれ、この実も天ぷらや唐揚げなどで食べることができます。葉の元には、むかごもつきます。イモの種類によってむかごの味も違い、粘りのあるイモのむかごは粘りが強くなります。

  • 熟してくると、実が茶色くなり、中に平たいタネができます。収穫期になるとパイプを引き上げ、中に入っている肥大したイモをとります。1メートル以上になるイモなので、そのまま植えると深くなりすぎて、傷がつくと変色の原因にもなります。このような容器を使うことで、栽培化が成功しました。
◇サトイモについて
  • サトイモは、1株にたくさんイモがつきます。熱帯原産で、サトイモも茎が肥大したものです。野生のサトイモは、ひょろひょろとしたヒモのような形で、それが長い年月をかけて選抜され、現在のような丸いイモになった、というわけです。

  • タネイモを植えると芽が出て、小さくて短い茎が伸び、それが肥大して親イモができて、その脇に子イモ、さらに孫イモができます。一般的には、孫イモが市場に出荷されています。1株に新しいものと古いものが混ざっているので、選んで出荷します。

  • 「たけのこいも」、「八つ頭」、「海老芋」、「セレベス」、「石川早生」、「ちば丸」、「善光寺」などはすべてサトイモの一種です。各地で、地域にあったさまざまな品種が作られています。

  • 東京市場では、6月の鹿児島から始まり、「石川早生」が出荷され、そのあと、年末はさまざまな品種が入ってきます。

  • 千葉県では、北東の火山灰土の地域を中心に栽培されています。秋から春先にかけて、「土垂」、「ちば丸」を、年末に「セレベス」、「八つ頭」を出荷しています。「石川早生」は、トンネルやマルチで栽培、7月下旬から出荷されます。「石川早生」は10アールあたり4000〜5000本と、密植して栽培します。茂ってくると、土を寄せ、かん水して、収穫。集出荷場で選別して箱詰めします。

  • サトイモの貯蔵適温は、8〜10℃。畑に穴を掘り、株のまま地中に埋めています。4月初め頃まで貯蔵し、その都度、出して出荷します。
◇「ヤマトイモ」の選び方と保存方法
  • 「ヤマトイモ」は、傷つかないように真空パックされています。買ったらパックから出し、乾かないようにして、低温で保存してください。

  • 色がよくないと品質が悪い、ということではありません。イモの肌はデリケートなので、畑の土質や、ちょっとした刺激によって、色が濃くなったり、模様がついたりします。昔は、次亜塩素酸で色を白くしていたこともあったようですが、今はそうしたことはせず、本来の色で出しています。

  • できるだけととのった形のものを育種、選抜していますが、天候条件、土壌条件などにより、変形するものもあります。すくすく育ったものより、やや苦労して育ったもののほうが、粘りがあります。

  • 千葉県では「ヤマトイモ」のウイルスフリー化の試験に取り組んだことがありますが、ウイルスフリー化すると粘りが落ちるため、実用化していません。

  • 10アールあたり400キロのタネイモから収量は2トン、と増殖率は低いのですが、その中で品質のいいものを選んでいます。

  • 切り口は、白く新鮮なほうが良品です。中が変色していたり、青カビが発生しているものは病気です。

  • ヤマノイモ類は、品種によって、すると色が変わります。「ヤマトイモ」は、若いものは色が変わりやすく、「ジネンジョ」は傷があると変わりやすい、といわれます。これはポリフェノールの一種なので、安心して食べてけっこうです。

  • 保存は0〜2℃が適温です。
◇サトイモの選び方と保存方法
  • サトイモは、健全にすくすく育ったものがおいしい、とされます。縞がはっきりしていて、均一に肥大しているものが良品です。

  • イモが取れたあとがあるもの、切り口が大きいものは、古いイモです。

  • 四角いものは、土がかからずに日の当たりやすいところで育ったので、えぐみがある場合もあります。

  • くびれているのは、途中で生育が止まってしまったものです。
◇千葉県の育成品種について
  • 「ヤマトイモ」は、千葉県には統一品種はなく、各産地ごとに栽培環境が異なるので、それぞれで使い分けています。

  • 「ふさおうぎ」は、1989年(平成元年)に育成して登録した「ヤマトイモ」で、県内で2〜3割使われています。いちょう型で、粘りがあります。ただ、乾燥に弱い面もありました。

  • くびれの入りにくい品種として育成した「ヤマトイモ」が、「千系53-16」です。系統名だけで品種には至らなかったのですが、県内では一定の割合で栽培されています。

  • 「ジネンジョ」は、ウイルスフリー化した選抜系統を作っています。そのほか、品種登録した「ちばとろ」は、「ジネンジョ」本来の粘り、食感を備えつつ、短くて扱いやすい品種です。とろろも変色しにくいのが特徴です。形は「ナガイモ」のようですが、純粋に「ジネンジョ」で、「ナガイモ」や「ヤマトイモ」の血は入っていません。

  • サトイモは、粘りが強く味が濃い「土垂」も作られていますが、私たちは、やわらかく、粘りが強すぎず、肉質がなめらかな「ちば丸」を育成しました。サトイモの消費が減っているので、「ちば丸」のようなこれまでとは違う食感のものもいいのではないでしょうか。煮ころがしだけでなく、さまざまな料理のレシピ集や、シンプルに焼くだけ、という提案もしながら販売しています。
◇質疑応答より

    Q:「ジネンジョ」の雄と雌の違いを教えてください。
    A:イモの状態で見てもわかりません。育てている過程で、花を見ればわかります。食べくらべで判断するのも難しいと思います。

    Q:お客さまに、「むかごって何?」とよく聞かれるのですが、どう答えればいいのでしょうか?
    A:ツルについているイモで、形態としては茎です。実やタネではありません。例えば、葉っぱの元についたイモの赤ちゃん、などと説明してはいかがでしょうか。むかごも埋めればタネイモになります。

    Q:「ヤマトイモ」にも形がいろいろあるのはどうしてですか?
    A:作り方や系統もありますが、棒状になりやすいものと、手のひら型になりやすいものがあり、使い分けて作っています。また、育ちがよくなると下が広がりやすい、という特徴もあります。

    Q:「石川早生」は、早く作るための品種なのですか?
    A:早生というだけあって早く収穫でき、植えてから4ヶ月くらいで収穫可能な品種です。晩生の品種では5〜6ヶ月かかるものもあります。

    Q:イモにF1はあるのですか?
    A:タネは普通はとれないのでF1はできません。

    Q:ヤマイモを触って手がかゆくなるのは仕方がないこと?
    A:シュウ酸カルシウムという小さい針状に結晶化したものが入っているので、かゆくなります。手袋をしたり、酸で溶けるので、酢に浸けておけば大丈夫です。かゆくならないものを作れるといいのですが、作物的には外敵から身を守るためという目的があるので、この成分を除くと害虫などに弱くなるかもしれません。

    Q:褐変しないようにするには酢水に浸けるといいのでしょうか?
    A:はい、酢水に浸けると酸化しないので、変色を防ぐことができますし、ちょっとした褐変なら元に戻る、と聞きました。

 
 

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