■2013年5月19日 第2回 トマト 〜 講演「トマトについて」 タキイ種苗(株) 開発課 課長 河内修氏
◇トマトの原産地と伝播
  • トマトは、南米アンデス山脈の中腹あたりが原産地だといわれています。そこからメキシコに流れ、ほかの種類と交雑し、栽培種の元となるものが作られました。それがヨーロッパに伝わり、認知が高まりました。

  • メキシコやヨーロッパでは、最初は食用ではなく、医療用や観賞用でした。トマトには毒があるという噂があったようです。ところが、食べてみたらおいしいということで、ヨーロッパで食されるようになり、イタリアなど、地中海周辺部で栽培が広がりました。
タキイ種苗(株) 開発課 課長 河内修氏
  • その後、アメリカに渡り、日本に入ってきたのは18世紀始め頃だといわれています。日本でも、最初は医療用や観賞用で、食べるものではないという認識でした。

  • 昭和に入り、アメリカから、「ポンテローザ」という品種が入ってきました。これが日本の食用トマトの元祖です。
◇トマトの野生種
  • 世界には、トマトの原種が8種類ほどあるといわれています。

  • 今の一般的な栽培種の元祖は、「ピンピネリフォリウム」。それがメキシコのものと交雑してできたのが、「セラシフォルメ」です。
◇国内の代表的なトマト
  • 国内で本格的にトマトを食べるようになったのは、戦前からです。一番食べられたのは、「ポンテローザ」。そこから、「世界一」などの品種もできました。

  • ピンク系は生食がおいしいタイプ。調理用の赤トマトは、加熱するとおいしくなるタイプです。海外では90%が赤トマトですが、日本では、生で食べるタイプの人気が高まりました。

  • 国内のピンク系トマトは、丸玉系とファースト系の2つに分けられます。

  • 以前は、ファースト系は冬場のトマト、丸玉系は夏のトマトとされていましたが、1985年に「桃太郎」という品種が発表され、丸玉系の概念を変えました。それまでの丸玉系は、お尻の部分に10円玉大の赤味がつくと収穫していました。流通に時間がかかり、収穫後3〜4日しないと店に並びません。その間に色が回るので、若いうちに採るのが一般的でした。ただ、樹につけたまま熟したものと、若採りして熟したものでは、中身の充実度が違います。やはり、樹につけたまま熟したもののほうがおいしい。そこで「桃太郎」を作り、ある程度色味をつけてから収穫できるようになりました。それ以降、トマトの消費量はグッと上がりました。

  • 「桃太郎」は、もともと夏用のタイプですが、これを冬用としても作れないかということで、各社からいろいろなタイプが出てきました。ほぼすべて丸玉系で、それまで2〜3割はあったファースト系が、ほとんど丸玉系になりました。

  • 茨城県には、ずっとファースト系を栽培している産地があります。また、他県においても、ファースト系を復活させようという動きが多少あります。

  • 愛知県も昔からファースト系を栽培している産地ですが、最近、もう一度見直そうという動きがあり、試験場がファースト系の品種を育種しています。

  • ファースト系のいいところは、まず、玉が大きくなること。大玉は1個200gが目安ですが、230〜250 gになります。大きくなると果実の形状が乱れてしまうのですが、ファースト系はもともと先が尖っているので、それほど気になりません。冬場のトマトなので、酸味が少なく、トマト臭さがあり、糖度が高いのが特徴です。

  • 「桃太郎」に代表される丸玉系は、糖度も高めですが、しっかり酸味があります。夏は、酸味が強いほうが味が濃く感じます。最近は、冬でも丸玉系が栽培されており、ほぼ9割近くが丸玉です。冬の丸玉系は、夏に比べると、若干、酸味が少ないと思います。
◇中玉トマトの登場
  • 戦後、9割が大玉トマト、残りがミニトマトだったのが、1990年代後半ぐらいから、中玉トマトが出てきました。大玉トマトは1個200gぐらい、ミニトマトは20gぐらい、中玉トマトは50g前後で、ミニトマトの着果性と味のよさ、大玉トマトの収量性を併せ持っています。

