■2015年2月15日 第11回 ほうれん草・メロン 〜 講演「ほうれん草」について (株)サカタのタネ 野菜統括部 山根哲哉氏
◇ほうれん草の来歴など
  • 英名は、「SPINACH」。学名は、「Spinacia oleracea L.」。和名では、「法蓮草」や「菠薐草」と表記されます。原産地は中央アジアで、「菠薐」というのは中国語でペルシャを表す漢字です。そこから西洋に伝播したもの(西洋種)と、シルクロードを通って中国に伝わり、日本に入ってきたもの(東洋種)があります。生育適温は15〜20℃、暑いのは苦手な作物です。

  • 中央アジアから派生して行くにあたり、東洋種と西洋種の2つに分かれたわけですが、食の好みが分化に影響したのではないか、と考えられます。
(株)サカタのタネ 野菜統括部 山根哲哉氏
  • 東洋種(日本種)は、剣葉種ともいい、剣のような刻みが葉に入るタイプです。葉が薄めで、色も薄く、アクが少なくて食べやすいのが特徴です。サッとゆでて食べやすいところが、東洋の人々の食文化にマッチしたのではないでしょうか。

  • 東洋種(和種)には、「禹城(うじょう)」、「次郎丸」、「豊葉(ほうよう)」などの品種があります。家庭菜園用などで一部残っていますが、耐病性の問題など作りにくい部分もあります。

  • 西洋種は丸葉で、葉が厚く大きくて、軸も太めのタイプ。アクや渋味は強く、食感もややかためです。西洋では、このようなタイプが発達していきました。西洋種には、「ノーベル」、「キングオブデンマーク」、「ビロフレー」などがあります。

  • 今、栽培の主流は、東洋種と西洋種、両方の特性を持った中間種です。

  • ほうれん草の旬は秋から冬にかけてですが、今は通年お店に並んでいるので、一般の方にはわからないかもしれません。
◇ほうれん草の種子について
  • ほうれん草の種子はもともと薄茶色で、かたい皮がついています。その皮を除き、中の胚をむきだしにして販売されるケースもあります。

  • 種子についている赤や緑の色は、添着した消毒薬の色です。種子の表面についている雑菌を抑え、芽が出たばかりの苗は弱いので、初期に土中の雑菌を抑える効果もあります。

  • 西洋種は丸種、東洋種は針種が多いのですが、針種は扱いづらく、播種機で蒔きにくいので、現在主流の中間種は丸種になるように育種されています。
◇ほうれん草の品種について
  • 「まほろば」は、サカタのタネの品種で、東洋種と西洋種の掛け合わせです。東洋種の血が強いので、アクが少なくて食べやすく、軸に甘みがのるのが特徴です。

  • 「ちぢみほうれん草」は、10年ほど前から出てきたものです。品種は、丸葉系のものが使われます。ハウスで作ると生育が早いため、葉は上に伸びがちですが、露地に出すと葉が開く傾向にあります。また、露地では、生育が遅くなり、寒さのなかでゆっくり育つ間に、葉がちぢんでおいしくなります。

  • 「まほろば」は関東ではちぢみにくいのですが、仙台あたりで育てると、「ちぢみほうれん草」になります。
◇ほうれん草の栄養価について
  • ほうれん草には、ビタミンAが豊富に含まれています。β-カロテンは、ビタミンAに変換されるカロテノイド。ルテイン、ゼアキサンチンも、抗酸化力のあるカロテノイドです。

  • ビタミンB2も含まれ、脂質を分解する作用があります。

  • ビタミンCは水に溶け出しやすい成分で、油には溶けないので、ほうれん草を油炒めにすると欠失が少なくなります。ゆでる時間は短めのほうが、ビタミンCが保たれます。

  • ほうれん草に含まれる鉄分は、牛レバーに匹敵するといわれています。

  • 栄養素以外の成分として、ほうれん草には、シュウ酸が含まれます。腎臓結石や、カルシウムの吸収を妨げるため骨粗しょう症の要因になるといわれますが、水に溶けやすい性質があるので、しっかりとゆでれば、含有量を下げることができます。ただ、しっかりゆでるとビタミンCは欠損してしまいます。ビタミンCなどの栄養素を優先するのであれば、ゆでる時間は短めにして、乳製品、魚、野菜ではパセリなど、カルシウムの高い食物をいっしょにとれば、シュウ酸はカルシウムと結びついて、排出されます。

  • よくあるクレームとして、葉の裏や軸の付け根に白い粒が付いていることがあり、知らない人は虫の卵かと思ったりするそうですが、これは、シュウ酸の結晶で、栄養吸収を阻害するものを排出しているだけなので、特に問題はありません。

