■2016年5月15日 第2回 じゃがいも・メロン 〜 講演「じゃがいものすべて」 一般財団法人いも類振興会 理事長 狩谷昭男氏
◇はじめに
  • 日本でいも類といえば、じゃがいも、さつまいも、さといも、やまのいも(やまいも、だいしょ、じねんじょ)の4品目を指します。

  • じゃがいもには、「馬鈴薯」、「じゃがたらいも」、「二度いも」など、数多くの名があります。英名は「Potato」、ちなみに、さつまいもは「Sweetpotato」です。1500〜1600年代くらいまでは、さつまいものことを「Potato」といっていました。ヨーロッパでは、さつまいもよりじゃがいものほうが広まったため、結局、じゃがいもが「Potato」、さつまいもが「Sweetpotato」になりました。
一般財団法人いも類振興会 理事長 狩谷昭男氏
◇じゃがいもとは
  • じゃがいもはナス科ナス属の植物で、トマトと同じ仲間です。連作は避けたほうがいい作物です。

  • 生育温度は10〜25℃が適温、冷涼な気候を好みます。近年の地球温暖化で、北海道でも30℃を超す日が増えており、最高の適地だったのですが、栽培に問題が生じてきています。

  • 品種にもよりますが、約3ヶ月あまりの短い生育期間で採れるので、効率のいい作物です。
◇じゃがいもの起源(原産地)と伝播
  • じゃがいもは今から約7000年前に、南米・中央アンデス高地(ペルーからボリビア)のチチカカ湖周辺一帯で栽培されていました。

  • コロンブスの新大陸発見から100年くらい後の1570年前後にスペインへ伝播。そこからフランス、イギリスへ伝わり、さらにドイツなどヨーロッパ北部に伝播しました。

  • 当初は毒が含まれているという誤解から「悪魔の植物」と忌み嫌われ、また、「聖書に載っていない植物」として二流の作物とされ、なかなか広まりませんでした。しかし、飢饉や戦争で食べ物がなくなったときに、人々の命を救ったことから、じゃがいもは ヨーロッパになくてはならない作物になりました。

  • 日本へは、1600年代半ばから後半、インドネシアのジャカルタから長崎に伝来した、との説が有力です。1700年代半ばに、岐阜、長野、山梨、群馬、新潟、東北、北海道に入ったとされていますが、、ごく一部の地域に限られ、生産量もわずかでした。明治時代に入り、北海道開拓をすすめていた政府は、寒さに強い作物であるじゃがいもを奨励しましたが、本格的な普及は第二次世界大戦後のことになります。GHQがじゃがいもの栽培をすすめ、食生活の洋風化にともなって、1945年(昭和20年)代以降、じゃがいもの消費が増えていきました。
◇じゃがいもの需給動向
  • 現在のじゃがいもの作付面積は約8万ヘクタール、生産量は250万トン。過去最大は、1949年(昭和24年)の23万4千ヘクタール、1986年(昭和61年)の407万トンでした。1965〜1975年(昭和40〜50年)代は300〜350万トンぐらいの生産量がありました。

  • じゃがいもの輸入量は、約100万トンです。生いもは植物防疫法の制限がありますが、主に、フライドポテトやポテトチップス用に一次加工したものが輸入されています。

  • じゃがいもの国内自給率は約70%です。
◇用途別の消費動向
  • 国内産じゃがいもの用途別消費は、生食(青果)用30%、でんぷん用34%、加工食品(チップス、フライドポテト、コロッケ、サラダなど)用21%、種子用6%、減耗が9%となっています。加工食品用が21%というのは、実態よりやや少ないのではないか、と思っています。

  • 最近の動きは、生食(青果)用とでんぷん用が減り、加工食品用が増加傾向にあります。

  • 価格は、一般的に、新じゃがが出回る2〜4月頃に上昇。関東近辺のものが出回る6月頃から落ち着き、主産地の北海道産が大量に出回る9〜10月頃から安くなる傾向にあります。加工用は契約栽培方式が多いので、価格の変動は小さいと思います。
◇じゃがいもの作型
  • じゃがいもは春と秋の2回できる作物ですが、関東から北の地域では年に1回春作のみ、関東から西は年に2回とれます。関東でも、一部の地域では年2回とれますが、春作の場合1個の種いもから10個とれるとしたら秋作は5個くらいなので、経済ベースでは難しいと思います。

  • 北海道の春作は、4月中旬〜5月下旬に植えつけ、8月上旬〜10月に収穫。関東の春作は、3月〜4月上旬に植えつけ、6月〜7月上旬に収穫します。

  • 中国・四国以西の暖地では、春作は2月下旬〜3月上旬に植えつけ、6月中下旬に収穫。秋作の普通栽培は、8月下旬〜9月上旬に植えつけ、11月下旬〜12月上旬に収穫します。

  • 鹿児島県の沖永良部島や徳之島のような無霜地域では、冬作が可能です。10月下旬〜11月上旬に植えつけたものは1月下旬〜2月に収穫。11月中旬に植えつけたものは3月に収穫します。