  • 中玉トマトのはしりは、1992年に福井県が出した「越のルビー」です。「越のルビー」は栄養繁殖(挿し木で増やしていくタイプ)で、福井県でしか苗を出さなかったので、全国展開できませんでした。その後、各メーカーが、種子繁殖で販売できる中玉トマトを作り、今現在、さまざまなタイプが出てきています。
◇高糖度トマト
  • 「高糖度トマト」とか「フルーツトマト」といわれるトマトは、偶然にできたもの。海沿いにある高知県の徳谷で、堤防を越えて塩水がハウスに入ってしまい、塩害を受けて大きくなりませんでした。樹も弱って、数も少なかった。でも、食べたらとてもおいしかったんですね。それをヒントにして作られたのが、「高糖度トマト」という栽培方法です。

  • 高糖度トマトは、いろいろなところから出ていますが、品種は普通の大玉トマトや、中玉を高糖度トマト栽培してミニトマトぐらいの大きさで販売したりしています。

  • 高糖度トマトは、水や肥料を制限して、中身の充実を図ったものです。水や肥料を制限されると、中のタネを守ろうとする防衛本能が働いて、糖度や酸味が上がり、凝縮したトマトになります。

  • 地域ブランド化しようと、高糖度トマトの作付けが増えています。ただ、通常栽培ほど収量が上がりません。1個あたりの単価は通常のトマトの1.5倍ぐらいになりますから、販売力でどれだけカバーできるかがポイントです。市場流通より、直接取引が増えていく可能性もあると思います。

  • 通常のトマトは土耕栽培が主流ですが、高糖度トマトの場合、水耕栽培や薄いフィルムを使う栽培方法が増えています。
◇最近見かけるようになったトマト
  • トマトは、赤い色のものが一般的ですが、最近は、黄色やオレンジ色、ゼブラ模様のもの、表面がやや黒っぽいもの、乳白色のものなども目にするようになりました。

  • 形も、プラム型や細長いタイプなど、さまざまなものが出てきています。トキタ種苗さんの「トマトベリー」というハート型のトマトは、これまでになかった形ということで、5年ほど前にドイツの品評会で賞をもらいました。日本人の技術力のたまものだと思います。

  • 調理用トマトも、国内でさまざまなものが出始めました。楕円形のものや長いもの、色も、ピンク、黄色、オレンジといろいろあります。

  • 「シシリアンルージュ」は、生でも加熱でも使えるように改良されたタイプです。

  • トマトの消費はそれほど落ちていません。トマト専門店もあり、今後もいろいろなトマトが出てきて、楽しめるのではないかと思います。
◇世界のトマトの栽培面積と収穫量
  • 2006年のFAO統計によると、トマトの栽培面積は世界で4,597,220ha、収穫量は125,543,000t。中国、インドなど、人口の多い国は栽培面積も収穫量も多く、また、アフリカや地中海のヨーロッパ文化が発展している国も多くなっています。
◇国内のトマトの栽培面積と収穫量
  • 日本国内では、1973年の面積が18,800ha、収穫量は758,000tでした。2011年は、面積12,000ha、収穫量625,900tになっています。

  • 果菜類の中で、トマトと比較されるのがキュウリです。以前はキュウリが最も多く取り引きされていましたが、1996年あたりから、トマトが1位になりました。キュウリの作付面積と収穫量は、トマトと比べると、格段に落ちています。キュウリは青臭いので苦手な子どもも多いのですが、トマトは食べやすいためでしょう。収穫量は面積ほどの落ち込みはありませんので、今後もある程度は維持できるのではないでしょうか。

  • ミニトマトは、面積、収穫量ともに上がっています。収穫の手間はありますが、食べやすさ、味のよさが受けています。お弁当のおかずにも、1個ポンと入れられます。産地は人手不足で、海外から研修生を受け入れたり、パートの人を雇ったりしています。ミニトマトは、きれいに色が回ったら収穫適期なので素人でも判断できます。新しいところほどミニトマトを取り入れている傾向があります。
◇国内の主な産地
  • 第1位は、収穫量、面積ともに、熊本県です。平地から冷涼地まであるので、ほぼ周年作付けされており、国内一の産地になっています。

  • 2位は茨城県、3位は北海道、4位は千葉県。その他、福島県から岐阜県まで、東北、関東、中部地方の産地がトップ10の中に入っており、トマトはそれだけいろいろな気候帯で作られているということです。
◇野菜の機能性成分
  • 最近、リコピン、β-カロテン、シスリコピン、ルテイン、ケルセチン、スルフォラファン、アントシアニンといった野菜の機能生成分が注目を集めています。「トマトに医者いらず」とのことわざがあるように、機能性という点でもトマトは優れています。

