■2010年8月22日 第5回 〜 講演「かぼちゃ」について タキイ種苗(株)研究農場 野菜第2G 新久紀氏
◇かぼちゃの種類
  • 日本では、どんなかぼちゃが食べられているのか。まず、今、一般に日本の消費者が食べている「西洋かぼちゃ」。色や形など、バラエティに富んだ品種があります。ホクホクとした栗のような食感で、非常に甘くておいしいので、昭和40年以降、日本で栽培が大きく普及しました。

  • 「日本かぼちゃ」は、現在、ごく一部の地域で栽培され、食べられているのもごく少量です。西洋種のかぼちゃが広がる以前は、西日本を中心に広く栽培されており、特に、戦前戦後の食糧難の時代には、よく食べられていました。
タキイ種苗(株) 新久紀氏
  • 日本かぼちゃの中にも、さまざまな種類があります。最近、インターネットで、「かぼちゃ料理」を検索すると、「バターナッツ」をスープにするとコクがあって美味というのをよく目にしますが、この「バターナッツ」も日本かぼちゃの一種です。

  • 「ペポかぼちゃ」は、ズッキーニが含まれるかぼちゃの種類のひとつ。ペポかぼちゃの中には、「おもちゃかぼちゃ」なども含まれますし、「そうめんかぼちゃ」もペポかぼちゃの仲間です。
◇かぼちゃの来歴
  • かぼちゃは帰化植物。アメリカ大陸原産ですが、西洋かぼちゃ、日本かぼちゃ、ペポかぼちゃで、原産地が分かれています。

  • 西洋かぼちゃの原産地は、中央から南アメリカの高原地帯。気候が冷涼なところで生まれたといわれています。

  • 日本かぼちゃの原産地は、中央から南アメリカ北部の熱帯の地帯。暑さに強いタイプのかぼちゃです。

  • ペポかぼちゃは、アメリカの北部が原産地。北アメリカ生まれだといわれています。

  • 日本かぼちゃとペポかぼちゃは、まずヨーロッパに渡りました。日本かぼちゃの場合は、ユーラシア大陸を通り、東南アジアを経由して日本に入ってきました。日本に伝わったのは、日本かぼちゃがいちばん古く、1550年頃までには持ち込まれていたといわれています。カンボジアのほうから来たために、それがなまって「かぼちゃ」という名前になったともいわれています。ペポかぼちゃは、大正時代に中国から入ってきたといわれています。

  • 今主流の西洋かぼちゃは、明治時代に、アメリカから直接日本に持ち込まれました。

  • 昭和40年頃までは、日本かぼちゃは西日本中心に、西洋かぼちゃは北海道、東北、長野といった冷涼な地域で栽培されていました。それが今では北海道中心に、沖縄から北海道まで日本全国で作られています。
◇かぼちゃの生産状況と人気の秘密
  • スイカ、きゅうりといったほかのウリ科の野菜が毎年減っている中で、かぼちゃは安定している。スイカやきゅうりと比べると、数量は半分ぐらいですが、生産量、作付面積ともに安定している数少ない野菜のひとつです。

  • かぼちゃの生産がずっと安定しているのはなぜか。「かぼちゃ」という言葉は、「どてかぼちゃ」といったようなネガティブイメージの言葉が多かった。でも、最近は、女性誌やファッション誌でかぼちゃの特集が組まれたりして、消費者のイメージが変わっているのではないかと思います。女性の野菜ソムリエの方々に、好きな野菜を聞いたら、かぼちゃがNo.1になったことがあります。年代や男女を問わず食されているかぼちゃですが、特に女性の方が好んで食べていることが人気の下支えになっているのではないかと考えています。

