■2012年8月19日 第5回 〜 講演「なすについて」 栃木県東京事務所 とちぎのいい
もの販売推進本部 小林正明氏
◇小林正明氏のプロフィールと栃木県の紹介
  • 私は、昨年3月に定年退職するまで、栃木県庁に勤めました。野菜を中心とする農業技術が専門で、プロ農家の育成や、野菜の作り方などを指導しながら、自立できる産地、農家の育成に取り組んできました。

  • 昨年、永田町にある都道府県会館の中に、「とちぎのいいもの販売推進本部」を作り、栃木県の農産物や加工品をご紹介しながら、栃木県のPRを図っています。

  • 栃木県は、全国の印象度では40番台と、非常に低い。でも、じつは、大変恵まれた立地条件にあり、小山から東京までは、新幹線でたったの40分です。東北自動車道や北関東道も通り、交通の便も良い。そのため、自動車産業、カメラのレンズなどを中心に、かなりの工業生産を上げています。災害も少なく、平坦地が多くて、那須、日光といった名勝地も数多くあります。
栃木県東京事務所
とちぎのいいもの販売推進本部
小林正明氏
◇野菜の摂取量
  • 野菜の摂取量は、昭和63年に年間一人あたり111.2kgあったのが、平成14年には97.4kgに減り、平成22年は90kgをわって、88.3kgになってしまいました。

  • 外食、流通、生活等の変化により、自分で調理をしなくなったことが、野菜摂取量減少の要因だといわれていますが、私は、八百屋さんの減少も大きな要因なのではないか、と思っています。八百屋さんは対面販売で、旬のもの、食べ方、縁起のもの等を消費者に紹介できますが、スーパーはただ商品が並んでいるだけです。聞けないから買わないとか、食べてみなければわからないので、新しいものや知らないものは敬遠するといったことがあると思います。元気のいい八百屋さんがいれば、野菜の摂取量も回復するのではないか。それが私たちの健康にも繋がる、と思っています。

  • 私は昨年から、全国各地の八百屋さんやスーパーを見て歩いています。東京では、高円寺や阿佐ヶ谷の商店街にある八百屋さんを見て非常に活気がある、と感じました。八百屋さんはやり方によってはとても面白いと思いますし、役割や機能もありますので、がんばってください。
◇栃木におけるなす生産の推移
  • 昭和38年頃は作付面積が980 haあったのが、平成23年は413 haと、半分以下に減っています。その要因は、なすの栄養価が低い、栽培に労力がかかる、夏の暑い時期が大変等、さまざまです。また、統計の数字は、家庭菜園を含んでいます。なすは昔から家庭で作られていたのですが、この頃は、家庭で作られる量が減り、より専門化しています。

  • 10アール当たりの収量は、年々上がってきています。

  • 栃木県の作付面積の順位は、平成4年頃から、10位、11位と落ちています。ちょうどその頃から、県では、農業生産をどのように増やしていくかを真剣に考え始めました。首都圏に近い恵まれた立地条件を生かすには、鮮度をそのままお届けできる野菜類がいいのではないかということで、特産品であるいちごを除く重点5品目を決めて、行政と生産、農協などが一体となって、技術改善、生産拡大に取り組み始めました。

  • 重点5品目とは、いちごを除いた面積の多い野菜で、トマト、きゅうり、にら、ねぎ、なすの5つです。県で各地の事例をマニュアル化したり、栽培方法を研究したりした結果、平成10年以降、ようやく実を結び、全国的に作付面積が減る中、9、7、6位と順位を上げ、収穫量も取り戻して、現在も、全国で6位ぐらいの成績になっています。県では、こうして、より専門的、安定的な農家を育成しようとしています。
◇平成23年の作付面積と収穫量
  • なすの作付面積が一番多いのは新潟県です。2位が群馬県、4位が茨城県、6位が栃木県、9位が千葉県、11位が埼玉県。関東近県も多く、なすの主要な産出県になっています。

  • 収穫量が一番多いのは、高知県です。次いで、2位熊本県、3位群馬県、4位福岡県、5位茨城県、6位栃木県。栃木県は作付面積も収穫量も6位です。8位に千葉県、9位に埼玉県も入っています。

  • 関東や高知県、熊本県では、ハウスを使ったりして栽培期間が長いので、収穫量が多い。新潟は露地の面積が多く、ハウスは少ないので、収量的には少ないのだと思います。
◇栃木のなす生産振興の現状
  • 栃木県は、真ん中に鬼怒川、東側に那珂川、西側に渡良瀬川が流れています。大きな川にひらけた沖積の水田が非常に多く、耕地全体の8割が水田です。昭和45〜46年から、水田をほかの作物を栽培する畑に代える政策がとられ、有利な作物のひとつとして、なすがすすめられました。夏場は、温度が高くなり乾いてくるので、水がないと、ぼけた色のなすや、中が空洞のなすができてしまいます。そこで、安定的に灌水ができる、肥沃な水田を利用したなす作りをすすめてきました。

