■2009年4月19日 第1回 〜 講演「なぜ勉強が必要か」 杉本晃章氏
◇八百屋塾を立ち上げた江澤正平先生
  • 八百屋塾を立ち上げたのは、江澤正平先生。一昨年の9月14日に、94歳でお亡くなりになった野菜研究家です。昔、神田の朱雀町(現・須田町)に神田市場の前身がありました。明治・大正からずっと青果市場だったのですが、江澤先生は、大正元年にその問屋の子息として生まれ、昭和の初めに神田市場の東印東京青果という会社に入社しました。東京青果はその後、東京丸一青果と合併して、東京青果「東一」になり、先生は、東一で取締役までつとめられ、リタイア後は、西友の青果関連の会社の社長になりました。そこを辞めたのが68歳のときで、それから、野菜の勉強をされたそうです。
杉本晃章氏
  • 先生は、優秀な社員だったので野菜をよく売ったそうですが、その野菜はおいしくはなかった、と。辞めてから野菜について勉強して、おいしさに目覚めたといいます。野菜はおいしくなければいけないんだ、と。おいしくないから売れない、まずいからもう一度食べようと思う人がいない。そう気づいて、20数年、野菜研究家として、本当の野菜の姿を追い求め続けた。私たち八百屋も、非常に影響を受けました。ぼくなど、人生が変わったような感じです。それまでは、たくさん売って儲けることを主眼にしていましたが、先生と会ってから、そうではないんだ、と。野菜のおいしさをお店で伝えれば、自分たちの利益につながる。そういったことを習いました。
◇F1と在来種
  • F1(エフワン)という言葉はいちばんわからないかもしれません。今出ている野菜の99.9%はF1、一代交配雑種です。タネ屋さんがF1のタネを作り、全国の農協、生産者に売って、野菜が作られる。店で売っている野菜は、ほとんどがF1だと思って間違いない。F1のタネを作るには、固定種、伝統品種のタネを使います。

  • 今、東京の人口は千何百万人で、全国に指折りの大きい市場が9個も10個もある。伝統品種は手間がかかる。発芽率が約50%、つまり、100個のタネから50個しか発芽しない。それぐらい効率が悪いので、伝統品種だけで都民の台所をまかなうなんていうことはとてもできない。そこで、品種改良してF1を作った。

  • みなさんがよくご存じで、F1ではない伝統品種は何かというと、八つ頭や三浦大根があります。三浦大根といっても、青首ではなく本三浦。あれが、伝統品種、固定種です。本三浦は、三浦の農協が伝統品種を守るために自家採種して、毎年、だいたいドラム缶で2本くらいタネをと採っている。でも、生産はごくわずか。暮れの10日間くらい正月用のなますの大根として、市場に出荷する分だけ作っている。三浦の農協が努力しているおかげで、正月は三浦大根のなますが食べられる。なぜ三浦でなければダメかというと、青首でなますを作ると、シャキ感がない。水気が多すぎて、やわらかすぎる。みなさん、作ってみればわかると思います。

  • サトイモはF1なのに、なぜ八つ頭はF1じゃないのか。八つ頭のF1は全国で売れないから。F1のタネを作るには、お金も、開発する年月もかかる。八つ頭の北限は栃木あたりで、それ以北は作れないと思います。結局、作っても採算が合わないから、F1がない。

  • F1のいいところは何か。耐病性がある、病気に強い。そろいが抜群。100個タネをまくと、99.9個発芽する。農家の人がタネを買ってきて、100個まくと、ほとんどがちゃんと出る。それがみんなそろっている。市場に出荷するとき、一回畑に行けば全部とれる。たとえばほうれん草が20センチ伸びたところで取りに行けば、みんな同じ丈に育っている。みてくれもいい。それが、F1です。

  • F1の悪いところは何か。おいしさがおいていかれてしまったこと。タネ屋さんの本には、まるでニスを塗ったようなピカピカのニンジンが出ている。全国の生産者はそれを見てタネを買って、市場へ出荷する。今のニンジンは香りが薄く、やわらかく、ニンジン嫌いの子供でも食べられます。食べやすいが、本来のおいしさには欠けている。昔のニンジン、たとえば、長ニンジン、ひとみ5寸などは、香りが強くてかたい。それがいいのか悪いのかはお客さんが決めることで、ぼくが勝手に決めてしまってはいけないのかもしれませんが…。
◇品種と作型
  • 品種と作型を勉強しないと、いいもの、おいしいものには当たらない。

