■2016年10月16日 第7回 きのこ・りんご 〜 講演「きのこと健康」 東京農業大学助教 博士(農学) 管理栄養士 宮澤紀子氏
◇きのことは何か
  • きのこの形態と名称
    きのこにはかさがあり、かさの裏にひだ、その下にかさを支える柱状の茎があります。茎には、きのこが若いときに組織をおおって保護していた膜が、つば、つぼとして大きく成長した後にも残っているものもあります。落ち葉や枯れた木材におおわれた根元には、糸状の菌糸が広がっています。私たちがふだん目にしたり、食している部分を「子実体(しじつたい)」と呼びます。

  • きのこの成長
    胞子(植物でいうタネのようなもの)は風によって飛散し、落ち葉などの上に落下して発芽し、1次菌糸となります。1次菌糸同士が融合し、2次菌糸となり、成長したものが子実体です。子実体を顕微鏡で見ると、細かな菌糸が集まっているのが確認できます。
東京農業大学助教 博士(農学) 管理栄養士
宮澤紀子氏
  • きのこの位置づけ
    きのこは動物でも植物でもなく、「菌類」という独立した位置づけにあります。菌類の中には、酵母、カビなども入っています。担子菌類と子嚢菌類の一部で、目で見たときに、子実体が確認できるものを「きのこ」と呼んでいます。
◇きのこの栄養
  • 食品の機能
    食品の機能は、栄養機能・嗜好機能・生体調節機能の大きく3つに分かれます。栄養機能は、人が生きていく上で必要な栄養素を補給するはたらき。嗜好機能は、おいしさに関わるはたらき。生体調節機能は、健康維持や健康回復効果に関わるはたらきです。

  • きのこの栄養価
    きのこの約9割が水分です。エネルギー源となる3つの栄養素(脂質・たんぱく質・炭水化物)が少ないため、低カロリーでヘルシーな食材といえます。また、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれており、特に、ビタミンB群、ビタミンD、食物繊維が多いのが特徴です。

  • きのこの栄養機能性をいかした食品の組み合せと料理方法
    栄養素は、身体のなかで、ほかの栄養素と作用し合いながら、様々なはたらきをしています。ビタミンB1は、糖質のエネルギー代謝をサポートしてくれます。ネギ、タマネギ、ニンニクなど硫化アリルを含む食材と組み合わせると、血液の中に長くとどまり、効率的に利用できます。ビタミンDには、カルシウムの吸収を助けるはたらきがあり、骨の形成に欠かせません。きのこには、ビタミンDになる前の物質、エルゴステロールが豊富で、日光に当てるとビタミンDに変化します。牛乳、チーズなどの乳製品、干しえびや煮干しなどの小魚、ほうれん草や小松菜など、カルシウムの多い食材と組み合わせるといいでしょう。また、ビタミンDは脂溶性のため、油といっしょに調理すると吸収率が高まります。ミネラルのひとつであるカリウムは、ナトリウムの排泄、血圧の調整に関与する成分です。水溶性のカリウムは、ゆでると煮汁中に溶け出てしまうため、スープなど汁ごと食べられる料理にすると効率よく摂取できます。

  • きのこに含まれる食物繊維
    古くは、食物繊維はヒトの消化酵素では分解できず栄養にならないとされていましたが、その後の研究によっていろいろな効果があることがわかり、6番目の栄養素と位置づけられています。食物繊維は、水に溶けやすい水溶性と水に溶けない不溶性に分けられます。水溶性食物繊維はペクチンなどねばねばするもので、食後の血糖値の上昇を緩和するはたらき(糖質の代謝改善)や、血清コレステロール値を低下させるはたらき(脂質代謝)が期待できます。不溶性食物繊維は、水分を含んで数倍から数十倍に膨れるのが特徴で、排便・便通改善効果や腸疾患の予防に有効だとされています。生活習慣病予防のために当面の目標とすべき食物繊維摂取量は男性20g/日以上、女性18g/日以上(18歳以上、70歳以上を除く)ですが、2014年(平成26年)の国民健康・栄養調査では、70歳以上を含めた成人の食物繊維摂取量は男性15.1g/日、女性14.4g/日と、もっと積極的に摂りたい栄養素のひとつです。日本人が1日に食べているきのこの量は約16gで、シイタケならやや小ぶりのもの1枚です。1日50〜100gくらいはきのこをめしあがって、健康効果を体感していただきたい、と思います。
◇えのき氷の健康効果と試食
  • えのき氷とは
    エノキタケは日本国内で最も多く生産されているきのこで、その6割が長野県で生産されています。冬場の鍋物需要が高く、夏場は生産調整が行われていました。年間を通して安定した需要を確保したいという想いから、開発されたのが「えのき氷」です。
えのき氷
  • えのき氷の作り方
    生のエノキタケの石づきを切り落とし、ざく切りにします。エノキタケ300gに対して水400mlを加えてミキサーにかけてペースト状にします。1時間ほど焦がさないように注意しながら、じっくり鍋で煮詰め、半量くらいになったら粗熱を取ります。これを、製氷皿に入れて凍らせて完成です。

