■2009年8月23日 第5回 〜 講演「“トマト”について」 タキイ種苗(株) 開発担当 藤井厚氏
◇現在の産地状況について
  • 今年は3月頃からの少日照条件で、トマトの栽培がかなり難しくなっています。量もなかなか出ない。単価も、例年に比べて高いという状況が続いています。

  • 今後も、いままでの少日照条件があり、花が弱い、という状況です。

  • いま、抑制トマトの作付け時期で、そろそろ収穫が始まります。
タキイ種苗(株) 開発担当 藤井厚氏
  • 抑制トマトに関しては、「異常茎(いじょうけい)」や「めがね症状」という生理障害が出る。そうすると、花が着果せずに落ちたりするので、今後とも、収量が不安定になりやすいと考えられています。
◇「桃太郎」には22品種ある
  • 一般に、「桃太郎」といわれているトマトは、実は、22品種で構成されています。

  • 昔は、作りやすいということもあり、非完熟系で、とったらすぐに食べるようなトマトが主流でした。日本が経済成長のなか、物流が盛んになり、消費地から離れたところでトマトを作って持ってくるというときに、非完熟系だと、荷傷み(にいたみ)をしてしまう。当時は、それでも、青くとって、それを市場に持ち込んで、そのうちに赤くなる…というような、青もぎトマトが作らていました。ところが、それでは、なかなか食味が上がらない。それで、いまから24年前、タキイが育成して、完熟系の「桃太郎」を販売しました。元祖「桃太郎」といわれるものです。従来よりも、赤くなってから収穫できる。その分だけ、糖度がのったトマトが市場に並ぶ。当初は、従来品種に比べると、「桃太郎」は10倍ぐらいの市場単価で取引されたそうです。

  • 栽培としてはかなり難しかったので、農家も苦労したそうです。ただ、農家の方が、「桃太郎」を作るようになった時期に、栽培レベルが一気に上がった、とよく言われます。なんとか単価のいい「桃太郎」を作ろう、ということで、技術を磨き、いろいろと工夫をされたということでしょう。

  • タキイとしては、作りにくい品種をずっと提供するわけにはいかないので、作りやすい品種に切り替えてきています。

  • トマトの人気が高まってきて、周年トマトを食べたい、という要望があり、いろんな作型で作っていただこう、ということで、現在、22品種になりました。
◇トマトの作型
  • トマトの作型は、5つあります。まず、「夏秋(かしゅう)栽培」。3月に種をまき、5月に定植、7月〜11月収穫の作型。

  • 「抑制栽培」は、6月ぐらいにまいて、7月に定植、8月下旬ぐらいからとれ始め、9月がメインで、11月ぐらいまでとっていく作型。

  • 「促成栽培」は、加温栽培で、9月頃まいて、2月頃からとっていくような作型です。

  • 「半促成栽培」は、だいたい、11月〜12月頃にまいて、収穫が4月〜8月ぐらいまでになります。

  • 「無加温栽培」は、パイプハウスなどで、まったく加温せずに育てる。だいたい、1月頃まいて、5月〜8月までとっていく作型です。

  • 品種でいえば、「桃太郎」、「桃太郎8」、「桃太郎サニー」、「桃太郎ギフト」、「桃太郎なつみ」、「桃太郎T93」が夏秋品種。冬春系の品種は、「ハウス桃太郎」、「桃太郎J(ジェイ)」、「桃太郎はるか」「CF桃太郎はるか」の4品種。春秋系は、「桃太郎ヨーク」、「桃太郎ファイト」、「桃太郎コルト」、「桃太郎あきな」、「桃太郎グランデ」です。
◇元祖「桃太郎」
  • 元祖「桃太郎」は、24年前に新発売されました。糖度と酸度のバランスがよく、私は桃太郎シリーズのなかでも、いちばんおいしい品種だと思います。玉はかたく、すごくきれいなんです。作れる方はこれを作ってほしいのですが、花が少なかったり、初期の草勢(そうせい)が強く、後半急に細くなったりして、収量がなかなか望めません。栽培性の難しさから、いまは減ってしまっています。

