■2012年4月15日 第1回 開講式 〜 講演「八百屋はなぜ勉強が必要か」 杉本晃章氏

 八百屋塾は平成12年6月に第1回目の開講式を行い、今回で13回目です。これまで、12回、卒業生を送ったことになります。

 ここに勉強に来て、人生が変わった人も何人か見てきました。始めの頃は冴えなかったのが、1年間勉強したら目の色が変わって、それからずっと通ってくるようになった。イキイキした人生を送れるようになり、商売もうまくいくようになったのだと思います。

元実行委員長/杉本青果店店主 杉本晃章氏

 冒頭、理事長から、出席者が少なくて非常に寂しい、とのお話がありましたが、この寂しさは、八百屋の売れなさがそのまま反映しているのではないか、と思っています。今、非常に厳しい時代です。今日の講演は、「八百屋はなぜ勉強が必要か」というタイトルですが、勉強が必要なのは、八百屋に限らず、すべての業種に対していえることで、そうしないと生き残れない時代に入っています。

 平成12年に第1回の八百屋塾を開催したとき、この場は満員でした。それから5年ほどは、常時、座るところが足りない状態が続きました。当時はまだ、今より社会情勢がよく、景気もそれほど悪くありませんでした。それでも、みんな、意欲があったんですね。

 今は景気低迷の時代で、商売が非常に落ち込んでいる。われわれ小売りだけではなく、卸売会社自体が落ち込んでいます。ところが、バブルの時代はまったく逆で、今まで1日10万円売っていた店が、11万円とか12万円とか売れるようになっていきました。それを全部自分の力だと思っていたんです。ところが、別に自分の力だったわけではなく、バブルがはじけたら、みんな落ち込んだ。それが、平成10年以降続いています。特に平成20年代に入ってから、顕著になってきました。

 東日本大震災の影響で、ここへ来て、また一段と厳しくなりました。景気だけではなく、少子高齢化も深刻な問題です。われわれ八百屋のお客さんの多くは高齢者です。野菜に関して理解が深く、肉は食べなくても野菜は好き、野菜を食べなければ生きていけない、という方が多かった。ただ、そういう方々が高齢化しています。われわれが若い頃、買いに来てくれた当時50代の方が、80〜90代になっています。

 先月の修了式の際、ネギの話をしました。店頭で街行く人を見ていると、トウの立ったネギを持って歩いている。市場でも、そんなネギを平気で売っています。私が若い頃、トウ立ちしたネギを買ってきたら、「こんなネギ二度と買ってくるな、たとえタダでも持ってくるな」と、親にものすごく怒られました。市場の売り子は、トウ立ちしたネギはかたいのを知っている。でも、需要があるから売るわけです。スーパーで1本売りをするには、冬ネギのほうが売りやすい。春ネギは、5kgのうち2.5〜3kgは葉っぱです。青葉が多く、ぬたれ(ヌルヌル)のある春ネギは、売りにくいんです。

 ただ、春に春ネギを売らずに1本ネギを作って売っていたら、野菜は絶対売れなくなります。こういうものを売ったら売れなくなるんだよ、ということを、私は声を大にして生産者や市場にいいたい。

 今の世の中、野菜に関してメチャクチャになっているのは、みんな、野菜を知らないからです。以前、高齢者はよく知っていました。下手をするとお客さんのほうがよく知っていたくらいで、店頭で、「カブはトウが立ってきたから」とか「こんなトウの立ったネギは食べられない」とか、そういうことをいってくれました。

 われわれが若い頃は、まだF1もそれほど作られていませんでしたから、春になると、トウ立ちが進む。野菜の味も刻々と変化していきます。トウが立ったものはかたくなり、味がなくなる。まだ若いものは、食べられる。今はちょうど春物と冬野菜の端境期で、両方が出回っている時期です。

 カブも、ちょうど、春カブが始まり、冬のカブと入れ替わる時期です。作型の古いひねたものを買うと、抽苔(トウ立ち)が始まっていて、味の差も大きい。こういうことをみなさんがきちんと勉強しないと、ものすごくかたいものをお客さんにつかませることになってしまいます。

