■2023年12月17日 第9回 青菜・きんかん 〜 「伝統野菜のツケナ類について」 伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
◇伝統野菜の「ツケナ類」について
[伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏より]
  • 今日は最初に、小松菜の栄養について。緑黄色野菜で冬の寒さに強く、青々として食欲が増す、体を温める野菜とされます。冬の野菜は、寒さに耐えるために糖を蓄えるので甘くなる傾向があります。

  • 小松菜はカルシウムが豊富です。食品成分表によると、小松菜100グラム中に170ミリグラムのカルシウムが含まれます。ほうれん草は49ミリグラム、牛乳は110ミリグラムです。

  • 小松菜の場合、ほうれん草と違い、シュウ酸があまり含まれていません。サッと茹でればいいので、水に溶けてしまうビタミンCの減り方も少ない。
伝統野菜プロジェクト 領家彰子氏
  • カルシウムは私たちの体の骨の材料になると同時に、血液にも重要なはたらきをしています。カルシウムが多く含まれているものは、骨粗しょう症や貧血の予防が期待されています。

  • 小松菜はβ-カロテンも豊富です。β-カロテンは、抗酸化作用が強く、生活習慣病やがんの予防、免疫力アップが期待されています。β-カロテンは体内でビタミンAに変わります。ビタミンAは、目のはたらきを助け、皮膚や粘膜全般の機能を健やかに保つとされ、若返りのビタミンともいわれています。

  • 昔は冬野菜をよく漬けものにしました。塩漬けにするとビタミンCは減らず、乳酸菌ができます。乳酸菌によって腸内環境が良くなり、食物繊維も摂れ、便秘が防げるとされます。

  • カリウム、ビタミンKも含まれ、カリウムはナトリウムと結びついて体外に出します。ビタミンKは、骨を作るのに重要で、貧血予防が期待されます。

  • 次に伝統野菜のツケナ類について。「ツケナ類」は、一・二年草の不結球アブラナ科菜類の総称。「ツケナ」は園芸上の呼び名で、一般的にはアブラナ属のうち、漬けものや煮ものに供される不結球の葉菜類と定義されています。

  • 野生種は、地中海沿岸地域、中央アジアから北ヨーロッパまで広く分布していますが、栽培種の起源地は特定されていません。北ヨーロッパでの利用は油で、中国に伝わって栽培化が進み、最終的に結球した白菜になったといわれています。油用はインド方面で栽培化されていきました。

  • 日本には有史以前に入ったようですが、時期は不明。ただ、『日本書紀』、『万葉集』、『本草和妙』に記載があるので、10世紀頃には栽培されていたはずです。

  • 江戸時代に京都の水菜が生まれました。これは全く中国にはないものだそうです。

  • 資料に、「ツケナ類は、黄色、あるいはまれに白色の十字形の花を開き、莢をつける。虫媒によって自然交雑する多植生植物のため、容易に雑種を形成するものが多く、形状や変異の幅は非常に広く、中間型の形質を示す品種も多く、分類は難しい。後代から色々な系統が分化して、各地に多数の在来品種が定着している」と書きましたが、たくさんの地方品種があります。

  • オランダとの交流などによって入ってきた野菜もあります。明治時代に、山東菜や体菜が入ってきて、特に体菜は「ホテイ菜」の名前で短期間に普及したといわれています。

  • ツケナ類はアブラナ科アブラナ属の総称ですが、今回はカラシナ・タカナを省き、ハタケナ群、コマツナ群、カブナ群、タイサイ群、不結球白菜群、タアサイ群、ミズナ群、洋種ナタネ群について説明します。

  • ハタケナ群に含まれる、在来の菜花(和種)や茎立菜は、ツケナの原始型に1番近いものとされ、古くから栽培された基本形です。東北や北陸など寒冷地の越冬菜として、いろいろな種類があり、名前が「群」とは関係ないことが多いので、わかりづらいかもしれません。

  • 奈良県の「大和真菜」は、産地を見学したことがあります。盆地ですから周りは山で、冬の寒風の中で栽培していました。

  • 「仙台芭蕉菜」は、宮城県。葉が大きく芭蕉の葉に似ていることからこの名前があります。

  • 「三河島菜」は、江戸時代に仙台藩にタネが持ち込まれ「仙台芭蕉菜」になりました。それが里帰りして、今、江戸東京野菜として復活しています。

  • 三重県の「朝熊(あさま)小菜」、山間部の狭い平地で、漬けもの用に作っていました。

  • 「鹿沼菜」と「野口菜」は栃木県の伝統野菜。「野口菜」は「水掛菜」とも呼ばれ、湧水を利用して栽培しています。

  • コマツナ群は、カブの一種といわれます。「小松菜」は生産量が多いので、1つの群としました。詳しくは吉野さんのお話に出ましたので割愛します。

  • 「女池菜」は新潟県。まだ育ち上がらないので、写真を、にいがた在来作物研究会会長、小田切文朗さんにご提供いただきました。現在も採種が行われ、固定種として栽培されています。