  • かぼちゃの食味のよさ、つまり、栗やサツマイモのような食味、食感、甘さも人気の秘密ではないでしょうか。また、現在では、「健康にいい緑黄色野菜」として定着しています。特に、ビタミンEは、手軽に手に入る野菜の中では、かぼちゃはNo.1の含量を誇ります。ビタミンEは、抗酸化作用が強く、若返りビタミンといわれています。ベータカロテンの含有量も、にんじん、ほうれん草に次いで3番目、含有量では、にんじんの約半分です。
◇消費拡大のために〜売り場にアクセントを&新品種
  • かぼちゃの消費を拡大するために、西洋種の品種ラインナップを充実させ、トマトのような売り場をかぼちゃで実現できないか、と考えています。トマトには、主力の大玉があり、色の違うものがあり、大きさの違うミニトマトがあり、用途別に、調理用のトマトなどもあります。さらに、栽培方法等によって独自性を出しているものまで含め、非常に華やかな売り場が実際に演出されています。今、量販店のかぼちゃ売り場を見ると、大玉の普通のかぼちゃの1/4カット、1/6カットだけが並んでいる状況です。これを、なんとか、トマト並みの売り場に近づけたい。
  • 「ロロン」は私が品種改良したラクビーボール形のかぼちゃです。今までにはない個性的な形に仕上げており、食味にもこだわって作りました。甘さや肉のきめ細かさに特徴を持たせている品種です。この形がおいしさの目印になれば…、と思っており、トマトでいうと、味にこだわって栽培されたフルーツトマトのような位置付けで、売り場に並ぶといいな、と考えています。
ロロン

  • 「夢味」は白皮のかぼちゃです。11月の終わりから12月の冬至の時期に白皮かぼちゃを目にすると思いますが、今まで、白皮は日持ち重視で、スポット的なイメージしかありませんでした。それを変えていきたい。白皮種は非常に葉っぱが大きい、草勢が強い、着果が不安定になりやすい…など、栽培がしにくく、生産者にとっては作りづらいものが多かった。「夢味」は普通の時期に定番商品の中に並んでいけるように、生産性、栽培性をレベルアップしました。また、今までの白皮種は、収穫後1ヶ月半〜2ヶ月経って、味がのってくるものが多かったのですが、早くから食味がよくなるように育成してきました。収穫してすぐでも肉色が濃い点も新しさ。緑の中に、どーんと白い皮のかぼちゃをおいて、こういったかぼちゃもあるんですよ、とアピールしていただくことができると思っています。

  • 「ほっこり姫」は、ミニかぼちゃです。現在、カット販売が主流の中で、一玉を買えるものが売り場にあるといいのではないでしょうか。生産者の立場からすると、ミニかぼちゃは手間がかかります。収穫労力が多く、収量が下がってしまいます。そこで、収量性をなんとか大玉に負けないようにしたい、と考え出したのが「ほっこり姫」です。重さは700グラムぐらい。小さくしすぎると、可食部が少なくなってしまいますし、バラツキが出る。そこで、700グラムという大きさにしています。

  • 形の違うかぼちゃ、味で勝負できるかぼちゃ、定番商品の中でも皮の色が違うかぼちゃ、大きさの違うかぼちゃ…。これらも売り場の中でご提案いただきたい、と考えています。
◇周年供給されるかぼちゃ
  • 日本国内のかぼちゃの作付面積は、約16,000ヘクタール。このうち、北海道が約8,000ヘクタールと半分を占めています。出荷時期は、8月中旬〜長くて12月ぐらいまで。

  • 北海道以外で多いのは、地域名でいうと九州(約1,500ヘクタール)、関東(約1,000ヘクタール)。

  • 九州の中でも多いのが、鹿児島(約950ヘクタール)、長崎(約370ヘクタール)。沖縄まで含めると、早いもので、3月上旬ぐらいから出てきます。それから、6月ぐらいまで。九州の場合は、温暖な気候を利用して抑制栽培もしています。8月中旬以降に播種されるものが、11月下旬〜1月ぐらいまで出てくることになります。

  • 関東の主力は茨城産。6月〜8月は重要な生産地です。

  • 国内が端境期になると海外産が入ってきます。2月下旬〜5月中旬ぐらいまではニュージーランド産。ニュージーランドの作付面積は約8,000ヘクタールと、北海道とだいたい同じ規模です。