  • その土地に適した品種を、タネ屋さんが開発、作ってくれている。

  • ジャガイモを買うときは、「男爵ください」とか、「メークインください」という。でも、小松菜を買いに来て、「夏楽天ください」という人はいない。「男爵」は品種を表示したから、消費者が覚えてくれた。
◇だいこんの場合
  • 夏大根は、北海道に向いた品種。冬の大根と同じものを持って行って作っているわけではない。

  • 適地適作の作型によって、味が違ってくる。たとえば、同じ大根でも、三浦で作ったものと、銚子で作ったものでは味が違う。三浦は、大根栽培に適している。銚子は海が近いから暖かいだけで、地域としては非常に寒いところ。ただ、海風があるから、凍るようなことはない。大根栽培としては、三浦の方がいい。

  • 風の強いところで大根を作れば、ヒゲは曲がる。若芽のときに、風が吹いただけで、大根がよれる。白菜もそうですが、よれると、それを戻そうとするから、曲がったままになる。
◇ほうれんそうの場合
  • F1のタネでも、おいしい露地ほうれんそうはある。露地向きのF1の種類があり、ただ、栽培日数がかかる。ハウスで作ると、この温度になれば25日で18センチくらいになる。冬場でも30〜35日くらいで出荷できる。それを露地で作ると、群馬県の赤城の麓でだいたい60日。埼玉県でも50〜55日かけないと収穫できない。

  • 今年2月の八百屋塾はテーマがほうれんそうだった。いろいろなほうれんそうを食べたが、赤城のほうれんそうがいちばんおいしかった。昔われわれが売っていたようなほうれんそう。ぼくはほうれんそうが大好きですが、今(4月19日)の時期のほうれんそうは、まずいから食べない。冬場のほうれんそうは一生懸命食べます。

  • 学校では、根っこに泥がたまっているから、と根っこを捨てて給食で出すそうですが、とんでもない間違い。ほうれんそうの栄養価は、半分以上が根っこにある。根っこが赤くなるということは、寒さに対して凍らないように、糖分を蓄えているから、根っこが赤くなる。

  • 一昨年、山形の伝統品種の赤根ほうれんそうをぜひ東京で売らせてくれ、と県の方を呼んだ。天童の農協でいいものを作ってくれました。去年は山形農協に頼みましたが、ダメでした。ほうれんそう生産者が作っても失敗してしまう。それぐらい伝統品種を作るのはむずかしい。今年もまた露地の赤根ほうれんそうを、秋、10月頃からぜひ東京市場に出してくれ、と産地にお願いしておきました。今年の秋はきっと、いい赤根ほうれんそうが届くと思います。

  • F1の野菜はそんなに技術がなくても作れる。農協が営農指導をしてくれ、その通りに作れば、18センチのほうれんそうができて、20センチの袋におさまって、23センチの箱が用意してあって、そこに20把入れるようになっている。それが、今の農業の現状です。

  • 露地ほうれんそうは、風通しや日当たりのいい悪いで、若干違ってくる。18センチ、20センチにぴたりとおさまるほうれんそうはなかなかできない。だから生産者が結束してくる。結束は、長いのと短いのを、裏と表、うまく組んで、束にするので、見た目がいい。傷みやすいかもしれないが、袋のものよりすごく勢いがある。お客さんは、家に帰って冷蔵庫に入れるのに、袋に入っていたほうがいいかもしれませんが、売るには結束もののほうが、勢いがあっていい。
◇きゅうりの場合
  • 気温が上がって安定すれば、どんどんなってくるから値段が下がる。そういうことが、畑に行かなくても、市場へ行かなくても、わかるようになる。

  • 今週は加温していないハウスのきゅうりが、各県1〜2産地出てきた。来週にはいっせいに無加温のきゅうりに変わる。今月の終わりから5月に入るとハウスではなく完全露地。表でできたきゅうりが出てくる。

  • 今までの、ハウスで暖房をたいて作っていたきゅうりは末期になり、皮がどんどんかたくなる。ブルームレスでただでさえかたいきゅうりが、なお、かたくなる。だから、値段も安くなる。値段の差はだいたい800円〜1000円くらい。今、無加温が1500円〜1800円。作型によって、値段や味が変わってくる。

  • 江澤先生は、「ブルームレスのきゅうりなんて、ろくなものじゃない」とよくいっていましたが、現状としては、ブルームレスのきゅうりを売らないわけにはいかない。

  • キトラ栽培といって、稲山光男先生がカボチャにきゅうりを接いだら、ピカピカのものができて、売れて売れて、一世を風靡した。光っていて日持ちがいいが、皮がかたくて中がやわらかい。だから、漬け物にすると漬かりが悪い。半分から下はよく漬かるけれど、アタマのほうはなかなか漬からない。1週間入れても真っ黄色にはならない。四葉とか四川は、古漬けにすると黄色くなる。ブルームレスは、1週間漬けてもまだ青い。皮のかたさは、漬け物にするとよくわかる。色でも判断できます。