 にんじんもこれから難しい時期に入ります。新にんじんと去年の冬のにんじんでは、それぞれに特徴がある。今日は、「雪下にんじん」も並んでいますが、これも一歩間違えると、畑でトウ立ちが始まってしまいます。これから新にんじんが出てくると、必ず、ひねの産地に眠っていたものも出てきます。そのとき、みなさんの目が確かでないと、見極めることができません。そのためにここでしっかりと勉強しなければなりません。

 今期も、八百屋塾には、いろいろな講師の先生が来てくれますが、野菜の生い立ちや特性は教えてくれても、市場での選び方などは教えてくれません。自分でいかにチョイスして、店でお客さんに伝えていくかが大事。いくらいいものでも、採る時期を間違えると、もうダメになる。旬とはそういうものです。この「サラたまちゃん」は、この間、八百屋塾で勉強したから、おいしいはず、と思っても、あと2ヶ月も経てばトウが立つ。そのとき、どこの産地に移っていくか、それを自分で感じなければなりません。

 店に来る新潟出身のお客さんが、よく、「うちの田舎の野菜を食べたら、ほかのは食べられない」といいます。確かに、旬の時期は、よその産地の野菜は食べたくないかもしれません。でも、旬は、新潟、山形、秋田と北上していきます。新潟のものがいくらいい商品でも、旬を過ぎて、抽苔が始まれば、食べられなくなります。この産地のものはいつも絶対においしい、という保証はありません。どんな有名産地、どんな一流の品物でも、いいときとそうではないときがある、ということを頭に入れて、毎日、商売に当たってください。

 八百屋塾では、一時、八百屋さん以外は参加できないようにしよう、との意見が出たことがありました。でも、組合の事業としてここまで八百屋塾を続けてこられたのは、一般の人やマスコミが、八百屋さんがこういう勉強会をしていることに注目してくれたからだ、と思います。組合員に還元するのが一番ですが、野菜の普及という面からすると、一般の方々が来ても一向に構わない。ですから、組合員ではない方々は、地元に戻ったら、八百屋さんがこういうことをしている、というのを、声を大にして回りの方に伝えてください。

 また、八百屋塾を12回やってきた中で、何回か「資格を与えてください」「“○○マイスター”のようなものを、八百屋塾でも作ったほうがいいのではないか」という声がありました。それには賛否両論あり、私はあまり賛成ではありません。資格などなくても、売れるようになればそれでいい。売れるようになる=お客さんにきちんと伝わった、ということです。「あの八百屋はよそとは違う」、「行くと食べ方や旬を教えてくれる」、「いいものはいい、悪いものは悪いといってくれる」など、そんな八百屋になれれば、自然とお客さんも増えて、商売にプラスになると思います。

 今の時代、昔のように、ただ、「おいしいよ、甘いよ、安いよ、新鮮だよ」だけでは、ものは売れません。最近、コンビニのアルバイトでも、しっかり声を出していますよ。この間、「おにぎりが100円セール中ですから、いかがですか?」と、お客に声を掛けていた。まるで昔の八百屋を彷彿とさせるような店内で、びっくりしました。昔の八百屋はみんなやっていたことですが、驚異です。世の中、変わったものだ、と思いました。

 八百屋は野菜のプロである、との意識を持ってください。われわれがやらなければ、伝える人がいない。街の八百屋が教えなければ、野菜はメチャクチャになってしまいます。みなさんには、それぐらいの自負を持っていただきたい。お客さんが季節はずれのものを探しに来て、「今はありません」というと、「なんでないの?」となる。「今は時期はずれで、おいしくないから扱っていないんですよ」と、きちんと説明できないと、「向こうのスーパーにはあったわよ」などといわれかねません。確かに、今、味のこと、お金のことをいわなければ、一年中、何でもあります。でも、野菜を知っている者として、おすすめできるかというと、疑問を持たざるを得ません。

 私の著書、「あなたは本当に美味しい野菜を食べていますか?」にも書きましたが、国産品オンリーも考えものです。たとえば、カリフォルニア産やメキシコ産のアスパラガスは、露地ものだから、すごくおいしい。日本のハウスのアスパラは、やわらかいだけで、アスパラ本来の香りや甘みがありません。カリフォルニアの木箱に入っているアスパラガスは、非常においしいです。鮮度はやや落ちるかもしれませんが、その分安い。国産が200〜250円のところ、外国産は100〜150円で売れる。かなり太くていいものが出ています。そういうことも、きちんと自分で食べて理解しないと、お客さんに説明できません。

