■2023年12月17日 第9回 青菜・きんかん 〜 講演「小松菜について」 八百屋塾スタッフ 吉野元
◇はじめに
  • 私は、小松菜と金魚の町として知られている江戸川区出身です。

  • 江戸川区鹿骨の「東京都農林総合研究センター」では小松菜の研究をしています。12月5日に取材した、圃場のようす、小松菜の産地、栽培品種、食べ方の変化などについてご説明します。

  • 今回訪れた施設の本部は、立川にある「公益財団法人東京都農林水産振興財団」。東京の農林水産業の振興と、農林業の研究を行っています。
八百屋塾スタッフ 吉野元
  • 江戸川分場では、主に、小松菜、枝豆などをテーマに、地域の農業に貢献できる基礎的な研究をしているそうです。宮澤直樹さんにお話をうかがいました。
◇小松菜の由来
  • 小松菜は、奈良時代から平安時代に日本に入ってきた「茎立菜」が、地方に広まったもの。各地に在来品種があり、1977年に初めてF1品種ができました。2019年1月20日の八百屋塾で、雪印種苗(株)の小川拓也さんが説明されています(※下記URL)。杉本さんも過去の八百屋塾でお話をされていますので、詳しくは、八百屋塾のホームページをご覧ください。
    http://www.shoukumi.or.jp/htdocs/yj/2018/190120/yj_190120_01.htm

  • 名前の由来には諸説あるようですが、小松川のほうに鷹狩りに出かけた8代将軍徳川吉宗が名付けた、という話が有名です。

  • 江戸川区が出しているPR冊子『小松菜力』には、小松菜の別名、名前の由来、農家さんのこと、吉宗が立ち寄ったという神社や、記念碑などが紹介されています。ホームページでもご覧いただけます。
    https://komatsuna.tokyo/contents/book
◇小松菜とは
  • 小松菜は、アブラナ科ブラシカラパに属する野菜で、白菜、チンゲン菜が1番近い仲間です。いわゆる「ツケナ」の一種、正確には「ツケナ類」。芦澤正和先生監修の『花図鑑・野菜』(草土出版)では、ツケナ類として、ハタケナ類、コマツナ類、ミズナ類、体菜(たいさい)類、不結球ハクサイ類、別種のナタネ(洋種ナタネ)があるとされています。ただ、分類にも諸説あるとのことです。

  • 小松菜の茎について、宮澤さんにうかがいました。1番下は「根」、そこから続くひげ根のない部分が「胚軸」。一見、茎のように見える部分は、「葉柄」。その根元のところが「茎」。茎は「節」が分かれていて、一節に1枚ずつ葉っぱがついています。今しっかりと育っている小松菜は、節が詰まっており、光が当たらなかったり、温度が上がったりすると、節が伸びていく、ということでした。

  • 葉っぱが開いてしまうと、束にした時の見た目が悪く、B品、C品の扱いになるので、農家さんは節を開けないで作ることを目指しています。

  • 天気が良ければ茎は伸びずに成長しますが、光が当たらないと節が伸びて背が高くなるし、高温や水のやりすぎでも伸びてしまいます。

  • 春先には、茎の節が成長点に合わせて伸び、上に菜の花がついて、抽台(とう立ち)しますから、茎が伸びた小松菜は、売るには適しません。

  • 最初に見学したハウスでは、同じタイミングで、F1品種の小松菜数種類と「後関晩生小松菜」を栽培していました。11月6日播種なので1ヶ月ぐらい。畑が乾いているようでしたが、抜いて見せてもらうと根は15センチぐらい伸びており、1〜2回の水やりで、ここまで大きくなることに驚きました。

  • F1品種と固定種の「後関晩生小松菜」は、葉の色が違います。「後関晩生」は、F1に比べると葉柄が細く、成長の差が多少あり、葉が横に広がる性質があります。

  • F1でも、品種によって葉の大きさや密度などが違います。共通して目指しているのは、収穫のしやすさ、見栄えの良さ、病気への強さです。
◇小松菜の産地と出荷量
  • 小松菜はもともと、城東地域、埼玉、千葉あたりの作物でしたが、2022(令和4)年度の農林水産省のデータによると全国的に作られており、出荷量ランキングは、1位茨城、2位埼玉、3位福岡県、東京都は4位です。近年、茨城県と福岡県が伸びているそうです。

