■2016年9月11日 第6回 西洋野菜 〜 講演「西洋野菜を改めて考える」 横治 営業本部長 塩田勝良氏
◇西洋野菜を改めて考える
  • 築地の青果仲卸で、都内のホテルやレストランに野菜を納める仕事をしています。

  • 「フェンネル」、「リーキ」といった西洋野菜の名前を知っている方も多いと思いますが、今日は、さまざまな写真を見て、何という野菜かあてていただきたいと思います。
横治 営業本部長 塩田勝良氏

  • 「セロリアック」。葉の部分はあまり知られていませんが、セロリによく似ています。
セロリアックの葉
 セロリアック
  • 「アンディーブ」。「チコリ」、「エンダイブ」などとも呼ばれていますが、ヨーロッパからアメリカに入ったときに、間違えて「チコリ」と伝わったために名前が混乱したようです。畑で育てて、暗室に入れ、軟白栽培をしています。下の部分は食べません。生でもおいしいですが、くたくたになるくらいまで加熱してもおいしく食べられます。

  • 右の写真は、「リーキ」の小さいもの。土の中にある部分は白い色をしています。3センチ伸びたら3センチ、伸びた分だけ土寄せしていくので、けっこう手間暇かかっています。
アンディーブ
小さなリーキ
  • 「キクイモ」。「トピナンブール」とも呼ばれます。輸入品なので、上の部分はあまり知られていないと思います。

キクイモの上の部分
キクイモ
  • 「フェンネル」。セリ科で、葉はにんじんに似ています。

  • かつては輸入品が本物で、国産は味が薄いなどと言われていました。今は技術力が上がり、需要も増えてきたため、むしろ、国産のほうが価格が高くなる傾向があります。国産はフレッシュな状態で使うことができますが、輸入には時間がかかり、鮮度が落ちてしまいます。また、葉や茎は落として輸入されるので、食べられません。

フェンネルの葉
フェンネル
  • 先駆者的な存在が宮城県の西洋野菜の部会で、「プンタレッラ」を栽培しています。「プンタレッラ」は一個の単体で、まとまった状態は「プンタレッレ」と呼ぶのが本当ですが、市場ではそれも「プンタテッラ」と呼ばれています。葉を掻いて、真ん中の部分だけを食べます。スライスしてイワシの塩漬けと合わせたものは、ローマの郷土料理です。
プンタレッレ
プンタレッラ
ローマの郷土料理
  • なぜ宮城県がローマの野菜に力を入れているかというと、伊達政宗が、フランシスコ会宣教師ルイス・ソテロを正使、支倉常長を副使として慶長遣欧使節を派遣し、スペイン国王フェリペ3世やローマ教皇パウルス5世と謁見しました。そのため、宮城県とローマは姉妹都市で、ローマの野菜を作っている、というわけです。

  • 「納め」としては、入荷が不安定な野菜は売りにくい。宮城は県で力を入れていますし、埼玉県では埼玉ヨーロッパ野菜研究会、山形県でも河北イタリア野菜研究会ができました。団体で作ることによって、市場に安定供給されるようになり、扱いやすくなっています。
  • 「ラディッキオ」。根の部分だけを育てて暗室に入れ、水耕栽培します。そうすると白い部分が出てきて、葉先は紫色になるのが特徴です。タルティーボはイタリア語で「晩生」、プレコーチェは「早生」という意味で、プレコーチェが先に出て、タルティーボは後半に出ます。

  • 「チーマ・ディ・ラーパ」。春先に出るイタリアの菜の花で、独特な苦みがおいしい野菜です。

  • 「カステルフランコ」。生で食べられます。

  • 「カーボロネロ」。黒キャベツの一種で、千葉県で作っています。

  • 「アスパラソバージュ」。春の名物で、芽が出るまで3年もかかる高級品です。山形県で作られるようになりました。
ラディッキオ

チーマ・ディ・ラーパ
カステルフランコ
カーボロネロ
アスパラソバージュ
  • ビーツも国産の「ゴールデンビーツ」、「ビーツキオッジャ」などが葉つきで手に入るようになりました。輸入品は葉が溶けてしまったり、農薬や虫の関係でリスクが多いので、切ってしまいます。ベビーリーフの「デトロイト」は小さなビーツの葉です。