 八百屋塾の創始者である江澤正平先生も、よく、「食べなきゃダメだ」といっていました。私は江澤先生に、「キャベツを月に何回食べる?」と聞かれたことがあります。「2〜3回」といったら、「それではダメ。月に5回は食べなさい」といわれました。4〜5日に1回くらい同じ産地のキャベツを食べてみると、確かに、味の変化がわかる。ちょうど今ぐらいの時期だったと思いますが、同じキャベツでも、1ヶ月ぐらいでものすごく変化する、ということがいいたかったのだと思います。

 八百屋さんは、自分が好きな品目については、味をよく知っています。しっかり説明もできるし、市場でも仕入れに熱心になれる。ところが、あまり好きではない品目については、無頓着。商売としてはよくない。いろいろな面で、好きにならないといけません。

 私は昔、トマトが好きではなく、食べられませんでした。でも、キュウリを凌駕して、トマトがどんどん売れるようになった頃、食べなければ味がわからないので、努力して食べられるようになりました。今は、甘いだけではなくて、酸甘のバランスがいいジューシーなトマトがおいしい、と感じます。トマトの畑に行くと、特有の青臭さがありますよね。あれがトマトの味なんです。よく、地方から来た方が、「東京のトマトはおいしくない」といいます。熟度を上げて真っ赤にするので、青臭さがない。地方の方は鮮度のいいものを食べているので、あの青臭さを感じるらしい。うちの店では、2〜3年前から、農家に頼んで、昔のトマトに近いものを作ってもらっています。それを房ごと採ってもらって売っていて、人気があります。八百屋さんは、市場だけではなく、自分の店にしかないものを開拓する努力も大事です。

 今日届いている「雪下にんじん」は、新潟の津南町で宮崎さんという人が作ったものです。もともと高橋さんの紹介ですが、当時25〜26歳の男の子で、千葉県の柏から、津南町に入植した。まったくの素人が、営農指導を受けながら、農業を始めたわけです。最初の3〜4年は、助成金だけで、食べ物は回りの農家から分けてもらって、自分の畑では何一つ採れなかった。5年目くらいから、やっと、にんじんやアスパラが採れるようになったそうです。今、農業を始めて14〜15年になるでしょうか、「ひとみ五寸」を固定化して、新しい品種を立ち上げようとしています。野菜は、ひとつのところでずっと作ると、その畑に馴化します。馴化して、もとの「ひとみ五寸」とは違う新しい系統ができる。それを品種登録しようとしているところです。後ほど、宮崎さんの「雪下にんじん」をぜひ味わってみてください。非常に甘みがあります。八百屋塾に来ると、こうした情報も得ることができます。

 去年の9月に視察に行った長野県、山ノ内町の「サンふじ」も、みなさんと取引ができるようになった、と喜んでいました。ブルーベリーなど、ほかのものもたくさん作っているので、今後も紹介していきます。先日は、信州から「雪下大根」を送ってきました。畑で雪をかぶったまま越冬させる「雪下にんじん」とは違い、「雪下大根」は秋にいったん収穫します。それを雪室のようなところに囲うわけです。大きな大根を3本くらい送ってくれて、煮て食べたら最高においしかった。春大根はあまりおいしくありませんが、そういうとき、信州には「雪下大根」がある。運賃がかかるのがネックですが、地方にはこうしたおいしいものがたくさんあります。

 今、タケノコが旬ですが、千葉県の生産者はかわいそうですね。市原と松戸から、基準値を上回る放射能が検出されてしまった。うちでは、大多喜町のタケノコを売っています。去年3月の時点では、ある野菜に基準値を上回るものが出たら、全県に出荷停止命令が出てしまった。それだと広範囲になってしまうので、今は、行政単位で出荷自粛しています。タケノコも、市原など何ヵ所かを除けば大丈夫だ、ということです。ただ、やはり風評で、一番人気の千葉のタケノコがほかの産地より安くなってしまっていて、気の毒です。でも、売ってあげないともっと気の毒ですから、うちの店では大多喜町のタケノコを一生懸命売っています。