  • メキシコ産は11月〜2月。それから、5月中旬〜6月あたりで、日本産のかぼちゃが少なくなってくると、もう一回メキシコ産が入ってきます。

  • よく、冬至にかぼちゃを食べますが、「冬至かぼちゃ」というのは、9月終わりぐらいから10月ぐらいに収穫したものを涼しいところに転がしておいて、寒くなり、野菜がなくなったときに、納屋のかぼちゃを食べた、ということ。かぼちゃは貯蔵しておくと、カロテン含量が上がります。
◇主産地の主力品種
  • 北海道では、「えびす」「味平(あじへい)」「くりゆたか」といった品種が主力です。

  • 3月〜5月ぐらいに出回るニュージーランド産のかぼちゃは、ほとんどが「えびす」です。

  • 11月〜1月ぐらいまで入ってくるメキシコ産のかぼちゃは、「味平」「こふき」が主力です。

  • 鹿児島産は、春作は「えびす」が主体で、抑制は「くりゆたか」が主体です。

  • 「味平」や「みやこ」は、「くりゆたか」「こふき」「ほっこり133」とは、やや違うタイプの品種。開花から収穫するまでの期間が短い。「早生」と呼ばれる品種です。早く収穫できる品種は、玉が小ぶりになりやすい。粉質感も中程度で、ほどよい食感です。

  • 「くりゆたか」「こふき」「ほっこり133」といった品種は、収穫して1週間はホクホク感が強すぎて、あまり味がありません。でんぷんをためる能力が非常に高いかぼちゃで、早生のかぼちゃより、玉が一回り大きくなるのが特徴です。
◇良品質生産に必要な条件
  • ホクホクで甘く、大きなかぼちゃをとりたい場合、大きくて元気な葉っぱを30枚揃えることが大切です。

  • 西洋かぼちゃは冷涼な気候を好みます。かぼちゃは果実の中にでんぷんをためており、それが、糖、二酸化炭素、水分に分解されて、ほどよい食味、食感になります。気温が23℃を超えると、でんぷんをためる能力が下がりますが、今の日本の夏で気温23℃というのは、ちょっと考えづらい。こうした気候条件も、おいしいかぼちゃを作るためには大切な条件です。

  • 生産者の方には、収穫期、熟度のバラツキが出ないような生産の仕方をしていただきたい。品種としては、一斉収穫の面からも、着果が安定して、交配日が揃う品種が必要です。温暖化といわれている中で、でんぷんの蓄積能力が高い品種を作って、品質の安定化を図る必要があると考えています。
◇多様な栽培方法
  • かぼちゃは、産地によってさまざまな作り方があります。いちばん早く出てくるのは鹿児島ですが、JA南さつまなどは非常に栽培技術が高く、スイカやメロンを作るような形でかぼちゃを管理されています。ハウス内でかぼちゃが空中に浮かんでいるように見えるのですが、定植して1番果がなったらツルを誘引して上に上げて、そこで2番果を収穫する。2番果をとるためには、品種の力もありますが、追肥をやるタイミングなど生産技術が確立されていないとできません。

  • 北海道は一戸当たりの栽培面積が非常に大きいので、どちらかというと、手のかからない栽培が中心です。ただ、JAふらのなど、「手をかけないといけない」という意識を持って栽培に取り組んでおられるところもあります。梅雨がなく夏場比較的涼しい北海道は、非常にかぼちゃの栽培に適しており、冷涼な気候がおいしいかぼちゃを作ってくれる、ともいえます。

  • 茨城県で栽培されている「江戸崎かぼちゃ」は、非常に苗が大きい。より低温に強い苗を植え、鹿児島に近いようなていねいな作り方をしています。

  • メキシコ産は、抑制栽培にあたる作型。暑い時期にタネをまき、涼しくなってくる頃に収穫します。大きな畑で栽培していますが、枝整理、ツルの返し、灌水管理など、きっちり管理している産地です。