  • 市場で1000円のきゅうりに値段で飛びつくと、お客さんはわかる。「あの八百屋のきゅうりは、安いけれどかたい」、と。実際、お客さんは食べているわけですから。無加温のきゅうりは1本50〜60円、加温は3本100円くらい。安いのがいい人は、3本100円に飛びつく。味重視の人は、3本150円のを買う。ちゃんとわけがあるのですが、それがわからない人は安いのを売ればいい。ちゃんと野菜を知っている人は、おいしいものを売るべき。これは無加温のきゅうりで、暖房をたいてない作りだとか、作型が新しいからやわらかいとか、分かっていれば、きゅうりのおいしさをきちんと説明できる。
◇トマトの場合
  • トマトは樹を大きくするために、灌水する。人間の高さくらいになると、もう一番花がなる。これはみんな大玉。最低でもM、L、LL、3Lぐらいがどんどんなる。ただ、これらは皮が薄い、水っぽい。すぐブヨブヨになる。

  • 静岡などは10段くらい育てる。7〜8段になってくると、樹は枯れてくるけれど、今度はあまり灌水する必要がないから、フルーツトマトに近くなる。

  • 誰が決めたのかは知りませんが、だいたい糖度が8度以上あるものをフルーツトマトという。定義はないのですが、ぼくの感覚では8度以上。灌水をおさえて、いじめて、ストレスを与えて、小玉に作る。ふつうのトマトでも、8〜9段になってくると、フルーツトマトに近くなる。今の静岡の冬のトマト、ハウスの最後の8〜9段目のトマトは、ほとんど、フルーツトマトに近い。おそらく糖度が6〜7度くらいある。ふつうのトマトはどれくらいかというと、4〜5度。6度あればおいしいといわれます。ただ、欠点は、皮がかたくなってしまうこと。せっかく1箱3000〜4000円といい値で売れても、お客さんはまた離れていってしまう。なぜか。やっぱり、皮がかたいから。糖度ばかりあげて、皮がかたい、食べにくい。でも、日本人はやたらと甘さを求めてくる。

  • 総じて、ミディトマトはおいしくない。糖度が上がると、落ちてしまう。ミニトマトは軽いから落ちないのですが、ミディは落下してしまうから、そこそこの熟度でとる。だから、あまりおいしくない。樹なりで熟度を上げないとおいしくない。

  • 昭和60年頃、桃太郎が出てたが、その前は青いトマトの真ん中が10円玉くらい赤くなると、箱に詰めて送った。輸送が悪く東京に来るのに1日半〜2日もかかった。今日とったのを明日販売ではなくて、明後日販売。青いのがちょうど東京に着いたときにピンク色になって、見た目はおいしそうだけど、マズイ。タキイの桃太郎が大ヒットしたのは、樹である程度熟度をあげて収穫できるから。赤くても、すぐブヨブヨにはならない。

  • タキイの話では、桃太郎は、部屋数が多い。3LDKじゃなくて5LDKくらい。柱が多いから、甘さを感じる。ゼリー質が多いと、酸味を感じる。でも、ゼリーが多いほうが、ジューシーさがある。トマトを丸かじりすると、ブチュッと出る。あれがトマトの醍醐味なんです。今のフルーツ系トマトには、それがない。ミニトマトのアイコなんて、切ってもタネがどこにあるのかわからないくらい。横半分に切って2室がミニトマト。2部屋のものは、全部ミニトマト。トマトのタネ屋さんがそう定義しているそうです。
◇甘酸バランス
  • 芦澤先生の平成16年のF1の話の資料を配ります。その中に、「甘酸相なす」とある。むずかしい言葉ですが、要するに、甘みと酸味のバランスが大事だということ。おいしさは、甘みと酸味のバランス。りんごにしても、みかんにしても、トマトにしても。甘ければいいというものではない。甘いだけでは、味がよくない。

  • みかんにしてもお客さんがよく、「甘いけれど、ひと味物足りない」、といいませんか? いいみかん、おいしいみかんは、みんな、糖と酸のバランスがいい。甘いだけのみかんはうまくない。それと同じように、トマトも、甘みと酸味のバランスがいいトマトが、いわゆる、おいしいトマト。甘いトマトとおいしいトマトは違う。
◇よい品をちゃんと評価しないと、残らない
  • 消費者の方は1銭でも安いほうがいい。われわれも1銭でも安いほうがいい。でも、みんなが値段の勝負だけをやり出すと、いつか生産者が参ってしまう。再生産価格が維持できない限り、再生産してもらえない。