  • 雪印種苗の小川さんのお話では、2016年、東京都中央卸売市場の月別入荷実績で多かったのは、茨城、埼玉、群馬、東京。以前は東京、埼玉が中心でしたが、茨城のスイカ、メロンが作りづらくなり、そのハウスを利用する作物として、年に何作も穫れる小松菜が増えた、ということでした。

  • 宮澤さんによると、小松菜の使われ方の変化も一因。生食もできますし、ほうれん草に比べあくも少なく、調理が簡単です。ほうれん草は暑さに弱いので、農家は小松菜に転向しているのではないか、とのことでした。
◇小松菜の栽培
  • 江戸川区を中心とした東京都近郊では、一般的にハウス栽培です。夏は1ヶ月もかからずに収穫でき、冬でも2ヶ月ちょっと。無理をしなくても年6〜7回作れ、ハウスでの連作も可能で、年9回という方もいるそうです。露地では年4回ぐらい。江戸川区にはおそらく皆無で、葛飾区、足立区には、まだ少しあるかもしれません。

  • 給食で地場野菜を使う動き、江戸川区は小松菜で、農家と契約して納めています。このため、大株での収穫が増えました。年4〜5回になりますが、1株の重量があるので収量はとれます。根に入った土を洗う作業も圧倒的に楽になり、業務用、給食用として、大株が増えているとのことでした。

  • この後、北篠崎の小松菜のハウスを見学しました。葉物野菜を作るには多少の農薬は必要なので、ハウスでなければ栽培しにくいのではないかと思います。

  • 江戸川区では、大株(27〜30センチ)根付きでの出荷が基本のようです。出荷組合はなく、個人出荷です。共同出荷に比べると、量が安定せず、大口の納品もむずかしいのですが、やり方次第では高単価も狙えます。江戸川の小松菜には紫のリボンがついています。根付きなのは、市場がそれを求めていることと、値段が出る、という伝統も続いています。

  • 江戸川区で学校給食に納めている農家さんは、子ども向けに、苦味のない品種を選んだり、育て方を工夫したりしています。大株出荷での問題は、病気や害虫が出る畑が増えていることと、肥料切れを起こしてる畑が多いことで、現在、改良中とのことでした。

  • 40センチくらいのF1品種「さくらぎ」は、筋もなくポキッと折れました。かたくはありませんが、肥料がたっぷり必要で、たい肥を推奨しているとのこと。化学肥料でも全く問題ありませんが、有機肥料は微生物が土中ではたらいて土が柔らかくなり、収穫も楽になります。「さくらぎ」のハウスには、毎年、3トンのたい肥を入れるそうです。
◇小松菜の品種
  • 農家さんは、有名種苗会社のカタログを見て、100種類以上の品種から、自分の畑にあったものを選びます。季節によって注意すべき点があり、春先は収穫がトウ立ちにかからないよう、晩抽性の品種を選びます。梅雨時期は葉が薄くなりやすいので、ボリュームがあって緑が濃い品種。夏は、芯枯れ、節間の伸長に強く、ゆっくりと伸びるもの、冬は気温が低くても大きくなるもの。病害虫への耐性も必要です、春秋に出る白さび病は、カビがついて腐っていく病気です。

  • 暑い時に節間が伸びる性質はタアサイから来ているのではないか、と考えられています。

  • 「後関晩生小松菜」は、江戸川区の後関種苗が選抜・固定した品種です。後関種苗がなくなるときに、日本農林が権利を買いました。横に広がる開帳性が特徴です。収穫してまとめたり、結束したりときに折れやすく、いい荷姿にならないのが悩みです。夏は1日4〜5センチも伸びるので、細長くなってしまいます。後ほど、試食すると柔らかいはずなので、味わってください。

