■2024年1月21日 第10回 さつまいも・いちご 〜 講演「さつまいもについて」 さつまいもカンパニー(株) 代表取締役 橋本亜友樹氏
◇はじめに
  • 私は兵庫県出身で、神戸大学農学部で植物育種を学び、IT企業で10年ほど働いたあと、ITによる農業支援を考え、起業しました。その後、さつまいもに特化して、さつまいもカンパニー(株)を設立。一般社団法人さつまいもアンバサダー協会も設立し、情報発信などを行っています。

  • さつまいもカンパニーは、茨城県境町と龍ケ崎市でさつまいもを生産しています。メインは「べにはるか」で、地元の干しいもメーカーなどに卸しています。このほか、昔の品種や新しい品種を栽培しており、去年は38品種を育てました。
さつまいもカンパニー(株) 代表取締役
橋本亜友樹氏
  • 一般社団法人さつまいもアンバサダー協会は、イベントや商品企画支援を行っており、去年から「さつまいもアンバサダー認定講座」を開始しました。日本全国から受講してくださる方がいて、多くのさつまいもファンがいることを嬉しく思っています。

  • スマート農業導入の支援も行っていますが、さつまいも栽培は手作業が多く、スマート化の前に機械化が必要だと感じています。また、宮崎県でさつまいもを生産している法人に対して人材育成サービスの導入支援もしています。
◇さつまいもとは
  • さつまいもはヒルガオ科サツマイモ属の作物で、学名は「Ipomoea batatas(イポメア・バタータス)」。サツマイモ属には、観賞用植物のアサガオや、熱帯野菜のヨウサイ(空心菜)など500以上の種が含まれます。

  • 一般的には塊根部分(養分を蓄えている肥大した根)を食用としますが、一部の地域では蔓や葉の部分も食用にします。

  • 本州などの温帯地域では開花しにくいのですが、品種や栽培条件によってまれに開花します。花はアサガオに似ており、花言葉は「乙女の純情」です。
◇さつまいもの生産と消費
  • 2022年度の国内生産量は710,700トン。鹿児島県が1位で、茨城県、千葉県、宮崎県と続き、この4県で約8割を占めています。

  • 生産量のピークは1955年(718万トンで現在の約10倍)。その後は前年度を上回る年もありましたが、基本的には減少傾向です。

  • 生食用のほか、さまざまな用途があります。戦後大きな需要があったデンプン用と飼料用は、貿易自由化の影響で激減。平成初期の焼酎ブームで、アルコール用が増加しました。近年は生食用が減少し、スイーツなど加工食品用が増加しています。

  • 青果用は全消費量の53.9%(2022年)で、農家の自家食用を含み、市場を経由しています。生産者→農協→市場→仲卸→小売店→消費者という経路が主流ですが、産地・生産者直送も多くなっています。サイズなどによる規格は、九州と関東では同じサイズ(L、Mなど)でもグラム数などに違いがあります。

  • 芋焼酎の原料は主に鹿児島や宮崎で生産しています。品種は「コガネセンガン」が大半で、オレンジ系・紫系など酒質に特徴がでる品種も利用されます。平成初期の焼酎ブームで全国に広がり、需要が伸びました。ただ、「コガネセンガン」は病気に弱く、品種の切り替えもが進められています。

  • 加工食品用は、加工用(干しいも、菓子、色素)と準加工用(焼きいも、大学いも、総菜)に大別されます。色素は、紫いものアントシアニンを利用し、漬けものやお菓子の着色に使われます。ペーストやパウダー、ジュースなど一次加工品も増えています。2021年までは半分くらいは干しいもでしたが、2022年からは菓子用が増え、焼きいも用も増えています。

  • デンプンは、鹿児島県にある工場で、デンプン用の専用品種(「シロユタカ」「こないしん」など)から製造されます。さつまいもデンプンは昔から魚肉練り製品のつなぎ、ダンゴ、いももちなどに用いられてきました。近年は異性化糖の製造原料が大半を占め、その他、はるさめなどのデンプン麺やくず粉の代替品として利用されています。

