■2015年10月18日 第7回 さといも・西洋なし 〜 講演「匂淡し 西洋なし」 落葉果樹育種研究会会長 地農研会長 佐藤和美氏
◇西洋なしの概要
  • 西洋なしの学名は「Pyrus communis L.」。植物学的には、バラ科(Rosaceae)ナシ亜科(Pomoidea)ナシ属(Pyrus)に属します。

  • 原産地は中国西部の山岳地帯。第3紀時代(白亜紀)に発生したと考えられています。山脈沿いに東と西の両方向に向かって種分化が起きたと考えられており、東に向かったのが東洋なし、西に向かったのが西洋なしです。

  • 第一自生地は、中国北部。この種は中国なし、日本なしです。
落葉果樹育種研究会会長・地農研会長
佐藤和美氏
  • 第二自生地は、インド北西部、アフガニスタン、タジク、ウズベキスタン及び天山山脈からなる中央アジア。これが西洋なしです。

  • 第三自生地は、コーカサス山脈と小アジアからなる近東。今もある交雑種で、二次的な交雑がおきた、と考えられます。

  • 西洋なしのさまざまな品種は、中世ヨーロッパの修道院で生まれた、といわれています。「ラ・フランス」は、150年前にフランスでクロード・ブランシュさんという人が見つけた、と伝えられています。また、西洋なしの形は女性の象徴とされ、聖母マリアと西洋なしが描かれた宗教画もたくさんあります。
◇「ラ・フランス」と「ル レクチェ」の違い
  • 「ラ・フランス」と「ル レクチェ」は、見た目や食感はもちろん違いますが、一番違うのは香り成分だと思います。「ル レクチェ」に含まれる酪酸ヘキシルという成分が、「ラ・フランス」にはありません。

  • においというのは、すごく人の記憶に残る物質だそうです。私は硫黄のにおいを嗅ぐと、温泉のある蔵王を想像します。ハワイの空港は花、カナダは木、台湾は線香のにおいがしますし、春には春のにおい、冬は雪のにおいがします。知り合いの写真家の人は司馬遼太郎さんと親しくて、よく西洋なしを届けたそうです。そうしたら、司馬遼太郎さんが亡くなる直前、ほとんど何も食べられない状態のときに「西洋なしを持って来て」と言われたそうです。よぼど、西洋なしの香りが記憶に残っていたのでしょう。
◇「Regal Red Comice」(リーガル・レッド・コミス)について
  • 「Regal Red Comice」(リーガル・レッド・コミス)は、1960年にライル・キンネー氏が発見した品種です。

  • 過去の「西洋なしフォーラム」の交流会で、今後どんな品種がいいのか、という話になったことがあり、私は、「赤い西洋なしがいいのではないか」と言いました。日本では赤くて丸いものははずれたことがないそうです。そこで、赤い西洋なしを調べたところ、「Regal Red Comice」がジーンバンクに保存されていました。外部には出せない、ということでしたが、いろいろ働きかけて、ようやく研究用に作れるようになりました。2011年に栽培を始め、結実して2年目です。果物には栽培適地があり、それを判断するには、実際に自分で作ってみて、データを取るしかありません。

  • 西洋なしの冷蔵貯蔵の技術は、今は一般的になりましたが、30年前、横浜にある金港青果の人から、「岩手にバートレットなどの西洋なしを冷蔵貯蔵しているところがあって、それが非常においしい」と聞き、行ってみることにしました。そこで栽培されていた「フレミッシュ・ビューティー」という品種は石細胞が多く、食感がザラザラするので、それをなくそうという発想から冷蔵貯蔵を始めたそうです。私たちが、「ラ・フランスを消費地に出すためには輪紋病が一番こわい。高温だと発生しやすいので、これを解決したい」と熱く訴えたところ、冷蔵貯蔵の方法を詳しく教えてくれました。