  • えのき氷の特徴
    きのこはかたい細胞壁に覆われており、噛んだだけではなかなか壊すことができません。えのき氷は、ミキサーにかけることで細胞壁が壊れて吸収しやすい状態になります。煮詰めることにより、栄養成分やグアニル酸というきのこのうま味成分は引き出され、煮汁に溶け出します。さらに冷凍することで細胞壁にダメージを与え、栄養成分が溶け出しやすくなります。冷凍保存ができ、必要な分だけ料理に加えて手軽に使えること、料理にコクが出ること、不足しがちな栄養素を補えることなども特徴です。えのき氷1ブロックが、エノキタケ約16グラム分にあたります。

  • えのき氷の健康効果に関する試験
    2011年、JA中野市が開発(阿藤前組合長発案)したえのき氷の健康効果を科学的に証明するプロジェクトが東京農業大学の江口文陽教授をプロジェクトリーダーとしてスタートしました。試験にはボランティアを集め、事前スクリーニングで重篤な疾患がないことなどを確認した上で、えのき氷を「食べる群」と「食べない群」に分けました。脂質の代謝の改善効果に関する試験では、えのき氷を「食べる群」は、1日3個、3ヶ月間食べてもらいました。また、血糖値に対する改善効果に関する試験では、1日3個「食べる群」と、1日6個「食べる群」を設け、3ヶ月間食べてもらいました。

  • 脂質の代謝の改善効果
    総コレステロールは、食べ始めて1ヶ月は変化がありませんでしたが、2ヶ月目、3ヶ月目では、明らかに数値が下がり、3ヶ月後、食べるのをやめると、徐々にもとにもどりました。顕著な差はみられなかったものの、中性脂肪も下がる傾向がみられました。血液中のコレステロールは、悪玉LDLコレステロールはえのき氷を食べて2〜3ヶ月で明らかに下がり、善玉HDLコレステロールは上がることがわかりました。

  • 血糖値に対する改善効果
    空腹時血糖値は、男女ともに、3ヶ月食べ続けると顕著に下がり、その後、食べるのをやめると、徐々にもとにもどりました。また、1〜2ヶ月前の血糖の状態を示すヘモグロビンA1cも、3ヶ月食べ続けると下がり、やめるともとにもどりました。

  • えのき氷の試食
    これから、紙コップを2つ配ります。1つ目は、半解凍状態のえのき氷1/2ブロック、2つ目は、何も入っていない味噌汁です。まずはそのままえのき氷を食べてみてください。味噌汁も、そのものの味を確かめたあと、えのき氷を入れて味の変化を比べてみてください。えのき氷を加えることで、とろみ、コクが出ると思います。味噌汁、煮物、炒め物、和え物、カレー、シチュー、うどん、ラーメンのつゆに加えたりして使えます。納豆、天ぷらの衣、卵焼き、オムレツ、お好み焼きに加えたり、お茶やジュースなどに入れて飲んだり、焼酎割りにしたりと、家庭の料理に合わせた使い方もいろいろあります。お好み焼きなどの粉ものにえのき氷を加えると、ふんわりして冷めてもかたくなりません。えのき氷の作り方やレシピについては、「えのき氷健康レシピ」という本を出していますので、参考にしてください。
◇きのこの嗜好性
  • 調理と嗜好性
    「調理」とは、食事の計画を立て、必要な食品材料を選択、入手し、洗う、切る、加熱する、盛りつけるなどの調理操作を経て、食卓に配膳し食べて片づけるまでの一連の工程をいいます。調理には、食品材料を衛生上安全なものにする、消化吸収をよくし栄養価を高める、嗜好性(おいしさ)を高める、食文化を継承するなどの意味があります。

  • おいしさの構成要素
    おいしさを構成する要素には、味、香り、食感、温度、見た目、咀嚼音といった食品の状態に起因する要因と、生まれ・育ち、食文化、時間・空間(お腹が空いたときなのか満腹なのか)、健康状態、心理的要因などの食べる人の状態に起因する要因があります。

  • 「味」について
    世界共通の「味」は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つで、これを「基本味」といいます。この中のうま味は日本人が発見したものです。その他の辛味、渋味、えぐ味などは、基本味とは異なる伝達方法によって知覚されます。