  • かつて全国的にさつまいもの蔓といもは自給飼料でしたが、安価な飼料が安定的に輸入され、飼料としての加工・使用は割高で貯蔵に難があるため、減っています。一方で、鹿児島のブランド黒豚や、茨城、千葉、群馬などで、豚の飼料として利用してブランド化する取組みがあります。豚肉の肉質改善に効果があるようです。
◇さつまいの育種と品種
  • さつまいもの品種は、現在、農水省のデータベースに100種近く登録されています。登録されていない品種、地方独自で育成された系統、昔の品種を含めると数百種あるといわれています。

  • さつまいもは、主に、農研機構、民間企業、生産者(篤農家)で、育成(育種)されています。

  • 農研機構は、九州沖縄農業研究センター(宮崎県都城市)、中日本農業研究センター(茨城県つくば市)で育種しています。九州では焼酎・デンプン用品種、関東では青果・加工用品種を扱う傾向でしたが、近年は九州で育成された青果用品種も多くなっています。

  • 民間企業は、三好アグリテック株式会社(ハロウィンスウィート、しろほろり)、カネコ種苗株式会社(シルクスイート、栗かぐや)など。特殊な用途(焼酎や医薬)向けの品種開発を行っている企業もありますが、ふだん目にすることはないかもしれません。

  • さつまいも生産者が生育中に発見した芽条変異種を選抜・育成するケースもあり、古くは「紅赤」や「蔓無源氏」などです。

  • 主流品種は時代とともに変化します。1945年に登録された「高系14号」は、広域適応性があったため全国の奨励品種となり、一時期は全作付面積の3分の1を占めました。1985年登録の「ベニアズマ」は食味も収量もよく、関東では徐々に「ベニアズマ」に転換、1993年に作付面積第1位に。西日本は「ベニアズマ」の栽培に適さず、西の「高系14号」、東の「ベニアズマ」となりました。どちらも粉質でホクホクした食感です。2010年、粘質でねっとりとした「べにはるか」が登録されました。これまでに比べて"はるか"にすぐれるという名前の通り、外観も食味も収量もよく、広域適応性もあるので、またたく間に全国に普及し、現在の青果用品種作付面積第1位となっています。

  • 2022年度の作付面積は、多い順に、「コガネセンガン」(21.3%)、「べにはるか」(21.1%)、「ベニアズマ」 (9.9%)、「高系14号」(9.0%)、「シルクスイート」(7.6%)、「シロユタカ」(6.5%)となっています。

  • 「高系14号」は、高知県の農事試験場で選抜育成、1945年品種登録。肉質は粉質と粘質の中間で、食味がよく、80年近く栽培され続けています。各地で栽培される中で多くの派生系統が発生し、紅さつま、土佐紅、大栄愛娘、鳴門金時、宮崎紅などの地域ブランド名で出荷されています。

  • 「ベニアズマ」は、農業研究センターで選抜育成、1985年品種登録。粉質で甘みが強く食味がよく、関東の広い地域で栽培されていますが、育ちすぎると条溝が発生しやすく、調理後の黒変も多いのが、食品加工業者にとって難点です。ただ、食味がいいので、根強い人気があります。

  • 「べにはるか」は、九州沖縄農業研究センターで選抜育成され2010年品種登録。外観にすぐれ、甘みが強くねっとりした肉質が特徴。収穫直後は粉質ですが、貯蔵すると粘質化し甘みが増します。近年の青果用主流品種で、紅優甘、紅天使、甘太くんなどのブランド名で販売されています。

  • 「安納いも」は、鹿児島県の種子島で栽培されていたさつまいもから個体選抜を行い、1998年に「安納紅」と「安納こがね」として品種登録。一般的に安納いもといえば皮が紅色の「安納紅」をさすようです。第4次焼きいもブームの火付け役といえます。肉質は粘質で、甘みの強い品種です。

  • 「シルクスイート」は、カネコ種苗株式会社育成の品種で、ブランド名です。絹のように滑らかな食感と強い甘みで人気。名前の消費者受けもいいようです。作付面積が増加しており、第4位です。

  • 「べにまさり」は生産拡大が期待される品種。九州沖縄農業研究センターで選抜育成され2005年に品種登録。しっとりした食感で甘みもあり、焼きいも向きです。これまで栽培の中心は茨城県でしたが、収量のよさ、早掘り適性、基腐病に強いことから近年は宮崎県など九州でも導入が進んでいます。