  • 先日、やまけんさんから「日本の食べ物は安すぎる」という話がありましたが、ぼくも安すぎると思う。たとえば、キャベツ1個200円は高くない。家族4人分の焼きそばができる。それでも消費者の方は「高い」という。いくらならいいのかというと、100円。キャベツ1個100円ということは、1箱800円。市場と八百屋のマージンを引いたら、農家の手取りは200〜300円がいいところ。段ボールとか肥料は高い。物価が安くなっても、経費はいっこうに下がらない。つい最近までオイルが高かった。じゃあ、オイルが下がったから安くするかというと、しない。ビニールの袋とか、そのまま。農業資材なんかも、非常に高くなった。それではやっていけない。だから、来年は作らない、減らす、となる。これでは後継者は育ちません。

  • みなさんが評価して売らないと、いつかいいものがなくなってしまう。農家はやめたらダメ。サラリーマンがクビになって、他の会社に行くのとは違う。畑を3年放っておいたら元に戻すのに2〜3年かかる。タネをまけばまた出てくるかというと、そうはいかない。結局、われわれが市場で、ちゃんと評価をして、それなりの価格で売る。そういう努力をしないと、いいものがなくなってしまいます。

  • いいものが安かったら、なくなってしまう。そこそこのものを作って1000円で、いいものを作って1200円だったら、農家はそこそこのものを作ります。骨折って、畑を何回も見に行ったり、灌水したり…。それで2割ぐらいだったら、あわない。野菜は、一流のものとそこそこのものの値段はそれほど変わらない。
◇セロリの売り方
  • セロリも昔は束ねて売った。何でも袋に入れて1本ずつではスーパーに対抗できない。八百屋さんは、「風に吹かれる前に売ってしまう」ぐらいの気合いで、鮮度をウリにしていかないと。丸ごと売るぐらいの気迫がいる。ウマイんだから。食べちゃうんだから。

  • 今日、名人のセロリがきていますが、本当に品物がいい。篤農家が作った野菜はウマイ。市場には、こういうものがたくさんある。F1ばかりになってしまったが、篤農家がたくさんいる。そういうものを八百屋がチョイスして、消費者にぶつける。値段ではなく、味。「アレじゃなきゃだめ」といわせる。お客さんだって、ウマイものは、「明日も食べたい」と思うんです。
◇いいお客さんをつかまえよう
  • お客さんのニーズは、安い、見栄え、安心、安全。食べ物がなかった頃は、何でもよかった。食糧が不足した戦後は、F1を作り、品種改良し、ハウス栽培が普及し、作型をかえて大量生産を目指した。

  • 今のニーズは、安心、安全。外国からいろいろな野菜が入ってきて、トレーサビリティの問題とかもいろいろあって…。安くて見栄えがいいのはいいけれど、大丈夫かと心配になってくる。

  • おいしさや安全性を求める人は、うちの店で3割ぐらい。6〜7割は、絶対、安いほうがいい。安さを求めてお店を探して歩く。その中で、おいしさと安全を求めている消費者をつかまえなくちゃいけない。

  • 安さを求めている人は、食べ物に関心がない。1円でも安い食材を求める。マスコミも安いのを助長するような番組を毎日のようにやってる。1銭でも安く切り盛りすることがよしとされる時代になっている。きゅうりだって、ハウスだろうが無加温だろうが、関係ない。3本98円がいちばんいい。実際、「どれ食べたって所詮きゅうりの味しかしない」、とぼくに言ったお客さんもいる。

  • 高品質のものを求めているお客さん、おいしさがわかる人もいる。八百屋さんは、説明をすることで、そのお客さんのニーズ、好みに合わせたものを選んであげることができる。たとえば、ちょっとお金持ちのおばあちゃんがいるとしましょう。お金があるから、いつもフルーツトマトを買う。ふつうのトマトなんて買いません。糖度の高いのでなければ買わない。そのおばあちゃんがイチゴを買いに来たら、デラックスの1000円のを売るんです。ふたつ500円のを売ってはダメ。そこを見極めないといけない。こういう人はスーパーには行かない。スーパーでは自分でチョイスして間違ってしまう。でも、八百屋さんに来れば、ちゃんと、八百屋のオヤジが高くてウマイものを選んでくれる。だから、八百屋は、この人にはこういうもの、とちゃんと見分ける。もし、その人がきて、いいものがなかったら、「今日はちょっとね…」と断ったほうがいい。いつもフルーツトマトを買ってる人が来たが、今日はない。「なんでもいいや、売っちゃえ」ということはしないほうがいい。「明日来るから、1日待ってちょうだい」、と言う。お客さんは、「私が買おうと思っても売ってくれない」とは思わないんです。「私向きのいいのがないから、探してきてくれるんだ」、となる。
◇市場性が野菜を育てる
  • 「新顔野菜」が非常に多くなっている。新顔野菜は、タネ屋さんが開発して急に出てきたのかというと、そうでもない。