  • 主な産地は、北海道の平取など。関東では、茨城の行方農協に「キストマト」という高糖度トマトがあるのですが、それは、純系の桃太郎を使って作られている、ということです。

  • 種子の量からみれば、占有率が中程度。家庭菜園とか直売を中心に、中程度の売れ行きを示しています。
◇「桃太郎8(エイト)」
  • 「桃太郎8」は、「桃太郎」の後継品種。夏秋(かしゅう)の品種になります。

  • 古い品種で、もう15〜16年前のものになります。現在、東北全域であるとか、群馬、飛騨などで作られています。あらゆる夏秋産地に、この「桃太郎8」が主力で入っています。

  • 「桃太郎」は作りにくかったのですが、これを作りやすくして、収量が安定的に出るようにした品種。だから、味もいいし、収量もとれる。「桃太郎8」が出てからは、大半が「桃太郎」から「桃太郎8」に切り替わり、いまもなお、「桃太郎8」が主力、といった状況です。

  • 食味は5段階評価でいちばん上、かなりいい食味を示しています。玉は大玉で、かたい品種です。
◇「桃太郎サニー」と「桃太郎ギフト」
  • 「桃太郎サニー」、「桃太郎ギフト」は、去年、新発売になりました。「桃太郎8」の後継品種です。

  • ここ何年かをみていると、夏秋産地も追肥を一生懸命やって、後半までしっかりとりたい、という意向が強くなっています。9月以降、トマトの値段が上がってくるからなんです。そうしたなかで、葉かび病の耐病性品種を求める声が多かったんです。葉かび病は、樹が疲れてバテてくると出てくる病気です。たとえば、サカタの「マイロック」や「麗夏(れいか)」という品種は、葉かび病の耐病性を持っていました。でも、「桃太郎8」は、葉かび病の耐性を持っていなかった。ようやく、タキイから葉かび病の耐病性品種が出た、ということで、今年、東北を中心に、「桃太郎8」の切り替わりで、「桃太郎サニー」、「桃太郎ギフト」が入っています。

  • 「桃太郎サニー」と「桃太郎ギフト」では、「桃太郎サニー」のほうが大玉で、秀品性がいいタイプ。大きな農協で、ロット勝負をするようなところは、「桃太郎サニー」を導入する傾向にあると思います。

  • 「桃太郎ギフト」は、食味を重視した品種です。どちらかというと、小ロットで、食味で勝負していくような産地が、「桃太郎ギフト」を入れる傾向にあると思います。

  • 主な産地は、福島の白河など。占有率を見ると、「桃太郎サニー」のほうが出ています。「桃太郎ギフト」は、玉がやや小ぶりなので、福島の会津など、どちらかというと、こだわった産地で作られています。

◇「桃太郎なつみ」
  • 「桃太郎なつみ」は、「桃太郎サニー」「桃太郎ギフト」よりも数年早く品種化されましたが、残念ながら、いま、産地は減っています。

  • 減少の理由としては、玉が全般的に小玉であるということ。食味は、糖度が薄く、酸味だけがちょっと強い。酸味が好きな方は、「桃太郎なつみ」でOKなのですが。やはり、傾向としては、甘いトマトが人気になっていますから…。そういったことで、「桃太郎なつみ」は減っている状況です。

  • 生産者メリットでいえば、「桃太郎なつみ」は青枯れ病の耐病性を持っていなかった。一方、「桃太郎サニー」や「桃太郎ギフト」は青枯れ病の耐病性を持っています。そういうこともあって、「桃太郎サニー」や「桃太郎ギフト」に切り替わっているのだと思います。
◇「桃太郎T93」
  • 「桃太郎T93」も、古い品種です。作りやすい夏秋トマト。

  • 「雨よけハウス」といいますが、夏場でもトマトはまったくの露地ではなく、大きなビニールハウスのなかで、2畝とか3畝のなかで管理している。雨にあたるとトマトが割れたり、病気が出たりしますから。傘をかぶせてやるんです。「桃太郎T93」は昔の品種なので、傘がなくても、要するに、露地状態でも作れる品種です。

  • 「桃太郎T93」は、肥料に鈍感。肥料に敏感な品種は、急に雨を吸うと玉が割れたりするのですが、そういったことが少ない品種。露地や、アーチ状の合掌の上にちょっとだけビニールをかぶせるような「簡易雨よけ」の栽培でも作りやすい品種です。