  • 「ひめあやか」は、次世代作物開発研究センターで選抜育成され2011年に品種登録。肉質はやや粘質でしっとりとして、甘みもあります。調理後の肉色は鮮やかな黄色。従来の品種よりも小さい食べきりサイズのいもができやすく、手軽に食べられて扱いやすいのも特徴です。とてもおいしいのですが、作りにくいこともあり、幻のさつまいも的な感じになっています。

  • 「すずほっくり」は、九州沖縄農業研究センターで選抜育成され2019年に品種登録。名前の通り、いもが鈴なりにできホクっとした食感です。家庭向けの食味のよい粉質系のいもとして期待できます。

  • 「あまはづき」は、中日本農業研究センターで選抜育成され2021年に品種登録出願。食感は粘質。貯蔵せず、収穫直後から糖度が高いことが特徴で、一般的なさつまいもの収穫最盛期よりも早い8月(葉月)に収穫できることが名前の由来です。

  • 「ゆきこまち」は、中日本農業研究センターで選抜育成され2021年に品種登録出願。食感はやや粉質。冷涼地でも十分な収量がとれ、食味もよいことから、これまで不適作地とされた地域(東北や北海道)での新たな産地形成や特産品化が期待できます。

  • 「ふくむらさき」は、農研機構九州沖縄農業研究センターで選抜育成され2021年に品種登録。一般的に紫いもは甘味が少なく、黄肉色系に比べ食味の評価が低かったのですが、「ふくむらさき」は紫色が濃く、甘みもあり、しっとりとした食感で、青果用紫いもとしての普及が期待されています。

  • 「ハロウィンスウィート」は、三好アグリテックが開発した品種で、2015年に品種登録。β-カロテンを多く含むオレンジ系の中では、甘みが強く、「健康さつまいも」として売り出されています。

  • 「コガネセンガン」は、九州農業試験場で坂井健吉氏を中心に育成され、1966年に品種登録。皮色が黄金色で多収であることから命名。デンプンの含有量が多く、芋焼酎の原料として急速に普及しました。食味がよいので一部は食用(芋ケンピやチップス)としても利用されています。

  • 「こなみずき」は、農研機構が育成したデンプン用品種で、従来の品種より約20℃低い温度で糊化する低温糊化性が特徴です。加工食品に使うことで、弾力感や歯切れのよさなどの食感改良、品質保持効果が期待されています。

  • 「シロユタカ」は、九州農業試験場育成、1985年命名登録。豊収性の白い「いも」を意味し、デンプン用主力品種として鹿児島県で栽培されています。焼きいもでも意外においしい品種です。
◇さつまいもの栽培と貯蔵
  • さつまいもの栽培は、地域などによって作業スケジュールは異なります。関東は2月頃から育苗をスタート。5月頃から植付を開始し、9月末頃から収穫、貯蔵、出荷。九州は約1カ月早いサイクルでまわります。デンプン、焼酎、一部の加工用は、収穫後にすぐに出荷し、貯蔵以降の作業は行いません。

  • さつまいも栽培は一般的に苗の植え付けから始まります。苗は種苗店で購入したり、自分で育苗をします。育苗は1〜3月に開始。種いもを苗床に伏せ込む方法と、バイオ苗(ウイルスフリー苗)を購入し苗床で増殖する方法があります。苗床は露地やハウスに設置。発芽には一定以上の温度が必要なため、プラスチックフィルムのトンネルやマルチで加温します。地温を高めるため、電熱線や発酵熱が利用されます。苗床にたい肥や肥料を施肥後、種いもを伏せ込んでいきます。

  • さつまいもは養水分の吸収力が強く、排水性の悪い圃場や窒素量の多い圃場では、収量や品質が低下するため、排水性など土壌物理性の改善が重要です。施肥は基肥のみ、窒素・リン酸・カリを品種や土壌の特性に合わせて調整します。土壌pHの適応性は5〜7で、酸性土壌でも生育します。土壌病害虫対策には殺菌剤や殺虫剤で土壌消毒を行います。物理性や排水性の改善のため、高畦にして栽培。主に雑草対策にはポリエチレンフィルムのマルチを張ります。さつまいもはやせた土地でも育つといわれるのは誤解で、いい土地のほうがいいものが採れます。