  • じゃがいもの花前線は、1月に西南諸島から日本列島を北上し始め、7〜8月頃に北海道に達します。

◇じゃがいもの主産地

  • 総生産量の約8割を占めるのは北海道。続いて、長崎、鹿児島、茨城、千葉、長野、福島、青森、静岡、宮崎です。

  • 1965年(昭和40年)代半ば、北海道のシェアは今ほど高くなく、東北、群馬、長野、広島、岡山、長崎、鹿児島などの地域でも作っていました。安定供給という意味では、西の地域でもっと作ってもらいたいと思います。
◇気象変動とじゃがいも栽培
  • 1993年(平成5年)頃から、地球温暖化などの影響で気象変動(長雨、猛暑、降雪など)が大きく、作柄がやや不安定な状況にあります。

  • 北海道では、冬期の温度が高いことから、掘り残した「野良いも」が死なず、病気などの発生源になることもあります。

  • じゃがいもの主な病害虫は、ウイルス病、そうか病、疫病、アブラムシ、センチュウなど。
◇じゃがいもの緑化と防止策
  • じゃがいもの緑化とは、陽に当たって表面が緑になる現象をいいます。店頭で売る際は、陽が当たる場所に置くと緑化するので、できるだけ暗いところに置いてください。
◇品種について
  • 生食用の主要品種は、「男爵薯」、「メークイン」、「キタアカリ」、「とうや」、「デジマ」、「ニシユタカ」など。このうち、「男爵薯」が6割、「メークイン」が3割を占めており、残りがその他の品種です。「メークイン」は関西方面で人気があります。生食用では、「男爵薯」、「メークイン」以外の品種も消費されるようにすることが大切だと思います。

  • ポテトチップス用の品種は、「トヨシロ」、「スノーデン」。一部「きたひめ」も使われています。

  • サラダ・コロッケ用の品種は、「さやか」、「トヨシロ」。

  • じゃがいもは料理によって合う品種がある、ということを消費者に知ってもらう努力をすべきでしょう。生産者、流通業者、販売者が三位一体にならないと、「男爵薯」、「メークイン」の牙城を崩すことはできないと思います。確かに「男爵薯」はおいしいじゃがいもで、「メークイン」は皮がむきやすく煮崩れしないという特徴があります。でも、同じような特徴を持った違う品種もあります。
◇じゃがいもの将来
  • 需要の見通しは、人口減少、高齢化の影響で、なかなか厳しい状況です。ポテトチップス、フライドポテトは、これまでぐんぐん伸びてきたのですが、今後はほぼ飽和状態ではないでしょうか。一般の家庭では、調理時間が短縮傾向にあります。生食用のじゃがいもは、皮をむくのが面倒といわれ、皮むきじゃがいものチルドパックやポテトサラダのような簡便に買って食べられるものが人気です。消費者が求めるものをリサーチ、研究して、じゃがいもといえぱ「男爵薯」、「メークイン」ではなく、カラフルポテトも含め、新しい品種のPRが必要だと思います。

  • 農協、農家にとっては、「男爵薯」、「メークイン」を扱っていればリスクが少ない、という面があります。でも、それでは何も変わらないので、意識を変えていくことが大切。新しい品種に着目し、売り場でも展開していただければありがたいと思います。

  • 今の消費者は健康志向が高いので、じゃがいもを健康に寄与する食品としてPRするのも有効ではないでしょうか。ヨーロッパでは「大地のりんご」と呼ばれ、でんぷんだけでなく、さまざまな成分を含んでいます。じゃがいものビタミンCはでんぷんに包まれているため、熱を加えても壊れにくいという特徴があります。また、食物繊維も豊富です。

  • じゃがいもを扱う際、芽が出るのが困るという声をよく聞きます。低温を好むので、北海道の貯蔵庫は、2℃前後になっています。エチレン貯蔵も徐々に増えています。
◇質疑応答より

    Q:2℃だと芽が出ないとのことでしたが、家庭でじゃがいもは冷蔵庫に入れてはいけない、と聞いたことがあります。何が正しいのでしょうか?
    A:さつまいもは冷蔵庫に入れてはいけませんが、じゃがいもは2℃以下にならなければ、冷蔵庫で保存可能です。品種によって休眠期間の長さが違い、短いと芽が早く出ます。店頭では、休眠期間が長いものを遅く扱うといいでしょう。

    Q:緑化したじゃがいもはすべて食べてはいけないのでしょうか?
    A:私は、少しくらい青いだけだったら、皮を厚めにむいて食べることもありますが、普通はすすめません。販売はしないほうがいいでしょう。

    Q:じゃがいもの原原種農場について、教えてください。
    A:じゃがいもは病気に弱い作物です。いいじゃがいもを作るには、いいタネいもが必要です。そのために、 1947年(昭和22年)、農水省直轄の原原種農場ができました。 十勝など北海道に4つ、六ヶ所村、嬬恋、八ヶ岳。その数年後、長崎にでき、八ヶ岳が撤退したため、現在、全国に7ヵ所あり、完全にウイルスフリーの元ダネになるものを作っています。試験的に栽培しているものも含めると80品種ほど、商業的に流通しているのはそのうちの一部ですが、県の原種農場などでこれをさらに増やし、農家に届く、という流れになっています。アメリカ、ヨーロッパなども、こうした採種システムを整備しています。

    Q:「さやか」は芽があまりなくて加工用に使いやすく、味的にも用途が広いのに、なかなか普及せず、「男爵薯」ばかりなのはなぜなのでしょうか?
    A:じゃがいもは品種名まで表示して販売しているところが少ないと思います。いちご、さつまいものように、品種名や商標名を出して、消費者にアピールするとよいのではないでしょうか。

 

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