  • 作りやすさもあり、横浜近郊では露地栽培で「桃太郎T93」が作られています。新潟の豊栄という産地でも、味がいいということで、「桃太郎T93」を好んで作っています。
◇「ハウス桃太郎」
  • 冬春系の「ハウス桃太郎」、これも「桃太郎8」ぐらい古い品種になります。ただ、この品種は、すごく作りやすい。促成栽培が主ですが、抑制栽培や半促成栽培、あるいは、春の無加温。こういった作型で、広く産地化されています。

  • 特に、肥料に対して鈍感で、敏感さがない。千葉の北総のほうで、スイカ栽培のあと、秋に抑制栽培でトマトを作っています。スイカのあとというのは、すごく肥料が残っています。そのなかに、肥料に敏感な品種を入れると、すぐに樹ができてしまって、実がつきません。あるいは、異常茎が出て、実がつかない。「ハウス桃太郎」は、そういうところで作っても、ちゃんと実がとれる。そうしたすぐれた特徴があります。

  • 食味は、どちらかというと、甘みのほうが強い品種で、酸味はそれほどないと思います。玉も少し小ぶり。ただ、色上がりが抜群にいいので、人気が高い。北海道、三重、千葉の北総など、全国的に作られている品種です。
◇「桃太郎J(ジェイ)」
  • 冬春系品種の「桃太郎J」は、いまはそれほど作られていません。

  • 桃太郎系のなかでは、低温性が抜群にいい品種。昨年、重油が急騰しました。油が高くなりすぎて、トマトが作れないのではないか、という人もいました。そこで、なるべく低温管理したいということで作られたのが、この「桃太郎J」です。最低気温7度ぐらいで作れる品種です。

  • サカタの「麗容(れいよう)」という品種は、最低気温が10度ぐらい必要。「桃太郎J」は、7度ぐらいで管理できる。もし、今後、また油が高くなってくれば、こういった品種が多く作られることになると思います。
◇「桃太郎はるか」と「CF桃太郎はるか」
  • 促成の「桃太郎はるか」、「CF桃太郎はるか」という品種は、いま、熊本や関東地区で増えている品種です。

  • いままでは、特に、「桃太郎はるか」が主力で動いていましたが、今年の状況を見ていると、産地が「CF桃太郎はるか」にガラッと切り替えています。おかげで、種がショートしている状態。

  • 「桃太郎はるか」という品種は、葉かび病の耐病性を持っていませんでしたが、今回の「CF桃太郎はるか」は、葉かび病の耐病性を持っています。「CF」とついているものは、葉かび病の耐病性を持っている。

  • 葉かび病の耐病性にも2種類あり、「CF4」というレベルと、「CF9」というレベルがある。今回の「CF桃太郎はるか」は、トップレベルの「CF9」の耐病性を持たせている。

  • 後半、樹がバテてくると、耐病性を持っていない品種は、葉かび病におかされて、葉っぱがボロボロ落ちて、実がつかず、全然収量が上がらないということになる。今年は、CFに切り替わっているので、後半の収量も望める。

  • 群馬、埼玉、栃木の宇都宮農協、那須南農協、熊本の八代などで、「CF桃太郎はるか」が栽培されています。八代では「りんか」も結構増えたということですが、主力は、やはり、「CF桃太郎はるか」だと聞いています。

  • 「CF桃太郎はるか」は、玉のびがいい、色上がりがいい。後半、6月〜7月になって、肩のグリーンが黄色くなるような症状がない。色上がりには定評があります。
◇「桃太郎ヨーク」と「CF桃太郎ヨーク」
  • 「桃太郎ヨーク」という品種は、タキイのなかでも3本の指に入るぐらい、産地化の進んだ品種になっています。特徴は、とにかく大玉であるということ。

  • 生産者が喜ぶ特徴としては、節間(せっかん)が短いということ。「桃太郎はるか」や「桃太郎J」は、節間が長いので、誘引作業に追われてしまいます。「桃太郎ヨーク」は、そんなにスイスイ伸びていきませんから、誘引が忙しくない。屋根の低いパイプハウスの中でも、「桃太郎ヨーク」なら、直立誘引でOK。そういったメリットがあり、「桃太郎ヨーク」は人気があります。