  • 採苗は、苗長25〜30cm展開葉が6枚以上のものを、ナイフやハサミで地際の1〜2節を残して一本ずつ切り取ります。長時間、腰をかがめた姿勢で行う、負担が大きい作業です。切り取った苗は、すぐには植え付けず、一定数を束ねて冷暗所に一定期間保管します。

  • 晩霜の心配がなくなり、地温が十分に高まる時期、関東だとGW明けくらいに植え付けます。苗の活着率を高めるため、雨が降る日の前日を狙い、植え付け直後に灌水を行います。

  • 苗の植え付け(挿苗)方法には、垂直植え、斜め植え、船底植え、水平植えなどがあり、作型や用途によって選択します。マルチ栽培の場合はマルチに穴をあけ、一本ずつ苗を畝に挿し込んでいきます。長時間、腰をかがめて行う労働強度の高い作業です。

  • さつまいもは病害虫に強く、手間いらずといわれますが、品質や収量の安定にはしっかりした管理作業が重要です。植え付け後、茎葉が繁茂するまでは除草、繁茂後は病害虫防除が主な作業です。

  • 茎葉が地表面をおおって雑草の発生を抑制させるには、植え付け後約2カ月月間が重要です。マルチ栽培の場合、畦間の通路部分に小型管理機で中耕除草、畦間に除草剤を散布します。

  • さつまいもの病害の原因は、ウィルスや細菌(放線菌や糸状菌)感染が多く、主として、サツマイモ帯状粗皮病、立枯病、黒斑病、つる割病、基腐病など。害虫は塊根に寄生するセンチュウ、塊根を食害するコガネムシ、ハリガネムシ、葉を食害するチョウ目の幼虫(ハスモンヨトウやナカジロシタバ等)など。病害虫対策は農薬散布で対応することが多いです。

  • 植え付けから収穫までの期間は、地域・品種・作型によって、概ね100〜150日。収穫作業は、蔓刈り、マルチフィルム除去、掘り取りの順に行われます。

  • 掘り取り前に茎葉(蔓)を除去します。鎌での手作業や、蔓刈機を利用します。マルチ栽培の場合、茎葉除去後にマルチフィルムを剥がします。

  • 手作業や機械で掘り取ります。掘り取り後は、大規模な原料用・加工用さつまいもはフレコンバッグに、青果用は収穫コンテナ(プラスチックコンテナ)に詰めて、圃場から搬出します。

  • 青果用は、貯蔵庫等に搬入され、注文に応じて出荷。数か月間貯蔵する場合もあります。腐敗発生や品質低下、消耗を抑える貯蔵条件は、温度13℃前後、湿度90〜95%。

  • 収穫作業によって塊根表面についた傷口から腐敗性の菌が内部に侵入すると、腐敗の原因になります。長期貯蔵には、塊根の表皮下にコルク層(かさぶたのような傷をふさぐ組織)を形成させるために、キュアリング処理(温度32℃前後、湿度95〜99%の環境下で53日間程度貯蔵)を行います。温度とともに、湿度のコントロールが重要です。

  • 洗浄すると貯蔵性が低下するので、多くは土付きのままで貯蔵。出荷前に洗浄・乾燥した後、サイズ・重量区分(階級)と外観・形状の良否(等級)によって選別されて、箱詰め、出荷されます。

  • さつまいもは一定期間おいてから食べるのがよいとされ、長期熟成や独自の貯蔵法をうたう商品も多くなっています。貯蔵により、デンプンが分解されてスクロース(ショ糖)の濃度が高まるからですが、詳しい生理機構は解明されていません。

  • ショ糖濃度を最大にするには最低4週間。30日まで急激に増加、60日まで緩やかに増加、60日以降は横ばい・微減となります。収穫直後の糖度が7%前後、貯蔵後は10〜15%(平均12%以上)に上昇(ただし、糖度含め品種間の差異は大きい)。

  • 貯蔵温度が低いほどショ糖の増加量は多くなりますが、同時に腐敗が進みやすいため、13℃ぐらいが最適で、16℃以上では増加は緩やかになり、19℃以上では萌芽による品質の劣化が起きやすいとされています。