  • 栃木県は立地条件も気象条件も恵まれているせいか、県民にあまり競争心がない、といわれます。そのため、農協やJA全農が強く、系統率が高い。すべての作物を農協に集め、ひとつの規格として市場に出すパターンができています。ただ、これからは、ニーズの多様化にきめ細かに対応をしていこうと、いろいろとアイデアを出しながら取り組んでいるようです。

  • なすは、国内に180種類ほどあり、実際に流通しているのは100種類ぐらいだといわれています。栃木県では、タキイの「千両2号」と渡辺採種場の「式部」の2品種を主に作っています。栽培的には、「千両2号」より「式部」のほうが作りやすい。「式部」は葉が小さく、樹もそれほど大きくなりません。「千両2号」は大きくなりやすいので、光や空気の流れをよくする作業が大変です。県南は昔からの産地で、県北が新しい産地ですが、新産地には作りやすい「式部」のほうが普及しています。

  • 「千両2号」と「式部」の食味について、プロの料理人に聞いたところ、「千両2号」のほうが皮がやわらかいので皮まで食べるにはいいが、見た目は「式部」のほうがしっかりしている、とのことでした。

  • 栃木県内の主力作型は、夏秋作型(露地)です。

  • 作付面積はやや減少傾向にあります。全体で413haのうち、6〜11月の夏秋が400 ha弱と、圧倒的に多い。ハウスなどを使って冬春に栽培するのは30 ha程度。最近は特に燃料が高いので、平成22年産では、冬春は若干減る傾向にあります。

  • 最近は、養液栽培や水耕栽培も多くなりました。かなりお金がかかるので、なかなか踏み切れないのですが、補助事業等を活用した施設が増えてきて、周年栽培もかなり多くなってきています。

  • 補助事業等を活用したフルオープンハウスも導入されています。今までのハウスは、夏、暑い空気が屋根の上にたまり、横を開けてもなかなか温度が下がりませんでした。今のハウスは、天井が開くようになっており、早出しのなすの品質を保ったり、高温から守ることができます。

  • 産出額は、40億円弱で推移しています。

  • 流通・販売動向としては、以前は段ボールだけだったのですが、コンテナ、袋詰め出荷など、相手方に応じて新たな形態でやっていこうとする流れがあります。

  • これまでは、収穫したものを全て市場に出していたのですが、最近は、漬物用として、県内の漬物屋さんへの出荷も始めています。とはいえ、全体の5%ほどです。JAはが野は、農協として対応しています。大田原地区では、本県ではめずらしく、自分たちで漬物会社に出荷するグループを組んで、系統を通さずに、直接漬物会社とやりとりをしています。

  • パッケージセンターも注目を浴びています。農家の方が収穫物をコンテナに入れて農協のパッケージセンターに持ってくると、農協が箱詰めや袋詰めをします。場合によっては、納入先の名前の入った袋になすを入れて出すような取り組みも多くなっています。

  • 今後の課題としては、安心・安全ななす生産、惣菜・中食等業務向けの生産・流通システムの構築、新規栽培者の確保等があります。栃木県では、こうしたさまざまな取り組みが始まったばかりです。

  • 栃木県で取り組んでいる安心・安全ななす生産の取り組みの資料として、「平成23年度なすGAP自己点検シート」をお持ちしました。これには、食品安全、環境保全、労働安全、管理全般、病気や品質のことが載っています。「GAP」とは、「Good Agriculture Practice=農業規範」の意味で、一般業態と同じように、チェックポイントを作って、なすの生産工程管理をしましょう、ということです。県とJAに安全・安心対策室があり、これを全生産者に配っています。

  • たとえば、農作物の汚染を防ぐために、回りに水質を汚濁するようなものがあるか、ある場合は必ず水質検査をする。また、農薬を使うときは、ラベルに書いてある使用方法をチェックし、トレーサビリティができるように、きちんと記録する。栃木県は農協が強いので、統制がとりやすく、農協が事務局になって、何か問い合わせがあれば答えられる体制になっています。

  • 福島の原発事故以来、堆肥やその原料、土壌改良資材等を入手する際は、落ち葉等が含まれていることもあるので、十分検査して、放射能汚染のリスクのないものを使うようにしています。

  • 栃木県では、放射能の分析機器をたくさん入れて、青果物を出荷するときには、サンプリングをして調査しており、栃木県のホームページにモニタリングの結果が出ています。今のところ、なすについては、露地もハウスも一切検出されていませんので、安心してお使いください。