  • 今年、タキイから新しく出たのが、「CF桃太郎ヨーク」です。「桃太郎ヨーク」は、葉かび病の耐病性を持っていましたが、中程度、CF4のレベルでした。今回は、それを、CF9のレベルに上げているので、葉かび病に強い、ということです。

  • 主な産地は、茨城県のJA北つくば農協が全量「桃太郎ヨーク」です。愛知県や静岡県のほうでも「桃太郎ヨーク」が多い。

  • まだ、今年は、「CF桃太郎ヨーク」は試作段階で、「桃太郎ヨーク」から切り替わるといった状況ではありません。来年あたりから、「CF桃太郎ヨーク」に切り替わると思います。

  • 「桃太郎ヨーク」に関しては、正直、糖度がやや落ちるのでは、という指摘もあります。ただ、絞ればおいしい。酸味もありますから…。たとえば、静岡県の高糖度トマトは、「桃太郎ヨーク」を絞って作られています。

◇「桃太郎ファイト」と「CF桃太郎ファイト」
  • 「桃太郎ファイト」は、タキイの品種のなかでは、いちばん食味がいいということで、人気が高い品種です。普通に作っても味がいい。玉は腰高で、それほど大きくはないのですが、食味がいいので、全国の直売所で「何を作っているのですか?」と尋ねると、大半が「桃太郎ファイトを作っています」、とおっしゃいますね。

  • 酸味は薄いのですが、糖度がグーンと上がった味になっています。食べると、「あ!甘いな」と感じられ、若い女性や子どもが好む味。

  • 「桃太郎ファイト」にもCFタイプが出て、北海道など、今年からすでに作付けが始まっている産地もあります。従来の「桃太郎ファイト」も、北海道で人気。九十九里沿岸部でも作られています。
◇「桃太郎コルト」
  • 「桃太郎コルト」は、だいぶ少なくなってしまいましたが、味がいいので、直売では入っています。糖酸比がいい。糖度も酸味もあるということで、酸味を好む方は、「桃太郎コルト」を直売所等で出しています。
◇「桃太郎あきな」と「桃太郎グランデ」
  • 関東の抑制産地で、いま、多く入っているのが、「桃太郎あきな」と「桃太郎グランデ」という品種です。昨年まで、タキイでは、「桃太郎あきな」という品種を押していました。葉かび病の耐病性を持っていますし、玉もきれい、味もおいしい、ということで…。千葉では多くの農協が導入されています。

  • 今年ぐらいから、「桃太郎あきな」が「桃太郎グランデ」という品種に切り替わっています。昨年までは、「桃太郎あきな」をおすすめしていたのですが、収量性からいうと、サカタの「りんか」、ミカドの「みそら64」という品種に負ける部分がみえてきたので…。より大玉性の「桃太郎グランデ」という品種を、今年から導入しています。

  • 「桃太郎グランデ」は、初年度にもかかわらず、好評です。千葉県を中心に、来年から増えていくと思います。玉がかなり大きくて、上段まで収量が安定的。今後、人気になってくると思います。
◇「ホーム桃太郎」と「ホーム桃太郎EX(イーエックス)」
  • 八百屋さんにはあまり関係ないと思いますが、家庭菜園で桃太郎を作りたいという人のための品種が、「ホーム桃太郎」と「ホーム桃太郎EX」です。露地状況でも作りやすい品種。シロウトさんでも作れます。家庭菜園をやられるという方には、この「ホーム桃太郎」、「ホーム桃太郎EX」がおすすめです。
◇「桃太郎ゴールド」
  • 昨年新発売した「桃太郎ゴールド」は、特殊なタイプ。黄色いトマトなんです。

  • いままで、黄色い野菜というと、パプリカぐらいしかなかった。サラダに彩りで黄色いトマトを、特に大玉がほしい、という声がありまして。タキイでは、いままで、「黄寿」という品種をやっていましたが、これは食べるとモサモサして、味も素っ気もないんです。そこで、「桃太郎ゴールド」という品種を作りました。

