■2010年11月21日 第8回 〜 研修旅行「神奈川県農業技術センター」
●北宜裕氏による神奈川県農業技術センターの概要説明

 神奈川県農業技術センターは、土地が20ha。本館が約1万平米あります。

 各都道府県にひとつずつ、いわゆる農業試験場があるわけですが、神奈川県ではこのセンターがそれにあたり、都道府県単位で食糧安保といいますか、きちんと食料生産できる仕組みを整えています。

地方により特色のある技術があり、神奈川では「都市農業」がいちばん大きなポイントです。

神奈川県農業技術センター 企画調整部
部長 北宜裕氏
 神奈川県は、農業生産高が約800億、そのうち約400億が野菜です。例えば、小松菜は全国4位、ほうれんそうは7位。野菜全体では、全国16位か17位と、かなり大きいです。お米はほとんどありませんが、野菜で神奈川の農業生産を半分まかなっています。

 横浜、茅ヶ崎、藤沢など、首都圏の中で、回りに消費者をかかえて農業生産をしていくという、すごく特徴のある地域です。農家も、残るべくして残っている方が多く、みなさんレベルが非常に高い。われわれも心してかからなければ…、と考えています。

 「サラダ紫」は、今年の夏、八百屋塾でもご紹介したナスです。「地産地消」とよくいいますが、地元でとれたものを地元に供給する、というのを、まず、こういった品種で牽引しましょう、と。大きなシェアでなくていいのですが、このナスにひかれてみなさんが直売所に来て買い物をしてくれれば、と考えています。

 農業技術センター本所に、管理部門や、私がいる企画調整部門があります。

 経営情報という部門では、農家が都市の中で経営をしていくにはどうしたらいいか、どういった品質のものを作ったらいいか、ということを研究しています。ここではマーケティングリサーチもしており、「湘南一本ミニ」という、買い物袋の中に入るような短くしたネギの開発などもしています。その他、作業の軽減、非破壊検査、ポータブルな糖度計の研究開発などを行っています。

 野菜作物研究部は、野菜と作物の研究をしています。今日はのちほど野菜作物研究部の主任、北浦専門研究員がみなさんをご案内させていただきます。作物というのは、米、麦、大豆、落花生、サツマイモなど。こういったものも、野菜的に栽培しています。野菜はのらぼう菜やトマトなど、新品種の育成をしたり、一部、遺伝子診断もしています。トマトの「SPLシリーズ」については、赤と黄色があり、今年から試作に出しています。

 果樹花き研究部というのは、果樹と花の研究をしています。花と果樹は、2つ合わせて神奈川県の生産の2割ぐらいで、それほど多くはありませんが、果樹についてはほぼ全量が直売です。ここでは、梨のジョイント仕立てというのが売りです。今まで、果樹は木を1本1本植えて棚にして作っていましたが、それをつなげて、パワーを安定させる。非常に画期的な手法です。つなぎ合わせて生産量を安定させる、一気に花棚を埋めてしまう、また、誰でも剪定ができるようにする、という技術です。花では、スイートピーやバラの育種もしています。

 農業環境研究部というのは、病害虫や土壌肥料、省農薬、環境に優しい技術…。有機農業まではいきませんが、そういった付加価値をつける技術開発をしています。横浜などの都市部で農業をすると、いわば、実演販売になる。例えば、キャベツを作っているとすると、その作業を近くの家の人が見ているわけです。薬をまくと、「あ、なんか農薬まいてる」というふうに見られます。で、「先週もまいてたのに、また今週もあそこの農家は農薬をまいてるよ」となると、なかなか難しい。「農薬漬けじゃない?」と思われてしまうんです。本当に農薬をうまく使って、できるだけ少なくして作っていかないと…。非常に厳しい状況で作物を栽培している、というのは事実だと思います。

 普及指導は、研究部門で開発した技術を農家に直接伝える部門です。品評会の審査に行ったり、農協の指導をしたりもしています。

 病害虫防除部というのは、国の植物防疫法にのっとり、各県に設置が義務付けられています。病気や害虫が出たら的確に防除する、あるいは、農薬をきちんと取り締まる、という仕事をしています。

 それから、神奈川は小さい県ですが、横浜川崎、北相(相模原)、大産地である三浦、みかんの産地である足柄の4カ所に支所を持っており、10名前後で切り盛りしています。地区のかゆいところに手が届く、というような技術指導をしています。

 あとは、神奈川農業アカデミーといって、後継者や担い手の育成をする実践的な研修教育施設と、畜産の仕事をする畜産技術所があります。畜産とアカデミーは海老名にあり、ほぼ独立したようなかたちで仕事をしてもらっています。

 これからの時期はネギが多くなりますので、「湘南一本」というネギについてちょっと説明します。私も「湘南一本」の育成者のひとりなのですが…。今も80歳を過ぎてご健在のOBの方が、昭和35年に、葉山にあった「合柄(あいがら)」という千住ネギの系統に、「牛角(ぎゅうかく)」というネギを掛け合わせて作ったのが「湘南」というネギです。「牛角」は葉っぱが牛の角のようなかたちをしたネギで、相模川のそばにあったのですが、今はもうなくなってしまいました。

 柔らかくてよく分けつするネギで、昔はよかったのですが、最近は一本ネギじゃないと商品にならない。そこで、「湘南」の中から一本立ち性の強いもの、ただし、味は昔のまま、柔らかくておいしいものを選抜して作ったのが「湘南一本」です。冬場、寒くてもよく伸びる、という特性もあります。

 宏太郎ネギや深谷ネギはかたいのですが、「湘南一本」は非常に柔らかくて、ちゃんとかみ切れます。本当においしいネギです。

 「湘南一本」を使った短いネギ、コンパクトネギ、ミニネギと呼んでいますが、こうしたものも作っています。

 

【八百屋塾2010 第8回】 実行委員長挨拶と参加者の自己紹介センターの概要説明圃場見学梨のジョイント栽培の見学質疑応答