  • 味の相乗効果と対比効果
    2種類以上の異なる味を合わせると、単独のときよりも味を強く感じることを「味の相乗効果」といいます。日本料理のだしでは、昆布(グルタミン酸)とかつお節(イノシン酸)、昆布と乾燥シイタケ(グアニル酸)など。西洋料理で、牛肉(イノシン酸)とトマトやたまねぎ(グルタミン酸)、中国料理のスープで鶏ガラ(イノシン酸)と長ねぎ(グルタミン酸)を使ったりするのも味の相乗効果を生み出します。また、2つの異なる味を組み合わせたときに、一方の味がもう一方の味を高める効果のことを「味の対比効果」といい、だし汁(うま味)に食塩(塩味)を加えるとだしの味が引き立ったり、しるこ(甘味)に食塩を入れるとより甘く感じたりするのが一例です。

  • きのこの遊離アミノ酸
    きのこに含まれる代表的なうま味成分は核酸系のグアニル酸で、ほかにアミノ酸系のうま味成分であるグルタミン酸などが含まれています。たんぱく質を構成するアミノ酸は20種類あります。たんぱく質そのものに味はありませんが、個々のアミノ酸には味があります。きのこには、たんぱく質とバラバラのアミノ酸(遊離アミノ酸)が存在しています。乾燥きのこを使い、水もどしと、その後の加熱調理で、遊離アミノ酸の変化をみてみました。水もどしの時間は、1時間、5時間、15時間(一晩)。温度は30℃と5℃です。30℃では、時間が長いほど遊離アミノ酸は増加し、その後、加熱ではほとんど値は変わりませんでした。5℃では遊離アミノ酸はあまり変化しませんでした。では、比較的高い温度でもどして加熱したほうがおいしいのかというとそうではありません。高い温度では、うま味を呈するアミノ酸の増加とともに、苦味のあるアミノ酸も増えるため、やや雑味を感じるような味になってしまうのです。

  • きのこのグアニル酸
    きのこを代表するうま味成分は、核酸系のグアニル酸です。リボ核酸として存在しており、酵素によって分解されることでグアニル酸となります。調理では、酵素のはたらきによりリボ核酸が分解されてグアニル酸が作られますが、グアニル酸は、別の酵素により、分解されます。上記と同様の実験により調理によるグアニル酸の挙動を調べたところ、水もどしだけのものは変化がなく、加熱調理をするとうまみ成分が増えます。また、もどす温度によって増加の割合が違いました。30℃での水もどしは、みかけ上の変化はみられませんが、リボ核酸の分解と生成したグアニル酸の分解が生じており、残存するリボ核酸が少ないためと考えられます。一方、5℃の水もどしでは、酵素がはたらきにくいため、リボ核酸が分解を受けにくく、その後の加熱調理でより多くのグアニル酸が生成されると考えられます。古くからいわれているように、乾燥きのこは、低い温度でじっくりもどすと、おいしく仕上がるのです。

  • きのこを選ぶポイント
    きのこは、かさがキュッと締まっているもの、くきは弾力とハリがあり水っぽくないもの、ひだが薄茶色くくすんでいないものや水っぽくなっていないものを選ぶといいでしょう。

  • 洗浄
    市販されている多くのきのこは、室内で栽培されています。その場合、洗わなくてよいのですが、石づきなどがついているときは、かたく絞った布巾などで軽くふくといいでしょう。

  • 切り方
    他の食品と同じように、きのこも繊維に対して直角に切ったり、こまかくすると、火の通りが早く、やわらかくなります。繊維に平行に切ると、しっかりとした食感をいかすことができます。

  • 摩砕・粉砕
    食品に外から力を加えて繊維や組織を破壊し、粉末状あるいはペースト状に均一化する操作で、乾燥食品を粉末状にすることを「粉砕」、水分を含むものをペースト状にすることを「摩砕」といいます。かたいものをやわらかくする、消化吸収をよくする、風味の発現・増強、他の食品や調味料となじみやすくなるといった特徴があり、えのき氷にも、こうした調理の特徴がいきています。

  • 知っておくと便利なきのこの保存方法
    きのこは天日で干すと、うま味やビタミンDが増加し、栄養効果が期待できます。シイタケを天日乾燥させるときは、ひだを上にするとビタミンDの生成量が増えます。また、冷凍保存もおすすめです。冷凍することで、細胞壁にダメージが加わり、その後の加熱によるうま味が増加します。また、調理を想定して切ってから冷凍しておくことで、凍ったまま料理に加えることができ、とても便利です。