  • 「桃太郎ゴールド」は、桃太郎系の血をひいているので、ある程度のコクや、肉の粘質性を持たせています。赤と比べてしまうと、私は、やはり、赤いほうがおいしいと思うのですが、従来の「黄寿」に比べたら、数段おいしくなっています。

  • サラダに「桃太郎ゴールド」が入れば、かなり色彩がよくなる。いま、産地でも一生懸命取り組んでいるので、今後、定着していくかな、と思っています。いまのところは、直売所や家庭菜園で流通しているような状況です。

  • 「桃太郎ゴールド」は、収穫が難しい。赤いトマトだと、緑が白くなって、赤くなる。その色合いで採る時期が判断できる。黄色いトマトは、だんだん黄色く上がってくるので、とれ頃が難しい。アイボリー色やレモン色でとると若すぎてしまう。完熟すると、オレンジ色になります。オレンジ色ぐらいでとってもらえると、いちばん、味がのっているかな、と…。また、肩のグリーンが残りにくい品種で、裂果も遅い。ですから、早もぎするというよりも、完熟出荷で出していただきたい、と思っています。

  • 樹は旺盛ですが、少日照条件での同化作用が鈍い。トマトは光を受けると光合成をして、同化養分というのを作ります。それを玉に送り込んで実がふくらむのですが…。同化作用が鈍いと、特に今年は曇天が多いですから、空洞果になってしまう。ですから、適作型は夏秋栽培、光の強い夏秋栽培に限定してください、といっています。促成で作ると、どうしても空洞果という問題が出てきます。夏秋栽培でも、今年のように天候が悪いと、空洞果が多くなる。今年は、通常より、見た目が悪いかもしれませんね。

  • 現在の状況ですが、鮮やかな果色もあって、なんとか作りこなそうと産地のみなさんにがんばっていただいています。ただ、栽培がなかなか難しいということで、あきらめる産地も出てきました。今後、どこまで産地化できるかは未定ですが、赤と黄色を並べて売れば、結構見栄えもしますので、積極的に産地化をはかっているような状況です。
◇「TY桃太郎さくら」と「TY桃太郎アーク」
  • 「TY桃太郎さくら」、「TY桃太郎アーク」は、黄化葉巻(おうかはまき)病の耐病性を持たせた品種ということで、数年前に新発売しました。

  • 黄化葉巻病に関しては、トマトが今後日本で作れなくなるのでは…、というぐらいひどい病気だということで、農業新聞等でよく特集が組まれていました。タバココナジラミといって、いままでのとは違う小さいコナジラミが、産地で増えています。その虫だけが媒介するウイルスです。以前は、オンシツコナジラミというちょっと大きめの虫でしたが、それは媒介しない。ハサミでも、手でもうつりません。英語では、「Tomato yellow leaf curl virus」。略して「TYLCV」ともいいます。

  • 黄化葉巻病のタイプは、いま、日本には、イスラエル系とマイルド系の2種類があるといわれています。九州ではイスラエル系だけなのですが、関東や愛知では、2種類とも発見されています。「TY桃太郎さくら」、「TY桃太郎アーク」は、イスラエル系には強いのですが、残念ながら、マイルド系に対しては弱い。九州のほうでは「TY桃太郎さくら」が中心に入っていますが…。愛知から東のほうは、両方出るので、「TY桃太郎さくら」、「TY桃太郎アーク」は、普及していません。
◇タキイ種苗の育種方針
  • タキイの育種方針としては、まず、第1の選抜形質が「食味」です。第2位が「色」、第3位が「形状」。サカタは、どちらかというと栽培性、作りやすさが第一のようです。第2位が、玉のかたさだと思います。