 この間は、福島のイチゴもたくさん売りました。きちんと証明書がついているのですから、信じる人だけ買えばいい。嫌な人は買わなければいいんです。それをやらないと、産地が非常に気の毒です。作ったものが安いうちはまだましで、やめてしまうのが一番怖い。われわれは、品物がなかったら商売になりません。そうなる前に、応援してあげたいと思っています。政府が100ベクレルという厳しい基準値を設けたのですから、それを、われわれ流通に携わる者たちが売っていかなければならない。われわれが避けたら、風評の助長になってしまいます。福島の阿武隈高地の天栄村で、こだわり抜いて無農薬米を作っている生産者がいるのですが、基準値をクリアしていても、全然売れないそうです。それまでは、引き合いや注文で全部売れてしまい、お店には並ばなかったほどの米なのに、誰も買いに来なくなってしまった、と聞きました。その天栄村の農家の実態を世界に伝えたい、と映画する話もあるそうです。八百屋塾に来て、その話をしてもらうことも考えていますので、また決まったらお知らせします。

 今日ここにあるセロリは、江戸川区にいた有名なセロリの先生のお弟子さんが作ったものです。このセロリを売ると、お客さんが、「ほかのとはまったく違う」といってくれます。困ったことに、違う時期でも、「あのセロリないの?」と買いに来られるのですが、そこはきちんと旬の説明をしてわかってもらいます。こだわって作っている人のセロリは本当に違いますから、後ほど、食べてみてください。

 「サラたまちゃん」は、非常においしくて、私も大好きな熊本の新玉ねぎです。今、玉ねぎは非常に高いですよね。でも、これはサラダに使うから、1個100円でも売れる。サラダに使う人は、5個も6個も買いません。1〜2個しか買わないので、心配ありません。うちの店では、大きめのものは1個100円で売って、小さいものはザルに盛って4個200円くらいで売っています。桜海老など、春の食材とあわせて、これでかき揚げを作るとおいしい。この新玉ねぎは、春の食材として、今、力を入れて売るべき商品です。 10kg で2000円とか、高いうちのほうが売れます。これが800円ぐらいになったら、もう売れなくなります。

 新玉ねぎは表の皮が薄いので、持ちが悪い。湿気に弱いので、袋に入れて、2〜3日も経つと、すぐベタベタしてきます。うちの店では、昔使っていたザルを出してきて、皿盛りにして売っています。ネットや網でもいい。何でもパックや袋に入れるのではなく、その商品に対して優しい売り方をしなければいけません。お客さんには、「玉ねぎは風通しをよくしないといけないので、家に着いたら、ザルに入れてくださいね」といっておいて、それをビニール袋に入れて売っていたのではダメだ、と私は思います。お客さんに、「なぜ玉ねぎはネットで売っているの?」と聞かれたら、「これは風通しをよくするためにネットに入れてあるので、家で保存するときも、しまいこまないでくださいね」と伝えなければなりません。伝えないから、「おたくの玉ねぎは、すぐ腐る」などといわれるわけです。そうではなくて、管理が悪いから腐るのですが、野菜のおいしさだけではなく、こうしたこともしっかり勉強して伝えてください。そうすると、「あそこの玉ねぎは3日で腐ったのに、おたくの店の玉ねぎは腐らない」となります。新玉ねぎは、特に、雨がかかるとすぐベタベタしてきます。本当は、雨のときは、新玉ねぎは掘らないことになっているのですが、価格が高いときは、無理してでも掘ってくる。1日遅れたら、500円も1000円も違ってしまいますからね。でも、そうすると、乾燥が不完全なまま来るので、さらに持ちが悪くなってしまいます。

 八百屋塾では、産地見学などの機会もあります。百聞は一見にしかず、というように、行けば行っただけのメリットが必ずあるので、ぜひ参加してください。行けば生産者の思いもわかるし、どういう環境で作っているか、どういう状態で収穫しているのか、よくわかります。産地や試験場に行って、勉強にならなかったことは一度もありません。また、自分がその品物をよく知ることで情熱が沸くので、店に並べたとき、売れるようになります。そういう思いが、お客さんに伝わる。八百屋塾に参加している人でも、売れる人は、みんな熱い。情熱がある人は、お客さんもわかるんです。八百屋にものを買いに行ったとき、ろくに説明ができないような店員では、お客さんも足元を見ます。ですから、勉強して、足元を見られないようにしなければいけません。