  • 「Regal Red Comice」という品種は、形がいろいろで、果皮には縞模様があったりなかったりします。これは、キメラタイプと単一遺伝子タイプがあるためです。キメラとは同一個体内に複数の遺伝子を持つタイプで、縞が入るのが特徴です。ちなみに、キメラの語源はギリシャ神話のキマイラで、頭がライオンでやぎの胴体、へびの尾からなる怪物です。今後「Regal Red Comice」を育種する上で、キメラか、単一遺伝子タイプのどちらにするか、今、考えているところです。
◇西洋なしの品種あれこれ
  • 西洋なしには、「オーロラ」、「ゴールドラフランス」、「チャピン」、「デボー」などなど、さまざまな品種があります。

  • 「ブゥーレボスク」という品種は、ドイツでは「カイザークローネ」と呼ばれています。「バートレット」は、イギリスで育成された品種で、イギリスやヨーロッパでは、「ウィリアムス(正式にはウィリアムスボンクエッチン)」と呼ばれています。それがアメリカに入り、バートレットさんという人が生産に成功したので、この名前が広まりました。このように、同じ品種でもいくつか違う名前を持つ西洋なしがあります。

  • 「セッケル」は早生タイプで、糖度が高く、味も濃いのですが、生産性が低いのが問題です。私も山形のアンテナショップから求められて作っていますが、店に出すとすぐに売れてしまうそうです。

  • 「ミクルマスネリス」は、「メロウリッチ」の親です。

  • 「月味」は私が作った品種で、親は「ラ・フランス」です。「ラ・フランス」は通常2倍体ですが、3倍体のものもあります。

  • 「ライマーレッド」は、名前にレッドと入っていますから、開発したところでは赤かったのでしょう。日本に入ってきたときには赤くなかった。西洋なしは、栽培する場所によって、色や形が変化します。
◇その他
  • 西洋なしは、病気に弱い果物です。特に、火傷病は、品種によっては一晩で消滅するぐらいこわい病気です。アメリカで大発生することがあり、韓国にはなかったのですが、今年の6月に発生し、生産物や苗木が輸入停止になりました。こういうことも知っておいたほうがいいと思います。

  • 私は、西洋なし以外にも、食用菊やさくらんぼの研究をしています。 表が黄色、裏が赤の食用菊は、キメラです。えぐみがないので生でもいいと思います。さくらんぼは、近年の温暖化のために、既存の品種が高温でやられてしまうことが多々あります。その影響を少なくするには、早生で作るしかないのかもしれませんが、早生は90%が赤肉です。白肉になると果肉がやわらかくなってしまう。早生で糖度があり果肉がかたい品種を開発しようとしているところです。
◇質疑応答より

    Q:キメラの西洋なしの話がありましたが、同じ樹に違う様子のものがなるのでしょうか?
    A:そうです。割合は圧倒的にキメラが多い。キメラに関してはまだ未知の部分が数多くあります。

    Q:西洋なしは、樹なりではやわらかくならないのですか?
    A:既存の品種は、追熟が必要です。それにより、中にエチレンが発生して熟します。「ミクルマスネリス」という品種は樹になったままでも熟します。そういう品種もあり、すべてが追熟が必要というわけではありません。

    Q:かなりかたい西洋なしを仕入れたとき、管理はどうすればいいのでしょうか?
    A:西洋なしは、採ってすぐは食べられません。熟成が必要です。冷蔵貯蔵してから出荷されており、冷蔵庫から出すと熟し始めます。それをまた冷蔵庫に戻しても熟成は止まりませんし、むしろ障害が出る可能性があります。適期に収穫したものと、そうではないものでは違いが出ることがありますし、個体差もある。冷蔵庫から出した日を明記して出荷している産地もあります。食べ頃を機械で判断できないか、という研究をしている大学の先生もいます。

    Q:表が黄色、裏が赤の食用菊は、ゆでると何色になるのですか?
    A:そのままの色です。

 

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