  • 愛知県の伝統野菜「もち菜」は、別名「正月菜」といい、お雑煮に欠かせないものです。

  • カブナ群。山梨県の「鳴沢菜」は富士山のふもと、御殿場から車で少し行ったところで栽培しています。種のほか、鳴沢菜饅頭や鳴沢菜入り焼きそばなど、いろいろなものが売られていました。

  • 長野県の「稲核菜」と「野沢菜」、石川県の「中島菜」もカブナ群です。野沢菜は特産の野沢菜漬けにされます。今日は、長野県のアンテナショップから、本漬けと塩漬けの2種類を用意しました。野沢温泉村の健命寺の口伝には、「宝暦年間、京都に遊学した和尚が、天王寺カブの種子を持ち帰り、栽培したことが始まりとされる」とありますが、遺伝的研究からは疑問視されています。

  • タイサイ群。日中国交回復の時期に導入された、青軸のチンゲン菜と白軸のパクチョイによって中国野菜ブームが起きました。「杓子菜」は、それ以前から埼玉県秩父地方で漬けもの用として栽培されており、先日も秩父で大々的に売っていました。以前、杓子菜、農作業、漬ける作業のイラストや、杓子菜が織り込まれている地元出身のお相撲さんの化粧まわしなどを見学しました。

  • 不結球白菜群は結球しない白菜です。中国華北方面で発達、多くは明治前後に導入されましたが、江戸時代以前に渡来したものもあります。「広島菜」は、江戸時代初期に、藩主の参勤交代に同行した安芸の住人が、帰途に京都本願寺に参詣した折、種子を持ち帰ったのが始まりとされ、日本三大漬けもののひとつとして有名です。畑のそばの「広島菜漬けセンター」で洗って漬けられ、浅漬けと本漬けが売られています。先ほどの野沢菜も日本三大漬けもののひとつです。

  • 「ベカナ」は、埼玉県。昔、いろいろなものを運んだ小舟をベカ舟といい、「ベカ」は小さいという意味です。白菜の仲間で、結球せず、若採りで小さいのでこの名があります。「山東菜」と似ていますが、「ベカナ」は自家採種の固定種ではありません。「東京ベカナ」などもあり、交雑しやすいので、不明な点がありますが、埼玉の「ベカナ」が、不結球白菜群の1つであることは間違いないと思います。

  • タアサイ群。「唐菜」は江戸時代に長崎で定着しました。長崎は山がちな半島で、狭いた空間に野菜を育てていたので、交雑せずに残ったのが「?崎ハクサイ」です。「シントリ菜」はその仲間で、柔らかく、筋もなく、おいしい野菜です。JA東京中央会が「江戸東京野菜」として売り出しています。

  • ミズナ群は、京都を中心に栽培されていた野菜で、ピリッと辛い。他のツケナと違い、「千筋京菜」は、1株から600〜1000葉の根葉を生じるとされるほど葉が多く、特に京菜は葉に切れ込みが入って、見た目にも違うものなので、日本の野菜ではないか、といわれています。

  • 「壬生菜」は、その変種で葉がヘラ型をしています。特有の辛みが好まれています。

  • 高知県の「潮江菜」は、宮尾登美子さんのエッセイに、雑煮に「ウシオエカブ」を入れたと記されており、ミズナの原始型とする研究者もいましたが、今は、DNA鑑定から疑問視されています。

  • 洋種ナタネは、アブラナ科とキャベツの系統が交じったものです。東京の「のらぼう菜」は、あきる野市には、「野良坊菜の碑」や、「のらぼう菜」のそば会席を出すお蕎麦屋さんもあります。脇芽を収穫して、出荷します。

  • 三重県の「三重ナバナ」。「江戸の灯は伊勢でもつ」と歌われたように、三重はナバナの生産地として昔から有名です。東京にも進出していてイタリアンで使われています。

  • ほかにもたくさんありますが、扱える範囲内ということで、今回は以上です。
 

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