 うちの店は北千住にありますが、以前は7軒もあった八百屋がことごとくやめてしまい、今ではうちの店1軒だけになってしまいました。左うちわだ、などと思っていたら、客足もぱったり途絶えてしまった。何軒かで競合状態の中で商売をするのはいいことで、いいライバルは本当に大事です。

 八百屋さんが減ったので、去年から、納品業務も始めました。それまでは自分の母校ぐらいしかやっていなかったのですが、もうそういう時代ではないと思って、去年、8件受けました。結果的には、震災前に受けておいてよかった、と思いました。

 今、小売も納品も居酒屋さんも、ある程度手広く少しずつやらないと、危ない時代になってきました。昔は、店に来る人だけを相手にしていれば商売になった。今から5年ほど前は、うちも95%店売りでした。夢のような話ですよね。市場の支払いも全部現金で、困ることもありませんでした。売り掛けがあると金策もしなければならないし、たまには居酒屋さんにも顔を出さなければいけないなど、いろいろと大変ですが、手広くやるということが、自分の商売を守ることになります。

 店頭売りだけで売れれば一番いいのですが、なかなかそうはいきません。量販店があっちに出たりこっちに出たりするので、そのたびに人が流れてしまって、落ち着くのに1年かかる。やっと落ち着いたと思うと、また違うところに量販店ができて、ずっと、その繰り返しです。そのたびに八百屋は翻弄されてきたわけです。

 これからは、それではダメだ、と思って、学校給食などの納品をすることにしました。栄養士さんたちとすったもんだありますが、うちの市場では、所長と一緒に教育委員会に行き、栄養士の講習会にも行って、野菜というのはこういうものです、ないときはないんです、という話をして来ます。旬の時期以外はない、というのがわからない人も多いし、お金さえ出せば何でも手に入る、と思っている人もいます。たとえば、キヌサヤが1kg3000円のとき、「何でこんなに高いの?」というんです。「今の時期は採れないから高い。使うのをやめたほうがいいのでは?」というのですが、「この献立にはやっぱりキヌサヤがないとダメだ」というんです。それが、納品の現場。今、どうしてこういう状況なのか、なぜ高いのか、きちんと説明ができないと、務まりません。

 今、クレームが非常に多くなっています。昔は、当たり外れで諦めてくれました。今は、おいしくて当たり前、外れたら大騒ぎ。仲卸は非常に大変だと思います。われわれも、クレームに対する準備をしっかりしないといけません。

 朝は早いですが、八百屋はいい商売です。品物が不安定だから、いいんです。「屋」のつく商売で、一番先に立ち行かなくなってしまったのが、米屋や酒屋です。扱う商品は日持ちがして、値段はある程度決まっている。野菜は日持ちはしないし、値段は年中バタバタしています。リンゴ1個にしても、上は500円から下は50円まであって、味も違う。どこをチョイスして、自分の店で売っていくかが大事です。

 スーパーさんも、今、ピンからキリまでは売っていません。安売り店は、安そうなもの。別の店では、「うちの店は、安売り店がそばにあるから、ある程度グレードを上げて…」とか、そういう対応をしている。昔はメチャクチャでしたが、今は、スーパーさんもきちんと研究しています。自分の店のグレードを知っているし、安いものばかり売っていては、儲からないのがわかった。利益がとれず、経費ばかりがかかって疲れるだけ。売っても売っても、お金にならないのなら、ある程度、自分の店のグレードに合った品物を揃えて、お客さんを育てるというか、囲い込む。そういう商いをするようになりました。

 いいものはいいもの、安いものは安いもの。商売ですから、それは特化してもいいと思います。でも、従業員や家族を使って商売している以上、メリットがないと、後継者が育たず、やる気もなくなってしまいます。そういう店では、お客さんも喜ばない。店がなくなってしまっても、お客さんはちっとも困りません。私は、「あの八百屋がなくなって、困ったな」といわれるような八百屋になりたい、と思っています。「あの八百屋の親父さんはうるさかったけど、親父がいなくなったら、おいしいものが食べられなくなった」といわれたい。みなさんも、そうなれるように、これから1年、頑張って勉強してください。

 
 

【八百屋塾2012 第1回】 挨拶講演「八百屋はなぜ勉強が必要か」実行委員より塾生より|勉強品目「春野菜各種」|食べくらべ