  • 田中角栄が中国と国交正常化したのが、今から約30年前。そのころに入ってきたものが多い。あとは戦前、昭和12〜15年頃。日本は戦争に向かうのがわかっていたから、政府は、中国大陸から中国野菜をもってきた。でも定着しなかったのは、日本人が食べ方を知らなかったから。中国野菜を炒めずにゆでて食べてしまった。日本人は何でもゆでて、おひたしで食べる。青梗菜やターサイをゆでて、かつおぶしをかけても、何の味もしない。だから、一回出てきたが、売れなくて、ひっこんでしまった。それがここ10年くらいで、また…。仕掛けたのは中華街。中国野菜を食材にしている業者に、需要があったから。

  • 築地は、大葉の競売をやっている。なぜかというと、全国の値段を築地で決めなきゃならないから。1枚300円だとか、400円だとか。大葉は取引の重要品目。市場性というのがある。

  • 横浜のマルナカや金港青果は、中華街が控えているから、中華食材の変わった野菜がいっぱい集まる。足立には買う人がいないからこない。市場性によって、野菜が育てられている、という部分が強い。
◇食べることの大切さ
  • 八百屋さんでも野菜が嫌いな人いますよね。ぼくは、10年前、八百屋塾に来始めた頃は、トマトが嫌いで食べられなかった。

  • トマトを勉強するに当たって、食べないと味がわからなかった。果物はだいたいわかるが、トマトは本当に食べないとわからない。毎年、新しい作型のトマトが来ると食べる。

  • ぼくは野菜を1日350グラムどころではなく、500グラム近くは食べています。野菜大好きで、おかげさまで、医者に行ったことはありません。とにかく、野菜をよく食べる。
◇勉強が必要なわけ
  • 今日、トマトがいろいろ並んでいるが、今どれがウマイのか。八百屋塾を5年もやって、しっかり勉強していれば、食べないうちから、これがウマイ、これはそこそこ…と、全部わかるようになる。

  • 市場では試食できない。特に高いものは無理。ここで味を憶えて、市場でしっかりチョイスする。

  • ちゃんと勉強しておかないと、お客さんの質問に答えられない。最近は八百屋さんより詳しいお客さんもいる。

  • 品種がいつごろ出ていつごろ終わるとか、そういうことをよく憶えておかなければいけない。それを間違えると、市場で、もうおしまいの味が落ちてるものを買ったり、つかまされたりする。
◇新顔野菜がお店の差別化につながる
  • アイスプラントだって、八百屋塾では、もう3〜4年前に取り上げました。足立には2〜3ケースしかこないけど、よその市場には相当出ているのかな。足立では3人くらいしか買ってない。で、困るとうちにくる。うちでは売りまくりました。それでも、ほかの店はまだ売ってない。凍っているように見えるから、アイスプラント。いろんな名前があるのですが、テレビでこの名前で紹介されました。トマトを縦に切らないで、横にスライスした上に、アイスプラントをのせるだけでおいしい。トマトと塩の加減がちょうどマッチしていいんです。こうすれば、トマトも売れる、アイスプラントも売れる。

  • 新顔野菜も、八百屋塾でたくさん紹介されます。市場に行くと、必ず出ているのですが、市場のセリ人はあんまり知らない。一般野菜と特殊な野菜をいっしょに売っているところもある。東一の個性園芸課は、篤農家や名人が作っているものを集めて、この野菜は違うんだよ、と別に売っているが、市場によっては、十把一絡げで、脇へほったらかしているところもある。ある市場の売り子は、八百屋塾に来ている人を探して、呼びにくる。他の八百屋さんは、名前も食べ方も知らないから、買ってくれない。われわれは、ここで、2年も3年も前から、それを勉強していますし、食べています。八百屋塾で勉強していれば、どこに野菜が転がっていても、チョイスできる。ですから、ぜひ、ここで勉強して、よその店との差別化を図ってください。
 

【八百屋塾2009 第1回】 理事長挨拶実行委員長挨拶講演「なぜ勉強が必要か」勉強品目「トマト」商品情報食べくらべ