  • 「ルタバガ」。けっこう人気があるのですが、ヨーロッパの人にとってはあまりいいイメージの野菜ではありません。非常に貯蔵性が高いので、イモも穀物もないときに食べる。戦争で食べるものがないときに作るのを奨励された野菜です。「肉の魔術師」と呼ばれたフランスの三つ星シェフ、アラン・パッサールが、2001年より野菜に特化し野菜のスペシャリストとして料理に使ったことで注目されました。今はレストランでの野菜の重要度が高くなっています。

  • 「コールラビ」。アブラナ科の野菜です。
ビーツ各種
ルタバガ
コールラビ
  • 「サボイキャベツ」。葉がちりめん状なのが特徴です。

  • 「シーアスパラ」。イスラエルから入ってきたもので、塩辛いのが特徴です。北海道の「アッケシソウ」も同じものですが、天然記念物なので食べられません。

  • 「オニオンブランシュ」。春先だけに出る小さい玉ねぎです。
サボイキャベツ
シーアスパラ
オニオンブランシュ
  • 「サルシフィ」。見た目はゴボウのようですが、味はカキのよう。繊維質ではなく、とろけるような食感でおすすめです。機会があればぜひ食べてみてください。野菜の概念が変わると思います。

  • 「チャービルルート」。「チャービル(セルフィーユ)」の根っこで、葉は食べられません。イモのような独特の味わいです。
サルシフィ
チャービルルート
  • ミニ野菜もブームです。下、中央の写真は、土に見立てたソースに小さな野菜が植わっているように盛りつけた料理です。

  • 下、右の写真は、「セロリアック」をペーストにし、伸ばして折り紙を作り、それで鶴を折って提供する料理。代々木上原にあるお店です。
ミニ野菜各種
ミニ野菜を使ったレストランの料理
セロリアックを折り鶴にした料理
  • 「ミニアンディーブ」。アンディーブを小さい状態で収穫したものです。

  • 「スティッキオ」。「フェンネル」を小さく食べられるようにしたものです。

  • 「カリフローレ」。日本で作られた西洋野菜です。
ミニアンディーブ
スティッキオ
カリフローレ
  • 「ナスタチウム」というハーブは、ほんのりワサビの味がします。

  • 「サラダバーネット」というハーブは、噛んでいるうちに、きゅうりの味がしてきます。
ナスタチウムの花
ナスタチウムの葉
サラダバーネット
  • 「クレソンアレノア」。クレソンではないのにクレソンの味がするハーブです。こうした特殊なハーブも需要があります。

  • 「カタバミ」の葉は、たぶん日本中どこにでもある野草なのですが、「オクサリス」という名前でハーブとして成立しています。葉がハート形なので、お祝いの席などで使え、需要が増えています。

  • 「スベリヒユ」もよくある野草で、「プルピエ」というハーブとして需要が増えています。
クレソンアレノア
オクサリス
プルピエ
  • カイワレぐらい小さいしそも「マイクロアオシソ」として販売されています。切り口が変わると野菜として需要が増える、という例だと思います。
マイクロアオシソ
マイクロバイオレットクイーン
マイクロキャロットリーフ
マイクロアマランサス
マイクロイタリアンセロリ
マイクロバジル
マイクロレッドケール
マイクロルッコラ
マイクロデトロイト
  • 「シブレット」の花。