  • 去年の八百屋塾の修了式で、ファーム渡戸の渡戸秀行さんも、「後関晩生小松菜」は病気に弱く、結束が難しい、とおっしゃっていました。

  • おいしい小松菜を見つけるのは本当に難しい。品種が多く、作型のサイクルが短い。同じ品種でも、作った畑、場所によって違うので、食べてみるのが一番の勉強だと思います。

  • F1品種、サカタには6種類あり、「いなむら」、「さくらぎ」は、よく作られる王道の品種、といいます。

  • 「さくらぎ」の特徴は極立性、極めてまっすぐ立ち収穫作業が容易。軸がしっかりしていて、折れにくい。萎黄病や白さび病に耐性があり、耐寒性、晩抽性なので、春にいい品種です。

  • 「いなむら」は夏用で、ゆっくり伸びるので収穫適期を逃しにくく、暑さに強いのが売り。緑が濃く、耐暑性、耐寒性があり、湿度に強い。連作には比較的強い。高温期は収穫適期が短く、収穫遅れには要注意。高温期は徒長、節間伸長を抑えるため、株を広めに取る。収穫時に根部を地中に残すと、萎黄病、根こぶ病など土壌病害の原因になります。

  • 「浜美2号」は家庭菜園向けで、昔、一世を風靡した品種。色は薄めで、おいしいのですが、病気や暑さ・寒さに弱い。

  • 小松菜も昔に比べおいしくなくなった、とよく言われます。生産者さんはおいしいのは大事ですが、お金になるかどうかが大前提です。私たちが今日ここで食べておいしいと思った品種で、生産者さんが儲かるようにするしかないのかもしれません。

  • 「夏楽天」はおいしい品種で、「菜々美」はどちらかというと儲かる品種。比較表では、耐暑性や耐病性などの偏差値が、「夏楽天」は低い。味がよくても、これを選ぶのはよほどこだわりがある農家。

  • 「スカイホワイト」は軸が白い。マルシェなどで売れるかも、と興味を持っている農家さんもいるとか。色の薄い小松菜は柔らかそうに見えます。「スカイホワイト」は、40センチになっても柔らかいとのこと。
◇小松菜の食べ方
  • 味噌汁、おひたし、お雑煮など。江戸川区では、正月のお雑煮に、小松菜が欠かせませんでした。

  • ネットのレシピでは、生食でサラダ、スムージー、エスニック風の炒めものなどがヒットします。

  • 杉本さんが2010年の八百屋塾で、小松菜はチンゲン菜、タアサイと交配されている中国野菜だ、と言っていました。中国野菜の血が入ると、見た目はきれいに、味がさっぱりするそうです。中華の野菜と思って、炒めてシャキ感を楽しむことをすすめる。お客さまが「束だと多くて残りそう」と躊躇していたら、「煮浸しではなく、炒めて食べて」と言って売りなさい、と。

  • 味がないということは、逆に言えばクセがない、だから食べやすい。私の娘は、店で扱っている小松菜は食べないことが多いのですが、近くの生産者さんの大きくて柔らかい小松菜はよく食べます。

  • 東京都農林総合研究センターでは、食味の検査にトライしたが、研究はしていない。味の感じ方は人それぞれで、特に小松菜は、同じ畑でも3日後には変わるし、品種は山ほどある。比較する部位を均質に取るのも困難、繊細な味を感じとるパネラーのレベル確保も問題、という話でした。

  • 「後関晩生小松菜」は、かつての官能試験では、全員がおいしい、という評価にはならなかった。

  • 2019年の八百屋塾では、「後関晩生小松菜」、雪印種苗の「あっちゃん」、武蔵野種苗園の「冬里」を食べくらべました。そのときのみなさんの感想は、「後関晩生小松菜」の生がおいしかった、生は嫌い、茹でたほうが筋っぽい、などさまざまでした。

  • 八百屋としては、おいしいものを売りたい。でも、食べる人によって感覚は違うことも考えながら売らなければいけない。結局、今日の話は結論にたどり着かずに終了します。この後の食べくらべで、みなさん、自分の舌で感じるのが1番だと思うので、お願いします。
 

【八百屋塾2023 第9回】 挨拶講演「小松菜について」伝統野菜の「ツケナ類」について勉強品目「青菜」食べくらべ