  • 硝酸態窒素は、植物が根から吸収するもので、シュウ酸とはまったく別のものです。葉先に集中することが多く、生で葉の先を食べると渋みを感じることがあります。これが硝酸態窒素の味です。光合成により分解されるので、曇天続きのあとなどに硝酸態窒素が濃くなると、渋みが強くなります。硝酸態窒素が蓄積すると、土臭いと感じる人もいるようです。
◇ほうれん草の採種方法
  • ほうれん草は、「雌雄異株」といって、雄花と雌花があります。種を採るときは、雌花をたくさん植えます。雄花は花粉を供給するだけの役割です。「風媒」といって、風で花粉がかかります。
◇ほうれん草の育種の着眼点
  • ほうれん草を育種する際に重視されるのは、まず、色が濃いこと。薄い色のものは日が経っているように思われてしまうことが多いためです。収量を多くするためには、葉が厚く、大きいもの。作業性として、軸が立つもの。掴みやすく、収穫しやすいためです。軸がしなやかで折れにくいことも大切です。

  • トウ立ちを遅くすることも重要なポイントです。東洋種が秋から冬にかけてしか作れないのは、トウ立ちしやすいためです。夏至近辺は作れなかったので、晩抽性のある西洋系品種と交配して育種しています。

  • 低温伸長性といって、低温でもしっかりと生育が進むことや、べと病、萎凋(いちょう)病に対する耐病性も求められます。

  • 害虫のコナダニは、乾燥していると出やすいので、水分管理をしっかりすれば大丈夫です。
◇ほうれん草の作型
  • 夏場の暑い時期は萎凋病が出やすく、トウ立ちの問題もあるので、冷涼地で作ります。

  • 一番作りやすいのは、8〜9月蒔きの秋採りです。10月末蒔きのものがお正月ぐらいに、11月以降に蒔いたものが春に出てきます。
◇ほうれん草の入荷量と価格
  • 夏場に東京都中央卸売市場に入荷するほうれん草の量は減少します。

  • 単価は、年間平均で90円ほど。高いときは150円、安いときは30円。安いと農家さんとしてはつらいと思います。
◇ほうれん草のトウ立ちについて
  • 夏至の近辺は一番日長が長く、ほうれん草はそれを感じて、花芽を分化します。これを抑えるために西洋種と交配するわけです。夏至でもないのにトウ立ちするというクレームがあり、畑に行ってみたら、近くにある街灯を長日と感じてトウ立ちしてしまった、というケースもありました

  • 北海道は緯度が高く日も長いため、特にトウ立ちの遅い品種が必要です。

  • 晩抽種品種は、デンマークなど、北欧で採種されています。
◇ほうれん草の生育しやすい環境
  • ほうれん草が生育しやすい環境を作るには、畑に堆肥や微生物資材を入れ、団粒構造を促して、排水性、保水性を良くする。播種期に応じた品種の選定、遮光資材の活用により、暑すぎない環境を作る。苦土石灰などを施してpHを上げ、アルカリ性の土壌にする。サブソイラーで岩盤を砕き、根が深く張れる環境を作る、などが挙げられます。

  • ポパイでも、ほうれん草は栄養価が高い野菜になっていますが、シュウ酸、硝酸態窒素などについては、誤った説も流れています。正しい知識や、今の時期は特にしっかりと甘みがのっておいしい、旬である、ということなど、八百屋さんからお客さまに伝えていただけたら幸いです。
◇質疑応答より

    Q:今の時期のほうれん草は露地物が多く、根の色が鮮やかな赤ですが、時期外れのものは色が薄いと思います。それは、品種の違いなのでしょうか?
    A:根の色が赤くなりやすい品種はあります。また、生育スピードが早いと赤い色が出てこないこともあります。ハウスのほうが生育が早いということもあるかもしれません。

    Q:昔、色の薄い野菜のほうがおいしい、と聞いたことがあるのですが、ほうれん草の色を濃く改良することによるマイナス面はあるのでしょうか?
    A:マイナス面はゼロではない、と思います。色が薄い東洋種は、日本人好み味でしたが、西洋種の血を入れて、色を濃く、葉を厚く、軸を太くした中間種は、東洋種の食味とは違います。

    Q:「ちぢみほうれん草」が出てきた頃、霜にあたってちぢむ、と聞いたのですが、もともとちぢむ品種という話もあります。どちらが正しいのでしょうか?
    A:当社では、「ちぢみほうれん草」向けの品種は育種していません。ちぢみやすい系統を使用しているのだと思います。

 
 

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