  • 「フェンネル」の花。きれいなだけではなく、食べてもおいしい。「フェンネル」には結球しないタイプもあり、「ワイルドフェンネル」は葉だけを使うもので、香りがまったく違います。もう少し経つとこれが実になるのですが、タネになる直前のものが本当に美味。独特の香りが広がるので、その瞬間のものがほしい、というシェフがいます。
シブレットの花
フェンネルの花
  • 例えば、八百屋さんでフェンネルが500円、隣のスーパーで300円で売っていたとしても、そこに何らかのストーリーや使い方の説明があれば、野菜としてだけではない価値が付与されます。個人の基準はそれぞれあると思いますが、ちょっと価値観を変えてみると、新しい局面が広がるかもしれません。
◇質疑応答より

    Q:「スティッキオ」と「スティックフェンネル」は同じような野菜ですが、「スティッキオ」が話題になったから、似たものが次々出てくるのでしょうか?
    A:トキタ種苗さんが、ヨーロッパの固定種同士を掛け合わせ、日本の風土に合わせて作ったのが「スティッキオ」です。 ヒットすれば続けて出てくる可能性はあります。

    Q:塩田さんが今日紹介してくださった野菜を食べてみたいのですが、どういったお店に行けば食べられるのでしょうか?
    A:「野菜フレンチ」などのキーワードで検索するとヒットします。最先端といわれる人気のお店が多いので、調べて早めに予約を入れていただいたほうがいいと思います。

    Q:都市型農業が盛んな地域で八百屋をしています。若い農家さんから、「イタリア野菜はどうだろう」と相談されたことがあるのですが、土の違い、栽培方法などで、味は変わってくるのでしょうか?
    A:変わると思いますが、生産者さんによって味が違うのもいいと思っています。市場がニッチでもほしい人はいます。例えば、「オクサリス」の花は、とてもかわいいのですが、弱いのですぐダメになります。そういう意味では、都市型農業にしかできないこともたくさんあるのではないでしょうか。

    Q:築地の塩田さんのお店に行けば、今日のような野菜が店頭に並んでいるのですか?
    A:うちは店売りより配達メインなので、モノは置いてありますが、きれいに並べて販売をしているわけではありません。

    Q:農薬の使用状況は?
    A:例えば、きゅうりには使える農薬でもフェンネルにはNG、ということもあるので、組合として使えるものをピックアップしています。 むしろ、使わずにやっているところも多いと思います。

    Q:イタリア野菜の名前や用語は難しいと思いますが、どうやって覚えたのですか? 西洋野菜を扱っているとワインにも詳しくなりますか?
    A:畑に行って、生産者さんとお話する中で、知識が増えていきました。ワインも好きです。ワインが好きな方を見ていて面白いと思ったのは、最高にいいビンテージのものしか飲まないかというとそうではなく、悪いビンテージのものも飲むんです。なぜなら、それも含めて、ワイナリーの歴史だから、と…。野菜も同じで、早生や晩生、時期でも味が違います。今自分が食べた野菜は、最高においしいものではないかもしれないけれど、それはそれとして、野菜の味として受け入れると、もっと楽しくなるのではないか、と感じました。

    Q:営業方法としては、塩田さんから情報を発信しているのですか?
    A:はい、メニュー替えの時期に、入荷時期などの説明をしに行きます。ずっとやっていると、だいたい聞かれることはわかるので、先に資料を作ってお配りしています。新規開拓というより、今は口コミで広がっています。

    Q:本場と日本で作る野菜で味が違う、と言われることはありますか?
    A:言われることはありますが、それはそれとして、国産のものも認められてきたと思います。

    Q:店頭でお客さまにごく簡単におすすめできそうなものはありますか?
    A:簡単に料理できて面白いのは、フレッシュハーブです。例えば、ローズマリー。ドライもありますが、全然味が違います。最近はやりの鋳物ホーロー鍋に、野菜と肉、フレッシュハーブを入れて、塩、こしょうするだけでもおいしい料理になります。そうしてファンを増やしていけばいいのではないでしょうか。フレッシュハーブが余ったら、乾燥させておけばいつでも使えます。

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