  • タキイとサカタの品種を比較して、特に、促成トマトで、タキイには店持ちの部分が足りない、といわれます。9月にまく促成トマトは、4月頃に樹が弱ります。まわりに水田があるところでは、水田に4月から水を入れ始め、水位が上がると玉がやや軟化気味になる。「軟化玉」といいます。そういったものが、桃太郎系には出やすいといわれています。5月になり、温度が定まってくると、また玉がかたくなるんですが…。軟化の問題で悩んでいる産地が、かたい品種に移行することもあるようです。ただ、かたい品種というのは、タキイでも作っていますが、なかなか味がのってこない。ちょっと味は落ちるけどかたい、おいしいけど少しやわらかい…。両方いい、という品種がまだなくて、産地も悩みながら…、という状況です。
◇中玉トマトについて
  • 大玉以外で注目のトマトについてですが、中玉で、「フルティカ」という品種があります。特徴は、果皮がやわらかい。たとえば、「レッドオーレ」や「カンパリ」、「シンディスイート」などに比べ、皮がすごくやわらかくて、肉も粘質なんです。

  • 皮がかたくて中がやわらかいトマトというのは最悪です。皮がかたいから、グーッと力を入れて噛むと、中がやわらかいので、汁がビューッと飛ぶ。それで、中玉は一時期嫌われました。「フルティカ」は、皮がやわらかくて、中もやわらかい。肉はトロッとした粘質。試食会で食べていただくと、高齢の女性などが「これはおいしいねぇ」といってくださいます。

  • 「フルティカ」という名前は、「フルーティー感覚で食べられる中玉」ということからつけられました。どちらかというと、酸味は少なく、本当にフルーツみたいな味がします。「シンディスイート」はやや酸味が強いと思うのですが、「フルティカ」は酸味が弱く、その分、糖度が上がる味になっています。平均糖度は7度。冬場にかけては9度ぐらいまで上がっていく品種です。

  • 産地は、茨城のJA行方農協、佐賀のJA唐津、埼玉では埼玉産直センターというところが取り組まれています。ただし、大玉のように産地がたくさんあるかというと、そうではない。やはり、大玉とミニの狭間にあるタイプなので、それほど店に置けない。賑やかしというか…。トマトのアイテム数のひとつ、ということでいままでは置かれていました。

  • ここ数年、ヨーカドーやイオンなどの売り場を見ていると、中玉トマトを全面に持ってきて、ひな壇を組んで売るようなやり方も始まっています。いままでのスタンドパックではなく、弁当箱といいますが、平らなパックに5〜6個入れて売る。それを独身女性が買って帰って、毎日1個ずつ食べる。5〜6個入ってますから、ちょうど1週間でなくなる。そうすると、また買いに来る。大玉を買うと、切って、食べきれない場合、ラップで包んで冷蔵庫に入れる。最後には腐ったりします。ミニだと、小さすぎる。そういったケースには、中玉が合っているのでは…。トマトの売り方もだんだん変わってきているように思います。そういった意味では、中玉の引き合いも強くなる。
◇ミニトマトについて
  • 「千果(ちか)」というミニトマトは、愛知県や熊本県で多い品種です。

  • ミニトマトにも、葉かび病の耐病性品種が結構入るようになり、「食味が落ちた」、といわれる方もいます。

  • 「千果(ちか)」は、葉かび病の耐病性を持っていない。その分だけ、味がいい。色ツヤもいい。従来の品種は、後半の玉になると、色が急にくすんだり、ツヤがなくなったりしましたが、「千果(ちか)」という品種はずーっと色ツヤがいい。また、イヤな酸味がなくて、糖度が上がるタイプなので、本当においしい。花数が多いので、収量性もいい。結構とれる。それで、よく作られてきました。

  • ここ数年、葉かび病の問題があり、ミニトマトの品種が急に変わってきました。農薬の規制がかなり厳しくなり、大玉とミニで、農薬の登録が分けられたんです。大玉といっても、直径3センチが基準で、それより小さい品種と、それより大きい品種に分けられた。大玉の品種は使える農薬がいろいろありますが、ミニのタイプは薬が本当に少ない。葉かび病の薬も少ないので、みなさんが困ってしまい、「ラブリー藍」とか「レッドルビー」とか…。あまり聞き慣れないような品種に切り替わっていった、ということです。

  • タキイでも、CFのついた「CF千果(ちか)」という品種が今年から出て、熊本では、これが多く入るようになりました。ですが、味的には、従来の「千果(ちか)」のほうが上ですので、食味にこだわる産地は、引き続き、「千果(ちか)」を作っていくのではないでしょうか。
 
 

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