  • ニュージーランドでは、春にタネをまいて、夏に向かって収穫していくような作型で栽培しています。収穫するまでは、ほとんど機械作業。タネまきも機械を使います。収穫期を迎えると、トラクターで葉っぱの部分だけを切り取っていきます。その後ろにグローアーの方々が並んで、かぼちゃを収穫してトラクターに積み込んでいきます。北海道と似た冷涼な気候なので、その気候がおいしいかぼちゃを育んでくれます。収穫されたかぼちゃはトラック等で選果場まで運び、1個1個、傷や形などを選果した上で、日本に輸出されることになります。ニュージーランド産のかぼちゃは、非常に厳しい規格を通って日本に来ています。
◇生産者と消費者のギャップ
  • トマト、メロン、かぼちゃの反当たりの粗収益(北海道)を比べると、栽培期間の長いトマトが258万円、メロンが80万円なのに対し、かぼちゃは14万円に過ぎません。これほど差があっても、スイカやメロンと同等の安定した品質のものが求められる。生産者の立場に立つと、非常に無理な要求を突きつけられているような状況ではないのかな、と私自身は感じています。

  • 生産者の方からは、安定した収量の「えびす」のような品種を作りたい、という声を聞きます。一方、消費者の方は、粉質系と呼ばれるホクホクした甘いかぼちゃを食べたい、という。その中で、産地のほうも苦慮している、という状況があります。

  • 着果がよくて収量が上がり、しかもホクホクしておいしいかぼちゃを目標に、われわれが品種改良に取り組んでいるものがあります。まだ名前は付いていませんが、今年、北海道の旭川よりも北のかぼちゃを遅く出荷する産地を中心に、試作を展開しています。特徴としては、まず、着果を安定させるために、草勢を落ち着かせました。これは、各道府県の普及センターなどとも協力して行った比較試験の結果確認されています。また、非常に粉質度が高く、でんぷんの糖化が緩やかです。11月になってもでんぷんの高さを保っていることから、貯蔵かぼちゃとして能力を発揮できるのではないかと考えています。また、このかぼちゃは、見た目の貯蔵性もよい。収穫したときの濃い緑色というわけにはいきませんが、茶色くなりにくいという特徴もあります。
◇「えびすかぼちゃ」の食味
  • 日本で食べられているかぼちゃの半分以上が「えびす」なので、間違いなくみなさんにも食べていただいている。ただ、残念なことに、「えびすかぼちゃはおいしくない」とのイメージを持たれていることがある。

  • 「えびす」と「粉質系」と呼ばれるかぼちゃの成分を調べてみたところ、「えびす」は、うまみ成分であるグルタミン酸の含有量が圧倒的に多かった。糖度やでんぷんは粉質系に及ばないが、うまみ成分が多い「えびす」は、日本人に合うはず。「えびす」の食味のよさを、ぜひもう一度見直してほしいと考えています。

  • 北海道産の「えびす」を食べくらべて思ったことは、収穫してから1ヶ月半以降になると、べとっとした味になる。収穫して3週間ぐらいの「えびす」は、粉質感、甘さ、味の濃さ、グルタミン酸の量など、どれをとっても非常にいいので、適期の「えびす」をぜひとも食べていただきたい。
◇キュアリングについて
  • かぼちゃは、収穫してすぐに食べる野菜ではありません。出荷するまでに、一度、「キュアリング」と呼ばれる処理をして、甘さや日持ちをよくしてから出荷されるのが一般的です。

  • キュアリングの方法は2種類あります。九州や関東のように、収穫してからできるだけ早くかぼちゃを出荷したい場合には、30℃を超えない程度の高温で数日間おき、冷蔵施設で7.5℃ぐらいの温度で貯蔵します。こうして肉色がよく、甘くなったものを出荷します。

  • より貯蔵性を重視して遅出しする場合には、果梗部(かこうぶ)が乾燥したらキュアリングの処理を終え、気温10〜12℃、湿度75〜85%で貯蔵します。

  • 「完熟かぼちゃ」の完熟とは、果実にたまったでんぷんが変化して、どんどん甘くなっていくことをいいます。早く出したい産地は完熟出荷でいいと思いますが…。日持ちを重視して市況をみる、もしくは国産品が少なくなってきたときに出したいなど、出荷を調整したい場合には、粉質が最高のとき、つまり、でんぷんが最もたまったときに収穫するのがいちばん、ということになります。本当に「完熟」がすべてなのか、ということも、もう一度見直していただけるといい、と私は思っています。
 
 

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