  • 粉質から粘質への食感の変化は細胞レベルで説明できます。粉質のさつまいもは細胞壁の形を維持したまま内部が糊化したデンプンゲルで満たされ、個々の細組が独立した状態を保っているのに対し、粘質のさつまいもは、細胞壁が崩壊し隣接する複数の細胞が融合して、細胞外に流れ出た糊化デンプンゲルとともに一体化。貯蔵により細胞壁が崩壊しやすくなると考えられています。
◇さつまいもの栄養と機能性
  • エネルギー源としての穀物的特性と、体の調子を整える野菜的特性を兼ね備え、栄養バランスに優れているといわれます(準完全栄養食/健康増進作物といわれることが多い)。

  • 食物繊維、ミネラル、ビタミン、ポリフェノール類(クロロゲン酸など)など、生体調節機能や生体防御機能を有する成分を含みます。

  • 小麦や大豆など主要作物に比べアレルゲンとなることが少ない食材です。

  • 焼きいも1本(200g/皮なし)に含まれる栄養素と、1日摂取基準量(30歳〜49歳、身体活動レベル「ふつう」)を比べると、食物繊維、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEが多く摂取できます。タンパク質は少ないため、豚肉、乳製品などと食べ合わせると、バランスのよい食事になります。

  • さつまいもの甘みは、主にショ糖(スクロース)と麦芽糖(マルトース)の含有量で決まります。生には、ショ糖は含まれ、麦芽糖は含まれません。麦芽糖は、加熱し糊状になったデンプンをβ-アミラーゼが分解して形成されます。β-アミラーゼの失活は80℃付近、デンプンの糊化は65℃〜70℃。麦芽糖が生成される温度域は65〜80℃なので、甘くするには、この温度域でゆっくり加熱する、デンプン糊化開始温度を下げる、という2つが考えられ、前者は調理方法、後者は品種・産地の違いといえます。北海道産が甘くなりやすいとされるのは、糊化温度が低いためと考えられます。
◇さつまいもの食べ方と調理法
  • 家庭以外に、焼きいも、干しいも、大学いも、スイートポテトなどの専門店や加工業者が増え、スーパーなどの店頭で焼いもが売られて、より身近に、さまざまに楽しまれています。

  • 主食や主菜としては"蒸す""煮る"が多く、間食としては"蒸す""焼く"。形態も丸ごと、皮をむいて、粉にしてなど、さまざまです。

  • 酸化酵素やヤラピンの作用で褐変・黒変しやすく、切ったら水にさらすか、皮を厚めにむきます。

  • 「蒸す」は、食品を高温の水蒸気で包んで加熱する方法。"煮る""揚げる"に比べ加熱がおだやかで甘くなるのに適しています。水溶性の栄養素がわずかながら流出します。水分の変動は少ない。

  • 「焼く」は、150℃〜250℃の高温で加熱し、食品表面から脱水、味を濃縮。表面の焦げた風味は、他の調理法と違うおいしさです。熱源からの放射熱、庫内の熱対流、材質からの熱伝導が影響していると考えられます。

  • 「揚げる」は、150℃〜200℃の油に入れて加熱。脱水と吸油によって食感が変化します。表面は早く加熱され、中心までには時間がかかって脱水作用もあるため、甘くならないことも多い。

  • 「煮る」は、100℃以下の煮汁の中で加熱。他の食材と同時に調理できますが、火力やタイミングの調整が難しい。水溶性の栄養素が流出しやすく、煮汁を捨てると栄養素の損失が大きくなります。

  • 「レンジ加熱」は、食品中の水分子にマイクロ波を照射し、水分子の振動による摩擦熱で加熱する方法。水分が大きく蒸発するため、ラップや容器を利用します。
◇焼きいもについて
  • 1793年に本郷四丁目の木戸番が焼きいもを番屋で売り出すと、冬のおやつとして急速に人気を集め、江戸の町中に焼きいもの看板が現れたといわれます。木戸番屋は交番やミニ消防署のような役割もあり、火の扱いに長けているとされて、木戸番専売のようになっていたそうです。

  • 「栗(九里)より(四里)美味い十三里」という有名な洒落から「さつまいも=十三里」とされますが、当時は栗に少し劣るということで控えめに八里半という名前をつけていたようです。