  • リコピンは、ストレスや活性酸素の抑制に効果があるといわれています。

  • シスリコピンは、体内に取り込みやすいリコピンで、オレンジ系の「桃太郎ゴールド」、「クックゴールド」などに多く含まれています。

  • カロテンは、体内でビタミンAに変換され、がん予防やコレステロールの低下に効果があるといわれています。

  • トマトは、ビタミンCも豊富です。ビタミンCは、女性の大敵、メラニン色素の生成を抑制するといわれています。

  • トマトには、うまみ成分のグルタミンが含まれており、ピンク系よりは、赤系のトマトや、オレンジ系調理用トマト「クックゴールド」などに多く含まれています。

  • 野菜の機能性については、何をどれだけとればいいのかなど、まだわかっていない部分もあります。毎日トマトを1個食べる習慣を続けることが機能性を生かすポイントではないでしょうか。
◇トマトの耐病性育種
  • 今、トマトの育種で一番進んでいるのは、耐病性ではないかと思います。長年作り続けていると土が弱り、その他さまざまな要因も重なって、病気が出やすくなります。トマトは世界各国にいろいろな病気に対する抵抗性を持った品種があります。それらを集めて育種をしています。

  • 病気に強ければ安心して栽培ができ、消費者も安心して食べられます。抵抗性と栽培性、食味、3つのバランスを取りながら、みなさんが安心して食べられるものを作っていきたいと思います。

  • アメリカにはフレーバーセーバーという長持ちするトマトがありますが、あれは遺伝子操作をしたものです。国内メーカーは、将来的にどのような影響が出るかわからないので、交雑育種という通常の方法をとっています。
◇質疑応答より
  • Q:遺伝子操作は、国内ではまったくされていないのですか?
  • A:国内メーカーは、ほとんどしていないと思います。試験をしているところはありますが、完全に隔離した圃場で行っており、表には出していません。農水省で、基礎研究はしています。

  • Q:遺伝子操作はどこが問題なのでしょうか?
  • A:今まで自然界になかったものができてしまう、ということです。今までの交雑育種は自然界にあるもの同士ですから、たとえ突飛なものができたとしても、自然界にあるものの範疇です。遺伝子操作というのは、違う遺伝子を入れるわけで、植物ではないものを入れることもあります。ですから、今後どういった影響が出るか、現時点では何ともお答えしにくい。ただ、遺伝子操作によって、暑さに強い品種ができれば、飢餓を救うこともできるわけですから、すべてが悪いとは思いません。

  • Q:関西圏に大きな産地がないのはなぜですか?
  • A:近畿、中国、四国は土地が少なく、大きな面積の産地ができにくいためです。熊本には熊本平野、阿蘇平野、岐阜には高山周辺部、愛知も海沿いから山沿いまで、関東にも平野があります。それで、産地化しやすい。西日本では、5haあればトマトの大産地というくらいで、関東などと比べると一桁違います。また、土質的にも、火山灰土の東日本のほうが向いています。

  • Q:野菜の機能性については、消費者にどう浸透させるかが課題だと思うのですが?
  • A:いろいろな野菜の機能性成分が注目を集めていますが、まず、データの出所をはっきりさせなければいけない。また、一般の方にわかりやすくするためには、公的機関の分析結果を表示する必要があると思います。また、時期、期間、樹の状態などによりデータは変わるので、いつ、どこでとったデータなのかも開示する必要があります。データを出せば消費が上がるかというと、なかなか難しいと思いますが、病院などとタイアップするとか、メディアを使って広めていくなど、一社だけではなく協力して展開していく必要があると思います。

  • Q:いろいろな色のトマトがありますが、ブドウのアントシアニンのように、温度が高いと発色しにくい色などはあるのでしょうか?
  • A:アントシアニンは寒さで発色しやすい性質があり、夏場にアントシアニンをうまく発色させるのは若干難しいと思います。赤、ピンク、黄色、オレンジの4色については、季節で変わることはありません。一年中ほぼ同じような色合いを保つことができます。

  • Q:日焼けが出てしまうのは、どのような栽培状況のとき?
  • A:高温障害で、色が回りだす前に日に焼けてしまうのは、人間でいえば、海水浴場に一日中いたような状態です。ですから、日よけをして栽培します。葉っぱで囲まれていると、一時的に光線をシャットアウトできるので、だいぶ違います。産地では、カーテンや石灰を使う取り組みがされています。
 
 

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