  • 労働衛生についても、昔は、納屋の端などで作業をしていましたが、今はきれいな作業場の中できちんとやるように指導を徹底しています。
◇共通するなす栽培の技術
  • なすは非常に連作障害に弱い作物です。自根の場合、5年ぐらいは圃場をあけなければいけません。連作の場合は、接ぎ木をします。病気にかからない強い根っこを持った違う品種を蒔いて、そこに「千両」や「式部」を接ぎます。接ぎ木は土壌病害に強く、草勢も収量も安定します。ただ、自根のよさもあるので、広い土地を活用して、なるべく回しながら、自根でもできるようにしています。

  • なすの根は下に伸びていきます。実際に、なすの横に穴を掘り、ガラスの板を入れて、どこまで伸びるか観察したことがあるのですが、土がやわらかければ、1m50cmぐらいは伸びます。ですから、かなり深く掘って、いい堆肥を入れてなすを作ると、健全ないいなすができます。水分供給も一定になるので、安定して作型ができ、いいものが採れる。

  • 栽植密度に余裕を持たせることも大事です。通風、採光等、環境をよくすることが、品質をよくして、病気を出にくくすることに繋がるので、できるだけ粗く植えていく。以前は10アール当たり900本ぐらい植えていたのですが、今は700本ぐらいの本数に減らしています。

  • 栃木県では、「ニーズに対応したなす作りの産地」を目指しています。八百屋さんには、「売るためには、もう少しこうしてほしい」といった要望を遠慮なくどんどん出していただいて、売る立場からも産地を育成してほしい、と思っています。
◇なすについての豆知識
  • 原産地はインド東部というのが有力説で、それがビルマに渡り、中国へ行った。中国から日本に入ったのは734年、奈良時代です。平等院鳳凰堂にある書物の中に「なすび」として紹介されています。

  • なすの栄養価は、100gあたり22〜24kcalと、かなり低い。東洋医学的には、体温を下げる、といわれています。皮の色素はナスニンと呼ばれるポリフェノールの一種で、抗酸化作用があり、コレステロール値を下げて、動脈硬化を予防する効果があり、メタボ予防に有効だといわれています。

  • 「秋なすは嫁に食わすな」というのは、「秋なすびわささの粕に漬けまぜて嫁には呉れじ棚におくとも」という歌が元。「わささ」とは「若い酒」のことで、酒の粕に漬けておく、ということです。一般的には嫁姑の確執的な意味に捉えられていますが、別の説では、「よめ」は「夜目」と書き、「ネズミ」の意味で、せっかく漬けたなすをネズミに食べられないように棚に置いた、と解釈する人もいます。

  • 「親の小言となすの花は千に一つの無駄もない」とは、なすに花が咲くとほぼ実になり、着果率が非常にいい。ただ、あまり実をつけすぎると、花が咲かなくなります。そうすると、採れる時期と採れない時期が出てくる。なすは、葉っぱの先から4枚目の下あたりから花が咲くのが理想で、2枚目あたりから咲くと、あとの花が咲かなくなってしまいます。ですから、農家の方は、なすの花が咲く位置を見ながら、葉を掻いたり、追肥をしたり、水をやったりしています。

  • お盆には、なすやきゅうりに割り箸で足をつけてお供えします。きゅうりは馬に、なすは牛に見立てています。ご先祖様をお迎えするとき、きゅうりの馬でさっと連れてくる。送るときは牛の馬車で、荷物をたくさんつけてゆっくりと送り届ける、という意味があります。

  • 「なすと調理すればキノコの中毒は起きない」というのはまったくの嘘です。

  • 選び方のポイントは、表面に張りとツヤがあるもの。持ったときにずっしり重みを感じるものがいい。
◇質疑応答より
  • Q:おすすめのなす料理は?
  • A:農家さんでは、一夜漬けのような漬物をよく食べています。私の家では、ほかに、しぎ焼きにしたり、軽くゆでたなすにみそだれをつけて食べたりしています。

  • Q:「GAP」の自己点検シートを見ましたが、これは農家さんの自己点検だけでなく、県がチェックしたりもしているのでしょうか?
  • A:県がすべてをチェックすることはできないので、JAや生産者の代表の方が検査員となり、チェックをしています。県は、その検査員に対して、研修や指導をしています。

    ※最後に、小林氏より、「9月28日(金)、ホテルメトロポリタンエドモントにて、“とちぎのいいもの”まるごと商談会を行います。入場は無料、試食も若干ありますので、ぜひお立ち寄りください」とのご案内がありました。
 
 

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