  • 当初は毒を恐れた人もいたようですが、全国に普及し始めると、値段の安さも相まって、貴賤関係なく食べられるようになったといいます。

  • 江戸時代の焼き方は「炮烙焼き」。炮烙という素焼きの平たい土なべに並べ入れて焼かれました。熱源はかまどと思われます。その後、大正時代にかけては、「釜焼き」。割れやすい焙烙は、鉄の平釜に代わりました。昭和初期には、「壺焼き」。1929年に中国から神戸に伝わったとされ、翌年には東京に伝播。壺の中に針金で吊るして焼く方法で、熱源は主に炭でした。1951年に「石焼き」が登場。リヤカーに取りつけた鉄箱に小石を入れ、下から薪火で熱し、さつまいもを並べて焼く方法で、リヤカーは軽トラに、薪はプロパンガスに進化しました。2003年に遠赤外線を利用した電気式自動焼きいも機が開発され、電気は場所を選ばないので、スーパーやコンビニなどに普及しています。

  • 焼きいものおいしさのポイントは、甘み・食感・香りの3つです。食味は甘さの強弱と食感(粘質か粉質)で評価され、近年は甘みが強く粘質のものが好まれます。食味は貯蔵によって変化し、たとえば「べにはるか」は収穫直後のホクホクした食感が、ねっとりと甘味も増します。また、焼きいもの甘く香ばしい食欲をそそる香りは、加熱によって麦芽糖とアミノ酸などが反応したり、皮などのクロロゲン酸などが熱分解されて生まれる多様な香気成分の混ざりあったものです。現在の焼きいもの評価は甘さと食感の2軸ですが、今後は、香り(いも感、風味)を表現できる方法も必要でしょう。

◇昨今のさつまいも事情
  • 粘質で高い糖度の「べにはるか」はアジアを中心に海外でも人気です。海外で焼きいもという食習慣があったのは中国、韓国、台湾、ベトナムとされますが、ここ数年はヘルシー志向と合致して、タイ、香港、シンガポールへの焼きいも用を含むさつまいもの輸出が増えています。輸出業者によれば、海外での焼きいも人気の要因は3つ。「@甘くてとろっとした日本産の味が高く支持されている」。「A店頭で焼くので、甘い香りと焼き上がったタイミングでしか買えないことが人気」。「B東南アジアの食べ歩き文化と相性が良い。片手に持って歩きながら、そのまま食べられるのが好まれている」。

  • 2〜3年前まで「べにはるか」「安納いも」などネットリ系が全盛でした。最近はホクホク系を望む声も増え、新品種が続々と発表されています。すずほっくり(2016)、しろほろり(2018)、ゆきこまち(2021)、栗かぐや(2021)、ひめあずま(2022)、べにひなた(2023)など。消えていくものも多いのですが、それぞれの特徴を生かした商品が生まれてほしい、と思っています。

  • 以前はさつまいもの旬は秋(収穫シーズン)のイメージが強かったと思いますが、焼きいもによって冬のイメージに変わりました。さらに、冷やし焼きいもも登場し、夏にもイベントが開催されています。コンビニなどでも冷凍焼きいもが通常商品化されています。

  • 昨年は梅雨明けが早く、6月後半からしばらくは雨がほとんど降らず、さらにその後高温が続いた上に、たまにどかっと雨が降るという状況でした。そのため、いも自体は大きく育ったのですが、植える時期によって収量にかなり差が出ました。特に、シルクスイートやハロウィンスウィートで、内部が空洞化するなど生理障害が多く発生しました。
◇質疑応答より

    Q:今年のさつまいもは、傷みが多かった気がしますが、気候のせいですか?
    A:気候が大きいと思います。「べにはるか」は、掘ったときに腐っているものもあり、端が腐りやすいと感じました。それでも、「シルクスイート」よりは「べにはるか」のほうが作りやすく、貯蔵性もいいと思いました。

    Q:私の店で扱うのはシルクスイート中心で、今年は空洞化が、特に2Lで多かったのですが…。
    A:急激に水分を吸って膨らむと、空洞化しやすいかもしれません。

    Q:今後の課題としてあげられた「いも感」とは、どういったところだとお考えですか?
    A:ホクホクしているほうがいもの風味は感じやすく、甘みが強すぎると、いもの風味は消されてしまうかもしれませんが、やはり、個人の嗜好によると思います。