  • 煮る
    きのこを煮ると、加熱により生成したうま味成分が煮汁中に溶けだすので、煮汁をうまく利用することが大切です。薄味に仕上げ、残った煮汁に水溶き片栗粉を加えて汁をからませるなどの調理もいいでしょう。うま味をじょうずに使うと、塩分量を抑えることができます。

  • 焼く
    きのこを焼くときは、ひだを上にして焼きましょう。ひだの割れ目から少しエキスが出てきたら焼き上がりです。

  • 炒める・揚げる
    きのこを炒めるポイントは、強火で一気に炒めること。火力が弱いと水っぽくなってしまうので、注意しましょう。きのこは、衣をつけて揚げるのが基本です。油の温度が低いと衣がはがれやすく油切れが悪くなるので注意が必要です。
◇官能評価体験
  • 大分県との共同研究
    大分県は国内の乾燥シイタケ生産量が最も多い地域です。大分県産の乾シイタケを試料に、品種あるいは栽培方法の違いが嗜好性(おいしさ)におよぼす影響や、簡便な水もどし方法等について官能評価と一部機器分析を用いた試験を共同で研究しています。今日は、大分県産の乾シイタケを試食していただきます。乾シイタケの品柄には、冬磨iどんこ)、香磨iこうこ)、香信(こうしん)があります。

  • おいしさの評価
    研究では、ヒトによる評価(官能評価)と機器分析による評価(成分分析)を組み合わせて行っています。機器分析では、試料に含まれる特定の成分(物質)を測定することで、わずかな量の違いも数値で表すことができます。しかし、おいしさは様々な要因が組み合わさって構成されていることや、物質によってはわずかな量の差をヒトが判別できない場合もあることから、ヒトと機器による評価を組み合わせておいしさを評価し、大分県産の乾シイタケの特徴を明らかにしようと試みています。

  • 実験方法
    乾シイタケの水もどしや加熱調理は、化学実験のようにビーカーなどのガラス器具やホットプレートを使用して、同じ条件で調理するようにしています。きのこのジクとカサの端では、食べたときの感じ方が異なるので、均一になるように切っています。試験では、数種類の試料を食べてもらうのですが、官能評価実施室ではお互いの表情が見えないような席の配置や私語は謹んでもらいます。評価項目は、色、香り、味(うま味、苦味)、食感、総合。それぞれ7段階で、濃淡や強弱のほか、好ましいかどうかも評価します。全て原木栽培した大分県産の乾シイタケを試料にしていますが、品種による違いがあったり、同じ品種でも栽培方法によって味、香り、食感などに差があるものもあります。どれがいいかではなく、それぞれの特徴を見出し、それを活かすのが試験の目的です。
  • 乾シイタケの試食
    通常の試験では、試料1個を食べたら試験用紙に評価を書いて、水で口をゆすいで次・・・とやっていきますが、今日は食べ比べてみましょう。しょうゆや味噌などは調味料の味、風味が影響するので、塩だけで味つけしています。皆さんに試食していただいた試料は、3種類のうちAとBは原木栽培で、品種が違います。Cは菌床栽培の生シイタケ用のきのこでした。味の濃さや食感が違う、と感じられたと思いますが、今回体験していただいた嗜好型官能評価に正解はありません。
乾シイタケの試食
◇質疑応答より

Q:マツタケの栄養価を教えてください。また、なぜマツタケは栽培できていないのでしょうか?
A:マツタケの栄養成分は、他のきのこと同様に水分が90%程度で、ビタミンB1、B2、ビタミンD、食物繊維が豊富に含まれています。マツタケは、菌根菌といって、生きている木の根に共生して生育します。木から栄養分をもらい、木にも栄養を与えて共生するメカニズムが解明されていないので、まだ人工栽培できていません。

Q:冷凍してはいけないきのこはありますか?
A:品種というよりは調理法によると思います。 冷凍すると水っぽくなるので、揚げものにはあまり適しません。また、冷凍するとやわらかくなるので、シャキッとした食感をいかしたいという場合は、生のものがいいでしょう。

Q:30℃で水もどしという実験はどのように行っているのですか?
A:実験では、30℃をキープした状態で行っています。

Q:乾燥きのこを家庭でもどすとき、最初は高い温度でもどし、少し温度が下がったらその後冷蔵庫に入れるという方法でいいのでしょうか?
A:高い温度だと早くもどるのは確かですが、雑味が出るので、低い温度でじっくりもどすほうがいいと思います。 冬魔フように厚いものは一晩、薄ければ5〜6時間でもどります。

 

【八百屋塾2016 第7回】 挨拶講演「きのこと健康」|勉強品目「きのこ」「りんご」|食べくらべ